皇帝の見えない折れた杖   作:冬眠復帰

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何もかも嫌になったので温めてたネタの一括処分


自称常識人の毎日

「あー、昼間っからいい天気ね」

 

 教師の都合で自習になった午後一の時間。模範的な優等生である私に今さら自習なんていらないし、教室にこもるのももったいなく感じるような気候ってことで教室を抜け出して人気のないベンチで日光浴だ。来るまでに用意した飲み物もあるし、このまま午後の授業まるまるサボっちゃいましょうかね。クラスでは唯一私より成績の良いあのバカは真面目に自習しているせいで抜け出すのに苦労したのだ。このまま一時間分の休憩では割に合わない。そんな事を思いながらベンチにもたれかかって目をつぶっていたら急にちょっとした重さが膝にかかってきた。なんとなく想像は付くけど嫌々目を開けてみれば

 

「……なにしてんのよシリウス。今は授業中よ。後、勝手に人の膝使ってんじゃないわよ」

 

「なに、優秀な先輩がサボってんだ。後輩としては参考にさせてもらわないとな。それに、あんたは私のものだろ?」

 

 生意気を言ってくる後輩の鼻をつねって黙らせる。にもかかわらずケラケラ笑ってるけど何が楽しいんだか。後最近シリウスの距離がやけに近い気がするのよね。まあこの子も甘えたい年頃なのかしらね。そんな事を無意識に考えてしまっている自分に吐き気がして頭痛がしてきたのにも関わらず諸悪の根源であるシリウスは楽しそうに人の膝枕を堪能している。こいつちょっとはぐれた後輩をまとめて面倒見てたり、見た目と名前のせいでヤバそうなファンが多いんだけど、この姿ネットの海に流してやりましょうか。なにかするだけで黄色い歓声が飛ぶなんて漫画の世界だけにしときなさいよ。

 

「そういえばさ、聞きたいことあるんだけど」

 

「なんだ? 先輩そんなに私のことを知りたくなったのか?」

 

 このガキは……。私がいないところではコバンって呼び捨てにしてるの知ってんだからね。

 

「あんたさあ、こっちに帰ってきた次の年の毎日王冠。あのパドックで踊ってたのなに?」

 

 最近テレビでオグリキャップ特集をやってて暇つぶしにタマと本人呼んで見てたんだけど、いきなりパドックで踊りだして周りのウマ娘にぶつかっていくこいつが映し出されていた。気になって聞いただけなんだけど、顔真っ赤にして黙っちゃったし、これはしっかり聞かないといけないわね?

 

「な、いや……。さあ? 何を言ってるのかわからないな。なんだ? 幻覚でも見るぐらいに私が恋しかったのか?」

 

「誤魔化すならもう少し上手にやりなさい。何? テンションでも上がっちゃったの? あんたも可愛いとこあるわね。周りに迷惑かけるのはいただけないけど」

 

 あーあ、トマトみたいに真っ赤になっちゃって。武士の情けだ、これぐらいにしてあげましょう。宥めるように頭を撫でてやれば恥ずかしいんでしょうね、顔を隠してしまう。だけど、そっちに転がると私のお腹に顔埋めるような状態なんだけど、私にも羞恥心ぐらいあるのよ?

 結局そのまま顔も見せないシリウスを撫でているうちに自由な時間は終わってしまった。しかし、奥の方で見え隠れしてたピンク、あれなんでしょうね。

 

 

 

 

 

 

「さあ! 行きますわよ!」

 

「はいはい、わかったから。少しは落ち着きなさい」

 

 年末の有マの疲れも少しずつ抜けてきた頃、以前の約束を守るために今日はマックイーンとお出かけとなった。学園を出る前、あの芦毛のヤバイやつと芦毛の食事がヤバすぎるやつに見つかりかけてなんとか抜け出してきたような所だ。

 

「なあ、うちもええんか?」

 

「良いじゃないですか、全部コバンさんのおごりだって言うし楽しんじゃいましょー!」

 

 おまけでカレンとタマまで付いてきている。タマはたまには餌付けしておかないと食べなさすぎて不安になるし、最近オグリ、クリーク、イナリの面倒を見て大変そうだったから丁度いい。カレンは以前にアドマイヤベガを返せだの何だの喧嘩を売ってきてから何故か絡んでくる。今回もこっちは勝手に付いてきてるのだから図々しい。

 

「はいはいドウドウ。マックイーンも悪いわね。こんなうるさいのがいて」

 

「いえ、美味しいものを食べに行くのですから。どうせなら人数が多いほうが楽しいでしょう」

 

 ほんと、いい子なんだから。この前ゴールドシップにキャメルクラッチをかけていたウマ娘とは思えない。予定より大人数になっちゃったけど、時間もあんまりないし、さっさと移動するわよ。

 

「しかし、こんな朝のはよから店開いてるんか? 高いスイーツの店なんて昼ごろから開くちゃうんか?」

 

「カレンの知ってるお店でも早くても10時ぐらいかな。あ、もしかして開店前から並ばないといけない有名店とか? やった! ウマスタにアップしちゃお!」

 

「うっさいわね、この時間から移動するのは遠いからよ。でカレン店に着いたら一切SNS禁止だから。勝手にあげたら真面目に怒るからね」

 

「えー、せっかくなんだし、皆にカワイイカレンを届けたいな?」

 

「不思議ね、私の目の前には生意気なカレンしかいないわよ。あんたは大丈夫だと思うけど、気をつけなさいよ。不用意にネットに上げると国際問題になるわよ」

 

「もー、またそんな嘘言って。……嘘だよね? なんで真顔で黙ってるの? ねえ」

 

 さ、行くわよ。うるさいカレンの声を声を無視して歩き始める。さっさとしないと帰る時日が暮れるわよ?

 

 

 

「なあ先輩? なんでうちこんな所おんの?」

 

「何って、新幹線は移動するために乗るに決まってるでしょ。あ、富士山見たかった?」

 

 東京から乗った新幹線もそろそろ名古屋を出て目的地も近づいてくる頃合いだ。席はカレンとマックイーン、私とタマでそれぞれ座っている。

 

「いやいやいやいや、今日は甘いもんご馳走してくれる言うたやん。それがなんで新幹線に乗せられてんねん!」

 

 小声で叫びながら突っ込むなんてあいも変わらず器用な子ね。仕方ないじゃない。行く店が京都なんだから。流石に泊まりにするわけにも行かないし日帰りしようとしたら新幹線しかないないじゃない。

 

「そこやないやろ! なんで甘いもん食べるのにわざわざ新幹線乗って京都まで行かなあかんねん!」

 

「そんなの私が知ってる一番いいものを食べて欲しいからに決まってるじゃない」

 

 タマもマックイーンも私がダメになってるときに助けてくれた子たちだ。二人がいなかったら今こうして笑ってることもできなかったでしょうし、恥ずかしくて言えないけど返しきれないほどの恩があるから、少しでも返せるときに返しておかないと。

 そっぽ向きながらブツブツ文句言ってるタマをなだめている間に着くでしょう。今日はうるさいバカもいないしゆっくりと行きましょう。

 

 

「はい、着いたわよ」

 

 ここに来るのも久しぶりね。宝塚勝って有であのバカと走った後家族と来たぐらいかしら。目の前にあるのは時代劇にでも出てきそうな日本家屋。ここに来るまでもいかにもな門と五分は歩いた木々に囲まれた道。いやはや、観光客もいなくて静かなのは良いんだけど、ちょっと面倒くさいわね。

 

「まあ、ここでしたのね!」

 

 マックイーンは知っていたようだ。なんでもメジロ家とも関わりがあるようで。それでもいつでも食べられるようなものではないらしく年相応に喜んでいる。ここまで喜ばれると招待した側としても嬉しいものだ。だけど、それに比べて

 

「えー……」

 

「…………」

 

 カレンもよくわからない表情で立ち尽くしているし、タマに至ってはバカみたいに口を開けて動かなくなってしまった。なによ、今さら洋風が良いなんて言ったらぶつからね。

 

「えー、カレンちょっとよくわからないんだけど、ここって私達が来て良い場所なの?」

 

 来て良いに決まってるから連れてきてるんでしょうが。あんたたちを誘えないような店は選ばないわよ。そう言っても未だに混乱? しているようでレスポンスが悪い。まったく、ウマスタだっけ? ばっかりやってないで色々勉強したほうが良いんじゃないの?

 

「まあまあ、ですが、メジロ家でも簡単に予約が取れないのに、コバンさんよく予約できましたわね」

 

「まあでかくはないけど歴史だけは無駄にあるのが我が家だからね。縁があるのよ」

 

 見なさい、マックイーンは普通にしてるわよ。あんたたちもちゃんとしなさいよ。え、カレンなんでそんな目でこっち見てんのよ。

 

「ねえコバンさん。カレン普通の可愛い服で来ちゃったよ? こういう所だとドレスコードとかあるんじゃないの? コバンさん自分だけフォーマルな服着てるし。いつもはもっとラフな格好してるよね」

 

 待ちなさい。なんで私が非難されてるのよ。遠出するんだからしっかりした服選んだだけよ。それにドレスコードがいるなら先に言ってるわよ。それからタマ、いい加減に再起動しなさい。

 

「はっ! いやいや、もう何言っていいかわからんけど、うちこんなところで食べてええんか?」

 

「当たり前でしょ。少なくともカレンより食べていいわよ。ああ、安心しなさい。あんたの家族用にお土産も準備してもらってるから」

 

 あ、ひっくり返った。元に戻るまで放置しておきましょ。そんな風に騒いでいたら扉が開いて女将さんが出てきた。ああ、結構時間経ってるわね。

 

「お久しぶりです。騒がしくてすみませんね」

 

「お久しぶりです。コバン様。いえいえ、皆さんテレビでも拝見するような方々で。本日はありがとうございます」

 

 やっと再起動したタマも含めてご挨拶。本当ならここでやるもんじゃないんだけど、まあいっか。

 

「これはこれは。メジロマックイーン様もお久しぶりでございます。本日は季節のものも取り揃えておりますので、お楽しみください」

 

「丁寧にありがとうございます。本日はよろしくお願いしますわ」

 

 流石はメジロというわけか、慣れたもんね。さ、ここでたむろしてても何も始まらないし行くわよ。って何話してんのよ。

 

「タマさん、私達アウェーだよ、頑張らないと!」

 

「カレンも大概元気やんけ。うちもう緊張で何も食べれる気せえへんわ……」

 

 はいはい、まずは部屋に行くわよ。青い顔したタマの手を引いて案内してもらう。

 

 通されたのは離れの個室。まあここ個室しかないんだけど。本当なら食事も一緒でも良かったんだけど、タマがヤバそうだし、流石にウマ娘四人分は財布がダメになる。というわけで、甘味のコースなんてお願いをしているわけだけど、

 

「タマ、あんた大丈夫?」

 

「大丈夫なわけあるかい……。先輩うちが高いの苦手なん知ってるやろ」

 

「私は高いからここにつれてきたわけじゃないわよ。ここの甘味が一番好きだから食べさせたかったの。高い甘味じゃなくて、私が好きな甘味だと思えば少しはマシじゃない?」

 

「変わらへんやろ……。でもまあ、先輩がここまでしてくれたんやし、楽しまな損やな」

 

 そうそう、それでいいのよ。後カレン、最初に言ったけど写真撮るまでならいいけどSNSにあげたら真面目に面倒くさいことになるからね。不満げに返事するカレンなんてほっておいて、さ、そろそろ出てくると思うから楽しみましょう。

 それから種々の甘みを堪能して結構良い時間になってきた。マックイーンの食べっぷりにおかわりが来たのは予想外だけど、まあ概ね満足って所かしらね。途中からタマも楽しんでくれたようでなによりなにより。

 

「コバンさん、改めて今日はありがとうございました」

 

「カレンこんなに美味しいの食べたの初めて! コバンさんのことちょっと見直しちゃった」

 

「いや、ほんまうまかったけど、ホンマに良かったん? 高いんちゃうん?」

 

 マックイーンはいいとして、生意気な後輩だこと。後タマ、後輩がいっちょ前に心配してんじゃないわよ。

 お茶を飲みながら話し込んでいると、伝票が一つ運ばれてきた。ああ、忘れてたわね。

 

「タマ、実家の住所書きなさい。送ってもらうから」

 

「いや、そんな……。うちばっかりやのうて……」

 

「良いからさっさとしなさい。もう準備してもらってるんだから。さもないと無駄になるわよ」

 

 また文句を言い始めたタマに送り先を書かせて店の人に渡す。ちょっと量多いかもしれないけど、人数多いって言ってたし、日持ちもするし大丈夫でしょ。さて、そろそろ出ないと門限に間に合わないし、準備しなさい。

 

「なあ、うち会計の値段聞くん怖いねんけど……」

 

「カレンもだよ。でも、スイーツだけだからそこまでだったり? コバンさんが払える金額だろうし」

 

「アホか、そもそも三人分の新幹線代を、それもグリーンで出すような先輩やで、やばいに決まってるやろが」

 

 うっさいわね。あんたたちも顔売れてんだから普通車に乗せたら面倒くさいからって心遣いわからない?

 

「コバン様。本日の分はご実家の方でよろしいでしょうか」

 

「いえ、今回は私個人の用なので、トレセン学園の方で」

 

「承知しました」

 

 さて、支払いも終わったし、帰るわよ。あ? 何変な顔してんのよ。

 

「支払い終わったってなんのこっちゃ? それに今の何なん?」

 

「タマモクロスさん、このようなお店では金額を出すと無粋になることもあるので後日請求が届くものです」

 

「それって大丈夫なの? 先輩踏み倒したりしない?」

 

「うっさいバカレン。そもそもそんな野暮な事するようなやつがこの店の暖簾くぐれるわけ無いでしょうが」

 

 それからカレンが女将さんにお願いして四人で集合写真を撮って本日のメインイベントは終了となった。なんだかんだカレンも適応してるじゃない。

 数日後、寮に届いた金額はまあ、結構なものだったけど払えないものじゃないし、後で処理しておきましょう。金額を盗み見してきたタマが泡吹いて倒れて、カレンが珍しく真顔でお礼と謝罪をしてきて、なんのことだか。二桁で収まってるから良いじゃない。そんなことよりあんたたちのせいで騒ぎになっちゃったからどうにかしなさい。

 

 

 

 

 

 

「ねえー先輩、タマモ先輩にたっかい和スイーツ奢ったって聞いたんだけど、私にはないんですか?」

 

「あんたは私に迷惑かける側でしょうが」

 

 放課後、トレーニングもないし人気のないベンチで読書してたらシチーがうっとうしい絡み方をしてきた。ああもう! ベタベタまとわりつくな! 

 

「嫌ですー、私にも何か奢ってくれるまで動けませーん」

 

 良い根性してるじゃない……!

 

「あ、ユキノビジン。なにか用?」

 

「ええ!? いや、ユキノ、これは違うの! ……っていないじゃない」

 

「嘘に決まってるでしょ。時間を考えなさい。トレーニングに決まってるでしょ」

 

 やっと剥がれたわ。どうやらシチーはユキノビジンの前ではカッコよく見せたいみたいで、一番効果的だ。しっかし、誰かの前でだけ良い格好しようとしてもそのうち化けの皮が剥がれるわよ? 私みたいに自然体が一番。

 

「先輩が態度変えなさすぎなんですよ。精々敬語使うかどうかじゃないですか」

 

 はいはい、わかったわかった。さ、お帰りはあっちよ。ジョーダンと遊びにでも行ってきなさい。私は今日は本読んで勉強しないといけないんだから。めんどくさくなってシッシと手を振ったら、視界の端でシチーの顔がどんどん膨れていくのが見えた。ああ、これ面倒くさいパターンだ。

 

「先輩のバカー!」

 

「……なんであんたは罵倒しながら人の膝に寝転がってくるのよ」

 

「先輩、シリウスとイチャついてたんでしょ。本人が自慢しに来たんで知ってるんですよ? だったら私もいいですよね」

 

 はあ……。あのバカは。シチーももう面倒くさいからそのままでも良いけど邪魔はしないでよ?

 

「えー、私は撫でてくれないんですかー?」

 

「そんなにふざけてていいの? ユキノビジンが見てるわよ」

 

「その手にはもう乗りませんから」

 

 ああ、可愛そうなゴールドシチー。

 

「シ、シチーさん?」

 

「え、は? 嘘!?」

 

「わ、なにも見でませんからーー!」

 

「ユ、ユキノ、待って!」

 

 やっとうるさいのが行ったわね。さ、ゆっくり読書の続きと行きましょう。だけど、あの二人の向こうにピンクのなにかまたいたわよね?

 

 

 

 

 

 

 

「あら、タンホイザじゃない」

 

「あ、コバンさん、久しぶりだね」

 

 休みの日、遅く起きて食堂に入った先にはマチカネタンホイザが何人かと談笑していた。そう言えば寮は同じなのにあんまり顔を合わせる機会がなかったわね。向こうも友人といるようだし離れましょっか。

 

「ああ、お前ターボ知ってる! ネイチャがよく負けるのに走ってるって言ってた先輩だ!」

 

「タ、ターボさん!?」

 

 ……前言撤回、オハナシしないといけないのがいるようね? それと周りもそんな静かにならなくてもいいのよ? まだ何もしないから。

 

「悪いけど同席させてもらうわね。タンホイザ、適当に食べるもの持ってきて」

 

「あははは……、行ってくるけどネイチャもターボも悪気はないからお手柔らかにね?」

 

 後輩をパシらせるのは好きじゃないけど、今離れたらいなくなってそうだしね。さあ? なにか言いたいことがあるのなら聞いてあげるわよ?

 

「え、あ……。あのですね、さっきのは勘違いでして……」

 

「ネイチャこの前レース見ながら、若くないのによく頑張るなー。って言ってたじゃん! ターボちゃんと聞いてたんだから!」

 

「ターボさん!!??」

 

 これはいよいよ有罪かしらね? この前って言ったらギリ入着した重賞のことでしょう。それはともかく若くないってのはどういうことかしらね?

 

 

「もー、コバンさんもあんまりいじめないであげてね? ネイチャもターボも本気で言ってるわけないんだから」

 

 定食を持ってきたタンホイザが苦笑いしながら返ってくる。流石ね。私の好みわかってるじゃない。それはそれとして、ふんぞり返ってるギザ歯のちっこいのと震えてるモジャモジャどうしましょうかね?

 

「そろそろ勘弁して貰っていいでしょうか。マックイーンさんからよく聞いていますが、理不尽で怒る人でも無いでしょう」

 

 あ? ああ、マックイーンと同室のイクノなんだっけ。まあいいわ。二人共ちゃんと謝ってきたし、今度一緒に坂路二十本で勘弁してあげるわ。

 それから用事も済んだし、移動しようとしたらタンホイザが友達を紹介したいだなんて言うから残ることになっちゃった。あんたもあんたでこの流れでよくそんなこと言えるわね。で、メガネがイクノディクタス、赤いモフモフがナイスネイチャ、バカっぽい青いのがツインターボね。はいはいよろしく。

 

「いやー、でもタンホイザが、ええっと……」

 

 何よこっち見てきて。ああ呼び方なら何でも良いわよ。

 

「どもです。コバンさんと知り合いだなんてねえ。今まで一緒にいるとこ見たこと無いけどどこで知り合ったの?」

 

「ああ、コバンさんと昔同じレース塾に居たんだ。で私がいたときのリーダー? みたいなのがコバンさんだったんだ」

 

 懐かしいわね。後はスズカとかいたわね。しっかしサイレンススズカのことをスズカって呼ぶのなんか違和感あるわね。今度サイレンスって呼んでやろうかしら。……やめておきましょう。良くないものが出てきそうな予感がするわ。

 

「意外な所に縁があるもんだねえ。いやはや、私みたいな下町の小娘には縁もゆかりもない話だわ」

 

「何を言っているんですか。ネイチャさんはコバンさんのファンじゃないですか。それがタンホイザさんを通じてこうして知り合えたのですから」

 

「ちょっと!? イクノさん!?」

 

 へえー、ふーん。ファンなのに年増だの負けっぱなしだの言ってるんだ? へえー?

 

「え、いや、あのですね? 私も勝てないレースが多くてですね、それで勝てなくても何度も走り続けるコバンさんを見てどうすればそう出来るんだろうななんて思ってまして」

 

 なるほどね。まあ、目は真剣みたいだし、そろそろからかうのもやめてあげましょうか。

 

「あんたはそんなこと考えなくてもいいのよ」

 

「あはー、そうですよね、私なんかが……」

 

「あんたはもう答えにたどり着いてるんだから。わざわざ私なんかのまねをシなくていいのよ?」

 

 なんでそこで目をパチクリさせて驚いてるのよ。前から思ってたんだけどこの子以外にも自分の事をわかってないウマ娘多すぎじゃない? 学園のカリキュラム見直したほうが良いんじゃない? 聞くことも聞けたし満足して食事を始めようとしたら教えてなんて言ってきて、ったく人の食事を邪魔すんじゃないわよ。

 

「知りたいってことはあんたは諦められないんでしょ。それが答えよ。あんたは今の自分に満足できなくてもがこうとしている。その気持ちがあれば大丈夫よ」

 

「あ、はい。ありがとございます。でも……」

 

「これ以上は自分のトレーナーと話しなさい。そろそろご飯食べたいんだけど?」

 

 大して怖くも言ってないのに焦って謝ってくるんだから。ほんと、私のことをなんだと思ってるのか。それはともかくやっと落ち着いて食事にありつけると思ったら

 

「お前勝てないのか! 仕方ないなー、ターボが勝つ方法教えてやるぞ! 最初から最後までバヒューンって先頭を走れば勝てるんだぞ!!」

 

 ……ああ、そもそもの原因はこっちの青バカだったわね。満足して胸張ってるバカの相手をする気はないし……。あ、ちょうど良いのがいるじゃない。

 

「スズカ! ちょっとおいで!」

 

 丁度いい所にスズカとエアグルーヴが歩いている。

 

「何かしら?」

 

「このちっこいのが一緒に走りたいんだって。で、先頭は走ってやるから後ろから付いてこいだって」

 

「なんだ? ターボと走りたいのか? 良いぞ! ターボの背中に付いてこい!」

 

「へえ……? いいわ、今から走りましょう。そうね、ざっと50km位走りましょうか」

 

「ふふーん、ターボの走り見せてやる!」

 

「おい! まてスズカ! 今日は課題をする約束だろうが! くそ! 先輩、後でしっかり説明してもらいますからね!」

 

 スズカとツインターボ、追いかけてエアグルーヴの三人がドタバタと出ていった。ああ、やっと落ち着いて食事が出来るわね。ん? なによ、文句あんの?

 

「いやー……。噂通りすごい先輩だなと……。じゃあ、ターボの面倒見ないといけないから私達もこれで」

 

 そういって、ネイチャが残りの二人を連れて出ていく。噂って何よ噂って。まあいいわ。さ、今日は何して過ごしましょう?

 

 

 

 

 

 さて、最近良く来るベンチに来たわけだけど。そろそろあのピンクの正体を掴みたくなってきた。ここで待ってれば多分何か釣れるでしょう。

 

「やあ、奇遇だな」

 

 予定変更ね。さあどこに行きましょうか……、ちょっと腕引っ張らないでくれる?

 

「まあ座り給え。最近ここで密会が行われていると噂が有ってね。確認しに来たら容疑者がいたというわけだ」

 

 はあ? なに言ってんのよ。私は精々ここでシリウスとかシチーと一緒にいただけよ。ああ、密会してそうな不審者は見てないわよ。ほらどっか行きなさい。

 

「わざわざ自白をありがとう。君はもう少し自分の立ち位置を考えたほうが良いぞ? ……親戚の方から割と真剣に相談される身にもなってくれ」

 

なによそれ、ってなに人の膝使おうとしてんのよ。……ふん!

 

「……おい、流石に肘打ちはおかしいだろ。どうしてシリウスやゴールドシチーは良くて私はダメなんだ」

 

「なに後輩と張り合ってんのよ。自分の年を考えなさい」

 

「では、この前寮でラッキーに耳掃除をしてもらっていたのはなんだ?」

 

「……黙秘権を行使するわ」

 

 なんであんたがそれ知ってんのよ。なんて思ってら木陰の方から聞いたことも無い奇声とゴン! と何か硬いものをぶつけたような音が聞こえてきた。なに? 学園内に不審者? バカの方を見れば真剣な顔になってるし二人で注意しながらそっちに近づいてみると

 

「きゅう……」

 

 おでこを腫らしたピンク髪の小柄なウマ娘が気絶していた。制服を来ているし学園のウマ娘なんでしょうけど、どうしようかしら。流石にこのまま放置するわけにもいかないし、頭を打ってるみたいだし動かすのも怖いし仕方ない起きるまでは待ってましょう。ほらバカ、保健室に連絡してきなさい。

 走り出すバカの背中を見送りながら目の前のこれをどうしようかを考える。流石にこのまま地面に置いとくのも後味悪いし、動かすのはさっき言ったみたいに怖いし。はあ、仕方ない。

 それから数分後声が聞こえてきたと思ったらやっと目を覚ましたみたいだ。

 

「……はっ! 尊みが……。ってあれ? 柔らかい?」

 

「ねえ、起きたならさっさとどいてくんない?」

 

 私のことを認識したからか、膝枕されていることに気づいたからかすごい声を出しながら走り出そうとする。ってバカ! それされたら私がいる意味が無いじゃない! とっさだけど間に合って、肩を掴んで頭を膝に戻す。出来る限りゆっくりしたけど大丈夫でしょうね? あ、また気絶した。もういい加減にしてほしいわ……。

 それからバカが連れてきた保健医に診てもらい、問題はなさそうだけど念の為ということで病院に連れていくそうだ。保険医とバカが担架に乗せて連れて行ってやっと静かになった。だけどもう今日は疲れたわ。もう部屋に戻りましょう。

 後日、部屋にお礼と謝罪に来たアグネスデジタルというらしいウマ娘。律儀なのは良いけど、それからも、私を、もっと言うと誰かといる私を見て奇声を発するのはホント勘弁して欲しい。

 

 

 

 

 

「最近、ホント疲れることが多いわね……」

 

 独り言でも愚痴りたくなるような日が続いている。特に最悪だったのは海外で勝っているデジタルを使ってバカを煽ったら面倒くさいことになったこと。もう思い出すことすら嫌だ。ったく、バカの目の前でデジタルを褒めちぎっただけであんなことになるなんてねえ……。

 思い出しても良いこともないし、さっさと風呂に入って寝てしまおう。今日は流石に疲れたしゆっくり湯船に浸かろうかしら。大分と遅くなったけどこの時間なら誰もいないでしょうしゆっくりできそうね。そう自分に言い聞かせながら大浴場の扉を開いたら

 

「……はあ?」

 

 一面真っ赤な湯船? なにこれ。理解が追いつかない私に追い打ちをかけてくるやつがいた。

 

「ああ! 誰かと思えばコバンさんじゃないか! ようこそ! こんな時間に会うとは思わなかったよ。ああ、これはボクの美しさを磨くために必要なものでね、我慢して欲しい。代わりにこの美しいボクの体を独り占めする権利をあげようじゃないか!! さあ!! 遠慮はいらないよ!!!」

 

 ………………。スーハースーハー。よし少し落ち着いた。さて、私は迷惑を自覚してこの時間にいるバカを褒めれば良いのか。どうしようもないバカをボコボコにすれば良いのかどっちかしら? そうね答えは簡単。

 袖をまくろうとして裸だったことを思い出して、まあいい、やることは同じだと歩き出そうとしたら

 

「先輩! ごめん! この時間はオペラオーが……。だ、ダメだよ!?」

 

 急いできたみたいで息を切らせたフジに飛びかかられて止められてしまった。ちょっとおかしいでしょ。私は少し教育的指導をしようとしただけよ。

 結局もう何もかも嫌になってシャワーだけ浴びてベッドに入った。

 後日バカにG1を7勝するようなウマ娘にまともなやついないのね。って事実を言ったらその晩キタサンブラックとウオッカがもう一人後輩ウマ娘を連れて部屋に文句を言いに来た。おかしいでしょ。私は事実を言っただけじゃない。文句があるなら……え? ああ、ちびっ子はまだまともだったわね。それは認めてあげるわ。あーあ、常識人は辛いわね。

 

 

 

 

 




つい手癖で百合百合しくしてしまいそうになるのを必死に堪えてる。求められてるのはそうじゃないだろうし。
ライス関連は長くなりそうなので首を長くしてお待ち下さい
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