皇帝の見えない折れた杖   作:冬眠復帰

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アニメ3期が面白いので2期部分をじっくりねっとりやっていこうと思います。
今回は箸休めの軽い話です

追記 
マシュマロ返信しようとしたらTwitterのアカウントが触らなくなったのであった当面動かないです


Beyond (The) Hope

 テイオーの大阪杯も無事終わり、久しぶりの勝利を祝ってやったのも少し前の話。なんだかんだ言いながら菊花賞以降レースせずにほぼ半年のブランクでいきなりG1勝つのはなんだかんだ強いウマ娘よね。こちとらG1にはほとんど縁がないウマ娘で妬ましく感じることがないとは言えないけど、まあ頑張ったしね。今までは併走ばっかりしたがってたのに秋以降は一から身体を作り直していたしね。

 

「それはいいけどあのバカを引きずり出すために私まで併走つきあわせるとか、ほんといい根性してるわ」

 

 どうやら春前の忙しさ故に併走を断るバカを釣るための餌として私を使いやがった。普通ならボコボコにしてやろうってもんだけど流石にあそこまで真剣に頭を下げられたらねえ? 

 だけどそれ以上に私じゃ併走相手に物足りないってのを言外に突きつけてきたのはホントいい性格してるわ。

 

「そこんとこチームの先輩としてどう思う? ジャガー先輩さん?」

 

「たくましい後輩に育ってくれて嬉しい限りだ」

 

 想像の範囲内の戯言を口にするジャガーの頭を小突きながら廊下を歩く。今日は春の感謝祭の催し物を考えるために上のクラスの何人かと打ち合わせをする予定だ。どうせなら外で美味しいものでも食べながらって話になっておすすめの店を紹介したいと言ってくれたのが

 

「お待たー、ごめんねちょっとクラスで何するかを相談してて」

 

 インベーダーゲームがおいてある流行りの……、流行り? の店を紹介しようとした

 

「マルゼンさん! エース先輩! ……うわ、シービーまでなんでいんのよ」

 

「おう! コバン久しぶりだな!」

 

「ちょっと、やっぱりアタシの扱い酷くないかな?」

 

 マルゼンさんとエース先輩はいいとしてなんであんたまで付いてきてんのよ。こういう話し合いとか一番嫌いでしょうに。

 

「わっかってないなー、そういうミスターシービーはこうだ! ってイメージに囚われてちゃ」

 

 このクソ自由ウマ娘はいけしゃあしゃあと……。やっぱり三冠取るようなウマ娘にまともなウマ娘はいないわね。最近その枠組に入ったオルフェもまあまともとは言えないし。

 

「こら、どうしてコバンはいつもシービーにそんなんなんだ? アタシやマルゼンには礼儀正しいのに」

 

「いや……、トレーニング終わって部屋に帰ったらずぶ濡れのまま人の部屋の食料庫漁ってるやつに礼儀正しくする必要あります?」

 

「それは……、シービーだから仕方ないな! アタシだったら風邪引かないか心配になるだろうしな」

 

 くっそ、エース先輩って常識人のはずなのにどうしてこうシービーに関してはダダ甘になるのか……、周りを見渡してもどうやら私の味方はいないようでジャガーに至っては興味なさそうに携帯いじってやがる。おかしい……私は間違ってないはずなのに……

 

「それにアタシのことも呼び捨てでいいのに、ほら、エースって言ってみ? なんかコバンの場合はその方がしっくり来そうな気がするんだ」

 

 もはや私の正当な意見は流されて次の話題に移されてしまった。それはともかくエース先輩を呼び捨ては……。しっくり来そうな気は私もするけどあのジャパンカップで勇気をもらったウマ娘としてはどうしても気安すぎて恐れ多いというかなんというか。正直ミーハーな部分もあるけど尊敬してるのは本当だし、この前タップダンスシチーとエース先輩のジャパンカップの走りについて結構長い時間話してたりする私としてはどうしてもそこは譲れない部分というかなんというか。そんな感じの言い訳を続けてなんとか先輩呼びを死守することに成功する。

 無駄話をしている間に結構時間は経っておりまだまだ余裕はあるとはいえ時間は有限だし、私以外は有名ウマ娘、さっきから周りの視線も増えてきてるしでそろそろ移動しようと提案すると

 

「あれ? ルドルフも呼ぶって話じゃなかったか? アタシはシービーにそう聞いたぞ」

 

「そういえばルドルフが時間に遅れるなんて珍しいわね。コバンちゃん、ちゃんと連絡した?」

 

「連絡しましたけど、併走頼まれたらしくて今日は参加できないそうです」

 

 無論連絡なんてしていないが。あのバカを交ぜて出し物の話なんてしようものなら収拾つかないか酷い案が出る未来しか見えない。もちろんそんなことは表情に一切出さずに言い切ったつもりなんだけど私の後ろに視線が飛ぶ。嫌な予感というか、今この場で一番嫌な匂いが鼻につく。まあ嫌なだけで臭いとかではない……

 

「いやちょっと汗臭いわよ……って、はあ……」

 

「人の顔を見るなりため息は酷いんじゃないか?」

 

 なんでバカがいんのよ……。ニヤついてるジャガー曰くどうせこうなると分かってたから連絡したそうだ。その気遣いをちょっとはこっちに回しなさいよ。

 

「てかあんた今日併走はホントの予定でしょ?」

 

「ああ、最近ラモーヌが併走によく誘ってくれてな。昔はあまりなかったんだが今の私はつまらなくないようでな。まあ、この件もあったし密度を上げてぶっちぎってきたわけさ。それでもラモーヌも満足してくれたようで、また来週も行う予定だ。ああ、次はコバンも来るようにとのご指名だ」

 

 三冠バカに続いてトリプルティアラにも絡まれるのホント勘弁してほしい……。マックイーン経由で何回か併走したことはあるけど他にも相手はいるでしょうに、何故私につきまとうのか。併走だけならまだしもその後の数時間レースに関しての話に付き合わされるのは勘弁してほしい。愛だのなんだのレースなんてその瞬間を全力で走るだけでしょう。

 

「はいはーい、じゃあ全員揃ったことだし、予定通り私のオススメのイケてるサテンにレッツらゴー!」

 

  ああ……、ここにまともなウマ娘は私しかいないようだ。四面楚歌を超える酷い包囲の中私には力なく付いていくことしかできないようだ。

 

 

 

 それから場所を変え……、この机、真ん中にゲームの画面あるの使いにくくない? メンバーで出し物の案を出すんだけど

 

「私達のトレーナーを呼んでトレーナー喫茶などどうだろうか? 知り合いのウマ娘から借りた漫画にそのようなものがあってな」

 

「却下、終わった後で地獄が見える。後そろそろ一回ドーベルの部屋ガサ入れしたほうがいいと思うわ」

 

「じゃあ、こういうのはどう? アタシたちが学園の中を走り回って捕まえたら商品! みたいな」

 

「人の多い感謝祭で走ろうとするな、事故る未来しか見えない」

 

「あ、アタシが学園で作った野菜を使っての料理なんてどうだ? 味には自信あるぞ」

 

「すごくいいんですけど、それでもし万が一食中毒がでるとまずいので……、あ、いえエース先輩の野菜を疑ってるわけじゃなくてですね、こうこう商流に乗ってない自家栽培は難しいというか……」

 

「あ! あたし達で劇をするのってのはどう? ウマ娘とトレーナーの禁じられたラブロマンスなんていいんじゃないかしら!」

 

「劇はいいんですけど、流石に学園でトレーナーと教え子のラブロマンスはちょっと刺激が強いというか、実害が出そうというか……」

 

 さっきからどうしてまともな意見が出てこないのか、それにどうして全員私に話を振ってくるのか。そろそろもう限界なんだけど。って次はなにジャガー、もうさっさと言いなさいよ。え、これ飲み物頼んでくれたの? ありがと、ああ……なんかしょっぱい味がする……

 ふざけた案とやばい案とバカの案ばっかりで話が進まない。一番手っ取り早いのはレースを見せることなんだろうけどそれは学園全体の方の催し物ですでに埋まっている。そうなるとレース以外は趣味とセンスの方向性が全員バラバラなこの集団でまともな案が出るわけもなく。そもそも私生徒会の仕事も何故か振られてるんだけど、なんでこっちまで仕事をしないといけないのか、ああそうだ、クラスの奴らが押し付けてきたのが悪い。バカがいない場で役割押し付けたと思ったら何故か私の名前までセットにされていた。私はそこまで悪いことをしてきただろうか。

 それからもあーでもないこーでもないで話が進まない。今回はシニアの上の方のクラスで合同だからできない案も多いし、話は迷走していく。あ、

 

「ねえ、シービーどこいったの?」

 

 気がつけば一人問題児が減っていた。いや、問題児が減るのはいいのだけれどこの地獄から逃げ出すのは許せない。

 

「あ、メール来てるわ、何々……、走りたくなったから先に帰るね、……だそうだ」

 

「解散!」

 

 そう言い切った私は悪くないはずだ。

 

 

 

 何も決まらずにただただ疲れた帰り道、なんとなく私とジャガーの二人でだらだらと学園に向かう。後ろからバカが付いてきてるけど今はもう相手する元気がない。とりとめのないことを適当に話しながら歩いているとジャガーが唐突に

 

「そろそろ学園を離れると思う。だからな、感謝祭盛大にやりたいんだ」

 

「そう……」

 

 そんな話だったとはね。ジャガーはオグリとかイナリの面倒よく見てるしそういう性格なのかとも思ってたけど。知らない関係でもないしやっぱりどうしても寂しさを感じてしまう。そのせいで何かを言おうとしてもその何かが思いつかない。

 

「ああ、別に暗い話じゃないから、元々いた大井のトレセンから学生兼コーチで戻ってこないかってな。今ではオグリやイナリなんか中央でも活躍できるやつは増えてきたけどそれでもまだ中央との差は大きい。でだ一応はこのステートジャガー様も三冠ウマ娘に勝ってG1勝ったこともある大先輩としてまずは選手兼、おいおいはコーチとして後輩どもを鍛えていこうって話だ」

 

「そう、なら湿っぽいのは無しね。それに大井ならいつでも呼び出せるしね」

 

「そこはいつでもお前が来る、って言うところじゃないのか?」

 

 どうやら寂しい別れではなさそうだし雑に追い出し会でもやってやればいいだろう。しっかし、あの宝塚の抽選会で暴れてたジャガーがコーチとはね。目標は? なんてふざけて聞けば

 

「いつか、いつの日か中央に移籍するのではなく、自分のトレセンで鍛えて中央に殴り込み、そして勝つ! いや、中央より先に世界で結果を残すってのもいいな。つまりは、そんな時代が来れば嬉しい、そのための下支えにでもなれれば、てな」

 

 それはきっと厳しい道でしょう、でも、夢は見るものね。そんなことを考えてたらやけに静かだったバカが小さく口に出す。

 

「ああ、ステートジャガー、一度話そう。君がトレセン学園を去る前に、新しい夢に向かって進む前に。夢の話をしようじゃないか」

 

 感慨深そうにバカが言う。バカからしたらこれもすべてのウマ娘の幸せを~てやつなのかもしれない。でもきっと

 

「まあ、そんな固く苦しいだけではなく、友人の晴れの門出を祝いたいんだ」

 

「まあ、このバカじゃないけど盛大に送り出してあげるわよ。覚悟しておきなさい」

 

 ……明るく行こう、最後ではないのだから。湿っぽくはさせないように望まれぬ終わりじゃないのだから。

 ああ、でも最後に、最後に同じレースを走れないのは少し残念ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 部屋に戻って一人あったかいものを飲む。別にジャガーのことがあったらというわけではないけど、理想の終わり方というものを考えてしまう。そもそも終わり方を考えられるほど偉くなったつもりはないけれど、それでも少し考えてしまう。身の回りで言えばタマもオグリも勝ち負けは分かれどもどちらもいい終わり方だった。

 

「他人のラストランを採点するだなんて傲慢さに反吐が出そうだわ」

 

 見ないようにしていたから、考えないようにしていたから、それでもきっと私はいつかターフを去る。今更G1の勝ち星を増やすなんて非現実的でしょう。であればドリームトロフィーに進むことはない。いい加減にトウィンクルを卒業しろと言われ続けているルドルフとは違うのだ。

 

「ああ、叶うならば今この瞬間に死んでしまいたい」

 

 宝塚記念を勝ったあの時、幸せと満足感の中で死んでしまいたかった。だけどもルドルフとの勝負が付いていなかった。あの北海道での望まぬ勝利、絶望の底で死んでしまいたかった。だけれども大好きなみんなが許してくれなかった。暮れの中山、きっと因縁にケリが付きそこから衰えていくだけなのだから死んでしまいたかった。だというのに私はもう少し先を走りたくなった。

 

 ああ、そして未だに私はこの緩やかな衰えの中を走っている。明日が今日より良くなる理由がない。だからこれ以上を見ないためにせめて今死んでしまいたい。

 

「今更ね……。ここまで無様に生きながらえたのなら最後の最期まで走ってしまいましょう」

 

 ああきっと、いつの日か訪れる日が笑って終われますように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジャガーの追い出し会も盛大に、盛大にしすぎたせいで各方面に滅茶苦茶怒られたのもいい思い出ということにしておきましょう。

 ……しっかしまさか大井トレセンでもあんな怒られるとは……

 

 まあ、気分を入れ替えて最近の学園の話題はもっぱら二つ

 

「春天のTM対決に、スプリンターの無謀なクラシック挑戦ねえ?」

 

 最近のレースに対する報道は少し加熱しすぎている気がする。春天もあたかもテイオーとマックイーン以外は話にもならないような書き方だ。確かに人気だけならそうなるだろうけどあの子に3200は少し以上に厳しいだろう。であればマックイーンの対抗は他にもいるはずなのにそれを書いている記事は少ない。まともに書いてあるのは月間トゥインクルぐらいだ。

 クラシックの方もミホノブルボンのことばっかりで他のウマ娘の記載が少なすぎる。この前タンホイザがぼやいていたのを思い出す。

 どちらに対しても、まともに解説している記事も今の行き過ぎた特定のウマ娘をもてはやす状態に警鐘を鳴らす記事も少しはある。だけれども紙面の面積も数も少ない。確かに正当な記事は今の状況では売れにくいのでしょう。でもこれは

 

「……ああ、オグリのときと一緒ね」

 

 あのマイペースが服を着ているようなオグリですらメンタルをやられている時期があった。あの時は理事長含め各方面が爆発して収まったけど。喉元過ぎれば熱さを忘れるなんとやらかしらね。

 

 

「真面目な話もいいがそろそろ答えを出して上げたほうがいいんじゃないか?」

 

「うっさいバカ。そもそも勝手に相席してんじゃないわよ」

 

「そんなことよりテイオーから天皇賞の決起集会に招待しているのに未だに参加の返事がないと相談されてね。本人はトレーニングで忙しいことだし私が代わりに催促しにきたというわけだ」

 

 いや、それはもう聞かなくてもわかってるんだけど……。

 

「だめね、その日はマックイーンの天皇賞連覇へ向けてのメジロでの壮行会があると私言ったわよね?」

 

 急に湧いてきて肩を割と力強く抑えてくるこれの言うとおり私は何もしていないのにダブルブッキング状態だ。そもそも私はどちらも出るつもりはないと正当な意見を言っても

 

「君のウマたらしのせいだ」

 

「身から出た錆ね、責任取りなさい」

 

 これだから名家の三冠ウマ娘は大キライなんだ!

 

 

 




ラモーヌは急に来るせいで石9000で来てくれなかったのであんまり出せないです……

後そろそろ言い訳できなくなったので完結外しました
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