皇帝の見えない折れた杖   作:冬眠復帰

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なんか感想で不穏とか言われたので楽しくおしゃべりする話です。


真夏の夕暮れ

「何回行ってもあの消毒液の匂いは慣れないわね」

 

 外出の帰り、服に匂いが付いていないか気になるけど、今の私じゃよくわかんないし、何も言われないことを祈りましょう。今更何言われたってやることなんて変わらないんだし。なるようにしかならないでしょ。

 今日は外出のせいでトレーニングもないし、何して時間潰そうかと考えていたら小走りで何かを探しているエアグルーヴじゃない方の副会長と目があった。珍しいな、なんて思ったら険しい顔でこっちに走ってきた。

 

「どこにいたんだ。おかげであちこち探し回ることになったぞ」

 

「なんでいちいちあんたに出かけること言わないといけないのよ」

 

「エアグルーヴがお前に何度連絡しても返信がないとお冠だぞ。今日は夏合宿の準備で猫の手も借りたいような状態だ。さっさと来い」

 

「嫌よ、面倒くさい。てか、そんな忙しいなら私なんて探してないであんたも働きなさいよ」

 

 携帯を確認すれば確かに何件もエアグルーヴからの通知が来ていた。悪いとは思うが、さっきまでいた場所がいた場所だけにマナーモードにしていたせいで気が付かなかったようだ。

 

「今は休憩中だ。どこぞの会長が働きすぎたせいでな、今は時間ごとに強制的に休憩するルールだ。あんたも生徒会なら知っているだろ」

 

「私を生徒会室で見たことある?」

 

「……ないな」

 

 勝手に名前を使われた身だ。真面目に仕事なんてするわけがない。

 

「しかし、あんたも大変ね。休憩中に人探しなんて。エアグルーヴも鬼ね」

 

「……私もサボりが多いからと、事務仕事は休んでもいいけど働けとのお達しだ」

 

「身から出た錆か、ならせいぜい頑張りなさい。じゃ、私は行くから」

 

「待て、そんなことで誤魔化されんぞ」

 

 チッ、ダメだったか。寮に帰ろうとしたら肩を掴まれてしまった。でも、私の方が頭一つ大きいからなんかちょっとマヌケで笑ってしまう。こいつこんな見た目の癖してあんまり背は高くないからちょっと可愛いわね。つい昔なついてくれていた妹たちを思い出す。

 

「なんというか、雰囲気で誤魔化してるけど妹気質よね。昔を思い出すわ。どう? お姉ちゃんて呼んでみる?」

 

「ふざけるな、私の姉は姉貴だけだ」

 

 頭を撫でようとしたら伸ばした手をはたかれてしまった、残念。でもやっぱりこいつも姉がいるんだ。ちょっと気になって聞いて見ればこの学園にいるらしい。なんでも名前はビワハヤヒデ、私より下の世代だけど結構期待されてるようなやつらしい。

 

「姉貴はいつも私の前にいるからな。私も早くレースでやりあいたい」

 

「お姉ちゃん大好きなのね。ほらいいこいいこしてあげましょう」

 

「ええい! いい加減にしろ!」

 

 面白くなってからかう手と口が止まらない。最近こんな風にちゃんとリアクションしてくれる子減ったからね。新鮮。

 つい面白くなってあの手この手で遊んでいたら、近づいてくるウマ娘がいた。珍しいわね。私よりは低いけど学園でもかなりの高身長ね。それに髪の毛のボリュームがすごいから大きく見えるわね。

 

「……姉貴か」

 

「ブライアンが珍しく楽しそうにしているのが見えたのでな」

 

 どうやらこの子がこいつの姉らしい。髪の色は全然違うけどウマ娘にはよくある話だ。雰囲気も正反対だけど、なんかちょっと距離感があるような。そりゃ姉妹がみんながみんな仲が良くないといけないわけでもないけど、これはちょっと違うような。

 

「ああ、失礼しました。私はブライアンの姉のビワハヤヒデといいます。先日の宝塚記念は見させてもらいました。ブライアンが世話になっているようで」

 

「姉貴には関係ないだろ」

 

「そっ、なら私の自己紹介はいらないわね。別にこいつぐらいのやんちゃなら問題ないわよ」

 

 自己紹介はしたけども、なんか話してると暗い顔をしてるし、どこか不安げに私とあいつを見比べているのはなんでだ? 

 

「さっきからあんただの、こいつだの私の名前を覚えてないじゃないだろうな」

 

 えーと、なんだっけ。ああそうだ。

 

「大丈夫よ。ナリタブラリアンでしょ?」

 

「ブライアンだ! 何だその名前は!」

 

「え、あんたあのナリタブラリアンを知らないの? 国内外のウマ娘と重いハンデを背負いながらも熱い勝負を繰り広げ、あまりの仕上がりにパドックに出るだけで解説が笑いながら勝つに決まってるとまで言ったあのウマ娘を!?」

 

「な、そんなすごいウマ娘がいるのか……!? しかし、聞いたこともないぞ」

 

「いるわけないじゃない。てか会話の流れおかしいの気づかない? ちょっと心配になるわよ?」

 

「誰の! せいだと思ってる!」

 

 ああー、打てば響く感じ、楽しいわー

 

「……二人共仲がいいのだな。まるで本当に姉妹のようだ……」

 

 と思ったらまた何か言い出した。ああ……そういうことか。

 

「安心なさい。これの姉を騙るつもりはないわよ。さっきもこいつのお姉ちゃんはすごいんだぞ! お姉ちゃん大好き! って惚気を聞いてただけだから」

 

「な、何を言ってるんだ!?」

 

「そ、そうなのか、ブライアン?」

 

 ああもう、面倒くさいわねこの二人。いつもだったらここまで話すこともなく、放置してるけど、今日はそんな気分にならないのよね。さっき聞いた話のせいかしら。

 

「ねえ、二人共。言いたいこと、思ってることがあるならちゃんと口に出しなさいよ。今いる誰かが明日も当たり前にいるなんて思わないことね」

 

「どうした急に」

 

「私にも妹達がいたの。私なんかの背中を見て、私もレースに出る! G1で勝負だ! なんて言ってたの。でも現実はそんなに甘くなかった。いつの間にか限界を見せつけられ、勝つことが出来なかった。なまじ結構な年までそんな夢を見ていたせいで今でもちょっとしこりが残ってしまったの。あんた達二人は共にここまでこれて、二人共期待されてるんでしょ? こんな世界にいるんですもの、いつどうなるかわからない。当たり前にいた誰かが明日にはいなくなるような世界なんだからちゃんと話しておかないと後悔するわよ」

 

 ダメね、つい感傷的になって長話をしてしまった。これではうっとうしい先輩そのものじゃないか。三人とも微妙な空気になってどうしようかと思ったら私の携帯が救いの手を差し伸べてくれた。これ幸いと相手も見ずに出てみれば、怒鳴り声が飛んできた。

 

『やっと繋がった! 忙しいんですからさっさと仕事しに来てください!』

 

 救いの手ではあったけど、優しさは売り切れのようだ。仕方ない。年貢の納め時だ。

 

「お互いウマ娘なんだからいきなり大声はやめなさい。悪かったわね。今から行ってあげるわよ。ああ、それとブライアンもいるんだけど、どうやら道草を盛大に食べていたみたいでね。焼き肉かなんかの匂いが凄くてね。ちょっとシャワーでもさせてから行かせるからよろしく」

 

 反撃が来る前に言うだけ言って通話を切ってしまう。唖然とした顔した、こう見るとやっぱり姉妹ね、そっくり。そんな二人を見ながら

 

「そういうこと、ブライアンもハヤヒデもちゃんと話してみなさい。一人は口下手、一人は頭でっかち。だからややこしくなんの。一回正面からぶつけてみなさい」

 

「ふん……」

 

「私の頭は……! いえ、そうですね。ブライアン、どうだ?」

 

「私は肉臭くならないといけないらしいからな。食堂でいいか?」

 

 文句を言いながらも仲良く歩いていく二人を見て、たまにのお節介も悪くないかもね。

 

「……そ、気づいた頃には手遅れになるもんだから。間に合うならそうしなさい」

 

 誰に言うわけでもなく、口から出たそれを無視して、行きたくもない生徒会室へと歩き始める。

 

 

 

 

 それからブライアンが戻ってきたのは一時間は経った頃だった。いつもどおりぶっきらぼうな表情だけど、良い方に転がったことを祈っておきましょう。

 

「ブライアン! 遅いぞ! しかも貴様本当にシャワーでも浴びてきたのか? シャンプーなんかの匂いもしないし、まさかまた道草をしていたのか?」

 

 うーん、これどうしようか。流石に私のせいでもあるし、ブライアンも話しにくいだろうし。

 

「ね、ブライアン、少しはさっぱり出来た?」

 

「余計な世話を焼きやがって、だが、少しは感謝してやる」

 

 そ、なら良いのよ。エアグルーヴにも今回だけはと頼んで見れば、どうやら空気を読んでくれたらしい。本当に賢い子だ。

 

「はは、何があったかは聞かないが来たからには働いて貰うぞ?」

 

「ええ、しっかり働いてもらいます。そして会長は休憩をお願いします」

 

「い、いやしかしだな、遅れを取り戻さないといけないしだな……」

 

「どこぞのどなたが勝手に早朝から仕事をしていたおかげでこのままいけばなんとかなりそうですので。ちなみに朝練の時間に校舎に入っていく会長を見たというものがいたのですが?」

 

 どうやらいつの間にか生徒会はエアグルーヴのかかあ天下になっていたようだ。あたふたと言い訳するバカを見ているのも面白い。これでこっちに火の粉が飛んでこなければ完璧だ。

 

「ええい! 未練がましい! 分かりました。先輩もつけますから二人で早く休んできてください!」

 

 あー、叶わぬ夢だったか。いつもなら言い返すんだけど今日は私のワガママで迷惑かけてるしな。いや、そもそも勝手に入れられた幽霊が気にすることじゃないのかもしれないけど。 

 まだ抵抗しているけど、こっちをチラチラ見てくるバカを見てため息が出てくる。ほんとにこれが生徒会長でいいのかしら。

 

「ほら、さっさと行くわよ。これ以上迷惑かけないで」

 

「珍しいな、君がそんな事言うなんて。いや、だがしかし、皆が頑張っているというのに私が休むわけには……」

 

「ルールぐらい守りなさい、バカ。ほらさっさと行くわよ」

 

 面倒くさくなって先に部屋を出ていく。それから少ししてバカも追いついてきた。

 

「こうなっては仕方ない。しかし、本当にどうしたんだ? 前に比べて丸くなったんじゃないか?」

 

「あんたがバカなことしなけりゃいいのよ。それにちょっと思うところがあってね」

 

「ふむ。私で良ければ相談に乗らせてくれないか? 力になろう」

 

「私があんたに話すと思ってんの? おめでたいわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 結構な時間を潰してくるように言われてしまったから、仕方なくカフェテリアに来ることになった。お互い飲み物だけを頼んでぐだぐだする感じになりそうだ。

 

「ああ、そう言えば夏合宿の宿泊部屋なんだが、君も生徒会の大部屋に泊まってもらうことになるがいいかな」

 

「あんたが廊下で寝るなら良いわよ」

 

「八月にはレースに出るのでね、残念ながらそんなことは出来ないな」

 

 八月? そのタイミングでG1レースなんてないはずだ。それに目の前のこいつは海外挑戦を宣言している。となると……ああ、そういうことか。丁度いい、私にとっても得意な距離だし、間に合いそうだ。だけど発表もされてない出走計画をペラペラしゃべんじゃないわよ。リークしてやろうか。

 

「どうしたんだ? 怖い顔をしているぞ」

 

「なに、あんたと走らされる子が可哀想になってね」

 

 それからまた時間を潰すために意味もない話を重ねていく。

 

「そう言えば、今回は大部屋になるが、そうでなければ相部屋の希望などあったのかい?」

 

 なんでそんなことを、と聞けば個人的な興味だと返ってくる。正直こいつじゃないないなら誰でもいいんだけど。そう言っても今回はしつこいようで色々聞き出そうとしてくる。ったく、やっぱり最近前にもまして馴れ馴れしくなってきてると思うんだけど。適当に聞き流していたら、条件を出すから当てはまるウマ娘を答えろとか言い出した。心理テストだなんて言ってるけど最近そんなテレビでも見たの? 

 

「生徒会の中で同じ部屋になるなら誰がいい?」

 

 ……いきなり絞り過ぎじゃない? それにちょっと作為的なものしか見えないし。

 

「そうね、エアグルーヴは最近うるさいし、ブライアンは世話しないと行けなさそうだから、そうね。あの庶務の子とかゆっくりできそうでいいわね」

 

「……なら、髪は長いと短いどっちがいい?」

 

「どっちでも良いけど強いて言うなら短い方かしら」

 

「好きな毛色は?」

 

「鹿毛以外」

 

「脚質で憧れるのは?」

 

「逃げかしらね。やったことないし」

 

 おーおー、黙っちゃって。もしかして自分のこと言ってもらえるとでも思ってたの? ほんと、最近のこいつの頭は愉快なことになってるみたいね。

 

「好きな皐月賞ウマ娘は?」

 

「ハイセイコー」

 

「好きなダービーウマ娘は?」

 

「カブラヤオー」

 

「好きな菊花賞ウマ娘は?」

 

「グリーングラス」

 

「好きなジャパンカップウマ娘……はやめておこう、好きな有記念ウマ娘は?」

 

「トウショウボーイ」

 

「……! 好きな三冠ウマ娘は?」

 

「シンザン」

 

「では、好きな現役の三冠ウマ娘は?」

 

「ミスターシービー」

 

「……好きな無敗の三冠ウマ娘?」

 

「いつか現れる次の英雄、てかそれは流石に引くわ」

 

「くっ、好きなシンボリのウマ娘は?」

 

「スピードシンボリ」

 

「好きな現役でシンボリのウマ娘は!?」

 

「シリウスシンボリ」

 

「なんのつもりだ! いくらなんでもひどすぎないか!?」

 

 ひどいのはあんたの頭の中のお花畑よ。あーあ、暇つぶしにはなるかなって相手したのがバカだったわ。やっぱり慣れないことはするべきじゃなかったわね。時間はちょっと早いけどもう戻ろうかしら。

 

「なあ、やっぱり何処か変じゃないか?」

 

「なに? まだ言うの? 喧嘩売ってるなら言い値で買ってあげるわよ」

 

「今までの君であればここまで私に付き合うことも無かっただろう。それにいくら呼び出されたからと言ってバカ正直に生徒会の仕事をしていたのもおかしい。それ以外にも前に比べて歩き方がおかしいぞ」

 

 けっ、皇帝様じゃなくて道化だったってわけね。いくらこのバカでもはしゃぎ過ぎだと思ったら面倒くさいことしてくるわね。だけど言うことなんてなにもない。

 

「別に? 私だって気まぐれぐらいあるわよ。それに顔ぐらいだしておかないとどこぞのバカに夏合宿めちゃくちゃにされそうだったし」

 

「納得出来る答えではないな。それに歩き方がおかしい説明がない」

 

「成長痛よ成長痛。どこぞのおチビちゃんと違って大変なのよ」

 

 これ以上はダメだ。余計なことを言ってしまいそうになる。ただこのまま放っておいてもまたややこしい絡み方されそうね……

 

「予定思い出したから帰るわ」

 

「そんな言い分が通ると思っているのか? あまり私を見くびらないで欲しい」

 

「来月函館で走る予定があってね。どこぞのお強いバカウマ娘と違って準備しないといけない、私には時間がないの。それともなに? 私妨害工作でもされてんの?」

 

「……これで話が終わったわけではないからな」

 

「もう終わった話よ」

 

 それだけ言って席を立つ。ああどうしてこんなことになっちゃったんでしょうね。ほんと、運の無さを嘆きたくなる。

 部屋に帰って意味もなく天井でも眺めてたら、何処で聞きつけたかシリウスが勝ち誇った顔で来やがった。相手してほしそうにしてたけど、今はそんな気分じゃないの。

 ああ、ほんとウマ娘って難儀な生き物ね。

 

 

 




安心してください。創作の心の師匠は富士鷹ジュビロ先生です。

歌詞引用などは

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