皇帝の見えない折れた杖   作:冬眠復帰

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オリ主タグ入れ忘れて警告貰ってしまった。連載にする気もなかったので完全に忘れてた。

特に関係はないんですけど原作のシンボリルドルフは何やってもいいと思ったところでは自由気ままに暴れてたそうですよ?


奇跡もなにもない有マ記念

「私はなんでここにいるんでしょうね……」

 

 暮れの中山、自分が走るレースがあるわけでもないのにこの寒空の中、私はスタンドの最前列で寒さに歯を食いしばっている。

 いくら私でもトレセン学園に通ってる身として予定がないのであればこのレースは観る気でいた。しかしそれは自室で暖房を効かせながらルームメイトとてきとーなことをくっちゃべりながらの予定だった。ケチが付き始めたのはまずルームメイトがどうしても外せない用事ができたらしいところからで、昨日から顔すら見ていない。この年末に大変だとは思ったけど、むしろ年末だからこそ忙しいのかもしれない。そんな訳で以前と同じく一人寂しくテレビ観戦か、こんな日にまで仕事だとか言っていたトレーナーも巻き込んでみようかとぼんやりと部屋で考えていた。

 ここまでは良くはないけど仕方のない話。で、ここからが腹立たしい話。

 週末の予定を考えながら寮の部屋で一人過ごしていたらドタバタとよく聞く足音が近づいてきたと思ったらあのあんちくしょうが入ってきやがった。

 

「明日の有のチケットは大丈夫か? どうせ君のことだ、準備していないだろう。だがすでに前売りは完売、当日券もすでに並び始めているそうだ」

 

「は? 何言ってんの?」

 

 用件どころか挨拶もなく入ってきやがったこいつはいきなり意味のわからない、いや意味はわかるけど私には関係ない話をし始めた。有のチケット? あんなの早々とれないのも徹夜組が出るのも有名な話だ。だから私はテレビ観戦の予定なのだ。そもそもチケットが手に入ったとしてもどうしてわざわざあんなすし詰め地獄にいかなきゃならないんだ? 

 頭の上にはてなの集団が浮かんだままあいつを見れば不自然に片手を後ろに隠していてどうにも怪しい。そんな事を考えていたら

 

「だが安心して欲しい。ここにチケットがある、それも2枚もだ」

 

 自信満々に二枚の紙切れを見せつけてくる。見れば確かに有記念のチケットのようだ。だけどなんで?

 

「あんたはそれを走るんでしょうが。もしかして見せびらかして自慢するために持ってきた?」

 

「何を言っている、これは君の分だぞ? 本来なら君のルームメイトの分も含めて用意したんだが予定が合わないのであれば仕方ない。もう一枚は君の好きにするといい」

 

「????????」

 

 今度こそ意味がわからなくて、まるで宇宙の真理を知ってしまった猫のような意味のわからない顔になる。は? このバカは何言ってんの? 理由を聞いてみれば

 

「最近のニュースを見ればチケットを確保することが容易でないことぐらい私でもわかるさ。これは出走者に配られる関係者用の入場チケットだ。ああ、安心して欲しい私の家族は別ルートで確保済みだ。心配しなくてもいい」

 

「チケットを持ってきた理由を聞いてんじゃないんだけど? なんで私が現地で観ることが前提になってんのよ」

 

「理由など私が走るんだぞ? であれば君も直接観るしかないだろう?」

 

 あー、菊からジャパンカップで大変だったもんなー、こいつもついに壊れちゃったかー。

 そんな現実逃避をしていたけどいきなり真面目な顔をしながら

 

「君が私を焚き付けたんだ。なら君はその結果を観るべきだ。いや観なければいけない」

 

 いきなり乱入してきて行く予定もないレースのチケット、しかもプレミアを押し付けてきて最後に観に行かなければいけないときた。この間までのこいつと比べても傍若無人が過ぎない? なんかこう扱いが雑というかなんというか。

 

「あんたの言い分は意味分かんないけど分かったわ。納得したとは言うつもりはないけど」

 

 面倒くさくなってチケットをひったくる。おそらく、というか絶対これを受け取らない限り多分こいつ帰らないだろうし。

 

「まあ、私は行く気なんてさらさらないし? せいぜい高く売れることを祈っておいてよ」

 

 嫌味の一つでもぶつけてみても

 

「なに、君はそんなことはせず観に来るさ、確実に」

 

 自信満々に言い返されてしまいなんだかとっても負けた気分。実際はこいつが無茶を言っているだけなのにどうしてか私の方が駄々をこねてるみたいで、イライラが溜まってくる。これ以上会話する気もないしシッシッと追い払えば素直に帰っていったのはせめてもの救いだろうか。

 

 

 

 

 

「なんかあいつの思い通りに動かされてるみたいでホント嫌になるわ……」

 

 週末結局私はレース場に来ていた。二枚あったチケットの使いみちは

 

「そうむくれるな。せっかく生で観られるんだ。気持ちはわかるが感謝する場面だぞ」

 

 ルームメイトは予定が合わない、クラスメイトは一人だけってなると角が立ちそう。貧乏性で無駄にできない。そもそも一人で観に来るなんて反吐が出るほど嫌になる。なんで結局どうせならとトレーナーを誘うことにした。休みの日に悪いかなと思ったけど職業柄今日を休日だと思っている人はいない、だそうだ。

 で、ここまで来たのでもう諦めるけど今いる場所が問題だ。なんでよりにもよって

 

「最前列なのよ……。後ろの方で良かったのに」

 

「無茶苦茶な贅沢を言うな、トレセン学園の関係者を最前列にするのは観客の人たちの優しさだ」

 

 トレーナーと一緒って訳でなんとなく制服で来たのが良くなかったようだ。後ろのほうでゆっくり観てようなんてウロウロしてたら観客の人たちに見つかりそのままあれよあれよ言う間に二人分の空間が最前列まで出来てしまった。流石にそこまでしてもらった厚意を無視できるほどの心臓の強さもないので周りに会釈しながら最前列まで来ることになった。

 

「今日この場所でこちら側にいるということの意味をみんな分かってくれているんだ。期待だったり悔しさだったり。だからこそみんな最前列をあけてくれるんだ」

 

 ここにいる人全員人が良すぎない? 自分だって苦労して取ったチケットだ。できる限りいい場所で観ようと思って当然だろう。だと言うのに推しでもないだろう私にも場所を譲ってくれる。改めて恵まれてるなぁ、なんて感想しか出てこない。

 

「まあまあ、ここでならしっかり応援できるだろうし、向こうからも気づいてもらえるかもしれないし。せっかくの機会だから存分に楽しもう」

 

 確かにここまで来てうだうだ言っててもしょうがないし、こうなったら楽しませてもらおうじゃない。

 今日の出走表を観ながらトレーナーとあーだこーだと話している内に本バ場入場の時間になったようだ。どうやら入場もファン投票の人気順でやるみたい。最初に出てきたのは人気トップの先輩三冠ウマ娘だ。入場してスタンドに向かって軽く手を振るだけでえげつない歓声が飛ぶ。事前にトレーナーに言われて耳を塞いでおいてよかった。思い返せばG1レースを現地で観るのは初めてになるのか。自分が走った時は緊張と興奮でいっぱいいっぱいだったしね。

 そう間を置かずにあいつが出てきた。これまたすごい歓声が飛ぶ。さっきよりも耳が痛いのはきっとあいつへの歓声なせいだろう。あいつは直ぐにはターフに出ていかず自分のトレーナーと話しているようだ。話し終わったの明らかにこっちへ向かってくる。なら仕方ないね。

 

「頑張ってー!! ……カツラギエース先輩!!」

 

 あいつなんかよりいま出てきた先輩への応援のほうが大事だ。あっ! こっち見て手を振ってくれた! やったー! これだけで今日来たかいがあったわ。ホクホク気分で視線をずらせば手をあげようとした情けないポーズで固まっているあいつがいた。あんまりにも情けないから早くいけと手振りで伝えてやれば苦笑いした後ターフへとかけていった。でも私は見逃さないよ? ちょっと落ち込んでるのが丸わかりだ。ざまあない、まさか応援してもらえるとでも思ってたのか。こちらも苦笑いするトレーナーにぽんと頭を撫でられるが私はしたいようにするだけだ。今日だって来てくれと言われただけで応援してくれとは言われてないんだから。

 そんなことより時間が近づいてくる。いよいよまさにいよいよだ。この緊張感と高揚は走らなくたって心地よい。今だけはこいつに感謝してやってもいいかもね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気がつけばレースは終わっていた。ゲートが開く瞬間までの記憶はある。でも気がつけばレースはあいつのレコード勝ちだ。目を離したわけでも気を抜いたわけでもない。ウマ娘の視力も聴力も全力で使っていたはずだ。なのに気がつけばレースは終わっていて、私の胸には熱いものがこみ上げてくる。カツラギエース先輩の逃げも人気上位三人での決着やあいつのリベンジにかけた走りもあった。それでもやはり気づいたら終わっていたとしか言えない。ウィナーズサークルで高々と四本指を掲げているあいつを見て初めてアイツのことがかっこいいと思った。すごいと思った。勝てないと思ってしまった。

 

「ねえ、トレーナー」

 

 だから私は口に出す。

 

「私はあいつに勝ちたい」

 

「厳しいぞ」

 

「知ってる。勝てないかもしれないの分かってる。でも、私はあいつに勝ちたい」

 

 皐月賞の時の怒りに燃えたものでもない、ダービーの後の折れた心を隠しながらの虚勢でもない。今私は、勝つどころか今はあいつと戦うステージに上ることすらできない私は

 

「勝つ、勝ってみせる。今私の道は決まったんだ」

 

 怒りよりも熱く、虚勢よりも静かに私は決意した。だからかもしれない。いつの間にかこっちに向かってきたあいつに、出走前と同じような気軽さで、でもそれとは違う何かを込めて

 

「おめでとう、いいレースだったよルドルフ」

 

 そう言葉を送ることが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 熱狂の有もすでに過去の話。大晦日の日に私は一人寮の自室でなにをすることもなくベッドに腰掛けていた。目の前にあるきれいに片付けられて、いつもなら見えないフレームをむき出しにしたあの子のものだったベッドを眺めている。

 有の次の日、彼女が学園を去ることを聞かされた。秋以降悩まされていた脚の不調がもうだめになるところまで行き着いてしまったらしい。最近良く欠席していたのもその準備のためだったらしい。相談ぐらいしてくれても良かったのにと言ってしまえば、私だからこそ相談出来なかったと言われてしまった。でもそこに負の感情はなくてきっと優しさとプライドが乗ったものだった。

 思い返せば気付けるヒントはいくらでも有ったんだ。いつまでもよくならない脚の不調。でもその割には入院なんかもなくて普通に生活していたこと。軽いトレーニングどころか、授業の体育ですら見学だったこと。二人で一緒に出て一着二着の勝負だ! なんて約束をしていたはずの有記念ですら観ることすらしなかったこと。他にも他にも思い返せばあれもこれもそうだったのではないかと思えてくる。

 この学園ではよくあることと言い切ってしまってもいいようなことで悲しいことだが特別なことではない。今までだってクラスメイトが減っていくことも体験したしお別れ会をした子も居た。だけど。それでもこの痛みと悲しみは格別だ。私には似合わない、でもあの子が大好きだったピンクで揃えられたベッドも、勝った記念にと私が送った周りと合わずに浮いていた紅葉のクッションも。一度だけ見せてくれた大事な時に着るんだと、これも私の勝負服だと言っていたドレスも。なにもかも無くなった。ガランとした空間が静かに、正確に私に事実を突きつけてくる。

 

「情けないなぁ……。私あの子になんにも出来なかったじゃん」

 

 大きな怪我をしたことがない私は彼女の気持ちを汲むことは出来なかった。なんの知識もない私はアドバイスも何もすることが出来なかった。彼女のサインに気づくことができなかった私はあの子の優しさに甘えてるばかりだった。

 何度もよくある話だ、彼女だけの悲運ではない。なんて考えて少しでも気を楽にしようとしている自分に気づいて更に嫌になる。嫌だ、ああ嫌だ。自分が嫌になる。有で気持ちを切り替え目標を立てたはずなのに、あの子が居なくなるだけで何もできなくなる自分が嫌だ。あの子が居なくなったのに普通にトレーニングが出来ていた自分が嫌だ。悲しい、悲しいはずなのに同時に私はこの程度にしか思ってなかったのかと思ってしまう。

 どうすればいいんだろう。解決策が見つからない。そもそも解決できるような話なのだろうか。

 今日が大晦日で良かった、何もしなくていいのだから。寮の掃除を免除されて良かった。あの子じゃない誰かと過ごさなくていいのだから。きっとこのまま年が明けて時間が経てばこの痛みも思い出に、記憶でしか無くなっていくのだろう。そんな薄情な自分が嫌だ。

 終わりのない自己嫌悪の迷路をさまよい続けていたらクゥという音で自分の空腹に気づいた。こんなにも悲しいのに腹は減るんだなんて笑えるし情けない。体が訴えてきても何をする気にもなれない私はただ座り込み続けた。

 どれぐらい時間がっただろう。足音と共に

 

「済まないが両手がふさがっているんだ。ドアを開けて欲しい」

 

 なんてあいつの声が聞こえてきた。何しに来たんだ? 何でもいいか、今は誰とも顔を合わせたくもない。このまま何も返事をしなければ諦めてくれるだろう。そんな希望はほんの数分で打ち砕かれた。バコン! と言う音と共にドアが開かれそこには

 

「両手がふさがっていると言っただろう。君が早く開けないからこうなるんだ」

 

 両手で鍋を持って蹴り開けたままの体勢でいるあいつがいた。

 

 

 




おかしい…… 話が暗い…… 
さわやか三組のようなさわやかなスポ根物を目指してたはずなのに……

オリ主とルドルフが鍋をつつくだけの話は

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