皇帝の見えない折れた杖   作:冬眠復帰

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超難産です


夢見る機械と杖

 春の天皇賞の少し前、クラシックの本命ではないけれどそれなりに有力視されているマチカネタンホイザに食堂に相談があると呼び出された。

 

「うえー……、コバンさん、私皐月賞どうすればいいの~?」

 

「うっさいわね、それ私に聞く?」

 

 机に突っ伏して溶けウマ娘になっているタンホイザの頭をペシン、とはたく。今となっては流せるけどやっぱりクラシックにはあまりいい思い出はない。タンホイザにしても今のこの苦悩もいつかは笑って流せるようになるんだろうけど、今この時、本人に取っては何より重い問題なのだろう

 

「頑張んなさいよ、ここまでまあまあの戦績で来てるでしょうに」

 

 確かにタンホイザの戦績は飛び抜けたものはない。それでもここまで掲示板には載り続けて重賞にも出走している。

 

「そうだけどさ~、こう、わかりますよねー?」

 

「あーあー、タンホイザもぐでぐでになっちゃって、コバンさんもこんにちは」

 

「はい、こんにちは。そろそろ面倒くさくなってきたからこれ持って帰ってくんない?」

 

「いやー、皐月賞を走ってないネイチャさんには荷が重いので、ここは先輩におまかせする方向でお願いします……あいたっ」

 

 舐めた口を利いてくる自称普通のウマ娘も方も頭をはたいておく。そもそもね、あんたここまでの戦績口に出して言ってみなさいよ。それで大声で私は普通のウマ娘ですって言ってみなさい。できたら普通のウマ娘って言ってあげるわよ。

 

「えー、あー、いや……、ごめんなさい」

 

「あんた、やっぱり根っこのところではテイオーと似てるわよね。自信家というかなんというか」

 

「いやいやいやいや! ネイチャさんをテイオーと一緒にされると困るというか、恐れ多いというか……」

 

 この無自覚の煽りに突っ込むのしんどいんだけど……。

 もうそろそろ相手するのもめんどくさくなってきたんだけど、ここで放り投げるのも後味悪い……、いや大丈夫ね。

 

「はいはい、じゃあ後は自分とこのトレーナーと頑張んなさい。悩み事はそこの自称普通のウマ娘さんが聞いてくれるらしいから」

 

 空になって残っていたかすかな温もりも冷めた食器を下げようと立ち上がる。踵を返して返却口に向かおうとすれば

 

「ターゲットを確認しました。この後お時間よろしいでしょうか」

 

「……ちょっと待ちなさい」

 

 タンホイザの仮想敵、今一番話題のミホノブルボンが感情の読めない顔で立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 食事も終わった以上場所を取り続けるわけにもいかないし、学園内をぶらぶら、適当なベンチを見つけて並んで座る。話し始めるのを待っていればなにも声をかければ

 

「話し始めるのを待っていました。それではミーティングを開始します」

 

 ……堅苦しいというかなんというか。それでも話を聞いてみればありきたりなもので、要約すれば

 

「クラシックで勝つためになにかアドバイスが欲しい、ねえ。トレーナーはなんて言ってんのよ。話してないわけ無いでしょ」

 

「マスターからはダービーまでは問題ないと。しかし、長距離である菊花賞を勝つためにはもう一押し何かが欲しい。とのことです」

 

 思ったより担当間の関係は良好なようで、しっかりと意志疎通は出来てるみたい。今回もトレーナーからというより、なにか、を探すために自発的に動いているようだ。

 

「マスターは三冠という目標のために必要な工程を提供してくれています。しかし、三冠という難題を達成するためには与えられるだけではなくウマ娘側からもアプローチが必要だと考えます」

 

「あんた、わかりにくいけど結構熱血なのね」

 

 世間では無謀だと言われ、同期から強者として扱われ、見た目は無感情。でも中身は普通のウマ娘みたいね。

 さて、どうしてもんかしらね。これでもレース経験は長いしアドバイスはできるけど逃げはやったことないし、雑なアドバイスをするわけにもいかないし。そもそもブルボンのトレーナーを通さずに変なこと言ってトラブっても嫌だしね。

 

「ひとまずその辺含めてもっかいあんたのトレーナーと話してきなさい。それでもってなったらなんか考えてあげるわ」

 

 もし動くならブルボンのトレーナーの意見や方針も聞いておかないといけないしね。

できればこのまま何もなく終わって欲しいけど、トレーナーなんて難儀な生き方している人種なら、つかめるのなら藁でもつかもうとするでしょうね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 まあ、やっぱりという感じで放課後トレーナー室でキングの勉強を見ていたらブルボンがトレーナーを連れて来た。来たんだけど……

 

「何その……」

 

 あぶないあぶない。ついストレートな意見が口を出そうになった。だけどいくらなんでも素肌に一枚、前開きで引っ掛けるだけはおかしくない? 男性とはいえ、いや男性だからこそ思春期の女子を受け持つにはちょっと刺激的すぎでは? まあ、ブルボンは懐いてるみたいだし、よそのことに口出しするのはやめておきましょう。だからキング、あんたも隙間だらけの手で顔を隠すのはやめなさい。

 それからちょっと真面目に色々話を聞く。こっちは今年クラシック走る子はいないしバッティングするほど近いウマ娘もいない、オブザーバー的にアドバイスすることになった。キングの同期には逃げで有力な子もいるらしいしメリットも有る。

 で、色々話を聞いてみれば

 

「ラップ走ねえ、なんというかバカな天才が考えた最強の走り方って感じね」

 

 楽でいいと言われたからいつもどおりの口調で思ったままを話す。確かに最初から最後までレコードを出すようなタイムを等分してその通りに走れれば勝てるでしょうけどそれができないから逃げは難しいと言われるのだ。

 最近は逃げを選ぶウマ娘も増えてきたとはいえ、先行や差しに比べれば勝ちにくい脚質であることは間違いない。この前のダービーで逃げ切りで勝った、なんてのもあるけどそれでもわざわざ"逃げ"でダービーを勝った。と強調されるぐらいだ。マルゼンさんぐらいに飛び抜けていれば何の問題もないだろうけど、例外を比較対象に持ってくるのはよろしくないでしょう。てかあの人逃げかどうか怪しいレベルだし。

 

「まあ、そのあたり私は逃げのノウハウなんてないし、トレーナーどう?」

 

「俺もないとは言わないがここまで方針が決まっている、それも他の担当になにか言えるほどはないな。どうだキング、どっかで逃げでもやってみるか?」

 

 冗談ぽく逃げを振られたキングもなんとも言えない顔で首をふる。そんなこんなでいまいち逃げに対してアドバイスも出来ないしそもそもなんで私達に話を振ったのかを聞いてみる。よく考えなくてもそもそもノウハウが有るところに行けばいいのでは?

 

「それは……」

 

 返ってきたのはなんとも悲しい話だった。ブルボンはあまり上下の世代に知り合いが少なく、同期に相談するわけにもいかない。んで問題のブルボンのトレーナーはどうやら見た目とひたすら坂路を走らせるスパルタのせいで評判、というか人気がよろしくないらしい。能力は有るので、今までは特に困ることはなかったそうだが今回遂に、という感じのようだ。

 しかし、そうであれば話は早い。餅は餅屋、逃げは逃げ屋。ということで知り合いを紹介すればいいだろう。差し当たって世代が離れていて経験も豊富な逃げウマ娘というとマルゼンさんかエース先輩になるんけだけど、と個人的には豪華な人たちを紹介しようとしたけどどうやらお眼鏡には適わないようで、この二人が割と逃げではトップだと思うんだけど?

 

「カツラギエースの根性で粘るような逃げはブルボンに向かない。最後にスパートできるほどの余力があるというのはラップ走としては失敗だ。理想としては確実に時計を刻み、ブレない走りができるウマ娘が最適だ。マルゼンスキーは……、あれは逃げていないだろう」

 

 なるほどね、確かにエース先輩の根性で伸びる走りはラップ走の対極になるものだろう。しっかし、マルゼンさんの走りを見ただけで見抜いているのは流石というか。

 

「分かったわ、それなら適任がいるし、顔見知りだから仲介はしてあげる。だけど最後はちゃんと自分で話しなさいよ」

 

 時間感覚が優秀で、逃げが得意なウマ娘ねえ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アポも次の日の放課後には取れたので、ブルボンを回収してカフェテリアに向かう。どうやら携帯が調子悪かったようで直接探しに行く羽目になって少し遅れてしまった。んで、今日の相手的には

 

「3分18秒の遅刻ですね。余裕あるスケジュールをお願いします」

 

 まあフラッシュはがつっけんどんに言ってくるわけで、

 

「でもファル子とのおしゃべり楽しかったでしょ。だから問題なし! ってことで。ブルボンちゃんもほら座って座って!」

 

 元気に騒がしいファルコンに促されて着席する。どうやらブルボンもファルコンと知り合いだったようで思ったよりスムーズに行きそうで何よりね。

 

 

「で、改めて紹介するけど、こっちの黒いのが時間管理が大好きなエイシンフラッシュ、でこっちの丸っこいのが逃げが得意でこれまた逃げが得意で時間間隔を教え込ませるのがうまい名瀬トレーナーのチームに入っているスマートファルコン。多分ブルボンの目指す走りにはあってると思うわよ」

 

「ミホノブルボンです。よろしくお願いします」

 

 自己紹介で頭を下げるブルボンにきちっと挨拶を返すフラッシュと、フランクに返すファルコン。いやこの二人同室なのは知ってるけどこんな正反対なのに仲がいいわね。

 今日はあくまで顔合わせということで各自好きなものを食事しながら雑談交じりで話していく。

 フラッシュとブルボンの組み合わせはお互いきっちりしてるというか遊びが無いというか。それでも二人とも嫌な性格な訳では無いし、そうね、お菓子作りでも一緒にやったらいいんじゃないの? フラッシュは言うまでもなく、ブルボンも名前的にも性格的にも得意そうじゃない?

 

「そうですね、ブルボンさんとなら狂いなく作業を進めることが出来そうです」

 

 フラッシュも乗り気のようだ。んでもう一人のファルコンの方は……

 

「もう! さっきからなんでファル子って呼んでくれないの!? 前からお願いしてるのに!」

 

「うっさいわね。別に間違えてないからいいでしょうが」

 

 ファルコン……「ファル子!!」 ……このうるさいのはどうやら個人でやってるウマドルとやらに誘うために面識があるようだ。なら、そもそも私を通さずに直接ブルボンから行けばよかった気もするのだが、ブルボンとしてはウマドル活動を断った手前後ろめたさがあったようだ。今回もその負い目もあり、ウマドルに参加したほうがいいか、なんて言い出すけど。

 

「大丈夫だよ! それはそれ、これはこれ。ブルボンちゃんが参加してくれると嬉しいけど、ウマドルをやってくれるなら、こうなにかのお返しとかじゃなくてブルボンちゃんがやりたい! て思ったらで大丈夫だよ! ウマドルはね、やりたいからやるんだよ!」

 

 まあ、言動はちょっとアーパーなところもあるけど本質はすごく真面目なんだろう。だから名瀬トレーナーの率いるチームであってもウマドル活動を認められているんでしょう。

 それから三人+私でまったりと親睦会を進める。結局二人ともブルボンにはできる範囲で協力してくれるようだ。特にファルコンの方は頼られたのが嬉しいのか、そもそもブルボンを気にいってるのかかかり気味な気がする。まあ、名瀬トレーナーも、ファルコンをメインで見ているサブトレもいるし大丈夫でしょう。

 さて、心配だったブルボンのコミュ力もファルコンがいるなら大丈夫でしょう。これ以上ここにいてもやることないし、変に役に立たない先輩がいてもあれでしょうしここらへんで退散しましょうか。先払いのカフェテリアなんで伝票持っていく先輩ムーブも出来ないし適当に断って場を後にする。ああブルボン、そんなかしこまらなくていいから。恩を感じるならちゃんと走り切ってくれればいいわよ。

 しっかし、最近ブルボンと一緒にいる時に隅っこでチラチラでかい耳出してるあのウマ娘なんなのかしらね?

 

 

 

 

 それからは比較的平穏な日が続いてくれた。ブルボンにアドバイスしていたのを見たとかいう逃げのウマ娘がもう一人トレーナー室に乗り込んで来て一悶着あったけど適当にスズカに押し付けたので解決済み。だけどあの娘、皐月とダービーは厳しいでしょうね。夏で一皮むければ菊花賞はワンチャンあるかもしれないけど。

 

「で、なんであんたらに奢らないといけないのよ」

 

「先輩、ごちそーさまでーす」

 

「Thank you for the treat. いい店を教えてやったんだ。いいじゃねえか」

 

 シチーとシチーが合わさってめんどくささも二倍でストレスが溜まりそう。ああそういえばタップの方のシチーも逃げウマ娘だったわね。でもまあ、流石に経験が足りないわね。

 それからダラダラと何の生産性もない無駄話をしていると後ろから

 

「は~い、そこのイケテル彼女たち! ちょっといいかな~?」

 

 今どきドラマでも聞かないようなノスタルジックすら感じるセリフが飛んでくる。この学園でこんな話し方をするのは

 

「なんですマルゼンさん……と、そこにいるのは……」

 

 マルゼンさんのの後ろにチマっとついてきているのは

 

「ブルボンをストーカーしてるデカ耳ウマ娘じゃない」

 

「ライスはストーカーじゃないよ!?」

 

 見た目の割にふてぶてしい匂いがするウマ娘のせいでまた厄介事が増えそうな匂いがプンプンするわね……

 




アニメ2期再構成とか難しすぎない?
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