赤髪の勇者と異界の魔王   作:ルテチウム

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転移の先は

 「やあやあやー、我こそは」

 

 ()()()()()、真っ先に目に映ったのは一人の魔人。多分強い。恐らく強い。

 

 いやまあ、別に強さは問題じゃない。レベルにして五十から六十はありそうな化け物だが、手に負えないって程じゃない。なんなら数体なら余裕を持って対処できる。

 

 それよりも、市街地にいることが問題だ。特に囲んでいるって言う事実が。これじゃあどうあがいても民間人に被害が出る。

 讃光教会の正規勇者(リーガル・ブレイブ)に求められるのは絶対だ。埃一つない絶対神話。

 

 (精々頑張りますか)

 

 心構えは十分。仮面を付けた珍妙な魔人に対し、私は聖剣(カリヨン)を構えた。

 

 「……私と同等の力を持つ戦士、と言うのはこの方でしょうか?」

 

 そして突然現れた私に硬直していた人達の中、最初に動き出したのは魔人だった。

 

 「名乗りの途中なんだけど……べつにいっか。私は二十代目正規勇者(リーガル・ブレイブ)、リーリァ・アスプレイ……っつてもアンタには分かんないかもね」

 

 そして一拍。歓声が──あれ?

 硬直硬直、さらに硬直。誰も動かないししゃべらない。首を傾げる。

 

 「んん?」

 

 「……誰も貴女のことを存じ上げていないようですが」

 

 「おっかしいなぁ……少なくとも帝都じゃ歓声の嵐の筈なんだけど」

 

 いやまあ帝都じゃないのは分かってた。真横にいる、金髪の女の人なんて見たことすらない。()()()()()に跳ばされて、結局ここはどこなのか。

 

 「──ま、考えてもしょうがないか。つまるところ、アンタは私が人類の守護者って事だけ覚えて帰って貰えればいいよ」

 

 「……ほう、なるほど?では私から仕掛けさせて貰いましょう。どちらにせよ目的は変わりませんしね──第十位階魔法<隕石落下(メテオフォール)>」

 

 そして、目の前の魔人が唱えた奇妙な文言に呼応して現れたのは──。

 

 「なん、だと……」

 

 「これは……」

 

 そして、やっとこさ動き出したのは隣の人と仰々しい鎧を纏った女だった。どちらにせよ、勇者(ブレイブ)が担当する案件だ、これは。到底、正規勇者(リーガル・ブレイブ)のリの文字も知らない国家に住まう人々が担当出来るもんじゃない。

 

 「さて、聖王国の人々が一体どのようにこれに対応するのか……私にお見せ下さい」

 

 その現象──光の塊。いや、熱せられた巨石。ごくまれにある自然現象である隕石。

 それを目の前の魔人は顕現させたのだ。

 

 「起こしてる事象がレベルと合ってないなぁ……いやまぁ、いっか」

 

 ピクリと魔人の耳が震える。どこか引っかかるところがあったのだろうが、時間がない。

 

 跳躍の構えをする。

 

 アレをどうこうするのに必要なのは、単なる暴力だ。例えば、どんな準勇者(クアシ・ブレイブ)がいたとしても、あれ相手にはどうしようもないかもしれない。

 そもそもとしてベクトルが違うのだ。『強さ』のベクトルが。

 

 「まて、貴様アレをどうやって──」

 

 「はいはい、後でね……んじゃ、ちょっと──行ってきます」

 

 鎧の人が声をかけてきたが、軽く流す。左手にカリヨンを持ち変える。足に力を込める。手を地面へ押しつける。

 

 ──弾けた。

 

 爆音が鳴り響き、石畳を破壊する。飛び散る破片は人に当たらないよう調節した。あとの懸念事項は、あの魔人だが……余裕綽々にこちらを観察してやがる。

 なら、今はちょっとだけ意識を集中させて貰おう。

 

 コンマ何秒以下で隕石へと到達する。絶死の高温に、質量。やっぱこれは普通ならどうしようもない。

 

 普通なら、だ。

 

 残念ながら、こちとらまるっきり普通じゃないのだ。意思も、境遇も。何もかもが私の力の源泉で。

 つまり、今の私に──負けはない。

 

 「──龍爛劫鼎(りゅうらんごうてい)

 

 衝突。私の右手と隕石がぶつかり合う。このままなら、いくら私とはいえ押し負ける。だけど、それは今だけは違う。

 

 発生する反発力も、私にかかる重力も。隕石その物の質量落下の力すらも──文字通り、今は私の手のひらの上。

 捩じ曲げ、押し曲げ、収束し。そして、

 

 「ま、こんなもんでしょ」

 

 ──耳をつんざく様な轟音。手のひらの中で、隕石が弾けた。

 勿論、その方向も支配下にする。さもなきゃこんなデカブツの破片、市街に落ちて一発アウトだ。

 

 そして、自由落下の浮遊感の中、下を見据える。

 

 目を丸くした女二人の顔が、非常に笑いを誘った。

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