リアルだったり、応募用の現行だったりで当面こっちもあっちも更新出来ないと思います。無料十連で持ってないウマ娘引けたら更新するかもしれません
「お湯をかけたら三分間っと、ってこれ五分のやつじゃない。面倒くさい」
食堂もとっくに閉まった時間、今日は病院に行ったせいで夕飯にありつけなくなってしまった。仕方ないからと部屋の中を探してたら前にシチーがどっかの撮影で貰って好みじゃないからって押し付けられたカップラーメンが一個発掘された。
「しっかし、人参味のスイーツラーメン豚骨風味ってなによ。どう考えてもゲテモノじゃない」
背に腹は代えられないとは言え、味の想像がつかない、出来たとしても進んで食べたくないものには違いない。かといってこんな時に限って部屋の備蓄は切れてるし、帰りに何か買ってくるのも忘れていた。別に最悪寮抜け出して買い出しに行っても良いんだけど、目の前にある一応は食品なもののおかげで微妙にためらわれる。色々考えるのも面倒くさくなってお湯をいれて、こんなゲテモノに限って後入れだったり、先入れだったり。挙げ句の果てには蓋の上で温めろなんてきた。もはや味に期待はしていないけど手間まで取らされるとは……
さっさと胃に流し込んで部屋に戻ろうと、早めに開けて、もろもろ混ぜこんでいると入り口の方でやかましい声が聞こえてくる。こんな時間にここに来るなんて腹をすかせたウマ娘だろうし、珍しいものでもない。そう思って放置していたんだけど、
「ね、シャカール。こんな時間にラーメンを食べようだなんてワクワクしない?」
「うっせえ。食うなら一人で食えばいいのに、どうしてオレを巻き込もうとしてんだよ」
「えー、一人で食べるより二人で食べたほうが美味しいに決まってるじゃない!
あ、安心して、ちゃんと二人分用意してあるから!」
「おい……、一食分この時間に食わせる気かよ……」
こんな時間にうっさいわね。ちらりと見ればいかにもなお嬢様とこれまたいかにもなヤンキーウマ娘。えらく変わった組み合わせね。ま、私には関係ないしさっさと食べて部屋に戻りましょ。そう思って目の前のゲテモノに視線を戻そうと思ったらお嬢様なウマ娘と目があった。こっちは別に用はないんだけど向こうは何やら目を三割マシでキラキラさせ始めた。かと思ったらこっちに歩いてきた。なに? なんか興味を引くものでもあったのかしら。
「ねえねえねえ! 君が食べてるそれ! ラーメンだよね! それも珍しいやつ! 私もひとくち食べたいなぁ?」
……ああ、目の前のゲテモノがあったわね。それはともかくいきなり話しかけてきて飯よこせだぁ? 見た目の割に大分と頭のネジが緩いみたいね。あんまりすぎるファーストコンタクトのせいであぜんとしていると、頭をかきながらもうひとりのウマ娘もこっちに歩いてきていた。
「おい、いきなりすぎんだろ……。あんたも悪いな、一口分けてやれば……」
食堂の電気も消えていて、誰だかわからなかったんだろう。私の顔がわかる距離まで近づいた途端しゃべるのを止め、顔が真っ青になっていく。
「せ、先輩! このバカには後でオレがちゃんと言っておくんで、今回は見逃してください!」
いきなり態度を180°変えて大汗かきながら謝りだした。ああ、こっちが年上だって気づいたのか。なんだ。見た目の割に真面目な子じゃない。
「別に気にしてないわよ。先輩風吹かせる気も……」
「もう! 二人して何言ってるの! さあ、早く私にもその世にも珍しいラーメンを食べさせて?」
なによこのバカ……。しかもいつもの間にか一口じゃなくなってるし。バカ後輩も生意気だけどここまでじゃないわよ。相手にするのも面倒くさいしジャスチャーで追いやろうとしても頑として動こうとしない。見た目不良ウマ娘が引っ張ってるけど机にしがみついて動こうとしない。ああ……さらば私の静かな夕食よ……。さっきまでは乗り気しなかったゲテモノだけど、こうなってはひとかけらだってやる気はない。伸びると余計にまずくなりそうだし、やけども覚悟して一気に麺を食べ尽くす。
「ああー!? 私のラーメンが!」
ああ不味い! で、いい加減人の神経を逆なでし続けてるこれにもお灸を据えてあげないとね。後輩の教育までやってあげるなんてなんて優しい先輩なんでしょう。
「い、い、加、減、に、しなさい!」
思いっきり鼻をつまんで引っ張り上げる。情けない顔になって喚いてるけど無様なものね。それでも口からは文句を垂れ流すもんだからおまけにほっぺたも引っ張ってみる。おーおー、よく伸びる。ちょっとおもしろくなってきたわね。
「先輩、やばいですって、謝らせるからいったん離してくれ!」
「嫌よ。言ってもわからない後輩には体で躾けるしかないでしょ」
あれ? 私口で言ってたっけ? まあ、いっか。そんな風に思ってたらドタバタとスーツを来た集団が私たちを取り囲んできた。なによそれ。私はつつましく夕食を食べてただけだってのに。
「おい! 貴様何をしている! 殿下を解放しろ!」
あ? 殿下だ? 何いってんのよ。
「先輩……。そいつファインモーションって言って海外の王族なんだ……」
ふーん、あっそ。いまだにピーチクパーチク喚いてるこれが王族ねえ? 仕方ないから鼻をつまんでる手を離してあげる。で、そのまま空いている方のほっぺたも引っ張ってあげる。
「いふぁいー! ふぁふぃふるの!」
「貴様! 何をしている、早く殿下を解放しろ! これ以上はただではすまんぞ!」
「何してるかですって? 生意気な後輩に教育的指導してあげてんのよ。殿下だ王族だ? はっ、そんなに大事なら足かせ付けてオリの中にでもいれておきなさい。制服着てここに居る以上、生意気な後輩以外の何者でもないわよ」
とはいってもこれ以上遊ぶのも面倒くさいし適当に解放してあぜんとしたり、他称殿下に駆け寄る奴らを放置して食堂を後にする。あ。
「迷惑料よ、後片付けよろしく」
振り返ることなく、手だけを振って部屋に戻る。元はと言えばシチーがゲテモノを押し付けてきたのが悪い。今度会ったら一発殴っておこう。
なんて終われなかったようで、授業中にも関わらず呼び出しを食らってしまった。しかも場所は理事長室。どう考えても厄介ごとの匂いしかしないけど無視するわけにはいかないし、嫌々向かえばたづなさんとルドルフとエアグルーヴ、昨日の後輩二人とスーツのウマ娘。そんな集団に待ち構えられていれば開けたドアを閉めようとする私は悪くない。
影に隠れていたブライアンに肩を掴まれ嫌々中に入ればたづなさんが説明を始めてくれる。
「えー、昨晩の食堂での騒ぎに関してなんですが、撮影をしていたウマ娘がいて、それをSNSにアップしてしまったようで……。それでファインモーションさんが暴行を受けていると、各方面から確認であったり追求が来ておりまして……」
驚いた。どうやら本当に王族だったんだ。それに暴行ってなによ暴行って。あんなのに先輩の愛のムチじゃない。あれぐらいで文句言われたら私とバカなんて塀の向こうに投げ込まれるわよ。とは言いたいけど、実際結構大ごとになってるらしい。理事長がいないのも各方面との対応に追われているらしい。
「さて、事は既に学園内で収まっていない。ともすれば必要以上な対応を求められるかもしれない。そちらは今理事長が止めてくださっているが、それも時間の問題だろう。よって、まずは当事者たちの話を聞きたいと思って集まってもらった」
バカが真面目な顔で真面目な話してるじゃない。どうやら結構マジで大ごとになってんのね。
「ごめんなさい! 私が考えなしにあんな事をしたから……」
生意気殿下……ファインモーションだっけ? が深刻な顔して頭を下げている。そうそう、あんたが悪いのよ。
「ねえ、生意気な後輩に教育的指導をしただけでなんでこんな大ごとになんのよ。誰であろうとここに居るなら一人のウマ娘でしょうに」
「はは、君であればそう言うだろうな。だが、外部からはそうは見えないらしい。既に君に対する処分を求める声が出始めている」
なにそれ、そろそろ真面目に考えると結構まずい状況なんでしょうけど、だからって何すればいいのよ? 私に答えなんてないし、周りを見ても暗い顔で俯いてばかりだ。あれかしらね、年貢の納め時ってやつ? どうせならターフの上で終わりたかったわね。
そんな事を考えているとファインモーションの携帯が着信を鳴らす。すぐに切ろうとしたみたいだけど、相手の名前を見て驚いた後、わびながら部屋の端に移動して話し始めた。聞こえてきた感じ日本語じゃないし、話し相手は向こうの誰かなのかしらね。このタイミングでそんな事をされれば誰もが気になる。全員無言でファインモーションの方を見ていると、気まずそうな顔をして私の方に携帯を差し出してきた。
「あの……姉様が話したいと……」
なによそれ? 直接わびろとでも言うのかしら。それでも無視するわけにもいかず、嫌々通話を受け取る。
「もしもし」
『やあ、君が私のプリンセスの柔肌を傷つけた犯人かい?』
予想外に聞こえてきた日本語に内心ホッとしたけど、聞こえてきた内容は物騒なものだ。
「プリンセスかどうかは知らないけど、生意気な後輩にお仕置きはしてあげたわ」
向こうの音声も部屋全体に聞こえているので私たちの会話で周りの顔がどんどん青くなっていくのが分かる。
『なるほどね……。君の言う生意気な後輩が私達の大事なプリンセスであっても変わらないと?』
「当たり前じゃない。私肩書で態度変えるって大嫌いなの。それと、責任取らせるなら私だけにしなさい。学園は関係ないから」
どうしょうもないのならこの首一つで問題を終わらせて欲しい。いや、終わらせてみせる。私の勝手で迷惑を被るのは私だけで十分だ。
『ふむふむ、そこにそちらの生徒会長は居るかい? 学園の代表として意見を聞いてみたい』
どうやら向こうはバカをご所望のようだ。バカなら……、ルドルフなら別に責任担がせても良いかもね。視線で聞けばうなずいてくるから携帯を渡す。ルドルフが名乗ると向こうから言ってきた。
『さて、学園の代表として君はどのような処分を下すのか教えてもらおうか。無論私のことは国の代表と考えてもらっていい』
嫌な質問だこと。どうあろうがここで息の根を止めたいみたいね。どうなるんでしょうね。ルドルフのことだからこっちの事を気にしそうだけどそれで学園に飛び火するのなら意味がない。私のことは気にするなと伝えたら、目を閉じて少し考えた後。
「そうですね、今回は怪我人やモノの破損もない。しかし、夜分に騒ぎを起こしたこともまた事実。であればスズカコバンとファインモーションの両名には寮のトイレ掃除三日間ぐらいが妥当だと考えます」
はあ? バカなの? ああ、バカだったわね。いくらなんでもそれが今求められている答えじゃないってことぐらいあんたのおめでたい頭でも分かるでしょうに。
『……ファインにも罰を与えると?』
「ええ、聞けば元はファインモーションが原因だとか。であれば私は学園の代表として平等に罰を与えなければいけません」
『……フフ、ハッハハハハハ!! なるほど! 確かに平等だ! よろしい。我々は本件に関してはトレセン学園の決定に異議を唱えない。やんちゃなプリンセスもたまには良いだろう。さて、済まないが我が愛しの妹に代わってもらえるかな』
よくわからないけど大丈夫そうなのかしら? ファインモーションも話しながら笑っているし、たづなさんやエアグルーヴの顔にも血の気が戻ってきている。当事者なのに放置されるのも癪だし、分かってそうな不良ウマ娘に聞けば。
「あいつを普通のウマ娘として、一人の後輩として扱われたのが嬉しいんだと思う。学園ならマシとは言え、どこまで行っても殿下として扱われてきたのが、先輩の前じゃバカな後輩扱いだ。そこに一切の忖度がない、それがファインにもファインの姉にも伝わったんだと思う」
ふーん、面倒くさい姉妹ね。まあでも、姉はいつだって妹のことが気になるし何かあれば手なり口なりを出したくなる。それは王族様でも一緒なんでしょうね。そう思うと生意気な後輩もちょっとは可愛く見えてくるのかもね。
その後、ファインモーションの母国から正式に今回の件はファインモーションが原因であり、私はそれに一先輩ウマ娘として対応したに過ぎない。学園内のどこにでもあるような出来事を大ごとにする気はない。と発表され私の首はサヨナラすることはなかった。
……これで終わってくれればいい話? になったんだろうけど。
「ね、ね! 今日はどこに食べに行く? 私今日はまぜそばな気分なんだ! 学園の近くに新しくできたお店があるの!」
「ああもう! 三日連続で食べに行く趣味はないわ! 行くならあんた一人で行きなさい!」
「だめだよー、問題を起こさないようにって、当面は一人で外出しちゃダメって姉様に言われちゃったの」
「なら、あの目つきの悪いウマ娘と行きなさい! 友達なんでしょ?」
「シャカールがね、先輩と一緒に行って来いって!」
結局、根負けしてトイレ掃除の三日間どころか十日間連続でラーメンやらなんやらを食べさせられ、ウエストを戻すのにかなり苦労させられた。これも全部シチーが悪い……! 今度あったらただじゃ済まさないから!
「やあ先輩、少し頼みたいことがあるんだけど」
「嫌に決まってるでしょ」
今日も今日とて増えたウェストを戻すためにトレーナーに笑われながら用意してもらったメニューをこなして部屋でくつろいでたらフジがいつもの胡散臭い笑顔で訪ねてきた。頼みたいこと? どう考えても厄介事でしょそれ。返事を待たずにドアを締めて鍵をかけたのに外から開けられてしまった。わざわざマスターキー持ってきたの? これ以上は余計に面倒くさいことになる未来しか見えなくて渋々フジの話を聞けば。
「外出届けを出して外に出た子が帰ってきてなくてね。しかも携帯も置いていったようだ。それで迎えに行ってほしいんだ」
「はあ? トレーナーついてんならそっちに。そうじゃないならエアグルーヴでも使いなさいよ」
「残念ながら担当トレーナーは出張中。エアグルーヴや他の生徒会のメンバーもレースなんかで遠出していて、残っているのは中等部の子たちだけなんだ。もちろん先輩が待っていてくれるなら私が迎えに行ってもいいんだけど」
ったく、間が悪い。そもそもなんで私がそんなことしないといけないのよ。とは思うけど、既に時間は夜も深くなっている。こんな時間に中等部の子を使いに出すわけにもいかないし、そうなると残るか行くかだけど……、だめね。待ってるだけとか暇で死にそうだし、ダイエット代わりのウォーキングだと思いましょうか。
「貸し一個ね」
「ありがとう。しかし先輩に貸しを作るのはちょっと怖いね」
「安心なさい。せいぜい怯えて取り立てを待ってなさい」
それから居るであろう場所とか、何か有ったときの連絡先とかを確認して迎えに行く準備をする。ああそうだ。
「聞き忘れてたわ。夜間徘徊してるバカな後輩の名前は?」
「アドマイヤベガ、去年のダービーウマ娘さ」
事前に聞いていた場所に向かって夜の街を歩いていく。こんな時間に学園の制服を着て歩こうもんなら私の方まで補導されかねない。仕方ないから私服を着てるんだけど、そのせいか余計に目立ってる気がしてならない。目的地は近くの山の上らしいし、さっさと行きましょう。
程なくして目的の場所に到着すれば、件のウマ娘も簡単に見つかった。山頂にある小さな原っぱにレジャーシートを広げ横になっている。一瞬事件か!? と焦ってたけど近づいてみれば普通に呼吸もしてるみたい。驚かせないでよ。それにしたってこんなに近づいてるのにこっちに反応を全く示さないなんて集中してるのか、なんなのか。取り敢えず視界を遮るように頭の方から腰を曲げて
「今何時だと思ってんのよこのバカウマ娘。さっさと帰るわよ」
「……ああ、もうそんな時間なんだ。ごめんなさい。もう少しここに居るからあなたは先に戻ってて」
向こうは私のことを知っていたようで、私服であるのに学園から来たと分かったようだ。それはいい、それは良いんだけど、まだ帰らないから先に帰れだあ?
「何寝ぼけたこと言ってんのよ。ほらさっさと起きなさい」
「だ、ダメ!」
手を引っ張って起こそうとした瞬間、さっきまでの静けさはどこへやら、焦ったような顔で拒絶されてしまった。何今の。どう考えても普通じゃないわよ。今も私の腕を掴むその顔は怯えとも困惑とも違う色んなものを混ぜたような表情だ。そしてそれは私に向けられたものじゃない。
……ったく、なんで最近面倒くさい後輩ばっかり当たるのよ。取り敢えず手を離させてフジに電話をかける。
「もしもし、私よ。見つけたけど帰りたくないって」
『無事見つかって良かったよ。帰りたくないと言われても、どうするんだい?』
「引っ張っても動きそうにないし、このまま置いておくわけにもいかないし、もう少しこっちに残るわ。遅くなるかもしれないし施錠してあんたもさっさと寝なさい」
『それは……大丈夫なのかい? いや、先輩に任せるよ。きっと大丈夫だろう。しかし、施錠してしまったら二人が帰れないじゃないか。もしかして朝帰りするつもりかい?』
「安心なさい。寮の鍵は持ってるから」
『そうか、なら安心……いや、どうして先輩が鍵を……』
言うべきことは言ったし、電話をぶち切る。でついでに電源も落としておく。で、あぜんとした顔でこっちを見るアドマイヤベガの横に腰を下ろす。いやー、結構疲れたわね。
「……いいの?」
「いいわけないじゃない。でもあんた、帰らないんでしょ?」
不安げにうなずくアドマイヤベガを尻目に私も横になって空を見上げる。学園の近くにこんな星が見える場所があったなんてね。
それからどれぐらい時間がたったんでしょうね。二人で何も話すことはなく星を見続けている。私としてはたまには静かな時間もいいものだと思ってたんだけど、アドマイヤベガはそうでもないようで、
「どうして私がこんな事をしたのか聞かないの?」
「話したいなら聞いてあげるわよ。今気分が良いし」
やっぱり話したかったようで、ぽつりぽつりと話し始める。妹がいた……、いや妹がいること。妹のために走ってきたこと。その妹に自分のために走ってほしいと言われたこと。そしてもう妹を感じることができないということ。私は幽霊や死後の世界なんてあんまり信じてないけど、ウマ娘だもんね、不思議なことの一つや二つあるでしょう。断じてこの前カフェのトラブルに巻き込まれたからではない。それはともかく、アドマイヤベガはどうしたら良いのかわからなくなったらしい。今まで自分のために生きてはいけないと考えてきたウマ娘が急に自分のために走れと言われて困惑していると。難儀な子ね。そんなの何も考えずに走ればいいだけなのに。
「ねえ、私にも妹がいるの、それも何人も。でも、最近は疎遠になっててね。あの子達は私の背中を追いかけようとして出来なかった。私もそれに対して何かをすることが出来なかった。お互い、不器用だったのよね」
「そう……」
「ねえ、姉はいつ姉になると思う? 私の考えは妹なり弟なりを認識した瞬間だと思ってる。よくあるでしょ? 大きくなったお腹を擦りながらあなたはもうお兄ちゃんなんだからってシーン。その時はまだ生まれてもいないのだから兄でも姉でもなんでもないのに、急にお兄ちゃんだから、お姉ちゃんだからと張り切っちゃうちっちゃい子とかね」
「……何の話?」
「まあ、最後まで聞きなさい。究極的には妹がいなくても、弟がいなくても私たちは姉になれるのよ。そう認識したとき、そう自覚したとき私たちはお姉ちゃんになるの。そして自分を作り変えるの。一人っ子で甘やかされてきた自分を、弟、妹のために我慢しないといけない自分に、ちゃんと見せなきゃいけない自分に」
「……」
「親の心子知らずなんて言うけど、私に言わせれば姉の心妹知らずよ。こっちが譲ってやってんのに気に入らなければ泣きわめいて、新しいのが欲しいだのなんだの。こっちの都合なんて何も気にしない。迷惑ばっかり。でもね、それでも私はあの子達のお姉ちゃんなの。背中を見せることしか出来なかったけどね。あの子達は生まれたときから妹だった。でも、私は自分の意思でお姉ちゃんになったの。だから今距離があっても嫌いになれない。つらいことが有っても情けない姿は見せられない」
「あの子は……、私の妹も私のことなんて分かってくれないのかしら」
「さあ? うちの姉妹とあんたの姉妹が一緒とは思えないしね。でも、ただ一つだけ共通してるのはお姉ちゃんがいつだって頑張らないといけないってこと」
「……」
「私を見てどう思うのか、喜んでくれるのか、駄目だしするのか。そんなのはわからない。だって自分のことじゃないもの。だけど、良かれ悪かれ妹たちは私たちの背中を見る。いつかは私なんて追い抜いていくのかもしれない。でもその瞬間まで私はお姉ちゃんとして背筋を伸ばして堂々と走るだけ」
「私も……、私も頑張ったら、あの子は喜んでくれるのかな?」
「そんなの最後の最後まで分かるわけないじゃない。でも、だからこそ、頑張るのよ。あんたはあんたの名前と同じ様に生きていけばいいのよ」
「私の……名前……?」
「アドマイヤベガ、称賛される一等星の様に輝き続けなさい。そうすればきっと、きっといつかお姉ちゃんで良かったって思える日が来るわ」
「私の輝き……、ふふ、そうねみんなにも言われたんだもの。走るしかないのね」
そう呟くアドマイヤベガの横顔は今日初めて見た、小さな、でも眩しいみたいに輝いている笑顔だった。……なんか柄にもないことばっかり言っちゃったわね。雰囲気に流されたのかしら。恥ずかしさを誤魔化すように立ち上がって帰るわよ、とアドマイヤベガにも言ったんだけど。
「ねえ、もう少しだけ、もう少しだけ星を見ていたいの……」
結局、私たちが学園に戻ったのは早起きなウマ娘が朝練を始めるような時間だった。律儀にも寝ずの番をしていたフジに反省文を言いつけられたアドマイヤベガはそれでも笑っていた。なによりね。
「なにちょっといい顔して誤魔化そうとしているんだい? 先輩も反省文だよ」
「なに言ってんのよ。私はあんたに、あ、ん、た、に頼まれて迎えに行ったのよ。なんで反省文書かないといけないのよ」
「どこぞの先輩が言うだけ言って音信不通になるから大変だったんだよ? それに、なんで先輩が寮の鍵を持っているかも問い詰めても良いんだよ?」
藪をつついて蛇を出すとはこのことかしら。まあ蛇と言ってもツチノコみたいな可愛いもんだけど。
「諦めて一緒に書きましょ。情けない姿は見せないんでしょ?」
「……ほんと、生意気な後輩ばっかね」
アドマイヤベガの頭を軽く叩いて諦める。まあ良いでしょう。今さら反省文の一枚や二枚どうってことないし。
「ああ! アヤベさんに聞いたよ! 先輩も舞台上のスターのようなウマ娘だと! さあ、この僕とどちらが真のトップスタァーか競い合おうじゃないか!!」
面倒くさい後輩に絡まれるのは聞いてない! ちょっと! そこで笑ってるアドマイヤベガ! これ引き取りなさい、あんたの所のバカでしょ!
「ふふ、頑張ってね、先輩?」
……決めた。もう絶対厄介事は引き受けない……!
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