皇帝の見えない折れた杖   作:冬眠復帰

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短めだけど年末の挨拶ついでの更新です。
本年というほど長くないけど感想、評価ありがとうございました。来年もちょくちょく更新していきたいと思っているのでよろしくおねがいします


ハリボテの日本総大将

 いくらあいつが規格外だとはいえ中一週、それも菊花賞3000を走り終えた後にジャパンカップに出走するのはどう考えてもおかしい。普通であればバカなトレーナーがあいつの強さに目がくらんで無理やり出走させた。なんて理由でもない限り納得できない。ところが少し話しただけだけどあいつのトレーナーはそんな無茶をやらせるような人には思えないし、それどころか仲が悪いと言い張った私にさえ説得するようにお願いするぐらいだ。

 

「まあ、こんな有様じゃね」

 

 何処から漏れたのかあいつのジャパンカップ出走はあっという間に広がっていた。そしてそれに対する反応は

 

「さすが! ルドルフさんは私達にできないことができるんだ!」

 

だとか

 

「普通なら無理でも彼女ならやり遂げるだろう」

 

 なんてきたもんだ。もちろん後で聞いた話ではトレーナーたちは首を傾げていたり心配していたようだ。しかしトレーナーという肩書ゆえ他人の出走計画に口を出すことを良しとはせず、あいつのトレーナーと仲のいい人たちが声をかける程度だったらしい。

 

「しっかし、どうしたもんかね」

 

 説得して欲しいとは言われたけど何を話せばいいかわからないし、そもそも私なんかの話を聞き入れるはずがない。これがもし先輩、例えば前年の三冠ウマ娘でありあいつと同じく今回のジャパンカップに出走予定なあの人であれば話は聞くかもしれないけど、意見は変えそうにないのがなんとも。そしてそれにもまして物理的にあいつに話しかけられていない。そもそも何処にいるのよ。こんなことなら居場所ぐらい聞いておけばよかった。

 

「昨日の今日だし普通に考えたら自分の部屋で休んでるんだろうけど……」

 

 ただ皐月の前日のことを思い出すと考えたくもない事実が浮かんでくる。そもそもなんで私があいつのことで悩まないといけないのか。いろいろ面倒くさくなった私はさっさと終わらせるべくその場所に向かう。

 

「生徒会室ね……。私には一生縁のない場所だと思ってたのに」

 

 無駄に重苦しい扉の向こうからぼんやりと話し声が聞こえてくる。いやこの扉の厚みを想像すれば話し声じゃなくて怒鳴り声かもしれないけど。

 

「お邪魔しますよー、相談事があるんだけど」

 

「後にしろ! ……すみません、後にして貰えますか」

 

 ちゃんと挨拶して入ったのに怒鳴られてしまった。アイシャドウが特徴的なこのウマ娘は後輩の……誰だっけ? その横に立っている鼻テープと何故か葉っぱを咥えているのと二人合わせて生徒会の副会長だったはずだ。怒鳴った後に私を見て上級生だと気づいたのだろう。敬語こそ使ってはいるがぶっきらぼうな態度だ。奥を見ればあいつが神妙な顔をして偉そうな椅子に座って何かを考えているようだ。未だに扉を開けたまま動こうとしない私に刺すような視線を飛ばしてくるが私だって来たくもないのにわざわざ来てやったんだ。はいそうですか、なんて帰れるわけもない。

 

「こっちも急ぎでね。どこぞのバカウマ娘が無理やりジャパンカップに出走しようと駄々をこねてるみたいでね。そのトレーナーから頼まれたからさっさと終わらせたいの」

 

 そう言うと副会長二人は私の方を期待を込めた目で見てくる。大方この二人もあいつを説得していたのだろう。後輩からも愛されているようで面白くない。

 

「それは助かります! 会長を説得するのを手伝ってください!」

 

 そんなことを言われても私はひねくれ者だ。

 

「あんた達を手伝う気はないよ。さ、私は今からひねくれ者のバカと話さないといけないから出てった出てった」

 

 どうやら私の話を聞いて援軍が来たと思ったんだろうけど、そんな訳はない。この二人がいたらもっと面倒なことに巻き込まれそうな匂いがする。

 

 

「なっ!? 先程の非礼は侘びます! だから……」

 

「そんなのは気にしてないからさっさと出てって。私だってさっさと自分の用事終わらせたいんだから」

 

「……そうだ、これは私が決めたことだ。君たちに何を言われても覆す気はない」

 

 思ってもみない所からの援護射撃もあり副会長二人は渋々部屋を後にする。出ていく際二人共に思っきり睨まれたけど、これまた別の厄介事になったりしそうで怖い。

 

 それはともかく扉も閉められあいつと二人っきりになった部屋で私はできる限り偉そうに真ん中に鎮座しているいかにも高級なソファに腰を下ろす。

 

「さて、ここの家主は客に飲み物すら出さないの?」

 

「話すことはない。すまないが今忙しくてね。退出を願いたい」

 

「コーヒーが希望だけどないなら他のでも我慢してあげるからさっさとしてよ」

 

 私とあいつどちらも視線どころか相手に顔を合わせることもなく言いたい放題だ。それから数分が経っただろうか。これ以上は時間の無駄かな、そんなことを考えていたらしびれを切らしたのかあいつが立ち上がって飲み物の準備を始めた。それからあっという間に二人分のコーヒーと茶菓子が出てきた。まずはそれを一杯口にする。

 

「淹れるのは上手いんだろうけど私好みの味じゃないわね」

 

「それはすまなかった。次回淹れる時の参考にしたいので好みを聞いても?」

 

「嫌に決まってるでしょ。次なんてないわよ」

 

 なーにあたかも友人に接するような態度取ってんだか。それはともかく私としても今日はお茶しに来たわけでもないしさっさと本題に入ろうかしら。

 

「さて、優秀な生徒会長様に相談なんだけど、つい昨日初めての3000のレースを走って勝ったバカが間を置かずにジャパンカップに出走しようとしているらしいんだけどどう思う?」

 

 まあ心当たりしかないだろうし、うつむいて黙ったと思ったら耳を倒して威嚇してきやがった。

 

「君も私の出走を止めに来たのか?」

 

「あんたのことなんて知らないわよ、言ったでしょ? 知り合いのトレーナーに担当がバカな出走しようとしているから説得してくれって頼まれただけ。なに? あんたもバカみたいなことしようとしてるの?」

 

「バカみたいだと……、君は私がどんな思いで出走を決意したと思っているんだ……!」

 

 いつも冷静なこいつらしくない態度にちょっとビビってしまう。ちょっと、ちょっとだからね! そんなことよりこいつがそんなにまで思い詰めるなんてよっぽどな理由があるんでしょうね。確かにこいつの事は大嫌いだけどそれでも理由も聞かずにバカにするのはちょっと宜しく無かったかもね。

 

「理由なんてわかるわけないじゃない。私とあんたの関係なんてそんなもんよ。んで、その大層な理由を聞いてあげようじゃない。器の大きい私に感謝しなさいよ」

 

「いくらなんでもその態度はダメじゃないか……?」

 

 偉そうに腕を組んでふんぞり返る。今更こいつに好かれようなどという気はないし不満だってことを全力でアピールしていく。

 

「……依頼を受けたんだ。URAから無敗の三冠ウマ娘がジャパンカップで初の日本ウマ娘の勝者になってほしいと」

 

 なにか戯言を聞いた気がするから聞き直してみても同じような回答が返ってくる。もしかしてこいつは本気で言っているのか? 視線で問いただせば首肯が返ってくる。一瞬にして頭に血が上りきった錯覚を起こす。聞いたのは私で回答が気に食わないからと当たり散らすのは流石に情けない。やけどなんて気にもせず好みでもないコーヒーを一気に飲み干して音を立てながらソーサーを戻す。

 

「あんたが淹れたのがホットだった幸運を喜びなさい。じゃなかったらあんた今頃コーヒーまみれよ」

 

 耳を倒し、座っているというのに無意識で脚は床をかいている。殴り掛かりそうになる自分を全力で止めている自分を褒めてあげたいぐらいだ。

 

「なによそれ、頼まれた? しかもURAから? そんなの大人の都合じゃない。あんたが菊花賞に出てなかったなら別にいいけどわかってんの? こんな簡単なスケジュールも管理できないほどの間抜けになった?」

 

「失礼な言葉遣いはいい加減にしろ。確かに依頼があったのは事実だが、私が必要だと考えて出走を決めたんだ。それを他人にどうこう言われる筋合いはない」

 

 向こうも大分と機嫌が悪くなって来たようだ。私もこれ以上このバカと話すつもりもないしさっさと出ていくとしよう。扉に手をかける前に振り返れば未だにソファに一人座り込んでいる。俯いているからか表情は見えないがきつく唇を噛んでいるのだけはわかる。

 

「ねえ、どうせならシンボリルドルフなら無茶なスケジュールでも、相手が世界の強豪でも問題ない。私は最強だ。ぐらいは言ってよ。いけ好かないし認めたくないけどあんたは私達の世代の代表なのよ。そんなあんたが大人に言われたから出走しますなんて、そんな情けないこと言わないでよ……」

 

 顔を見ていないから、顔を見せなくていいから、ほんのちょっぴりの本音が漏れてしまったとしても私はわるくない。

 

 

 それからあいつのトレーナーに止められなかったことを謝罪と一緒に連絡すれば、期待はしていなかったから気にしなくていい、そんな返ってきた。そんな事は言うけど藁にもすがるように、こんな私にまで頼ってきたんだ。あの人なりの優しさだろう。そういえば追い出した二人に連絡する方法がないや。ま、いっか。あいつにもちょっとは頭を冷やす時間が必要だろう。

 さてあんなこんなでもういい時間になってしまった。トレーニングもないのであれば課題でもやるべきだろうか。レースの成績が良くない以上他のことで足を引っ張りたくはない。そもそもアイツのせいで無駄な時間を取られてしまったんだ。今日ぐらいはやけ食いでストレス発散しても許されるでしょう。そう考えて何人かの友人に連絡を送ったけど返事は返ってこない。よく考えなくてもまだトレーニング中か。かといってトレーニングをしてない子はと考えても大体が未だトレーナーがついてない子ばかりだ。彼女たちの時間を奪うなんてこともしたくないし。かと言って一人で暴飲暴食をするほどの勇気も勢いもない。こんな中途半端な時間に放り出されてしまったことが今日の厄介ごとの終わりになると信じてもう大人しく部屋に戻ってしまおう。

 

「……本人には言えるわけはないけどあんたを倒すって今日決めたんだから無茶でも望んだレースじゃなくても不甲斐ない結果みせんじゃないわよ……」

 

 あいつのために祈るなんて死んでもゴメンだけど、私の目標のおまけであいつのことを願うぐらいは許してやろう。口すら出さずにそんなことも考えながら部屋に戻る前に購買にでもよろうと歩き始める。どうせなんだかんだあいつのことだからジャパンカップも勝つだろうし、私が勝つための弱点でも見せてくれたらいいのに。

 無遠慮に無神経にあいつの勝利を私は疑いもしていなかった。

ルドルフ以外のネームドキャラは

  • いる
  • いなくてもいい
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