久しぶり過ぎてコレジャナイになってそうで怖い
いやードロワイベは供給過多過ぎてやばかった。え? シリウスとルドルフのサポカ? 120連でSSR0ですが何か?
「今度のドロワで、私のデートになってください!」
カフェテリアで時間を潰していた私の耳に入って来たの最近あちこちでよく聞く文句だ。個人的には考えたやつの趣味では? としか思えないイベントだけど楽しみにしている子も多いのは事実。参加する気はかけらもないけど他人が楽しむことを邪魔する気はないし時間がすぎるのを待つとしましょう。
「やあやあ先輩。今少し時間良いかな?」
「良くないわよ。フジ、アンタがその胡散臭い顔で来る時はほぼ間違いなく厄介事なのよ」
問に対してちゃんと答えてあげたのに笑いながら座ってくるのを見て頭が頭痛で痛くなりそうだ。幸いにも頼んだものはすべてキレイにお腹の中に収まっているしさっさとどっかに行ってしまおう。そう思って立とうとしたら腕を掴まれてしまった。ちょっと生意気がすぎるんじゃない?
「今度のドロワをね、皆が喜べるようにしたいんだ。だから先輩にも手伝ってほしんだ。具体的には……」
「悪いけど、あのイベントに参加する気は無いから。じゃあ」
いつもよりも明確に否定して唖然としているフジを残してカフェテリアを後にする。悪いけど本当に参加する気はかけらも無いのよ。
「なんて感じで。いつもなんだかんだ最後には話を聞いてくれる先輩らしくない感じで断られちゃいました」
そう言いながら困ったように笑うフジキセキだったが、どうやら諦めてはいないようだ。今回ドロワを盛り上げたいと言ってくれた彼女は様々な準備をしている。彼女自身もセイウンスカイをデートに、時間を見つけては練習を繰り返している。そして目玉の一つとしてコバンにもエキシビションを頼もうと考えているらしい。
「先輩なら踊りも盛り上げるのもしっかりやってくれそうなんで是非お願いしたいんですけど、どうも断られてから中々見つからないことが多くて。会長からも話してもらえませんか?」
なるほど。たしかにコバンならダンスも問題ないであろうし。やろうと思えば会場を盛り上げることもできるだろう。しかし……
「残念ながら私が言った所で彼女は首を縦には振らないよ。それに彼女の考えは私にもわかるがそれは恐らくここにいる君たちが思っているよりも根深いものだ。彼女の友人としてできれば今回はそっとしておいて上げて欲しい」
私の言葉が予想外だったのか、フジキセキだけでなく生徒会室に詰めていたエアグルーヴにブライアン、ヒシアマゾンまで驚いた顔をしてくる。確かに以前の私であればそれが学園の、ウマ娘たちのためにとコバンに依頼をしていただろう。だが、きっと彼女に頼りすぎてはいけないし、今の私自身の考えとしてもあまり頼みたくない。
「よし、今回のドロワに関しては私は関与しないことにしよう。エアグルーヴ。君が代表となり、フジキセキと一緒に進めてほしいのだが良いだろうか。もちろんそっちの二人にもしっかり働いてもらいたい」
私らしくないある種のサボタージュ宣言にブライアンは面倒そうな顔をしているが他の三人は驚きを隠せないようだ。まあそうだろう。いきなり丸投げしたのだ。私だって反対の立場なら同じようなリアクションになるだろう。
「……それは、問題ありませんが。よろしいのですか?」
「お願いするよエアグルーヴ。なに、たまには私がいない生徒会というのも必要だろう? よし、では私は戻るよ。後は頑張ってほしい。もちろん私の力が必要であればいつでも言って欲しい。当日は少し難しいかもしれないがそれ以外は全力で働かせてもらうよ」
そう言って生徒会室を後にする。さて彼女たちと当日の予定でも相談しないといけないな。
「あー、歌った歌った。トレーニングも何もなくあんなに歌ったのはいつぶりかしらね」
「だねー、後面白かったのはルドルフの選曲! いやー、予想外すぎて面白かったよ」
「な!? 良いじゃないか、好きな曲なのだから。……だめだったのか?」
相変わらずクラスのメンツといるといじられるバカを見ながら学園へと戻っていく。今日はクラスの全員、と言ってももう十人ちょっとしかいないけど。まあそんなメンバーでカラオケ三昧だったわけだ。ドロワのおかげで時間が空いたしそこだけは感謝してあげても良いかもね。いつもなら生徒会でブラック労働しているバカが珍しく参加したことも有っていつも以上に盛り上がって喉が痛いぐらいだ。
迷惑にならない程度に騒ぎながら学園に戻ると珍しく本気で怒っていそうなフジとエアグルーヴ。珍しくもなく怒っていそうなシリウスが仁王立ちしていた。どう考えても面倒事の予感しか無いあの子たちをどうしようか迷っているうちに私とバカを置いて他の連中はさっさとどっかに行ってしまった。ほんと薄情なんだから。そうを眉間によったシワをほぐしていると、珍しく、もしかしたら初めて見たかもしれない本当に怒っているフジが口を開いた。
「二人共おかえりなさい。こんな時間までどこに行っていたんだい?」
「時間が有ったからクラスメイトとカラオケに行ってたのよ。まだ門限でもないでしょうに。なんか文句あるの?」
「先輩も会長も、今日がどんな日かわかっているのかい? 今日という日が持つ意味をわかった上で遊んできたというのなら私は二人を軽蔑するよ」
……ああ、フジも色々抱え込んじゃってるんでしょうね。優しいくせに寮長なんてそんな役回りしてるもんだから今日という日に懸ける思いも大きいものだったんでしょうね。そんな中仕事を放り投げた生徒会長が遊び呆けてたなんてそりゃ堪忍袋の緒が切れるでしょう。ん? これバカが悪いだけで私は悪くなくない? そんなことを考えていたら生徒会のメンバーだろうと言われてしまった。しっかし、生徒会の方はわかるけどシリウスはなんでいんの?
「私がたまにトレーニングを見ている奴らの中にも今日を区切りにしたやつがいる。そんな日に責任も果たさないようなやつには文句の一つでも言いたくなってな」
シリウスも面倒見が良いものね。大きくまとめれば生徒会の方と同じような話でしょう。さて、諸悪の根源の生徒会長さん? これどうすんの。
「……そうだな、こうなってしまっては話さないというのは不誠実だ。少し込み入った話にもなるだろうし生徒会室で良いだろうか」
……面倒くさいけど、今回ばっかりは仕方ないわね。
「まずは今回は私達の身勝手で皆にすべてを押し付けてしまって申し訳ない」
神妙な顔をしてバカが頭を下げる。こっちにも視線が飛んでくるけどあいにく下げるような頭は持ってないわ。
「理由というよりもどちらかと言うと私の個人的な話になるが聞いて欲しい。本来であれば私は生徒会長として先頭に立っていなければいけない立場だ。だが……」
「私達はね、区切る訳にはいかないのよ」
驚いた顔でバカがこっちを見てくるけど、そんな顔で話せるわけないでしょ。仕方がないから私が話してあげるわよ。
「私もこのバカも、クラスのバカたちもね、止まれないの。区切りを見てしまえばきっと考えてしまう。いつまで私は走り続ければ良いんだろうか、もう良いんじゃないのか、これまで頑張ったんだしもうゴールしても良いんじゃないのか。きっと私たちは皆心の奥にそんな弱音を抱えている。そしてそれを目にしてしまえばきっともう走れなくなる」
一度言葉を切る。バカ以外の全員驚いているようだ。当たり前の話でしょ。私達が未だにトゥインクルシリーズで何も考えずに走ってるとでも思ってたのかしら。
「ええ、確かに区切ることは大事でしょう。最後に幸せな思い出を持ってここを出るというのも学園ができる最大限の手向けなのかもしれない。でも私たちは血を吐きながら走ることを選んだ。だったら今日は私達にとって区切るための大事な一日じゃない。どこにでもある、いつでもある、なんでも無い一日でなければならなかった。それが私もこのバカも責任ほっぽりだして遊び回ってきた理由よ」
私たちは走り続けることを選んだ。だけど、一度でも立ち止まってしまえば、いいえ、止まるどころか脚を緩めるだけでもう走れなくなる。だから見たくないものを見ずに、情けなくても血を吐きながら続ける孤独なマラソンを止めるわけにはいかないのよ。
「……会長、先輩」
フジが辛そうな顔で何かを言おうとしているけど手で止める。アンタたちがそんな顔をする必要はないのよ。
でどうする? 問題ないなら帰っていいかしら。そう聞いてみれば辛そうな顔で許可が出た。そ、じゃあ。流石に一人で帰る空気でもないしバカも連れて行こうとすると。
「済まない。これは私の弱さが招いたことだ。後日コバンと二人でちゃんと償いはする」
何勝手に巻き込んでんのよ。でもまあ、今回ばっかりは許してあげましょう。
「夜分遅くにすまない。少しいいだろうか」
あの後会場の片付けぐらいは手伝った後、消灯時間も間近に迫った時刻にバカが静かに入ってきた。
「あら、やっとドアを開けるってこと覚えたの?」
「私とて時と場合は選ぶさ。それで、お邪魔してもいいかい?」
えらくしおらしいバカに空いている場所を指さして座らせる。自分でも驚いたが私はこんないかにも落ち込んでいます、みたいな表情をしている奴を蹴り出せるほど薄情ではなかったみたいだ。仕方がないから適当に飲み物を二人分用意する。それから飲み物が喉を通る音だけが数回流れた後やっと話し始めた。
「先程は君が遮ってくれたお陰でこぼさずに済んだ弱音を聞いて欲しい」
いまさらアンタの弱音なんて聞きたくもないけど場の空気を読めないわけでもないし仕方なく先を促す。
「私は……、私は本当は怖かったんだ。君の言ったように区切りを得てしまうことが怖かった。私は今まで七冠ウマ娘、無敗の三冠ウマ娘と呼ばれてきた。しかし、時は流れ七冠という数字は私だけのものではなくなっている。そして無敗の三冠という言葉もだ」
……ああそうだ。確かにもうこいつは特別なウマ娘ではなくなっている。無論腹立たしいがこいつの戦績は輝かしいものだ。だけどそれだけ、もう唯一の存在ではなくなった。
「去年、三人目の無敗の三冠ウマ娘が誕生した、そして八冠という頂にたどり着いたものがいた。それ自体は素晴らしいことだ。日本のウマ娘がより強くなっているのだから。だが……ジャパンカップ。そこをトゥインクルシリーズの総決算にすると八冠ウマ娘は発表した。そして無敗の三冠ウマ娘も無敗のトリプルティアラのウマ娘も無理なスケジュールも、距離も関係なく手を上げた。きっと彼女たちに取っては無敗という言葉もクラシック三冠もトリプルティアラも通過点でしかなかったのだろう。私も菊花賞からジャパンカップへの出走で情けない走りをしてしまった愚か者だ。心配をしてしまった。けれどもジャパンカップ、そこにあったのはまさに死力を尽くした讃えられるべき熱戦だ。きっとあの2400mは歴史に残るだろう」
一度言葉を切ったバカは、ルドルフはまるで自分のことのように誇らしげに、本当に嬉しそうに語っている。
「そうして鹿毛をなびかせた彼女は九冠という偉業を成し遂げた。それを見た時思ってしまったんだ。ああ、もう私がここにいる必要は無いんじゃないかと。そうでなくとも最近の私の戦績は知っているだろう?」
どうして私がアンタのことを知ってる前提なのよ。……まあ、知ってるけど。最近のこいつは重賞で勝つことは有ってもG1勝利からは遠のいている。それでも私やクラスメイトのことを思えば凄まじいものだけど、こいつの場合は背負っていた肩書が重すぎる。
「皇帝の神威はすでになく、過去の栄光にすがりつく愚か者。それが今の私だそうだ」
どこぞのバカバカしいゴシップ誌がそんなことを書いていたわね。どうして頂点のままトゥインクルシリーズを去らなかったのか、だそうだ。そのせいで一時期ルドルフのトレーナーも結構言われたわね。本人はやらせたいようにするだけだ、といってどこ吹く風だったけど。
「きっと私も落ち着いてしまえば、区切りを認識してしまえば立ち止まってしまうだろう。それが怖かった。今まで私が相談を受けていた者たちもこのような気分だったのか。今更になって、自分がその立場になってやっと理解したよ。ああ、彼女たちはこんなにもつらい気持ちで走っていたのか、私は彼女たちに心無いことを言っていたんじゃないのか。今になって後悔で押しつぶされそうだよ」
でしょうね。きっと勝って当たり前のルドルフにも辛いことはあったでしょう。でもその辛さは私達から見れば強者の傲慢だ。そんなもので慰められて果たしてどれだけのウマ娘が納得できたのか。それから
「ねえ、ちょっといい?」
「何だ……、!?」
呼びかけにこっちを向いたバカの頬を思いっきり引っ叩く。久しぶりにやったけどやっぱこれ私の手も痛いじゃない。
「何を今更なこと言ってんのよ。前に言ったこと忘れたの。今まで好き勝手に踏みにじってきたアンタが今更負けた程度で……、いやG1以外は勝ってんだからそれすらおこがましいわ。ともかくその程度の逆境で走るのを止めるなんて許されないのよ」
そう、私たちは地獄を走り続けると選んだんだ。だというのに先頭を走るアンタがたかだかその程度のことでヘタってんじゃないわよ。
「……はは、前に言ったこととは言うが何年前の話だと思っているんだ?」
「ふん、忘れてたってんならもうアンタの席はあのクラスには無いから」
「忘れるわけがないだろう。ああそうだ、私は止まることができるなんて勘違いしていたな。私にそんな権利は無い。私にあるのはただすべてを背負って走り続ける義務だけだ。すまない、また君の手を借りてしまった」
「ホントよ、なんで友人でもないアンタのために私がここまでしないといけないのよ。生徒会の子たちにでも泣きついてきなさいよ」
「彼女たちには弱いところを見せるわけにはいかないのでね。なら友人でもないらしい君ぐらいがちょうどいいということさ」
「はいはい、ならせめて最期の最後まで走りきりなさい。見なさいよ障害で走ってる例の子、絶対王者なんて呼ばれて、負けて、そうしてもう一度勝って玉座に返り咲いた。なによ同一G1六勝目って」
「彼女の弛まぬ努力の賜物だろうな。そうだな、何があろうと最後まで走り続けよう。そして願わくばその時は君が隣で走っていることを願っているよ」
ほんと、減らず口ばっかり。でもまあ、そんな最後も悪くないのかしらね。
相変わらず不定期予定。
次はこれまたマシュマロでもらったタキオンの話でも書こうかなと