「……畜生ッ! 持って行かれた……!!」
その日、アメストリス郊外・リゼンブール村にて一つの悲劇が生まれた。十代に入ったばかりの少年エドワード・エルリックは、喪失の痛みに端正な顔を歪ませ、血を吐くような呻きを上げた。
事の発端は本日のお昼過ぎ。一日の授業が終わり、エルリック兄弟が幼馴染の少女と下校していたときまで遡る。実は兄弟は、前々からこの少女に想いを寄せており、本日二人揃って勇気を振り絞り愛の告白に踏み切ったのだ。
しかし何のムードも下準備もなく、その上二人で告白するというヘタレな行動がうまく行くはずもなく……。彼らは幼馴染の冷たい視線を浴びながら、呆気なくフラれてしまったのだ。
大人が聞けば『なんだ、そんなことか』と笑うようなことかもしれない。だが思春期真っ盛りの少年たちにとって、自らの好意を受け取ってもらえないのは、存在そのものを否定されることと同義だった。生まれて初めての告白を素気無くあしらわれた彼らは、深い絶望の淵に沈んだ。
そして彼らは悲しみトチ狂った挙句、決して触れてはいけない禁断の技に手を染めてしまう。
フラれた辛い気持ちを慰めるため、彼らが辿り着いた逆転の秘策。
それすなわち――
――超精巧なダッ〇ワイフを錬成しッ、文字通り自分たちを“慰める”ことだった!(※人体錬成じゃないよ! ガワだけだから!)
あぁ、紛うことなきアホである。話を聞いた女性陣が白い目で見てくることは想像に難くない。
しかし男性諸氏であれば、彼らの気持ちも少しは理解できるのではなかろうか? 思春期の恋愛など九分九厘までエロに直結しているもの。恋人ができなかった悲しみをエロい行為で代償したいと考えるのは、至極当然の流れであった。
兄弟は本能に従い突っ走る。家中を引っくり返して人体の構成材料を掻き集めると、緻密な錬成陣を僅か5分で書き上げ、期待に夢とか胸とかいろいろ膨らませながら一世一代の錬成を開始した。
この歳ですでに『国家錬金術師級』と言われるほどの、無駄な技術力を獲得していたアホ兄弟。彼らが本気を出せば、それは確実に成し遂げられる錬成のはずだった。
だが神のイタズラか、はたまた邪な精神が災いしたのか……?
完璧だったはずの錬成はあえなく失敗してしまう。清浄な青い錬成光は途中から毒々しい血の色に変わり、錬成陣からは謎の黒い触手が這いより、兄弟たちの身体を絡め取ってしまった。
結果、弟は身体の全てを向こう側へ持って行かれ、そして兄の方はなんと――
――大事な大事な“チ〇コ”を持って行かれてしまったのである!
「魂錬成したわけでもないのになんでだよッ!?」
あまりの悲劇にエドワードは慟哭した。造ろうとしたのは人間ではなく、あくまで人の温もりを感じられる高性能なダッチ〇イフに過ぎないのだ。如何に彼がエロ少年とはいえ、自身のリビドーを鎮めるためだけに仮初の生命を造り出すほど身勝手ではない。
……まあ正直、自分に絶対服従してくれる美少女とか憧れないでもなかったが、そこはなんとかギリギリで耐え抜いた。師匠の薫陶の賜物である。
「それなのに、なんでこんな目に……!」
何より納得がいかないのは、こんな目に遭ってまでようやく完成した代物が、精巧どころかパチモンくさい空気嫁だったことだ。
気の抜けた風船みたいな顔に、一筆書きできそうな単純極まりない身体。まるでグル〇ルにでも出てきそうな適当ぶり。エロいことなんざ妄想しようもないガラクタである。こんなのと自分の息子が等価値などと、断じて認められない事実だった。
「チクショウ、ふざけんな! オレのチ〇コはあれくらいの価値しかないってのか!? 使用予定もない新古品なんだからパチモンで充分だろうってか!? やかましいわ!」
エドワードは世の理不尽に憤慨した。しかしながら、現状誰より泣きたいのは、身体全てをエログッズと等価交換されたアルフォンスの方であろう。彼が魂ごと消し飛ばされたのはある意味幸運だったのかもしれない。意識があったら絶対泣く。
「あッ!? そうだ、アル! ちくしょう、どうしよう! ダッ〇ワイフ錬成しようとして弟が消えたなんて知られたら、末代までの恥だぞ!!」
心配要らない。今のところお前で末代だ。
「くそッ、やっぱりオレがどうにかするしかないか。身体の一部と引き替えに魂を錬成すれば、なんとか……!」
自分を対価に弟を助けようとする辺り、ドスケベ野郎でも
――では対価にするとして、一体どこを捨てるべきなのか?
「まず……右手は恋人だから却下だな。左手も逆バージョンをするときに必要だから残しておきたい。とするとやっぱり……、脚か? ……まあオレ、するときは座る派だもんな」
この期に及んで理由の10割をエロが占めていた。彼がこの歳で国家錬金術師級の腕を身に付けられたのも、ひとえにこのブレない心のおかげなのかもしれない。
……まあ今こんなことになってるのもそのエロ心のせいなんだけど。
エドワードは壁際にあった鎧を急いで引き倒すと、自身の親指を噛み千切り錬成式を書き込んだ。さすがに弟の魂の材料として、股間由来の血は使用できない。弟が知ったら絶対喧嘩になってボコボコにされてしまう。
何より生々しくて嫌だ。弟が息子になってしまうとかさすがに笑えない。
「返せよ! たった一人の弟なんだよッ!」
――だがそれでも、弟を想うその心だけは本物だった。
下らない理由から引き起こされた事件ではあるが、弟を失うかもしれないという恐怖は、エドの心に束の間の真面目モードを生み出した。今だけは余計なことは全て忘れ、兄はその力の限りを尽くしたのだ。
「戻って来いッ! アルーーーッ!!」
エドは本来の実力を遺憾なく発揮し、アルの魂を呼び戻さんと力の限り叫んだ。
呼び声に応え、錬成陣から激しい光が迸る。
そこには確かに、兄が弟に捧げる無償の愛があったのだ……。
………………。
ところで、ここで一つ公式設定を思い出してほしい。
先ほどエド少年は、身体のどこを対価にするかで悩んでいたが……。
そもそも原作において、人体錬成の対価を自由に選ぶなんて真似が可能だっただろうか?
答えは――NO。
どこを持って行かれるかは完全なランダムであり、絶大な力を持つ黒幕でさえ、法則性については終ぞ定かではなかったのだ。ゆえに、この場で望んだ部位のみを捨てるなんてことが都合よく叶うはずもなく……。
これがギャグ作品である以上、導き出される結論はただ一つ。
「ま…………またもっていかれたああああッ!!!!」
「なんで僕の魂の代価がキン〇マなんだよッ!!!?」
「ぐべらッ!?」
エドは再び股間を押さえてのたうち回り、弟は兄の頭を思いきりブン殴るのだった!
――絶望の淵に立たされながら、全て(チ〇コ)を取り戻そうと決意した兄弟の旅が今、始まった!!
♪~~挿入歌「ホログラム」~~♪
こんな馬鹿話を書いてしまったことをこの場を借りて謝罪いたします。まことに申し訳ありませんでした。
……でも皆さんも、似たようなこと考えたこと、ありますよね?