皇帝の見えない折れた杖   作:冬眠復帰

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落ちもなにもない話です。

前に色々有って偏心は出来てないですが感想何回も読んでます。一発で体力とやる気が回復するので非常に嬉しいです


どこにでもある大みそか

「なんで年の瀬のこんな時にあんたとツラ合わせて鍋つつかないといけないのよ」

 

 不満100%で文句を飛ばすが目の前のこいつは気にした様子もなさそうに鍋の準備を始めている。いきなり押しかけてきたと思えば机を出せだの、カセットコンロはないのかだの言いたい放題だ。そもそも寮の自室は火気厳禁じゃないかと言えば今日から特別な日はokなことにしようとか抜かしやがる。んで、めざとくルームメイトがまだいた頃の名残で処分してなかったカセットコンロを見つけられ何も言えなくなってしまう。

 

「もっかい言うけど何で私があんたなんかと鍋しないといけないのよ」

 

「聞いてくれるか、昨日生徒会の最終日だったんだ。それで大掃除をしていたんだ。大掃除といっても常日頃から整理整頓に厳しいものがいてね、話しながらの簡単なものだったんだ。それで庶務の子が友人と鍋を食べたのが楽しかったと話してくれてね」

 

「なら生徒会のメンバーで行けばいいじゃない。あんたもしかして嫌われてんの?」

 

「……」

 

 何の気なしに言った軽口がどうやらクリティカルヒットしたようだ。なに? もしかしてこいつほんとに嫌われてんの? こいつが嫌われるようなことなんて……、色々ある気がするわ……

  それはともかく、わざわざ生徒会に入るような連中でしょ。シンパとは言わないけど悪感情なんてないんじゃないの?

 

「嫌われてはいない……と思う。ま、まあいい。そこは本題じゃない。その後の流れがね……」

 

 仕方ないので聞きたくもない話を聞いている。どうやらこいつは嫌われているのではなく、好かれすぎているようだ。いや、どちらかと言うと崇拝か?

 本人曰く仲良くなりたいこいつは自分達も鍋をしようと提案。想像していたのは生徒会室や寮の食堂でワイワイとしたものを想像していたらしい。ところがそれを聞いた副会長の1人が張り切ってお高めのお店を予約しようとしたらしい。止めようか、でも自分が言い出したことに力を貸してくれるのを止めるのも……なんて迷ってるうちに私のような庶民では気軽に行こうと思えない店での予約が完了していたらしい。しかも生徒会の慰労会なんて名目まで取って予算までふんだくったらしい。まあ、こいつらは明らかに学生のキャパを超えた仕事を日ごろしているし多少の浪費は許されるだろう。

 それはともかく、こいつとしては生徒会の友人と仲良く鍋を食べてみたいと思っていたらしいが、あれよあれよ言う間に高級な店での食事会となってしまったらしい。しかも予算までちゃんと取って行ったせいで羽目を外すわけにもいかずお硬い食事会となってしまったようだ。

 

「何がいけなかったのだろうか……。私は単に皆で鍋でも食べて親交を深めようと思っていただけなのに、開始の挨拶まであるような食事会となってしまった……」

 

「あんた嫌われてんじゃないの? やりたくもないのに上司が言ったから仕方なく、それならせめて学校の金でいいものでも食べたかったんじゃないの?」

 

 そんな訳はないだろうけど今のささくれだった私としては嫌味の一つでもといつものつもりで軽口を叩いていた。軽い気持ちで言っただけなのに思いの外こいつが落ち込んでしまい余計にめんどくさいことになってしまった。

 

 

 

 

「いやあ、友人と気楽に食べるというのもいいものだな!」

 

「私はあんたのせいでお腹いっぱいよ……」

 

 結局流されてしまいこいつと二人静かな部屋で鍋を食べることになった。換気のために窓は開けているとはいえこれ匂いつかないでしょうね? 年明け早々から匂いのついた部屋で過ごすなんて考えたくもない。人の部屋だからって好き勝手に食材は持ってくるし、一人でしゃべって食べてやりたい放題なこいつはいかにも楽しそうだ。だけど流石にこれが本題ではないだろう。いくらなんでもこの生徒会長様が自分がやりたいからってわざわざ寮の規則を破ってまでこんな事はしないだろう。大方私が同室のあの子がいなくなって落ち込んでいるのを聞いていらぬおせっかいでも焼きに来たのだろう。これで違うのなら私は自意識過剰のバカになってしまう。

 

「もういいから、落ち込んだってこんなの一過性のものだから新学期には元通りに戻ってるからさっさと食べて帰ってくんない?」

 

「ん? 君は何を言っているんだ? 私はさっきも言ったとおり鍋を食べに来ただけだぞ」

 

 どうやら私は大バカである可能性が出てきた。

 

「ルームメイトが怪我で退学になって落ち込んでる私を慰めに来たんじゃないの?」

 

「ああ、彼女か……。悲願のG1勝利も達成しこれからという時に残念だ」

 

 あろうことかこいつはあの子のことを簡単な言葉だけで流しやがった。身を乗り出して掴みかかろうと腰を浮かせたが目の前に鎮座しているものを思い出して断念する。最近やっとまともに見れるようになったこいつが改めて私とは違う生き物だと叩きつけられた。私の視線に気づいたのだろう。未だに持っていた箸を置いて話し始めた。

 

「確かにあの子が学園を去る結果になったのは非常に悲しいことだ。春には相談を受けたこともあったし、そもそもクラスメイトで友人だ。私とてできるなら学園に留まれるようにしたいと思うさ」

 

「ならなんでしなかったのよ。ここまで来たら気に食わない回答ならこの鍋ひっくり返すからね」

 

「それは勘弁してほしいな。さて、理由か。それは私が私であるからだ。自画自賛にもなるが今の私にはそれなりの影響力があるだろう。それに生徒会長としての権限も合わせれば彼女をもう少し長い期間学園に在籍させることも出来ただろう」

 

「なら……! なんで!」

 

「言っただろう。私が私だからだ。もし持てる権限を使って彼女に手を差し伸べたとしよう。その瞬間はそれでいいかもしれないが、だからといって同じような境遇の全員を救うことは出来ない。そうなれば私は取捨選択をしなければいけなくなる。そうなれば私に取り入ろうとウマ娘としての本分を忘れた行動をするような子も出てくるかもしれない。それだけは有ってはならないと思わないか? 明確なルールでなく個人の好き嫌いで判別されるなど許されるはずもない」

 

 正論だ。何処までも見事な正論だ。理解はできる。納得もしなければいけないのだろう。私は子供みたいに友達がいなくなることを許せなくて駄々をこねているだけ、こいつは自分の立場を理解して公平にあろうとしている。百人に聞けば百人がこいつが正しいと答えるだろう。何も言えなくなった私を見てまだ話は続くようだ。

 

「彼女は直近面談を行ったが、彼女自身が学園に残ることを良しとしなかったんだ。自分は幸運にも一つティアラを得ることが出来た。きっとそれがゴールだったのだろうと。であればその勝利と誇りを胸に次の道へと進んでいくのだと」

 

 ああ……、あの子なら言いそうなことだ。優しくて真面目で、でもレースというものをとても大事にしていた子なのだから。でもそれなら私にも相談してくれても良かったのに。こいつに話すぐらいなら、なんて思ってしまう。そう言えば、また私の知らない話が返ってきた。

 

「君と話すと決意が揺らいでしまうかもと言っていた。君は優しすぎるから、真っ直ぐすぎるから。自分のことまで背負おうとしてしまいそうだ、それに甘えてしまいそうだと言っていたよ」

 

「何よそれ……」

 

 やっぱりあの子は私なんかにはもったいないぐらいの友達だったんだ。私が落ち込んでいる時には励ましてくれたのに私には何もさせてくれなかった。ううん、違う。これで終わりじゃない。連絡先は知ってるし喧嘩別れしたわけでもない。今は気持ちの整理がついてないけど落ち着いたら友人の続きをすればいいんだ。近くなら落ち合えばいい、遠くなら会いに行けばいい。なんだってできるはずだ。

 すこし、ほんの少しだけ飲み込めた私は言いたくもないお礼を一応言っておく。こいつが言わなければきっとこれからも何も話してくれなかったことに悩み続けただろうから。

 

「君の悩みも解決できたようで何よりだ。私も誰かが学園を去るということは身を削るように辛いんだ」

 

 珍しく弱音を吐いてきやがった。こっちが先に話を聞いてもらった以上聞くしかないじゃない。これがわざとだったらいやらしいやつなんだけど多分そんなこと考えもしてないんでしょうね。今だってポロリとこぼれたって感じだったし。

 んで嫌々話を聞けばこいつは生徒会として学園を去る全員の話を聞いているそうだ。で、全員がキレイに学園を去っていくわけでもなく、色々な感情をぶつけられることもあるそうだ。ただでさえ一度見た顔を忘れないらしいこいつにとっては少なくとも顔見知り以上のウマ娘達から色々言われるのは中々に堪えるだろう。そもそもそんなことしなければいいのに、なんて言えば

「……君になら話してもいいかもしれないな。私には夢があるんだ。全てのウマ娘が幸福である、なんて夢……というより目標を目指しているんだ。生徒会をしているのもG1レースに勝利するのも究極的にはそのための手段だと思っている」

 

 ほーん、これはまた大変ご立派な夢をお持ちなこって。G1レースすら手段とか言うから蹴りぐらいはいれてやろうかと思ったけどこいつの思考回路を自分と同じと思うほうが疲れるし適当に流すほうが精神衛生上良さそうね。

 

「き、君はどう思う? 私の夢を聞いてどう思うだろうか?」

 

 なんかいやにキョドりなが聞いてくるじゃない。まあ、そんなの

 

「バカみたいな一人でやるには途方も無いもんだと思うけど、あんた筋金入りのバカだし? 丁度いいんじゃない。実現するなら私にもおこぼれがありそうだし、精々端っこの方で応援ぐらいはしといてあげるわよ」

 

「……夢物語だと、出来もしないと、笑ったりしないんだな」

 

「人が真面目な顔して話してる夢を笑うほど性根は腐ってないし、そんなでかすぎる目標私には無理だけどあんたならまあ、できんじゃないの?」

 

 

「そうか……、そうか……!」

 

 何こいつ気持ち悪い。急に耳と尻尾まで使って喜び始めて。私の適当な回答の何処にそんな喜ぶところが有ったんだろうか。あれか? 賢すぎて頭のネジ吹き飛んじゃっての?

 

 

「さあ! 話はこれぐらいにして食事の続きといこうじゃないか!」

 

 そうね、意味のわからない話はこれぐらいにして、どうせなら美味しいものでも食べようじゃないの。さっきちょっと食べた感じ結構いい食材ぽいしこんなときばっかりはお嬢様なこいつに感謝ね。だけど、そんな私の期待は鍋を覗き込んだ瞬間に霧散した。

 

「ねえ、ちょっとこれ」

 

 鍋の中に残っていないのだ。いや、野菜などは少しは残っているが肉や魚なんかのメインの食材があらかたいなくなっていた。目の前を見れば冷や汗をかいてそっぽを向いているあいつがいる。いや、冷や汗じゃなくてたらふく鍋を楽しんだゆえの汗か?

 

「あんたねえ……」

 

「こ、これはだな? いや私の食い意地が張ってるわけではなくて、ああ! そうだ締めのうどんも用意したんだ! 早速準備をしようじゃないか!」

 

「あんたここでやるつもり?」

 

 どうやらこいつでもテンパることはあるらしい。そんなことよりこの部屋で調理なんてされたら匂いがやばいしそもそも火災報知器なりそうだし

 

「やるなら寮のキッチンに持っていく! さっさとしなさい!」

 

 二人、というかほとんどあいつが一人でドタバタしてる内にゴーンと鐘の音が聞こえてくる。時計を見ればどうやらいつの間にか年が開けたようだ。それを聞いて落ち着きを取り戻してきちんと座り直してから

 

「あけましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします、だ」

 

 なんて言ってきた。流石に無視するのも後味悪いし

 

「あけてましたおめでとう、今年もよろしくするつもりはかけらもないわよ」

 

 なんの嫌がらせか、私はだいっきらいなこいつと新年を迎えることになってしまった。

 

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