中山大障害も有馬記念も素晴らしいレースでした。入り口はウマ娘だけど原作にも興味を持てて良かったと思える一年でした。
追記
見返したらめちゃくちゃ馬の漢字使ってしまっていた…… 他の人が使ってる二本足の馬の漢字ってどう使えばいいの
菊の季節に桜なんて咲くわけもなく、私は結局自室のテレビでルームメイトと一緒に観戦している。未だに出走できなかった悔しさより出走しなくてよかった安堵感を感じてしまったことへの情けなさと怒りを引きずっている。けれどもこの世代のウマ娘として、この一年曲がりなりにも走った一人としてこのレースを見ないという選択肢はなかった。画面を見ればあいつのいつものように自信満々というオーラが、必勝の意気込みがこちらまで伝わってくるようだ。実際多分あいつが勝つんだろう。このまま行けば私達はあいつに一度も勝てなかった世代として名を残してしまうのかもしれない。あいつが今後不甲斐ない結果を残せば弱い世代だと言われてしまうかもしれない。前者はともかく後者に関しては実はそれほど心配していない。いけ好かないアイツのことだ、これからも勝ち続けていくんだろう。
「誰が……、ううん、ルドルフちゃんはどうなるんだろうね」
ルームメイトの言い分はおそらく正しい。今回のレースに関して誰が勝つかなんて予想はほとんどがしていない。あるのはあいつが勝つか、それとも負けるのか。他の誰かが勝っても将来的にはわからないけど当面はあいつが負けたって見出しになるだろう。本人は関係ないとはいえ何処までも腹が立つ。勝者ではなく敗者にスポットが当たるなんてそれは誰にとってもひどい侮辱だ。そしてあいつが勝ったとしてもそれは今日今までのあいつとは違うなにかになるだろう。本人が望むと望まざるとに関わらず世間が一人のウマ娘であることを許してくれないだろう。
「あ、始まるね」
考えたくもないあいつのことを考えていたらいつの間にかファンファーレが鳴り響いていた。誰もが緊張の面持ちでゲートに入っていく。そして無慈悲にもゲートが開く。
やはり本能がそうさせるのか呼吸すら忘れるような三分七秒。あいつにしてはギリギリな着差ではあったけどそこに史上初の無敗の三冠ウマ娘が誕生した。
「……わかってたけどやっぱりルドルフちゃんすごいね……」
「まあね、」
一度は競って因縁もできた相手。だけど今日あいつは私の……、私達の手の届かないなにかになってしまったのかもしれない。
それから少しして
「じゃーん、おまたせ!」
そう言いながら持ってきたのは誕生日だとしても大きすぎるホールケーキだった。彼女は桜花賞へ出走できなかった悔しさをバネにオークス入着、その後の秋華賞では全くの無人気からまさかの一着をもぎ取った。あの時は頼まれて私も現地にいたんだけどゴール板を駆け抜けた瞬間飛び上がって喜んだものだ。あの時は神戸新聞杯での惨敗も、自分に対する負い目も忘れて泣きながら二人で喜びあった。もちろんそのまま二人でお祝いをしよう誘ったんだけどさすがG1ウマ娘様、今日の今日まで予定が合わなかったのだ。せっかくの彼女のお祝いだけどついさっきのあいつのレースのせいで私のテンションは微妙な感じだ。いけない。ちゃんと彼女のお祝いをしないといけないのに。なんて考えていると当の彼女が何処からか小さなチョコレートを取り出してケーキの天辺に突き刺した。祝秋華賞と書かれている今日の主役の横には
「打倒無敗の三冠ウマ娘……」
「いやー、用意してたのが無駄にならずに済んで良かった、良かった」
なんてことないように彼女は言うが、今日は彼女が主役でありこのケーキも彼女のものだ。自分の好きなものを用意したいと言って半ば無理やりに彼女自身が手配をした時は不思議に思ったがなんのことはない。彼女は自身のG1勝利という大事な大事な祝の場で私を鼓舞することを選んでくれたのだ。何処までも優しい子だ。私なんて自分のことで精一杯でいつも迷惑ばかりかけていたというのに。
「どう……? 迷惑だった?」
ケーキを前にして黙り込んでいた私を不安に思ったのか心配そうな目で覗き込んでくる。
一度……だけじゃなく何度も折れてきた私だけどここまでされて立ち直れないわけがない。バッ! と勢いよく顔を上げて驚く彼女を尻目にケーキに素手で掴みかかる。秋華賞のプレートに触れないように慎重に、それでも私に向けられたプレートを、思いをほんの少しだって取りこぼさないように大胆に。いつもだったら絶対に口に入らないようなその塊を一気に口に放り込む。
「あー! 私のケーキ!」
そんな明るい非難を浴びるが今の私は口いっぱいのケーキを飲み込むので必死だ。事前に用意しておいた飲み物の力も借りなんとか飲み込んで
「私へのプレート刺した段階でこれは私のケーキでもあるの!」
「なら私も食べてやる!」
そう言いながら彼女も用意していたフォークたちも使わず素手で食べ始める。それから二人で口の周りをクリームだらけにしながら大きすぎるケーキを全てお腹の中に押し込んだ。
その後後片付けは大変だった。けどそれでも今までにないぐらい楽しくていつまでも二人笑っていた。
翌日教室に入れば昨日の主役の姿はなかった。けれどもやっぱり昨日の菊花賞の話題で持ちきりだ。それでもその話題を話す顔は他の学年とは違うものになる。先輩であれば素直に尊敬できたであろう、後輩であれば手放しで称賛できたであろう。しかし史上初の無敗の三冠ウマ娘は私達の世代から生まれてしまった。あいつのせいで勝てなかった者がいる。あいつに負けたせいで無敗の三冠ウマ娘の世代の一人でしかないと言われる者がいる。それらを踏まえてもクラスメイトの偉業を祝福したい。正と負が入り混じったなんとも言えない空気を醸し出していた。そして久しぶりに周りにまで目が行くようになったことで気づいた事がある。
「人数へったね……」
誰に言うわけでもないけどいつの間にか私のクラスには空席が目立つようになっていた。空席と言っても昨日今日欠席しているとかではなく机ごと減っているのだ。季節も秋になれば学園を去るものも多い。風のうわさではあいつがこの世代にいたことでクラシック級を重視するトレーナーの中にはより下の世代のスカウトに移行した人もいるとかいないとか。もちろんこれはどの世代でもあることだしあいつのせいにするつもりはない。それでもいつの間にか想像以上に風通しが良くなってしまっている教室を見るとどこか寂しく感じてしまう。
きっと彼女たちは大人になったのだろう。確かに現実として実力の差というものはある。だけどそれでも未だに無謀と言われようとも挑戦し続けている者もいる。きっとここで走り続けるには誰をも踏み越えていけるような強さか、子供のように、無邪気に無慈悲に無謀に挑み続ける熱量がいるのだろう。そして多分私にはそのどちらも持つことはできていない。実際少し前までは圧倒的な強さの壁に打ちひしがれていた。多少は勝てている以上条件は違うだろうけど主観としては何も変わらない。そして私は折れていた。挑み続けることから逃げようとしていた。そんな私が未だにここに居られるのは周りに恵まれているからだろう。ルームメイトのあの子も、こんな私を見捨てずに背中を押してくれるトレーナーも私にはもったいないぐらいだ。それでもそんな望外の良縁に恵まれた以上私は私だけで折れてはいけないんだと、隙間の空いた教室を見ながら改めて心に決意を宿す。
放課後トレーナーとの今後の打ち合わせは順調に進んだ。最近まで私のメンタルがズタボロだったので建設的な話はほとんどできていなかった。それが急にもとに戻ったもんだから何があったって質問は当然だと思う。別に隠すようなことでもないのでルームメイトに励まされたって伝えれば嬉しさ半分、悲しさ半分の表情が返ってきた。何か良くないことでもあっただろうか、もしかしてケーキのせいで体重制限が必要とか? と軽く聞いてみれば
「今日まで私にできることは全部やってきたつもり。励まそうと立ち直ってもらおうといろいろなことを試した。けどそのどれもが効果はなくて、急に元気になったと思ったらルームメイトに励まされたって聞いたら私ってなんだろうって思ってね」
いけない、これはいけない。私が元気になったと思ったら今度はトレーナーさんが落ち込みモードだ。それも原因は明確に私の身勝手じゃない。後ろめたいことはないけど申し訳無さはいっぱいなんであたふたしながら励ましてみる。
「い、いやですね? ウマ娘は群れる本能があるらしくでですね? であれば同じウマ娘に励まされるのに効果があって当然で……」
「なら、人間の私は不要ってことね。トレーニング計画だけ考えていればそれで十分だと」
いやー! 墓穴掘った! 授業で聞き流してたことをつなぎ合わせて話しても逆効果だった。もうパニック状態の私は身振り手振り前回でなんとかしようと意味のわからない言葉を並べ続ける。そのうち小さな笑い声が聞こえてくるとそっちを見ればいつの間にかトレーナーさんが笑っていた。
「もしかしてからかいました?」
恥ずかしさをごまかすつもりで強めに聞いてみれば返ってきたの思ったよりも真面目な声で
「まさか、自分の無力感に絶望していたのは本当。いくら頑張っても同じウマ娘には勝てないんだって。でもその後貴女は必死に私を励まそうとしてくれた。それも真剣に。それで私は心配されてるんだって、信頼をもらえてるんだって思えたら気持ちが軽くなった」
どうやら私が無様を晒したのは無駄ではなかったようだ。それでもトレーナーさんは勘違いしている。それは正しておかないといけない。
「私はいつだってトレーナーさんのことを信じているし感謝してる。私を選んでくれたこと。いつだって私が情けなくなったら背中を押してくれること。いつだって私のために全力だってこと。全部全部覚えているし感謝している。だからこれからも迷惑をいっぱいかけると思うけど同じぐらい私を頼ってほしい」
珍しく真っ直ぐに感謝を伝えたらトレーナーさんったら涙ぐんじゃった。確かにこんなにしっかり気持ちを伝えたのは初めてかもしれない。
「ありがとう、改めて君を担当に選んで良かったと思ったよ」
「今更? もっと前から思ってくれてよかったのに。まあいいわ。今は気分がいいから何でもお願い聞いてあげる」
「なんでも? ……ならあのシンボリルドルフに勝ってって言ったら叶えてくれる?」
「……それはお願いなの?」
「そう、お願い。計画でも目標でも指示でも命令でもなくてお願い。私の信じた愛バはたとえ無敗の三冠ウマ娘が相手でも負けない最高のウマ娘だって世間に見せつけたい」
ああ……。トレーナーさんの目が静かに燃えている。いつ以来だろう私が負けが込みだしてから見ていなかった姿だ。そして今の私もその熱量に応えるだけの熱さは持っているつもりだ。ボロ負けして、落ちぶれてそれでもこの人は私を信じてくれている。こんな私に夢を見てくれている。だったら私も燃え盛りましょう。燃え尽きたなんて誰が言ったのか。私の中にはまだこんなにも満ち溢れている。
「厳しいよね」
「不可能の半歩手前だろう」
「不可能じゃないのね」
「地獄を一つ二つ乗り越えないといけないだろう」
「たった一つ二つでいいのね」
私が出した手をトレーナーさんが強く握り返す。スカウトされた時以来かもしれない握手。あの時とは違い現実を知った。絶望もした。だけれども覚悟だけはあの時と同じ様に、ううんそれ以上に決まっている。
「シンボリルドルフに勝つ」
二人で声を揃えて、無敗の三冠ウマ娘が生まれた次の日に決意表明だ。
なんて格好をつけたけど、そうであればトレーニング計画を一から作り直すとのことで今日は急遽お休みになってしまた。あんなに決めたのにそのまま帰らされることになって不完全燃焼だ。
どうしようか、なんて学園内をうろついていたら見覚えはあるけど記憶に引っかからない人がいた。向こうはそうでもないようで私に声をかけてきた。
「やあ、こんなところでどうした?」
「え、ええと……」
「……実際に会うのは初めてだったか」
挙動不審な私を見て察してくれたのだろう。自己紹介をしてもらった。そしてこの人はなんとあいつのトレーナーだそうだ。聞いてみれば昔に送った私の挑発写真もこの人の携帯を経由してあいつに渡ったはずだし、そもそも皐月賞では台無しにしたのに私の弁護をしてくれた聖人のような人だ。そのことのお礼と謝罪をすれば
「それはもう終わったことだ。それにおかげでルドルフの歪さにも気づく事ができた」
そう言ってくれた。しかし歪さとはなんのことだろう。それはともかく機会があれば何でも言ってくれといえば考え込んだ後
「……頼み事か。ちなみに今はルドルフとは仲がいいのかい?」
「少なくとも私からはまったく」
どうやらこの人の悩みはあいつ関連みたいだ。残念がら未だに私はあいつのことが大嫌いだ。それでも目の前のこの人には恩もあるし嫌いでもない。仕方ないから聞くだけ聞いてみれば
「頼めるのならルドルフにジャパンカップの出走辞退の説得をしてくれないか」
今日はどうやら安請け合いをしすぎなようだ。
めんどくさい、どう考えてもめんどくさいが自分から言った手前断れない厄介事が転がり込んできたようだ。
これプロットもクソもなく勢いだけで書きなぐってるのでどう考えても読み切りの方のゴールにならない気がしてきてどうしよう……
ルドルフ以外のネームドキャラは
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いる
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いなくてもいい