皇帝の見えない折れた杖   作:冬眠復帰

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既にバレていると思いますが作者は敬虔なハッピーエンド信者です。






最後の戦いを前にイチャイチャする話です


今さら、なに言ってんのよ

「走るとは言ったけど、ここまで衰えてるとはね。ほんと嫌になるわ」

 

 バカに手袋を送りつけたし、いよいよ有記念に向けてトレーニングを再開したけど、自分の走りがあんまり過ぎて笑うことしか出来ない。入院で二ヶ月半もベッドにくくりつけられていたんだし、仕方のないことかもしれないけど、イメージだけが先行して噛み合わなさがもどかしい。出来ることなら奇跡の復活! なんてやってみたいけど、数ヶ月も間が空いていきなりG1を勝とうだなんて虫が良すぎるんでしょうけどね。

 

「言っただろ、地獄だって。それでもなんとか本番までには今までのマックス近くまでは持っていけるように計画を組んでるんだ。今は我慢だ」

 

「分かってるわよ。分かってても言いたくなる時ぐらいあるの。それぐらい分かりなさいよ」

 

 元通りのトレーナーとの軽口をたたきあってのこの時間。まさか戻ってくるとはね。ほんと、何もかも思い通りにならないんだから。

 当面は体をならすことが目的であまり走る時間を長くは取れない。その代わりプールなんかで負荷がかかりにくいトレーニングが中心になっている。今だってプールに来ているんだけど……

 

「先輩! 先輩もプールでトレーニングですか? じゃあ、一緒に……いふぁい! ふぁにふるんふぇすふぁ!?」

 

 私を見つけて駆け寄ってきたバカな後輩をつねりあげる。一通り満足したところで解放してやれば、モデルの顔をなんだと思ってんのよ……。なんて小声が聞こえてきたから次は反対側もやってやろうとしたらすごい勢いで手の届かない距離まで離れてやがった。この子、その瞬発力があるならスプリンターでもやっていけんじゃないの?

 今ではこんな前と同じ……いや、前よりもなついているシチーだけど、この前は大変だったわ。天皇賞でやらかしたことで学園にも、担当トレーナーにもこっぴどく怒られたらしい。私が言うのも何だけど、もう少しおしとやかになったほうが良いわよ? それはともかく各所にカミナリを落とされた後最後に私の所に来たんだけど、それも私のトレーナーに謝罪に向かいますから~、なんて堅苦しい連絡が来ていたのだ。約束の時間に待っていれば借りてきた猫のようにおとなしいシチーを連れたトレーナーと二人できた。トレーナー同士、迷惑かけてしまっただの、そちらの現状は分かっているのにあんな出走を煽るようなことを、なんてひたすら面白くない謝罪の時間が続く。私のことのはずなのに、なんかもう面倒くさくなって、

 

「私、有走るから」

 

 そう言えば、向こうのトレーナーは更に顔を青くして何か言い始めたけどそっちの相手は任せて、シチーの方を見れば、すごい顔でこっちを見ていた。あんまりにもマヌケな表情だったもんで、つい写真撮っちゃった。シャッター音で気づいたのか次は、

 

「……もしかして、私のせいですか……」

 

 なんて、生意気言ってくるから。

 

「あんたに言われた程度で何かを決めるほどもうろくしてないわよ。でも、ありがと、嬉しかったわ」

 

 シチーだって、負けた直後で辛かったのに、色々怒られるのも分かっていたはずなのに、それでも私にメッセージを送ってくれたんだ。お礼の一つぐらいは、と口にすれば、ボロボロと泣き始めて

 

「あー! 良かったー!」

 

 泣きながら叫ぶなんて器用なことしながら、飛び込んできやがった。うっ……みぞおちに入った……。それに重い! さっさとどきなさい!

 

「も、もう走れないって、会えなくなると思って……。先輩が一番つらいはずなのに、私……、あんなことテレビで言っちゃって……嫌われちゃったって思って……。後、重くないです……」

 

「はいはい、まずはその情けない顔どうにかしないさい。それに今さらなに言ってんのよ。私を誰だと思ってるのかしら」

 

 頭をなでてやれば一層大泣きして、トレーナー二人に助けを求めても、

 

「後は若い二人に任せるか」

 

 なんて言って出て行きやがった。子守を押し付けやがったな! それからボロボロ泣き続けるからそれも写真に撮って、それからシチーが持ってきたお菓子を二人で食べてグダグダと過ごした。

 

「ねえ、さっきの面白い顔ウマッターにあげていい? 今までと違う人気でると思うわよ」

 

「絶!対! やめてくださいよ! ただでさえあの後今までのクールな私のイメージとは違うってモデルの仕事にも影響出てるんですから!」

 

「クール? 私の知らない子ね。それに自業自得でしょうが。で、モデルの仕事減ったの?」

 

「……増えました……。今まで見たことない熱い姿なら、なんて今までなかったような仕事が入りだして……」

 

 そ、なら良いじゃない。それから適当にお茶菓子食べて、良い時間だとトレーナー達を呼び戻せば、

 

「トレーナー! 私も有記念走る!」

 

 とか言い出してまたややこしい話を始めやがった。そういう話は自分とこの部屋でやってくれないかな。トレーナーも予想以上に疲労が多いだの、距離適性だの言い出して、本格的に話し始めようとするもんだから、割って入る。

 

「勝つために距離を絞るって言ってたあんたはどこに行ったのよ」

 

「で、でも、今走らないと、もう次、ないかもしれないし……」

 

 ほんと、生意気ばっかり言うんだから。強めにデコピンして、痛がってるバカに言ってやる。

 

「半年後でも、一年後でも付き合ってあげるわよ。あんたと私、二人共コースに立って、ボコボコにしてあげるわよ」

 

 ……当たり前のことを言っただけなのに、また泣かれてしまった。どうしてこうなるの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 トレーニングの疲れもあって、早めに寝ようと思って準備してたら、電話がかかってきた。こんな時間に誰よ、ってうわ、シリウスじゃない。わざわざあいつから連絡よこすなんて、面倒くさい予感しかしない。贈り物のお礼も兼ねて、有に出る連絡は前したけど、その時も長電話につきあわされてしまった。終わったの結局もはや朝の三時よ? その時は休みだったから良かったけど、残念ながら明日も普通に平日だ。申し訳ないけど寝ていて気づかなかったことにしよう。……そう思ったのだけどもう、かれこれ二分はなり続けている。ああもう!

 

「……なに? 今何時か知ってる?」

 

『出るのが遅いぞ。私からの電話なんだ。飛び上がってもっと早く取るんだな。今が何時かだって? 夕方のちょうど良い時間だろ』

 

「そっちはね、私もう寝るとこなんだけど、急ぎの用事じゃないなら今度にしてくんない?」

 

『私の話を聞く以上に大事なことなんてないだろ。こっちで見つけた面白いものの話でもしてやろうと思ってな』

 

「ガールズトークなら、バカとでもやってなさい。寂しくなって私の声が聞きたいよー、なんて泣いてるのかと思ってやったら、なに言ってんだか。じゃあね」

 

 返事も聞かずにガチャ切りだ。ガチャ切りってなんなんでしょうね。この前マルゼン先輩から教わったけど、電話を切る時ガチャンなんて言わないのに。そんな意味もないことを考えていたけど、寝るはずだったことを思い出してベッドに入ろうとする、入ろうとしたんだけど、また電話が来やがった。今度は誰だと、いきなり怒鳴ってやろうかと思えば、さっきと同じ名前が表示されている。まさかね、でも一応ね?

 

「なに? もしかしてほんとに寂しかったの?」

 

『……そうだ、って言ったら笑うか?』

 

 はあ……、情けない声して、そりゃあのバカはとっとと帰ってきたから今向こうで一人なわけだもんね。

 

「待ってなさい、長くなりそうだから飲み物取ってくるから」

 

『……すまない』

 

「今さら何言ってんのよ。前に言ったでしょ? 私が応援してる後輩は生意気で偉そうな子なの』

 

 ああ、明日は睡眠学習の時間になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんてことがあってね、最近疲れっぱなしなの。癒やして?」

 

「なんやえらい大変そうやな。でもそれ、全部身から出た錆やん。自業自得やで」

 

 結局睡眠学習も叩き起こされ、それを見て笑っているバカにムカついて尻尾を思いっきり引っ張ってやったら口喧嘩になって、二人仲良く反省文だ。それもやっと終わって、トレーナーにも今日は帰れと言われてしまい仕方なく寮に帰ってきた。で、誰か居ないかと談話室を見れば都合よくタマがいたからとっ捕まえたわけだ。つい興が乗って膝に乗せようとしたら、猫みたいに威嚇されてしまった。

 

「見てみ? 後輩もようさんおんねんで、うちの面子とか考えてえや」

 

 残念。丁度いい大きさだったから。なんてこぼせば額を叩かれてしまった。これは一度先輩という存在を思い知らせないといけないようね……

 

「いや、ちゃんと尊敬はしてんで? でも、ふざけてる時の先輩威厳もくそもないやん」

 

 ああ、言われてしまった……、悲しい……。なんてふざけてじゃれ合っている。タマの丁度いい距離感ほんと楽でいいわ。一家に一人、タマモクロスなんて売ってくれないかしら。

 

「そや、この前オープン戦勝ったけど、なんかないん?」

 

「そういえばそうだったわね。おめでと、いよいよタマも本格参戦ね」

 

「へへっ、すぐに追いついたるから待っときや。で、言葉も嬉しいねんけど、うち久しぶりに勝ってんで? な、わかるやろ?」

 

 ったく、図々しいわね。でもまあ、タマには色々助けてもらったしたまには恩返しでもしてあげましょうか。何が良いかしら。記念品、なんてのはちょっと重いし、どうせならもっと大きいレースを勝った時のほうが良いだろう。かといってお菓子でも渡そうものなら優しいもんだから同室のオグリとかに分けちゃいそうだしね……。うーん、何が良いかしらね。

 

「なにか希望ある?」

 

「それを考えるのも含めて贈り物やん。期待してんで、先輩のセンスがどんなもんか楽しみや」

 

 生意気言うちびっこのこめかみを軽く押さえながら考える。うーん、あ、そうだ。

 

「なら今度美味しいものでも食べに行きましょうか。デパートのレストランなんだけど、結構美味しかったわよ」

 

 食べ物なら他の誰かに渡すこともないし、食べたらなくなるから気軽でいいでしょ。私的には名案だったんだけど、なぜか反応が芳しくない。なにか嫌なことでもあったのかしら。

 

「前にトレーナーに高そうな店連れってって貰ったことあってんけど、どうにも合わんくてな。もちろんごっつ美味しかってんけど……。それに思てまうねん、うちだけがこんないい思いしてもいいかなって。家のちびらにも食べさせたいなって」

 

 ……ほんと、この子私より年下なのか疑わしくなるわね。優しすぎるせいで苦労もしてるのね。さて、ならあんまり高い店はよくなさそうだし、それに自分だけってのも納得しなさそう。頑張ったのはタマだからなにも考えず受け取ればいいのに難儀な性格してるわね。

 

「そう、じゃあ、今度休みがあった時にデートしましょっか。外出してタマの家に送るもの選んで、それから寮に帰って私がなんか作ってあげるわ。それならいいでしょ?」

 

「ええんか……? い、いや、家の事は先輩に関係ない話やし……」

 

「ああもう、うっとうしいわね。先輩風を吹かせたいの。そういうことにしておきなさい」

 

 少し考え込んだ後やっとタマも笑ってくれた。そうそう、あんたは他の二人みたいに図々しくないんだからたまには素直に受け取っておきなさい。頭をなでてやるとやっぱり恥ずかしいのか拗ねたような、でも嬉しそうな顔で文句を言ってくる。

 

「だからやめーや。それにうち結構グルメやで? 先輩丸焼きみたいな料理しか出来ひんのちゃう? 勘弁してや」

 

「へー、そんな事言うんだ。これでも花嫁修業は大体修めてるわよ。美味しすぎて気絶するんじゃないわよ?」

 

 なんていい話は終わった。……終わればよかったんだけど

 

「君の料理が食べられるのか!? 私の分も頼む! いや……どちらが美味しい料理を作れるか勝負するか?」

 

 書きなれていない、いや最近は結構書いてる反省文も書き終わったのか、バカが飛んできやがった。

 

「……ねえ? どこから聞いてたの? 最初から聞いててそれなら本気で軽蔑するわよ?」

 

「なんのことかはわからないが、戻ってきたら君が料理をつくるという所だけ聞こえてな。飛んできたというわけだ」

 

 自信満々に胸を張るこのバカが情けなさ過ぎてかわいそうにも思えてきた。どっかに保護者はいないのかしら? 辺りを見回せばフジキセキが笑いながらどこかを指差している。そっちを見れば……、丁度いい。頭を抱えたエアグルーヴがいた。

 

「エアグルーヴ! ちゃんとバカのしつけしなさいよ。こんなのが学園の代表だなんて恥ずかしくて外歩けないわ」

 

「な、なにを言うんだ」

 

 いや、バカに否定する権利はないから。

 

「……会長、流石に今回は会長が悪いです……」

 

 保護者にバカを連行してもらってやっと静かな談話室が戻ってきた。

 

「はあ、どうして私の周りはバカばっかりなんでしょうね」

 

「今さらなに言うてんねん。鏡持ってきたろか?」

 

 意味のわからないことを言うタマを小突いて、もうやけくそになってソファーに寝転がる。あーあ、もう何も考えたくない。

 

 

 

 

 

 

 

『強い!! まさに皇帝! まさに最強! シンボリルドルフ、ジャパンカップで並み居る強豪を寄せ付けず、堂々圧勝!!」

 

 おーおー、やりたい放題してるわね。ここで負けたら思いっきり煽ってやろうと思ってたのに面白くない。せめてインタビューでやらかせば面白いのに。そんな事を口に出せば

 

「仮にも生徒会の者がそんなこと言わないでください」

 

 エアグルーヴに怒られてしまった。場所は生徒会室、あのバカがジャパンカップ前はトレーニングに集中するためこっちの仕事をほとんど任せていたらしい。当たり前の話なのだが、この生徒会では珍しい話で手が回らないからと引っ張り出されてしまった。断りたかったけど、エアグルーヴが困ったようにお願いしてくるもんだからなんか毒気が抜けて手伝ってしまっている。どうやらブライアンは逃げたらしく、そのせいで余計に手が足りないらしい。取り敢えずハヤヒデにチクってみれば、当面ブライアンへの仕送りは野菜での現物支給になるらしい。いい気味だ。

 

「ね、そろそろ休憩しない? 疲れちゃった」

 

「休んでいてはいつまでも終わりません。せめて渡した書類の半分ぐらいは……」

 

「そんなの全部終わってるわよ。あんた、遠慮してるのか知らないけど私との配分おかしいでしょ」

 

 そ、私とエアグルーヴの仕事量にかなり差があるものだった。多分遠慮してるんでしょうけど、あんまり舐めないでほしいわね。これでも結構優秀なのよ?

 そう言えばエアグルーヴがお茶の準備をしてくれる。その間に多すぎたエアグルーヴの机の上の書類を半分ぐらい持っていく。戻ってきて驚いて謝ってきたから、

 

「そんなのいいから、あのバカどうにかならない?」

 

「それは無理な注文です」

 

 なんて切り捨てられてしまった。ああ無情。

 それから二人で来客用の高いお菓子をつまみながら休憩時間だ。この前どこぞのバカ二人が大量に食べて大変だと言われたけどなんのことだか。

 

「そう言えば、どこぞのバカは今日レース場にいるみたいだけど保護者として同行しなくて良かったの?」

 

「レースの時の会長は以前の真面目な姿ですので心配いりません。……だと言うのに、学園内では……、特に先輩が絡むとどうしてああなってしまうのか……」

 

 言いたい放題だなこの後輩。でも、あのバカにはちょうど良いんでしょうね。噂をすればなんとやら、バカのインタビューが始まった。横耳に聞いていれば何故か私の名前が出てきて

 

『……さんの事を随分と評価しているのですね。やはり、函館記念の敗北があったからでしょうか』

 

『もちろんそれもあります。しかし、彼女はもっと前から私を支えてくれた大事な存在です。今の私があるのも彼女が居てくれたからだと、そう断言できます』

 

 なに勝手に都合の良い解釈してんのよ。なにがレースでは真面目だ、非難の意味を込めてエアグルーヴを睨めば、どうやら判定はセーフらしい。納得できない。そんな私の無念をよそにインタビューは進んでいるようで、

 

『なるほど、しかしそうなると函館記念での故障は痛ましく思えます。複数のウマ娘がエールを送っていると聞いていますが』

 

『いえ、彼女はもう大丈夫です。有記念に出てきます』

 

 ちょいちょい、それ、一応まだ発表してないのよ? エアグルーヴの方を見れば、これはアウトのようだ。また頭を抱えている。かわいそうに。一気に騒がしくなった画面の向こうは無視して一応トレーナーに連絡しておく。傍から見れば勝手にライバルの出走計画を、それも故障が最後の情報になっているウマ娘のものをリークしてんだから。で、返ってきた返信は

 

『これで、ファン投票は安心だな』

 

 だけだった。私まで頭痛くなってきた。

 

「昔の、ストイックで真面目だった会長はどこに行ってしまったんだ……」

 

「今さらよ、今さら。それにあんたはどっちのバカが好きなの?」

 

「……それは卑怯な質問ではないですか? そういう先輩はどうなんですか?」

 

「それこそ、今さらなに言ってんのよ。私はあのバカのことが大嫌い。知ってるでしょ」

 

 無意識に笑っていたことには気づかなかったことにしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時計は回って、カレンダーはめくれて、もう来週には有だ。出来る限りのことはした。今出来る最大限まで持ってきた。なら後は待つだけだ。レース前最後の休日を部屋で過ごしていたらノックの音が聞こえてきた。時計を見れば夕食時だ……、ん? なにか嫌な予感がするんだけど。取り敢えずノックの音に

 

 

「私だ、手がふさがっている。開けてくれ」

 

「悪いけど、たった今この扉は開かなくなったわ」

 

 ぜっったいに面倒くさいことになる。この扉を開けることはない。そう決めたんだけど、私の儚い願いも虚しく、いつもみたいに勢いよく蹴り開けられた。……いつもみたいに蹴り開けられたってなによ。どんな無法地帯だ。

 で、予想通りというか、考えたくなかったというか、バカが鍋もって立ってやがる。それはいい、いや、良くないけどさ。

 

「……多くない?」

 

 バカを筆頭に副会長二人、三バカ後輩までいる。しかも全員なにか持ってるけどどう見ても鍋の食材や食器なんかだ。

 

「ねえエアグルーヴ? 寮で鍋は禁止じゃなかったの?」

 

「ええ、ですが今日は特別な日なので、特例として。安心してください。ちゃんと生徒会で可決されています」

 

 こめかみに漫画みたいに血管が浮き出てる気がする。

 

「ねえシリウス? あんたなんでここにいんの?」

 

「知らないのか? 日本では年末年始は家で過ごすんだぜ? 私に会えなくて寂しかったんだろ? 甘えさせてやるよ」

 

 つい半月前、ホームシックになって真夜中に四時間喋り続けたやつのセリフとは思えないわね。

 痛くなった頭を抱えていると、シチーがバカを押しのけて前にでてきた、それでなにを言うのかと思えば。

 

「ね、先輩先輩、私にもなんかないの?」

 

「回れ右して帰りなさ……、ああもう! 自分で聞いておいて泣きそうになるんじゃないわよ! さっさと入りなさい!」

 

 それを聞くとケロッとした顔をしやがった。ウソ泣きとか、もうほんと勘弁して欲しい。いくら一人で使っているとはいえ、あくまでも大きさは他と同じ二人部屋だ。そこに私もいれて七人もいればどうなるかは考えるまでもない。

 

「せまいー」

 

 うるさい、勝手に入ってきたのは自分でしょうが、

 

「ほう……これは意外な趣味だな」

 

 バカ! 人の私物をジロジロ見るな!

 

 諦めるしかない惨状に、どうしようも出来ない無力さが憎い。

 

「なんでこんなことになんのよ……。私がなにしたって言うのよ……」

 

 そのつぶやきはなぜか全員に聞こえたみたいですごい顔で見つめられる。な、なによ! 変なこと言ってないでしょ! そしたらバカが神妙な顔で

 

「ふむ、おそらくここにいる全員同じ考えだと思うので代表して私から。君は今さらなにを言っているんだ?」

 

 心底不思議そうな顔でそんな事言いやがった。ああ! 誰か助けて!

 

 




多分次が本編最終回。

遅くなるかはもうわかりません
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