皇帝の見えない折れた杖   作:冬眠復帰

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書かないといけないものが書けない症候群

交換チケどうしようかなと、実は持ってないシチーかブルボン。ストライクになりそうなカフェやウンス。
うーん、交換チケット50枚ぐらい欲しい


いつだって急に

「ぶえー、暇だよー」

 

「もおー、テイオーちゃんそれ何回目? 新年度の初日からテンション低すぎだよー」

 

 マヤノはそう言うけどさ、だってやることないんだもん。当面レースの予定もないし、会長もどっか行ってるしさー。しかも課題ばっかり多くてやんなっちゃう。まあ? このワガハイにかかれば課題なんて一瞬だけどさ、やる気が上がんないんだよ。

 トレセン学園に春休みなんてものはなく、G1も増えてくるこの時期は授業も普通にある。この昼休みがせめてもの癒やしだけどさ、なんか面白いことないのかなあ?

 

「もー、そういうとこテイオーちゃんのダメなとこだよ? ……あ、ほらあっち。テイオーちゃんの大好きな先輩が来たよ」

 

 え? 今日は会長いないはずなのに……、ってコバンとクラスメイトじゃん。なんでボクがコバンのこと好きだなんていうのさ。ボク、コバンのことだいっきらいなんだから。

 

「そうなんだ、よくちょっかいかけに行って追い返されてると思うんだけどな」

 

「そうだよ! コバンのやついつも鼻とかほっぺたとかつねってくるし! ……それに最近全然レース走ってくれないし……」

 

「……マヤ分かっちゃった。一緒に走れなくて寂しいんだ」

 

 違う! って言いたいけど言い切れないのが悔しい。前にレースでギッタギタのボッコボコにしてやるって言ったのに全然ボクが走れるようなレースに出てきてくれない。ボクがオープン戦とか走れば良いのかもしんないけどどれに走るかも教えてくれないしさー。ボクとの約束忘れてんじゃないの?

 ボクの顔をみてニコニコしてるマヤノがなんか悔しくてそっぽ向いてやる。そんなことしてたらコバンの話し声が聞こえてきた。ニシシ、ちょうど向こうからは見えない席に座ってるし、変なこと言ってたらまたウマッターにあげてやるんだ!

 

「私、もう走るのやめようと思うの」

 

 え……? コバンの口から絶対に出ないような話が聞こえてきた。食堂のざわめきも急に無くなって嫌になる静けさが広がっている。

 

 

「そう……。コバンもなのね」

 

 同席してるコバンの同級生も驚くってより納得したように返事してる。え、ほんとに走るのやめちゃうの?

 

「ええ、いくら走っても追いつけない。大差ないとは言え少し前までクラシックで走っていた後輩にも勝てない始末。私なにやってんだろうって考えちゃってね。も、ってことはそっちも?」

 

「うん、もう私達どれだけ走ったんだろうね。負けても勝てなくても心を燃やして走ってきた。だけどもうガソリンが無くなっちゃたのかもしれない」

 

 コバンも返事する声もいつもの感じがない。寂しいけど納得しているみたいな、そんな感じだ。マヤノも驚きのせいか目をパチクリさせている。

 

「そうね、もう潮時かもしれないわね。いつまでも過去の栄光にしがみついてもどうにもならないしね」

 

「ふふ、コバンは良いじゃん。G1勝ってんだから。私なんてG2がやっとだよ?」

 

「私なんて重賞入着がやっとなんだぞー!」

 

 ふざけあって笑っているのに、楽しそうじゃない。なんなの? あんなのボクの知ってるコバンじゃない。

 

「思えば色々やらかしてきたわね。反省文も草むしりも歴代一位じゃないの?」

 

「半分はあんたとルドルフじゃない。あーでもいろいろ有ったよね。感謝祭とか楽しかったよね。あの執事喫茶」

 

「ああ、何故か私だけメイド服着せられた悪夢のこと? 大変だったんだからね」

 

「あったねー、ルドルフがコバンをからかいまくって本気でアイアンクロー食らって半泣きだったね」

 

「なんでそんなことばっかり覚えてるのよ」

 

「後、栗東寮謎の鍋部屋とかね」

 

 楽しそうに思い出話を続けているけど、なんかこう、胸が締め付けられるような気がする。なんなんだろう、こんな気持ち初めてだ。

 

「ねえ、最後に学園抜け出して遊びに行かない? 最後ぐらい楽しい思い出で終わりたいじゃない」

 

「良いかもね。学園の思い出が負け続けたつらいやつで終わるのも嫌だもんね」

 

 すすり泣く声が聞こえてくると思ったら隣の席で泣いている子がいる。ああ、確かあそこに居る先輩と同じチームで色々教えてもらってるって言ってた子だ。

 

「でも良いの? 今日ルドルフいないよ?」

 

「ふん、あいつには関係ない話よ。それにあいつが乗るわけないでしょ」

 

「そうだね、だけど新年度一発目にする話題でもないんじゃない?」

 

「3月は卒業のシーズンでしょうが。それにズルズルここまで来ちゃった私達には遅刻するぐらいが似合いでしょ」

 

 そっか。会長だけはまだG1でも勝ってるもんね。

 

「さあ、話も決まったし行きましょうか。他の連中は?」

 

「さっきメッセ送ったけどみんな来るって」

 

「そ、じゃあ思い出づくりにでも行きましょうか」

 

 コバンがそう締めて、行っちゃった。出ていった後一気に騒がしくなる。

 

「どうしようテイオーちゃん! まずいよ!」

 

「い、いや、でもコバンたちも長いんだし仕方ないと思うけど……」

 

 あの世代は少なくなっているけどそれでも前後の世代に比べて飛び抜けて残っている人数が多い。だけど、それでも長く、本当に長く走っていたんだ。だから節目に走るのをやめたとしても……。

 

「そうじゃないの! あの世代の先輩たちを見て諦めるのをやめたって子をマヤいっぱい知ってるの。だからもし、コバンさん達が全員一度にやめちゃったら……」

 

 ……あ! そうだ、ボクのクラスにもあの世代のウマ娘に色々教わってる子も多いし、相談に乗ってもらったって話も聞いたことがある。もし、みんな後追いするようなことになったら……。

 

「どうしよー! ヤバイよ!」

 

「そうだよ! 良くないことになっちゃうってマヤ分かっちゃったもん!」

 

 今、周りを見渡すだけでも不味そうなウマ娘がそれなりにいる。コバンのバカ! どうしろっていうのさ! もー! こんな時に限って会長はなんでいないのさ!

 

「マヤノ、まずはみんなに知らせなきゃ! 行くよ!」

 

「うん!」

 

 絶対、ぜぇったぁい! ボクと走らないままやめるなんて許さないんだから!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやはや、思った以上に時間がかかってしまったな。トレーナー君もコバンのトレーナー殿もこんな時間まですまない」

 

「いやいや、そもそも大人の話に巻き込まれてるルドルフがお疲れ様だよ」

 

「そうそう、それにオレはバカな担当のせいでURAに謝罪行脚を何度もやってるし、その時できた人脈が活かせてよかったよ」

 

 はは、彼女のトレーナーであれば気苦労も多いだろう。……ちょっと待てトレーナー君、なにをそんな同感だみたいな顔でうなずいているんだ。私が迷惑をかけたことがあっただろうか。あるのか……。

 それからトレーナー二人の愚痴を聞きながら学園へと戻る。時間も中途半端になってしまったし、駅から散歩がてら歩こうとなっているし、丁度いい時間つぶしかもしれない。しかし、二人共その辺りにしてくれないだろうか。そろそろ私も自責の念で辛くなってきたんだが。

 どんどん居心地が悪くなってくる頃、近くの公園に学園の制服を来た集団が目に入った。まだ授業がある時間じゃないのか? もし抜け出して遊んでいるのなら注意しなければいけない。トレーナー君たちも気がついたようで三人でそちらへ向かえば、そこにいたのは見知った顔、どころか私のクラスの全員がいるじゃないか。年長者としてあるまじき行為には厳しく対応しないといけないな。

 

「おい、君たちは何をしているんだ」

 

 向こうは話すことに集中していたいみたいで声をかけるまで気づかなかったようだ。近づいてみてみれば全員ドリンクや、ゲームセンターで取ったのかぬいぐるみのようなものを持っている。これはいよいよアウトだな。

 

「あら、我らが皇帝様じゃない。こんな時間に出歩くなんて不良にでもなったの?」

 

「私は生徒会の用事で外出していたんだ。それより君たちこそこんな時間に無断外出か? 罰則は覚悟出来ているんだろうな」

 

 甘くならないように厳しく言いつける。ここにいる彼女たちの前では気がつけばおもちゃにされることも多いが締めるところは締めなければ。弁解でもするのだろうか、代表して、コバンが出てきた。さて、どんな言い訳をしてくれるのか。

 

「最後の思い出づくりよ。最後ぐらい友人と笑って楽しい思い出で終わりたいじゃない。負けっぱなしのつらい思いだけ持って学園を去るのは嫌だったのよ」

 

 後ろでトレーナー君達が息を飲む声が聞こえる。

 

「どういう意味だ?」

 

「そのままの意味よ。私達は決めたの。もう走れない、走らないって。だから最後ぐらいレースを走るウマ娘じゃなくて、学生としての思い出が欲しかったの」

 

 その表情は寂しくても晴れ晴れとしていた。もう本当に心残りはないというように。コバンだけではなく後ろにいる皆も同様の表情だ。ああ、そうか。であれば。

 

「言い訳はそれで終わりか? なら帰ったら覚悟しておくと良い。反省文とトイレ掃除は覚悟しておくんだな」

 

「おいルドルフ! いくらなんでもそれは!」

 

 おっと、トレーナー君に肩を掴まれてたたらを踏んでしまった。どうしたんだそんな顔して。サボって遊び呆けていた者たちにバツを与えるのは当然だろう?

 

「言い方があるだろう! 彼女たちの辛さを考えられないのか!」

 

 ……ああ、そういうことか。

 

「トレーナー君は信じてしまったわけだ。こんなもの嘘に決まっているだろう」

 

「え?」

 

 トレーナー君もずっと黙っていたコバンのトレーナーも信じられないという顔だ。だが見たまえ、

 

「あーもう、コバンの演技が下手だからすぐバレちゃったじゃない」

 

「やーい、大根役者ー」

 

「うっさいわね、私の完璧な演技見てなかったの?」

 

 彼女たちを見れば分かるだろう。しかし、ちゃんと口に出したほうが良いだろうな。

 

「今日の日付を思い出して欲しい。今日は4月の1日。エイプリルフールだ」

 

 トレーナー二人の悲鳴にも似た叫びが夕方の公園に響いていた。

 

 

「ねえねえルドルフ、なんで分かったの? コバンの演技結構頑張ってたと思うよ?」

 

「簡単なことだ。今さら負けが続いた程度でやめるのならここまで残っていないだろう。なんて言ったって私がいるんだからな!」

 

 負けた程度で学園を去るようなウマ娘であるならば私と走ったクラスメイトは誰も残っていないだろう。

 

「生意気ね……、やっておしまい!」

 

 コバンの号令でクラスメイト一同にもみくちゃにされる、やめ、やめてく……、おい! 今スカート脱がそうとしたのは誰だ!!

 

「こんなところで何を考えているんだ!」

 

「ちぇールドルフのパンツ見れると思ったのに」

 

「どうせ、ライオンのプリントがしてあるような子供向けのやつでしょう」

 

「な! よく見ろ! 私が履いているのはだな……!」

 

「やめろルドルフ! こんなところで脱ごうとするな!」

 

 それから全員揃って正座させられてお説教をされてしまった。私は被害者だぞ……?

 

 

「なあ、すこし良いか?」

 

 やっと正座から開放された頃深刻な顔をしたコバンのトレーナーから声がかけられる。

 

「もしかして最初のやめるみたいな茶番学園内ではやってないだろうな」

 

「やったわよ。食堂でこいつら驚かせようとしたら乗ってくるもんだから楽しくなって割と長くやっちゃった」

 

 コバンの回答に頭を抱えてしゃがみこんでしまう。どうしたんだ? あんな安っぽい茶番誰が見ても嘘だと分かるだろうに。実際我がクラスメイト全員打ち合わせもなく同調したんだから。

 

「あのなあ、みんながみんなお前らみたいに覚悟ガンギマリだと思うなよ? それに全員自分たちの影響力ってのを自覚したほうが良い。俺たちは知らんからな」

 

 ふむ? なんのことだろうか。まあいい。全員そろそろ学園に戻るぞ! 返ってきたのはうぇーい、と気の抜けた返事だけだった。

 

 

 

 

「いい? 神妙な、だけど晴れ晴れした顔で帰るのよ。少しの間レースを離れて遊んだおかげでまた走る気力が湧いてきたって雰囲気を出すのよ」

 

「私が聞いてるとこでそんな話をするのか……」

 

「人の心がわからない、で有名なあんたのことなんて誰も信じないでしょ」

 

 な、そんな事言われているのか!? これは一度じっくり調べないといけないな……。ん? あれはテイオーじゃないか。キョロキョロしているが誰かを探しているのか?

 

「……あ! コバン、帰ってきた!」

 

 こちらを見ると叫びながら学園の方に走っていった。君、またなにかしたのか?

 

「私がチビガキ相手にするわけないでしょ。ったく、相変わらず騒々しいわね」

 

 首をかしげるコバンと一緒に学園に入ればそこには

 

「え?」

 

 普通ではない人数のウマ娘がいた。学年もバラバラで人数がとにかく多い。こっちに向かってくるのは……シリウスか?

 

「おい! あんた学園をやめるってのは本当なのか!?」

 

「へぇ?」

 

 鬼気迫るような顔でコバンの胸ぐらを掴んでいる。その後ろからゴールドシチーにタマモクロス、アドマイヤベガやライスシャワー。コバンと関係が深かったウマ娘を筆頭に他のクラスメイトのところにもそれぞれが面倒を見ている後輩たちが詰め寄っている。

 

「あんたは! あんたは……、私達が何も返せてないのに勝手に出ていくって言うのか?」

 

「先輩! 嘘ですよね?」

 

 なんだこれは? どうなっているんだ? あ、テイオー何があったか教えてくれないか?

 

「うん……。ボク達ね、食堂でコバン達の話聞いてみんなにも教えなきゃって思って。そしたらどんどん話が広がっていって……」

 

 ……ああ、さっき言われた影響力とはこのことか。コバンもどうやら理解したようだな。冷や汗が見えるぞ?

 しかしシリウスがあそこまで取り乱すとはな。仕方ない、助け舟を出してやるか。

 

「シリウス。コバンたちがやめるなど嘘っぱちだ。彼女たちがたかだか負けた程度で……」

 

「ルドルフ! お前がそこまで薄情なやつだとは思わなかった……!」

 

 え? どうして私が怒られているんだ? あ、こちらに近づいてきて、振りかぶって……

 

「やめなさいシリウス。こいつを殴っても何も話は変わらないわ」

 

 今まさに私を殴ろうとしていたシリウスの右手はコバンに止められた。……色々おかしくないか?

 

「ねえ、私のために怒ってくれてありがとう。嬉しいわ」

 

「おい……、なんでそんなこと言うんだよ、あんたらしくないぞ?」

 

「最後だと思うとね? あんたはいっつも生意気だったけど、誰よりも優しいって私は知ってるから」

 

 あ、コバンがシリウスを抱きしめた。私を何を見せられているんだ? ポンと肩をたたかれ、振り返ればトレーナー君たちが諦めろと視線で訴えてくる。

 

「そうですよ! こんな終わり方なんて……!」

 

「せやせや、ちょっと薄情がすぎるんとちゃう?」

 

 ゴールドシチーにタマモクロスも、そうだろうな、こんな終わり方なんて予想してないだろう。なぜなら嘘なんだから。

 

「ふふ、あんたたちまで、何情けない顔してんの。あんたたちはもう先輩なのよ?」

 

 なあコバン、台本用意してたわけじゃないよな? なんで予想外の出来事でそんな余裕を見せられるんだ? 多分今必死に頭回していきあたりばったりで話してるんだよな? 

 

「よくぞ戻ってきた! そして話を聞かせて欲しい!」

 

 理事長とたづなさんまで来ているのか。あ、コバンのあの顔相当追い詰められてるな。他のクラスメイトは各々で後輩をなだめながらコバンに場の流れを任せているな。まあ、コバンが一番得意ではあるだろうが。

 

「私たちの不用意な発言でこんなことになってしまい申し訳ありません」

 

「否! これは君たちが積み上げてきたものであり、誇るべきものだ! そして君たちが学園を去るのは寂しいが、私は諸君らの意思を尊重しよう!」

 

 おいおい、どうするんだ? いよいよもって引っ込みがつかないぞ? 後トレーナー君たち、もう楽しむモードに入ってないか?

 

「本来であれば行えないが、諸君らが学園を去るというのなら卒業式……いや、引退式を行わせて欲しい!」

 

「しかし……、それは優秀な成績を修めたウマ娘だけ行われるものでは? 自分で言うのも恥ずかしいですが私達はそこまでの成績とは」

 

 平然とした顔をしているが、シリウスの頭を撫でている手が震えているのは見えているぞ?

 

「確かに! しかし、君たちはトレセン学園に、トゥインクルシリーズに、この学園すべてのウマ娘に比類なき貢献をしてくれた! そんな君たちを何もなく送り出すというの私個人としても、学園の理事長としても看過できない!」

 

 確かに彼女たちの意地に救われたウマ娘も多い。私もその一人だ。彼女たちの結果に残らない奮闘が報われるのは素晴らしいことだ。それが真実なのであればだが。

 

「過分なご配慮ありがとうございます。ですが、それは不要です」

 

「なにもなく学園を去ると?」

 

「いえ、恥ずかしがらもう一度走ろうと思いまして。一度これが最後だとどこにでもいる子供のように遊んでみたのですが、なにをしてもレースが忘れられず、そしてここにいるこの子たちの顔を見て、ああこんな終わり方は出来ないなと。終わるのならば走って走って、走りきってからじゃないとだめなんだと教えられました。ここまでお騒がせした上で恥の上塗りになりますが、もう一度私達をレースで走らせてもらえないでしょうか」

 

 そう言って頭を下げる。後ろにいる者たちも同じようにだ。……舞台裏を知っている私でも胸に来るものが有ったぞ? 君走るのをやめても役者として生きていけると思うぞ。頼むから詐欺師にはならないでくれよ?

 コバンの決意の、に見えるであろう復帰願いに歓声が上がる。あーあ、シリウスも涙ぐんでないか? どうするんだこの空気、流石にこの場でトイレ掃除なんて言えるほど度胸はないぞ?

 

 

「はーい、注目ー」

 

 後ろの方から間の抜けたような声がかかる。コバンのトレーナーだ。

 

「そろそろネタバラシしないとこのまま終わりそうだったんでね。感動のフィナーレの最中に申し訳ないけど、やめるってのそもそもこのバカたちの嘘だぞ」

 

 空気が凍る音が聞こえたな。しかし、さっきの私とリアクションが違うのは納得がいかないぞ。コバンの胸に抱かれているシリウスが震えだした。ふむ、顔も赤くなっているな。

 

「なあおい、あんたのトレーナーの言ってることは本当か?」

 

「トレーナーも気を利かせてくれてるのよ。今のままだと私恥ずかしいじゃない? ふふ、でもシリウスの本音が聞けて嬉しかったわよ」

 

 それが地雷なのは私でも分かるぞ。そうとう焦ってるな。

 

「ふふ……、なあ知ってるか? あんた自分が悪いと自覚した上でごまかそうとする時いつも雰囲気でごまかそうとするんだよ。なあおい、こっち見ろ」

 

「……ごめんね?」

 

 プツンと何かが切れる音がしたな。シリウスに何もなければいいのだがな。

 

「お前ら全員! そこに正座だあ!!!」

 

 ふふ、たまに一度こってり怒られるがいいさ。少しは懲りるだろう。

 

「なに他人事みたいな顔してんだ? お前もだ、ルドルフ」

 

「なあ、私は関係ないぞ!」

 

「ここまで黙ってたんなら同罪だ!!」

 

 それは君が止めたんだろうが! 

 それでも私の正当な意見も認められず、全員日が変わるまでこってりと後輩に絞られてしまった。理事長が

 

「うむ! 何事もなかったようで安心だ!」

 

 と笑って戻っていかれたが、どうすればあそこまで寛大になれるのだろうか。

 

「おい! よそ見をするな!」

 

 くぅ……。今回は完全に私は被害者なんだぞ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー面倒くさい。なんで私がこんなことしないといけないのよ」

 

 美浦寮のキッチンでどう考えても多すぎる材料を調理していきながら一人愚痴る。

 

「おはようさん、先輩も大変だねえ。これ何人分なんだい?」

 

「30超えた段階で数えるのはやめたわ。おはようヒシアマ」

 

 なんで日も昇らない時間からバカみたいな人数の弁当を作らされているのか。あの騒動の後、シリウスを筆頭に説教だけでは気がすまなかったようで私には一週間全員分の昼の弁当を作ることが言い渡された。いつもならそんなの無視するけど、今回ばかりはねえ。大人数の、それも現役のウマ娘の弁当なんてどう考えても一人でやる量じゃないけど、アシスタントを用意することもダメときた。罰ではあるんだろうけどひどすぎると思うんだけど。しかもそんな時に限って栗東のキッチンがメンテナンスで使えなくて朝から美浦に来てるわけだけど。

 

「アタシもツインターボがレースに行くからって弁当をねだってきたから作ってあげようと思ったんだけど、流石に場所がなさそうだね」

 

「良いわよ、一緒に作ってあげるから、弁当箱用意しておきなさい。それと、メニューはなに?」

 

「そりゃ助かる……、てメニューって違うのをつくるつもりかい?」

 

「今さらよ、弁当箱突き出してきたバカどもバラバラな献立を言ってくるもんだからあんまり変わんないわよ」

 

 肉が食いたいだの、和食だの、サンドイッチだの、関西風のだし巻きだの少しは遠慮ってもんを知りなさいっての。マックイーンなんてホールケーキとか言い出すし、流石に調子乗り過ぎでしょ。まあ一回だけ作ってあげたけど。なんでも良いって言ってくれた子たちにはご褒美にデザートでも付けてあげましょ。

 

「いやいや、アタシもつくるときがあるけど、この量で献立バラバラって……。ちなみにブライアンはどんなメニューなんだい? いつも肉しか言わないから大変なんだ」

 

「豆腐ハンバーグに、ピーマンの肉詰めの肉抜き。キャベツのステーキに豆ごはんね」

 

「あははは。そりゃいい! だけど、文句言ってくるんじゃないかい?」

 

「ハヤヒデ経由であの子たちの親から野菜を山程渡されてね、食べさせてほしいんだと。一日で泣きついてきたからおまけでハンバーガーまで作らされる始末よ」

 

 ほんと、あの末っ子気質は。怒鳴り込んでくる割には最後はしょんぼりした顔で見てくるんだから。ハンバーガーを作ってやるって言ったらすごい笑顔になるし、ほんとたちが悪い。

 

「しかし、すごい手際だね、もう大体できてるじゃないか。先輩にできないことなんてないんじゃないのかい?」

 

「そりゃ弁当箱のサイズも分かってるし、昨日から下ごしらえはしてたからね。掃除洗濯料理に裁縫。大体の事は出来るわよ。出来ないのはレースで勝つことぐらいかしら」

 

 自分で言っててなんだけど、私すごくない? 軽いジョークのつもりだったのにヒシアマったら青い顔しちゃって、どうしたのよ。

 

「……その冗談は笑えないよ」

 

「このくらい笑い飛ばせないとやってけないわよ?」

 

「そのせいでこんなことしてるんだろうに。……ねえ先輩。勝てなくなるってのはやっぱりつらいのかい?」

 

「なに、負けがわからないって嫌味? その手のはあのバカだけで十分よ」

 

「そうじゃない。ブライアンのやつがね、一時期勝てなくてすごくつらそうだった。今は持ち直したけどあの時は本当につらそうだったんだ。ブライアン以外にも勝てなくなって苦しんでる子を何人も見てきた、見送ってきた。アタシはさ、勝ってる時にドリームリーグに上がることが出来た。だけど先輩も、会長もずっとトゥインクルシリーズで走り続けてる。文字通り身を削って走ってるのが見てるだけでもわかるもんさ。アタシはあの子たちにどう言ってやれば良かったんだい?」

 

 ったく、この子もこの子で面倒くさい性格してるわね。まあ、わざわざ寮長なんてするぐらいだし、他人のことを思いすぎちゃってるんでしょうね。

 

「そんなもの、自分で考えなさい。それに走れなくなった子を無理やり引き止めるなんて走れるもののエゴでしかないわ。そんなことするぐらいなら次の進路を応援してあげなさい。ええと、なんで私達が走り続けるかだっけ? そんなの勝ちたいからに決まってるじゃない」

 

「そんな簡単なことなのかい? 泣きながら去っていった子たちも皆勝ちたかったはずだよ」

 

「簡単なことよ。勝ちたいって気持ちを、諦めが超えなければいくらでも走れるわ。まあでも、それを誰にでも押し付けるもんじゃないの分かってるわよね」

 

「結局……、出来ることはないってのかい?」

 

「そうよ。そもそもそう思うことがおこがましいのよ。あんたはただ見守って、心配して、手を伸ばされたら掴む。それで十分なのよ。……よし、やっと出来た」

 

 あー疲れた。ヒシアマが面倒くさい話題振ってくるから余計に疲れちゃったじゃない。ああもう、そろそろ準備しないと授業に間に合わないじゃない。

 

「寮長っても無力なもんなんだね……」

 

「あんたの年で何でも解決出来るのなら誰も苦労はしないわよ。ほら弁当持ってきなさい」

 

「ああ、ありがと……、なんで2つ?」

 

「片方はあんたの分よ。どうせだし、しゃべってたから準備出来てないでしょ」

 

「ふふ、ほんとそういうところだと思うよ。それと気になってたんだけどそのコンビニ弁当はなんなんだい?」

 

「ああこれ? バカの分よ。自分の分も作れって泣きわめいてうざいからコンビニ弁当詰め直して渡してんの」

 

 ほんと、私ってば優しすぎないかしら。ん? なにそんな大爆笑してんのよ。

 

「ふははは、いやあね、昨日生徒会室で食べてたら頭を抱えながら弁当を食べてる生徒会長がいてね、これは……、とかいやしかし……とか言ってたんだけど謎が解けたよ」

 

 あっそ、アイツのことなんてどうでもいいけど、後はさっさと包んじゃわないと昼休みまでに食堂に置いとく約束だからね。

 ヒシアマも手伝ってくれたおかげで思ったより早く終わったわね。助かったわ。お礼を言ったら、

 

「ねえ、明日はアタシに先輩の弁当を作らせておくれよ」

 

 別にいいけどお礼をする方なのはこっちじゃない? ああ別に今日の分は貸しにはしないわよ。

 

「アタシがそういう気分なのさ。それか、アタシと弁当勝負でタイマンだ! てのが良いかい?」

 

 それなら受けて立ってあげようじゃないの。

 

 

 弁当タイマンの結果は、あのバカの乱入でノーゲームに終わってしまった。ほんと、少しはみんな大人になってほしいわね。

 




主人公がやらかす話でした。

長くなりすぎるのでカットしたテイオーが学園で騒ぐ話いる?
後こっちにあげてない短編がいくつかでてきたけど書いたのが昔過ぎて読んでて辛くなるやつ

テイオーの学園でのドタバタは

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