短編部分に関しては基本的に時系列めちゃくちゃなので、つながりなんてないです。
「先輩、少しいいだろうか」
授業も終わり、放課後。今日はトレーニングもないからカフェでゆっくりしてたら見知った顔に声をかけられた。私より小さいとはいえ学園では目立つ長身にこれまた目を引く量の髪の毛を携えたハヤヒデだ。
「面倒事じゃなければいいわよ」
「良かった。少し友人の話を聞いて欲しいのです」
いやそれ面倒事じゃない。あんたのそのでかい耳はなんのためにあんのよ。そう言って追い返そうとするけどいつもの私の頭は大きくない! とか誤魔化されてしまった。そのまま私の許可もないままに同席してきやがった。昔に人の書類破ったとき時といいこいつも大概人の話聞かないわね。で、ハヤヒデの影に隠れてもう一人いるみたいだけど、これが話題の友人?
「ええ、彼女は私の友人でナリタタイシンといいます。彼女の相談に乗って欲しいのです」
いやなにさらっと私が話を聞く前提で進めてるのよ。無視しようにも目の前には半分以上残っている今日の晩ごはん。睨んでみてもどっか行く気は無いようだ。後輩にまで舐められて一度本気で言ったほうが良いのかしらね?
横を見れば未だに立っているナリタタイシンとやらが不機嫌そうにしている。そんな顔で同席されたらご飯がまずくなるんだけど? ハヤヒデもどく気はなさそうだし、取り敢えず座るように指差す。聞く気はないと食事を再開するけど、ナリタタイシンは一向に話もせず時間だけが過ぎていく。このまま食事を終えて部屋にでも戻ろうと思ったのに痺れを切らしたのかハヤヒデが話し始める。
「……仕方ない、私から話そう。先輩、このタイシンに関してなのだが……」
「ハヤヒデ、ストップ。相談だって言うなら本人から話させなさい。後、あんたはどっか行きなさい。あんた黙ってるの我慢できないでしょ」
本人がいるということは聞かれたくない話題でもないでしょうに。それで他人が口出しするのもおかしい話だ。私とナリタタイシンの顔を行ったり来たりした後ハヤヒデは頭を下げてどこかに離れていった。行き際にナリタタイシンの肩をポンと叩いて行ったけどお節介焼きすぎじゃない?
それから無言で食事を続ける私と無言でこっちを睨んでくるナリタタイシンというよくわからない時間が続く。このままいけば食べ終わってさっさと戻れるかもね。いよいよ食べ終わって食器を戻す準備をし始める頃
「やっと食べ終わった? 待たされたんだけど」
いきなり喧嘩売ってんのかこいつ。どうやら私が食べ終わるまで待っていたらしい。律儀と言うか要領が悪いというか。それでも嫌そうな顔を隠しもしないもんだから帰っていいと言っても
「勝手なお節介だけど、ハヤヒデがわざわざ準備してくれたんだから無視するわけにもいかないでしょ」
どうやら義理堅くはあるみたいね。このまま部屋に帰ってもやることないし、バカ連中に絡まれても面倒くさいし話ぐらいは聞いてあげましょうか。ハヤヒデには一応背中を無理やり押された恩、と言って良いのかわからないけど借りはあるしね。
「はいはい、じゃあ、食後の休憩がてら聞いてあげるからさっさと話しなさいな」
「なんでこんなやつに……。じゃあ話すけど、私の体が小さいからってトゥインクルシリーズに出るのは無謀だ、さっさと学園を出ていったほうがいいって言われてんの。で、ハヤヒデとかチケットがそれを心配してるってだけの話。私が気にしてないのに無駄なお節介を焼かれてるだけ」
つっけんどんに話した内容はこの学園ではよくある話だ。これまでは地元で一番だったウマ娘がトレセン学園にくれば並以下なんていくらでも転がっている話。そもそも上澄みだけを集めたこの場所で活躍出来るのなんて一握りもいない。私もかろうじてG1一勝しているが、それだってはたから見れば上澄みだろう。私がどう思っているかなんて関係なくそんな扱いになる。
「あっそ。あんたが気にしてないのならこの話は終わりね。ハヤヒデは心配ないって言っといてあげるから帰っていいわよ」
本人がなにもないと言うのならこの話はここで終わり。時間の無駄だったかしら。改めて食器を重ねて準備をしていると
「……だから無駄だって言ったんだ。こんなでかいやつに私の悩みなんて分かるわけないんだから」
ほー? どうやらこのチビはえらく調子に乗ってるようね。良いでしょう。最近私のことを舐めて、都合のいい相談役とでも思ってるバカが多いみたいだし。ここらで一度はっきりさせるもいいわね。
「悲劇のヒロインやりたいならさっさとここで出て劇団にでも入るのをおすすめするわよ、おチビちゃん?」
「な! なに言ってんだ!」
小突いたところが逆鱗だったようで胸ぐらを掴んでくる。ああ良いじゃない、最近ぬるま湯ばっかりだったからたまには跳ねっ返りでももんであげましょうか。掴まれた腕を振り払って反撃といこうとしたら力が抜けたように椅子に座ってしまった。面白くないわね、もう終わり?
「言われなくても分かってるっての……。この体じゃあつらいってことぐらい。だからって諦められるわけないじゃん……」
私に言うってよりは溢れた独り言のようにそんな事を言われてしまっては、反撃のために振り上げた右腕を振り抜くわけにもいかず、毒気を抜かれたように座るぐらいしかできない。
「怒ったり、落ち込んだり情緒不安定なの? ったくあんたのせいで目立ってるじゃない。ほら場所変えるわよ」
奥の方でこっちの様子を見ているハヤヒデにジャスチャーで着いてこないように言ってナリタタイシンを連れてカフェを後にする。どこに行きましょうか、また目立つのも嫌だし。仕方ない部屋に連れていきますか。
道中なにも言わず俯いたままのナリタタイシンを連れて自室に戻る。本来なら寮の自室には食品とかはあんまり大っぴらに持ち込めないんだけど何故かこの部屋だけは黙認されている。追及する気はないし、有り難く活用させてもらっているおかげで、冷蔵庫の他に食品棚まで出来る始末だ。取り敢えずナリタタイシンを座らせて適当な飲み物を二人分並べて話をさせる。ここまでしてあげたのよ? 今さら話すことなんてないとかほざいたら身長縮ませるからね。冷たいもの飲んで少しは落ち着いたのか、ぽつりぽつりと話し始めた。
「アタシだって言われなくても分かってる。だけどアタシは今まで見下してたやつらを見返すためにここに来たんだ。だけど待っていたのはレースでも集団に揉まれればなにもできなくなって、見てた担当じゃないトレーナーからも心配される始末。分かってるよ、それがバカにしてるんじゃなくて本当に心配してるんだって。だからこそ、他人にまで心配される自分が情けなくてつらくて、なのにハヤヒデやチケット。トレーナーはそんなことないって言ってくれる。言ってくれるのにそんな言葉も信じられなくなっているのが本当に嫌……!」
あー、こりゃまた随分とこじらせてるわね。こんな子のカウンセリングなんて本職にさせなさいよ。ったく、ハヤヒデもなんで私に持ってきたんだか。ん? あれ、ナリタタイシンの言ってること、殆どが恨みつらみの混じった弱音だったけど、気になる部分がある。
「ねえ、ナリタタイシン。あんた担当ついてんの? 誰?」
「タイシンでいい。私の末脚なら勝てるなんて言ってる変なトレーナーが居たんだ。名瀬ってトレーナー。クリークさんの担当してる人」
……はい、この話は終わり。なにも心配することないじゃん。
「あっそ。名瀬トレーナーか。そりゃあんた。こっから大変ね」
「あんたも結局そう思ってんだ……。この体じゃ無理だって」
早合点してもっと落ち込み始めた。話は最後まで聞かないやつ多すぎない? まあ、思い込みがあるからそうなるんでしょうけど。
「あのね、私が大変って言ったのはあんたがクラシック含めて重賞G1で戦っていかないといけないからよ。名瀬トレーナーの名前ぐらい私でも知ってるわよ。あれが選んだってことは少なくてもあんたは怪我なく走れるかじゃなくて、G1で勝つか負けるかの世界に投げ込まれるってこと。そこじゃ、体の大小なんて関係ない」
なんか目をパチクリさせてるけど言わないとわからない? あの名瀬が選んだ以上最低でも一級品レベルではあるはずだ。まだレースには出ていないけど少なくてもオープン戦で燻るようなウマ娘じゃないってことでしょう。
「それにね、体が大きいだけで勝てるなら私なんてG1二桁は勝ってるわよ。現実を見なさい。体の小ささで言い訳してる暇あったらさっさとトレーニングでもしてるほうがマシよ」
「言い訳なんてしてない!」
「いいえ、あんたの言ってること聞いてたら体が小さいから仕方ない。勝てなくても仕方ない。そう自分に言い聞かせてるようにしか思えないわね。だから言ってあげるわ。あんたが負けたらそれはナリタタイシンというウマ娘が弱いから。勝ったとしても小さいウマ娘が勝ったんじゃなくてナリタタイシンが勝ったってだけ」
当たり前のことを言ってるだけなのにポカンとした顔をされてしまった。体が小さいくらいでレースを諦めないといけないのならあのバカがいる私達の世代なんて誰も残らなかったわよ。
「意固地になる前にちゃんと話を聞いてあげなさいな。トレーナーなんて生き物はねレースとウマ娘に魅せられたバカばっかりなんだから無意味な慰めなんてするわけないし、それにハヤヒデもわざわざライバルになるかもしれないあんたを気にかけてるんだから。恵まれてるって理解したほうが良いわよ。私なんて同世代のあのバカがいるせいでめちゃくちゃよ」
「ふふ、なにそれ」
もしかしなくても初めて見た笑う顔はさっきまでの不機嫌そうな顔よりよっぽどマシなもんね。あーあ、結局こんな役割ばっかり。そろそろ学園か生徒会に相談料請求してもバチは当たらないと思うんだけど。
「ねえ、私……。勝てるのかな」
「んなの知らないわよ。それこそあんたのトレーナーと話しなさいよ」
「そうね、そうする。……私がG1勝ったらなんかお祝いしてくれる?」
「生意気言ってんじゃないわよ。ま、三冠のどれかでも勝てたら考えてあげるわ」
「約束だからね。じゃあ」
笑いながら出ていったタイシンだけど、少しは前向きになったのかしらね。取り敢えずハヤヒデに顛末と貸し一つねと連絡しておく。時間をおかずにお礼と出来ることなら何でもするというメッセージが返ってきたし今回の報酬ということにしておきましょう。しかしあれね。追い込みのウマ娘って癖ウマ娘しか居ないのかしら? 私は追い込みメインじゃないし、まともで良かったわ。
次の日、ひたすらにやかましいウイニングチケットを引き剥がすだけで借りを返したことにしようとしたハヤヒデに髪の毛をボッサボサにするバツで勘弁してあげた私って優しすぎるんじゃない?
「おはようございます! 私キタサンブラックっていいます! 私を弟子にしてください!」
私の優雅な昼食の時間はまた来訪者に台無しにされてしまった。最近このパターン多くない?
「なんだ? また若いウマ娘引っ掛けてるのか?」
呼んでもないのに勝手に座ってきたシリウスのスネを強めに蹴って、横に立つキタサンブラック? の方を見る。私の方をキラキラした目で見ているけど何こいつ? そもそも弟子ってなによ。走りのことなら他のやつにしなさい。そう言ったら
「いえ、人助けの師匠になって欲しいんです!」
なにそれ。もっと意味がわからないんだけど。聞けばお助けキタちゃんとか名乗って人助けを趣味にしてるらしい。で、生徒会にどうすればもっと多くの人の助けになれるか聞きに行ったら私のことを紹介されたと。しかも諸悪の根源はあのバカときた。あまりにもあんまり過ぎて頭が痛くなる。目の前で腹抱えて爆笑しているシリウスもイライラに拍車をかける。
「じゃあテストね。目の前で笑ってるあのウマ娘に困ってるの。どっかに捨ててきてくんない?」
「おいおい、私はあんたが滑稽過ぎて笑ってるだけだぜ? 私をどうにかする前に自分の立ちふるまいを見直したほうがいいんじゃないか?」
「え、ええっとお……」
笑うシリウス、頭を抱える私、困惑してオロオロするキタサンブラック。食堂の真ん中で注目を集めていることに頭痛が加速した気がするわ……
「で、それからも後ろ付いてきて困ってんの。どうにかなんない?」
「身から出た錆やろ。諦めや」
「可愛い後輩ができて良かったじゃない」
「あー、なんだ? 頑張れ?」
タマとアドマイヤベガは笑ってるしほんと可愛くない。シャカールはほんと見た目の割にいい子ね。
顔合わせから時間が経ったけど未だにキタサンブラックがしつこくて困ってるから後輩たちを呼んで相談したってのに役に立たないわね。いつもの生意気な後輩だったら適当に蹴飛ばして終わりでいいんだけど、キラキラして目で一挙手一投足を観察されるのはストレスだ。
「そもそもこのメンバーなんなん? そりゃ先輩とは面識あるやろけどうちらはそんな関わりないで?」
「追い込み癖ウマ娘の会。でその中でもあんたらは面倒見が良い組。タマはオグリ、シャカールはファイン。でアドマイヤベガは歌劇バカの担当でしょ」
タイシンは馴れ合いは嫌いだとか言って来ないし、最近無敗で三冠を取った後輩は周りからあそこに行くと癖ウマ娘になるとか言われたらしいのは心の中にしまっておこう。しっかし、事実を言っただけなのに異口同音で反論されてしまう。なんだかんだ言いながらそれぞれ面倒見てるんだからツンデレ? ってやつでしょ。なら私にも手助けしなさい。
「ねえ、タマモ先輩。あれ鏡見ろって言ってあげたほうがいいのかしら?」
「あかんで、アヤベ。あんな見え見えのボケに突っ込んでたらキリないで」
なんか後輩共がこそこそしてるけど何いってんだか。
「しっかし、オレが思ってたイメージとぜんぜん違うよな。もっと怖い、情け容赦ないと思ってたわ」
「シャカール最初めっちゃビビってたわね。こんな優しい先輩捕まえて何いってんだか」
「おいおい……。宝塚事件とかライスシャワーの菊春天事件とか、理事長代理襲撃事件とかいくらでも出てくるぞ」
いやねえ、それ全部結果的にそうなっただけで私は被害者よ。まるで人があっちこっちに喧嘩売ってる乱暴者みたいに言うじゃないの。タマとアドマイヤベガが白い目で見てくるけどわけがわからないわね。
「そいえば、タマモ先輩も癖ウマ娘なの? 話してる感じ優しい先輩にしか見えないのだけれど」
あー、そりゃそうかもね。最近のタマは丸くなってるし。オグリとかの世話焼いてること多いし、そう見えるのかもね。
「タマこそ気性難の極みみたいなもんだったわよ。オグリとバチバチにやってる頃なんて触れれば切れるどころか、飛んできて切るぐらいのヤバさだったわよ」
何しろ、レースで普通に追い抜くだけであのスーパークリークが泣いたぐらいだからね。威嚇したわけでもないのに単純に迫力だけであれ泣かすのは相当よ?
シャカールもアドマイヤベガも信じられないような顔でタマのこと見てるけど今のタマしか知らなかったらそうもなるわよね。随分と丸くなったもの。ああでも、丸くなっちゃったのは私もか。
「そんな話はやめやめ! もっと他におもろい話ないんか?」
「そう言えば、先輩を巡って三角関係があるって聞いたけど、あれホントなの? 会長とシリウス先輩が取り合ってるって」
はあ?
「オレが聞いたのはシリウス先輩とシチーのやつだな。なあ先輩。どっちが本当なんだよ」
なに考えてんのこの色ボケ共が。何をどう見聞きしたらそんな話が出てくるのか。え? シリウスが否定せずにいるから広がってる? あのバカは……。もうなんか怒る気にもならないわね。
「まあまあ、ウチも火消し手伝ったるから。で、先輩どんなウマ娘が好みなん?」
ちょっとでも感心した私の真心を返しなさい。あんたまで色ボケ側に行ったら収拾つかないでしょうが。それに好みねえ?
「顔がいいウマ娘ね」
正直に答えてあげたらシラけた目で返されてしまった。なによ。内面もわからない仮定だらけの話ならそれぐらいしかないでしょうに。
「ああなるほど。ウマ娘ならみんな大好きだと。博愛主義な先輩だこと」
「アドマイヤベガ、あんたそろそろ調子に乗りすぎじゃない?」
結局私の相談なんてどこに行ったのか。意味のないおしゃべりで今日も時間が過ぎていく。
「先輩! 今日もよろしくお願いします!」
「よろしくお願いしますね」
ああ、また来やがった。キタサンブラックはあれからも何回言ってもまとわりついてくる。しかも今日はもう一人おまけがいる。なんだっけサトイモダイヤモンド? ああ、サトノダイヤモンドだったっけ。最近はこの二人がちょろちょろ付いてきて嫌になる。ああもういい加減真面目に突き放す頃かもね。
「ねえ、キタサンブラック。あんたはなんで他人の手助けなんてしたいの?」
「それはですね! 私の……」
「あんた、手助けなんて言って、自分の後ろめたさを誤魔化してるんじゃないの?」
「え……」
「ここに来るような連中なら他人の事を気にしてる余裕なんてない。少しでも結果を残すために死にものぐるいでトレーニングをするしかない。そんなトレセン学園で他人のためになんて信じられるわけないじゃない。なら、見たくないものから目をそむけるための方便なんて方が信じられるわよ」
「キタちゃんは……!」
「外野は黙ってなさい」
まあ、この学園のトップが他人のために、なんてお題目を掲げていたバカだから勘違いしてるのかもね。昔のバカならともかく今のあいつは大分と自分本位になっている。そもそもそれだってあそこまでの飛び抜けた強さの上に成立する話だ。なんの結果も出していない新入生がまねするものではない。
「え……、いやでも。私、レースで結果出せてないから……。そんなこと……!」
あーあ、走ってどっか行っちゃった。大方無意識に抑え込んでいた所を踏んでしまった感じね。この魔境で生きていくのなら他人のことなんて考えてるような余裕ないでしょうに。
そんな当たり前のことを考えていたら顔に衝撃が走る。動かされた反対側を見ればサトノダイヤモンドが私の頬を叩いたようだ。
へえ……? いい根性してるじゃない。
「今すぐキタちゃんに謝ってください! キタちゃんは……!」
「今喧嘩を売ったのはお前だ。あんまり舐めんじゃないぞ」
無駄にぴーちくぱーちくやかましい口を黙らせる。胸ぐらを掴もうとすれば隣から伸びてきた腕に止められる。
「そこまでだ。今の君は冷静ではない。少し頭を冷やすべきだ」
「あ? あんたがそもそもの原因でしょうが。やるってんならあんたもまとめてよ」
バカが真面目な顔で間に割り込んできた。イラつきが重なってささくれ立つのが分かる。ああ、最近色々とおとなしくしすぎたようね。私が面倒見のいい先輩だなんて勘違いさせちゃったのね。
「エアグルーヴ! サトノダイヤモンドと共にキタサンブラックを探しに行ってくれ。君はこっちだ」
どこから現れたのかエアグルーヴがサトノダイヤモンドを連れて行く。追いかけてやろうかと思ったけど、いつの間にか腕だけじゃなくて肩まで掴まれて動くに動けない。そのまま半ば引きずられるように連れて行かれたのは屋上だった。
「随分と荒れていたようだが、素直に付いてきてくれて助かるよ」
「ミシミシ鳴るぐらいに掴んでおいてよく言うわね。今機嫌悪いの。どうなるかわかんないわよ」
かと言ってこいつに八つ当たりするのも据わりが悪い。元々の原因はこいつであったとしてもふざけていたのはキタサンブラックだし、手を出したのはサトノダイヤモンドだ。無論私は悪くないという気はないが、それでもだ。
立ち去ろうとするとまた肩を掴んでくるし、どうしようもないしフェンスにもたれかかる。すぐ横にバカも並んでくるけど今さら蹴飛ばす気にもなれない。
「すまない。私の考えが甘かったせいで君を、あの二人を傷つけてしまった」
「あんたが浅慮なのなんて最初からでしょ。それにあの二人はともかく私まで傷つけた? お優しいこって」
「ああ。君の優しさに、器の大きさに甘えていた。君もまたレースを走るウマ娘だというのに、相談先として安易に考えてしまっていた。これもすべて私の至らなさのせいだ、本当にすまない」
こっちを見て深々と頭を下げるバカのせいで怒りまでどこかに行ってしまいそうだ。こいつも悪いのは当然だけど、今回に関しては流石に私も大人気なかったかもしれない。
「ああもう、頭をあげなさい。もういいわよ。イライラしてたのよ」
「……レースのことか?」
「はっ、相変わらず無神経ね。あんたじゃなかったらグーでいってるわよ」
強く追い込めないこの脚はゆっくりと、でも確実に衰えていた。既に今の私ではG1どころか重賞すら勝てるかどうか。それどころか重賞を走るためのオープン戦すら怪しいものだ。そんな所にあんなキラキラと希望に満ちた目で追いかけられたんだ。余裕もなくなるわよ。あーあ、私にもあんな純粋に希望に満ち溢れていた頃もあったっていうのにね。
「ふふ、君にそんな頃があったのか?」
「あんたのせいよ」
ほんと、こいつのせいで私の学園生活は無茶苦茶だ。ため息を吐いていると真面目な顔でバカが問いかけてくる。
「それでも君は、走り続けるんだな。たとえ勝利が遠いものであったとしても」
「なに言ってんのよ。勝てないぐらいでやめるならシニアに上る前にいなくなってるわよ」
もはや私達の世代もレースに残っているのは数えるほどだ。それでも私は走り続ける。もう決めたんだから。
それからお互いなにも話さずになんとも言えない空気の中空を見上げていたらエアグルーヴがさっきの二人を連れてやってきた。バカの下にいるだけあって空気読めないわね。一瞥した後また空を見上げていたら、やかましい足音が近づいてくる。見たくもないけどそっちを見れば
「あ、あの! 私誰かを助けることはやめません! 確かに私はレースで良い所がなくて……、それは本当です。でも! 私はお父さんみたいに誰かに勇気を与えられるようなウマ娘になりたいんです! だから……!」
「さっきは悪かったわね。虫の居所が悪かったの。それにしたって情けないけどね」
「え……?」
なによその情けない声は。私が素直に謝るのがそんなにおかしい? エアグルーヴに聞けばあの後落ち込んでるキタサンブラックにテイオーが声をかけていたらしい。それで自分の原点を思い出したそうで。若いってすごいわね。それにあのチビガキも後輩に前を向かせられる程度には成長してのね。時間も経つはずだわ。
「あ、あの……」
黄昏れていたら、もう一人声をかけてきた。サトノダイヤモンドもビクビクした様子で謝ってきた。ああもう、後輩に先に謝らせるなんてほんと情けないわね……。
それから、私からも改めて二人に謝罪して、後腐れなく終わったと思いたい。もうつきまとうんじゃないとだけ言っておいたけど、あの顔は分かってるのかしら。
しっかし、私も色々考えないといけない時間なのかもしれないわね……
出して欲しいウマ娘書いてもらえると頑張るかもしれない