作者の癖で、わかりにくい、地味なタイトルな本作だけど受けが良さそうなタイトルってなるとどうなるのか、これがわからない。
今回は溜め回のため短め
きっかけはどこぞのバカのせいだけど、最後は自分で決めた久しぶりのG1挑戦。そのために重賞を回ってるけど、かなりきつい。なんとか勝てたり、勝てなかったりと厳しいところだ。まあ、決意するだけで勝てるなら世代全員ダービーウマ娘になっているだろう。
しかしトレーナーが言っていた本格化は今だってのは本当だったようで、どんどん体が大きくなっていくのがわかる。いつのまにかあいつの身長も抜いていたので今度あった時見下してやろうと思ったけど、それはそれで面倒くさいリアクションが返ってきそうなのでレースで勝った後にしておこう。身長が伸びるのに応じて体重もどんどん増えてきている。なんとかくびれは残してはいるが、このままだと大幅増、なんて紹介をされかねない。体が強くなるのは良いことだが乙女の尊厳は打ち砕かれそうだ。流石に私もレースを走るわけだし、ぽっこりお腹になるわけにはいかない。私の勝負服でそうなったらかなり目立つからね。
私周りでも色々有って、後輩達の日本ダービーだ。シチーとなぜかシリウスから観に来てくれと誘われたけど、私は私で自分のレースに忙しいのでスルーしてたら二人から直接連絡が来て、連絡先を教えたことを少し後悔した。で当日、トレーニングから帰ってきたらすごい量の通知があったので見なかったことにして、ゆっくりしてたらまたドスドスと足音が聞こえてきた。またあいつか、なんてげんなりしたけど蹴破られることもなくノックされたので違うみたい。と安心してドアを開けたら半泣きのシチーと私が見てもムカつくドヤ顔をしているシリウスがいた。おまけでシチーは鉢巻をしたうるさそうなのとアホっぽいギャルまで連れてきている。
「なんで連絡くれないんですか!? しかも先輩、こいつにダービー勝って、なんて言ったってホントなの!?」
「は、ちゃんと私が言ってやっただろう? こいつはあんたより私が勝つと応援していたんだ」
「何よそれ!」
なにそれ……、私に質問しておいて、二人で勝手に口喧嘩を始めやがった。私はあんたらの保護者じゃないんだぞ……。かと言ってこのまま放置しててもまた面倒くさいことになるのは目に見えてるので話を変えようと
「あー、で、結果はどうだったの?」
話の矛先を変えようとしたら、喚いている二人どころかおまけの二人まですごい顔でこっちを見る。な、何よ。なんか変なこと言った?
「……先輩、もしかして観に来てないどころか、中継も結果も見てないんですか……?」
「へえー、これはお仕置きが必要みたいだな?」
あ、やぶ蛇。そこからは4対1でひたすら私が文句を言われる。最初は後輩に手を出すのは流石に、なんて思ってたけどそろそろ我慢の限界が近くなってきた。もう良いかな? なんて思い始めた頃にまためんどくさいのが増えやがった。
「君たち、こんな時間に何をしているんだい?」
いつかに生徒会室でみたここの寮長がやってきた。よく見れば遠巻きに何人もこっちを見ていたようだ。こんな時間にこの人数で騒げばそうなるか。これ幸いと
「うるさいのが怒鳴り込んできて迷惑してんの、さっさと連れて行ってくんない?」
「ええ、この時間に騒ぐのはいくらダービーで興奮していても他の皆に迷惑だからね」
「そ、じゃあよろしく」
やっと解放されたと、部屋に戻って扉を閉めようとしたら扉を押さえられてしまった。振り返れば寮長が笑顔で押さえている。
「なにしてんの?」
「連帯責任……、いやこの場合は監督責任かな? 先輩にも同行をお願いしたいな」
「は? ふざけんならはっ倒すわよ?」
「いやー、怖いな。私だと手に負えないから応援を呼んであるんだ」
応援? たづなさんでも呼んでるの? なんて思ったら笑いながらあのバカが出てきやがった。
「やあ、こんばんは。こんな時間まで話が盛り上がるなら、私も混ぜてもらおうと思ってね」
「……あんた美浦寮でしょ、なんでここにいのよ」
「私が呼んだんだよ。騒ぎの中心がここだって聞いてね、私一人の手におえなさそうだったからね」
……なんでこうなるの。今回は私完全に被害者よ? もうどうでも良くなって、全く効き目の無かった盛り塩をバカどもにばらまいて扉を締めて鍵も閉める。蹴破られた扉が三枚目になったけどもうどうにでもなーれ。
それから自分でダービー見に行って勝手にナーバスになったタマを慰めたり、冷静になって謝りに来たシチーに拳骨落としたり厄介事に巻き込まれてばかり。
私自身のことで言えば、宝塚記念のファン投票結構良い順位になっちゃったのよね。そりゃ元々出るつもりだったけどなんでこうなったかがわからない。あいつは予想通りというかなんというか一位だったし、そのおこぼれかしらね。あいつの事はどうでもいいけど、これでいよいよ私の一年以上ぶりのG1出走がほぼ決まった。それもあいつとの直接対決付きでだ。私もちょっと気分が浮かれすぎていたかもしれないけど、がらにもないことをしてしまった。
「やあ、君から呼ばれるなんて何事かな?」
「たまにはね、皇帝サマ直々に私のG1勝利の踏み台になってもらうんだもの。先にお礼でも言っておこうかと思ってね」
「なるほどな、しかし残念ながら私は友人を六冠の引き立て役にしないといけないのでね、謝るのなら私のほうだろう」
言うじゃない。戦績で考えるなら私のほうが高望みなんだろうけど、こんなもんでビビるぐらいならとっくに尻尾巻いて逃げ出してる。お互い言うこと言ったしそれ以降は会話もなくそれぞれの飲み物がなくなるまで座っていただけ。何故か私達二人の周りには誰もいないの、遠巻きには混雑なんてしている。やっぱりこいつ嫌われてんじゃない?
後になって思えば浮かれてたとしても私らしくないことしちゃったわね。
そうして私は勝負服を着て豪華なホールに立たされていた。久しぶりのG1だから忘れてたけどそう言えば枠順の抽選会なんて有ったわね。以前は学園の共通服で味気なかったけど、今回はしっかりと自前のものを準備してきている。さっきあいつがしきりに私の左手を見てすごい顔をしていたけどなんなの? ちゃんと新しくした手袋しているからおかしいところはないはずなのに。どうせあいつのことなんて考えても仕方ないし、ほっときましょ。
それから司会の挨拶の後粛々と抽選は進んでいく。あいつは三枠三番のようだ。あいつが枠順の有利不利で負けるようなやつではないし、隣でなきゃどこでも良いわ。珍しく祈りが通じたのか、私は七枠九番。まあまあな所だろう。あいつの隣にならないだけで大満足だ。
なんかうるさいやつがいると思ったら、地方から中央に移ってきたやつがいるらしい。そんなやつがいるんだと思ってたけど、あいつに喧嘩を売り始めた。私から見ればおとなしい言い方だけど、良いぞもっとやれ。なんて思ってたらこっちにまで喧嘩を売り出した。どうやら私より人気が高いそうで、私のことを人気だけの雑魚とか言いたい放題言ってくる。流石に司会の人も止めようとするけどこれぐらい止めるまでもない。手で司会を止めてマイクを貰う。
「元気が有り余ってるようで羨ましいわ。そんなに元気なら今からでもそこら辺走ってきたら? 後、地方からここまで成り上がってきことには敬意を表するわ。だけどねえ、あんまり中央を
当たり前のこと言っただけなのに何故か会場が沸いてしまった。おいバカ、あんたもしたり顔でうなずいてんじゃないわよ。後で聞いたらあの地方ウマ娘G1勝ってるらしい。ま、G1勝利数で決まるんなら私はあいつに一生勝てないことになるし、どうでもいいわ。
特に問題もなく時間が過ぎ、今日は宝塚の前日だ。流石にG1ということで私もいささか緊張はしてきた。今日のレースが終わったコースで明日の出走者達が最後の確認をしている。私も同じくコースにいるが、前日になにかしたところで結果が変わるなんて思わないし、芝の状況を確認しながら散歩している程度だ。その中であいつだけが真面目に走っていた。本人の性格もあるんだろうけど、飛んでくる歓声を聞けばファンサービスも兼ねているのだろう。そのまま転けろとは言わないけどとちらないかな。そんなしょーもないことを考えていた頭を振って散歩を続ける。暗くてわかりにくいがかなり芝が悪く思う。流石に今日のレースが終わった直後だって言うのもあるけど流石にひどくない? 明日のコース取りどうしようかな? なんて考えていたら大勢の悲鳴と、ドサッなんて結構重い音が響いてきた。ただ事ではないだろうとそっちを見れば誰かウマ娘が倒れている。
それは長髪の鹿毛で見たくもないのにいつも私の前を走っていた後ろ姿だ。
「えっ?」
誰かがスタンドから走ってくる。こっちはわかる。何度か会った事があるあいつのトレーナーだ。
「は?」
倒れ込んだウマ娘のもとに駆け寄ったあいつのトレーナーは必死に呼びかける。それに答えようとするけど立てないみたいだ。
「うそ……でしょ?」
呆然と立ち尽くす私の耳に聞きたくもない事実が突きつけられる。
「ルドルフ! 大丈夫か!? 無理をするな! 担架! はやく!」
今日初めて私は三女神なんてものの存在を信じて、そして恨んだ。
「今の所あいつからの連絡はない。あんなことが起きたんだ。当面は無理だと思うぞ」
「分かってる。けどギリギリまでここにいさせて」
あの後騒然となった現場で立ち尽くしていた私はトレーナーに連れられ控室に戻っていた。あいつのトレーナーが
「何だあの芝は! 整備も出来ないなら走らせるな! お前らはそんなことも出来ないのか!」
なんて叫んでいるのを聞いていた。ああ、大人がマジギレするとあんなことになるんだって遠いことのように聞いていた。
なんで帰らないのか私にもわからない。あいつが走る走らないなんて私には関係ないのに。だけど私の足は動かない。
「……連絡が来た、おそらく骨折なんかの大事はないそうだ。だが……、明日、シンボリルドルフは走れない」
「……そう」
分かっていたのに分かりたくなかった答えが返ってきた。どうしようか、どうしようもない。今更私に出来ることなんてなにもない。
「左手、血が出ている。それぐらいにしておけ」
いつの間にか爪が食い込むほど握り込んでいたらしい。幸い皮膚が軽く切れただけだったみたいで、簡単な治療ですぐに気にならなくなる。
「意識はしっかりしているそうだ。見舞いに行くか?」
「……行くわけないじゃない」
行ったら何を言ってしまうかわからない。あいつは被害者なのに。
結局これ以上なにもできることはないし、引き上げることになった。帰り支度を終えて部屋を出たら見慣れないウマ娘がいた。ああ、確か私とあいつに絡んできた地方から来たウマ娘か。どうやらあいつがどうなったか聞きに来たは良いけど、一歩が踏み出せなかったらしい。
「聞いてないの? 出走取消よ」
端的に答えてあげたらすごい顔になる。この前とは違いすぎる表情で放置していくわけにもいかず聞いてみれば地方から一人こっちに来て舐められるわけにいかないと意地を張っていたらしい。けど目の前であいつが故障してどうして良いかわからなくなったらしい。そこでライバルが減ったって言えないぐらい真面目なんでしょうね。
「しゃんとなさい。あいつがいない以上あんたが一番人気よ。腑抜けたレースしたら殴り飛ばすから」
あんたが全力を出すのが一番の見舞いよ。と付け加えてそれでも動かないやつを放置してホテルへと戻る。
悲しきかな、身についた習慣はどんなに心が乱れても適切な睡眠時間を確保しようとしているそうだ。
昨晩のニュースであいつの事故と出走取消が報じられ、私が着いた頃には会場は大量の観客でひしめき合っていた。あいつ目当ての連中の分減るかとも思ったけど、どうやらそうはならないようだ。私が走るのは今日のメインレース。けどそれまでのレースでも何処か異質な空気が流れている。ったくあのバカいなくなっても他人に迷惑かけるなっての。
時間が近づき勝負服に着替える。最後の確認をトレーナーとした後携帯にメッセージが飛んできた。こんな時に誰よ、一応見るだけ見れば
『すまない』
送り主はあいつのトレーナーだけど、誰が言ったかなんて考えるまでもないだろう。そしてわざわざ言葉で返事するなんて必要ない。
「トレーナー、行ってくるわ」
「すまん、ちょっと待ってくれ」
そう言ってトレーナーが気まずそうに出してきたのは見覚えのある箱に入ったあいつから送られてきた手袋だった。
「なにこれ?」
「いや、こんなことになると思ってなくてな……。受け取った後、勝負服でこれも使えるように申請したんだ。けど、こんな時だろ? どうする、今からでも説明をすれば取り替えられると思うが」
私のトレーナーは早とちりで気を回しすぎたみたいだ。
「私があいつからの贈り物なんて使うわけないじゃない」
「……そうだな、待っててくれ、すぐに運営に説明に」
トレーナーが言い切る前に箱の中身を引ったくる。無作法に、大切に。そして左の手袋を入れ替えて、元々私がつけていたほうをトレーナーに押し付ける。
「使うわけないけど、今日だけは背負ってあげる」
蹄鉄が床を蹴る音を響かせて地下道を行く。思えば誰かの思いを背負うなんて初めてかもしれない。その初めてがあいつだなんて嫌すぎる。嫌すぎるけど
「今日はお祭り、宝塚記念。こんな日だもの、らしくないこともいいでしょ」
目指す先、光り輝く出口へ向けて歩きだす。
次回はちょっと遅くなるかも
本筋と関係ない幕間のような話は
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いる
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本編を進めて