赤髪の勇者と異界の魔王 作:ルテチウム
ダン、と軽い物が地面に落ちる音が鳴る。立ち上る煙が視界を覆う。
その煙の中、小柄な影が背伸びをした。
「……あ、貴女は一体」
「あー、いいよいいよ。『勇者』の事知らないんでしょ?なら、まあ……がめつい冒険者くらいに思っといてよ」
にしし、とリーリァが笑うと、それにつられ赤髪が舞う。そして、ゆっくりと奇妙な大剣を魔人へと向けた。
「──んじゃ、まずはコイツからかな?」
それを認め、仮面の魔人は笑った。それは余裕からか、はたして別の物か。不敵な笑い声をもらし、そして魔人は和やかに言葉を紡ぐ。
「ふむ……なるほど。あの黒き戦士ほどではなくとも、少なくとも私と戦う事の出来る実力はあるようですね」
「黒き戦士……んー、なるほどなるほど?」
ちょっと心当たりが有るようなないような言葉が耳に入り、リーリァは思わず目をパチパチさせた。もしかするとアイツかも知れない。いや、そうするとここにいる人達がなぜリーリァを知らないのかが疑問に上がるが。
そんなことを考えていると、世間話のような調子で再び声が掛けられた。目線の先は、黄褐色に濁った
「──ところで、その大剣、見事なものですね」
「ん、まぁ、そりゃね。多分この世界じゃ私以外使えないんじゃないかなとかいう代物だし」
『まぁ、今ちょっと機能不全っぽいんだけど』と言う言葉を飲み込み、リーリァは
「見たことのない製法の品ようですが……一体どこの物か教えていただいても?」
それを聞き、周りの雰囲気を読み取る。雑多なその中に、興味や疑問が混じっていることを悟り、リーリァは訝しげに辺りを見渡した。
「……
「ほほう?なるほどなるほど──」
「そこの少女!さっさとソレを倒す事を進める!ソイツはこの国を襲撃した悪魔だ!!生かしておく価値はない!」
「ん……?」
鎧を纏った女が叫ぶ。それをリーリァは聞き、違和感を覚えた。
「……あー、そこの鎧の人!今、『悪魔』って言ったよね?その悪魔ってのは比喩とかじゃなくて?」
「それは──」
「──その者の名は『魔皇ヤルダバオト』。そして比喩などではなくその者は悪魔である、と聞き及んでいます」
答えようとした鎧の女を右手に制し、静謐な雰囲気を纏った金色の女が一歩前へ。代わりに返された返答に眉をひそめる。
「ん、んー……?」
異常だ。異常である。異常でしかない。
そうして、一頻り疑問を消化すると、再び首を傾げた。
(悪魔、って言えば……なんかこう、精神にだけ、作用する感じのヤツじゃなかった?)
そう。そのはずだ。人を誑かすのが悪魔だ。人を貶めるのが悪魔だ。人を嘲うのが悪魔だ。
故に、悪魔は『人を物理的に襲う』などと言うことはしない。と言うよりも、精神生命体である彼らはそれを
悪魔は人を己の世界へ閉じ込める。そして、その世界の住人にしてしまう。そのアプローチはそれぞれだ。
ならば、目の前の仮面をつけた『悪魔』は──
「さて、ではそろそろ再開させていただきましょう。どうやら、そちらの方もその気のようですしね」
「ん……あぁ、りょーかい。そこの二人は下がっといてよ、一瞬で終わらすからさ」
それを聞き、激昂したのは鎧の女。
「貴様!カルカ様をそこの呼ばわり──」
「レメディオス、静かになさい……申し訳ありません。リーリァ・アスプレイ様……どうか、お願い致します」
多数の兵士がいる方へと下がりながら、カルカは頭を下げた。それにリーリァは苦笑いをする。
「あー、そんなかしこまんないでよ。取り敢えず安心しなさいな、私は『人類を守るため』にいるんだから──って格好付けたところで、なんだけどね」
「──ずいぶんと、余裕な様ですね?」
ヤルダバオトはゆっくりと歩を進めながら、リーリァに警戒の視線を向ける。それは、確かに己の一撃を受け止めたと言う事実から来る物であった。
リーリァはそれを真っ正面から受け止める。そして、斑の黄褐色に染まった聖剣をくるんと一回転させると──地面へ突き刺す。重い音をたてて、大剣は地面へ直立した。
ヤルダバオトはそれに目を見開いた。
「ほう?」
「アンタなんか素手で十分ってこと……んじゃ、」
前傾姿勢に。足を踏み込む。手を流す。体勢を崩す。
それは、本来リーリァがいた世界の人物で、武術を囓ったことがあるなら数度は耳にする絶技。人の領域を一段階飛ばして、これまた一段階飛ばしたところにいるような存在が身に付ける人外の技。
だが、ヤルダバオトは警戒をしながらも、その脅威を真に知らない。故に彼は右手を掲げ、攻撃を仕掛けようと──
スッ、と息を吐く、小さな音が鳴った。
「──
──瞬間、空気が弾けた。
悪魔の設定とか完全に忘れてます。これで合ってましたっけ?