真理の扉にチ〇コ持って行かれた!   作:マゲルヌ

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10話 分かり合おうと努力することが大切だ

「くっ、雨で視界が悪い! こんなときに!」

 

 雨足の強まる中で軍用車両を飛ばし、マスタングはイースト・シティの大通りを直走る。クラクションに拳を叩き付け、驚く市民を鋭いハンドル捌きで躱しながら、目的地へ向けてさらにスピードを上げていく。

 

 ――鎧の大男が市街地で大暴れしている。

 

 そんな通報が司令部に届けられたのが、編成した隊を率いて兵舎を出る1分前のこと。犯人扱いされたアルフォンスにとっては不服だろうが、これほど分かり易い情報提供もない。

 基本的に温厚なあの少年が大立ち回りを演じているなど、エロ関係でもなければ通り魔ぐらいしか思いつかない。

 

「大佐ッ、急いでください!」

「分かっている!」

 

 

 早く……早く現場に駆けつけて場を収めなくては……!

 

 そうしなければ……、そうしなければ……ッ!

 

 

「また私の責任問題にッ!!」

 

 

 かつて兄弟(※特に兄)がやらかした数々の事件を思い起こしながら、マスタングはアクセルを強く踏み込んだ。ショッピングモールの方から必死の形相で逃げてくる市民を見て、彼の背中にはますます冷や汗が浮かぶ。

 ぶっちゃけ、兄弟の身の方はあまり心配していなかった。

 

「どうせ今回も無事だろうしな!」

「大佐! 間もなく通報のあった場所です!」

「分かっている! 総員戦闘準備!」

 

 一番地の長い直線道路を通り過ぎ、最後の角をドリフトで曲がってようやく目的地が見えた。

 

「鋼の! また何かやらかして――ッ!?」

 

 そこでマスタングの目に飛び込んできたのは、

 

「いやあああッ! 何これ!? ナニコレえええッ!?」

「くそっ、離れない! 全然取れない!?」

「なんか変な臭いもするんだけど!? ホントに何なんだ、これッ!?」

 

 道行く人々や車、建物や標識、例の殺人犯と思しき者まで含めた全員が、

 

 

 

 ――謎の白い粘着物に塗れた、地獄みたいな光景だった。

 

 

 

「……Oh」

 

 市民から苦情不可避の汚すぎる雪景色。

 また始末書と厳重注意かなぁ……と、マスタングは灰色の雨空を見上げた。

 部下から無能扱いされるのとどちらがマシかは定かではなかった。

 

 

 

 

「くっ、鋼の錬金術師! 貴様一体何をした!?」

 

 一方で、こちらは今もシリアスに戦いを…………、シリアス?

 まあ、本人たちは多分真面目に戦闘を続けていた。

 

「ハッハーー! これこそが『ネオアームストロングサイクロンジェット鳥モチ砲』! 特定の物質を合成することで強力な粘性と接着性を獲得した、俺の最高傑作捕獲弾だぁッ!」

 

 笑いを取る目的などなく、純度100%で自慢気なエドワード。己の成果を誇示するように股間から蒸気を噴き上げている。

 当然周りはドン引き100%。

 仕方がないので弟が代表して詰問した。

 

「ちょっと兄さん! 普通の砲弾入れとくんじゃなかったの!? なんで股間に鳥モチ!?」

「当たり前だろうが! 何が悲しゅうて股間に爆発物なんか搭載せにゃならんのだ! 誤爆が怖くて日常生活すら送れんわ!」

「確かに!」

 

 言われてみればもっとも過ぎた。すでに一つしか残っていない玉が(たま)の誘爆で爆散したらそれこそ死んでも死にきれない。……まあそのときは全身が粉々だから気にする必要もないんだけど。

 ちなみにアルの頭にも見事に白い花が咲いている。兄の股ぐらから出てきた粘着物が弟の頭にベットリ……。18禁(変なモノ)ではないと分かっていても気分的には最悪だ。兄弟間BLなどこの時代には早過ぎる。

 

「おのれ……神の道どころか人の道にも反する背教者め! 貴様ら兄弟はこの()れの手で確実に破壊する!」

「え゛え、なんで僕も!?」(※とばっちり)

「いいぜ、かかって来な! 俺は特殊性癖(他宗派)にも寛容なんだ! お前の信仰とやらも尊重した上で、真正面からブッ飛ばしてやらあ!」

「戯れ言をッ!」

 

 スカーが強く地を蹴る。鳥モチ砲は当たるには当たったが、抜群の反射神経により被害は左肩周辺のみに留まっている。

 スカーはいまだに健在な右腕を振りかぶり、10メートルの距離を一息に詰めた。

 

「まずはその厄介な武器を――!」

「う、おッ!?」

 

 ――ガシッ!

 

「破壊させてもらうッ!」

 

 スカーがエドワードの機械鎧(オートメイル)をむんずと掴んだ。

 15歳の少年のチ○コを成人男性が素手で握り締めたのだ。

 控えめに言っても最低の絵面、ギャラリーも一部の女性を除いてなんとも言えない表情をしていた。

 

「兄さんッ!?」

「とったぞ! 国家錬金術師いいッ!!」

 

 

 

 

 

 

「悪いな。――()()()()()()()()()()()

「ッ!?」

 

 死の淵に瀕したはずのエドワードには欠片の動揺も見られなかった。

 それもそのはず。スカーが握り締める機械鎧(オートメイル)には僅かの変化も発生しなかったのだ。

 

 ……技の発動に失敗したのか?

 

 否!

 金属に対して作用する破壊の術は確かに発動している。本来なら頑丈な機械鎧といえども粉々になっていたはずだ。

 ではなぜ何も起こっていないのか?

 

 その答えは単純。

 

 スカーの腕が触れるより先に……エドが自身の機械鎧に対して組成変換を行ったからだ。

 部品の一部に使われている炭素繊維の形状を変換し、薄く引き延ばして表面をコーティングする。これにより金属を破壊する術は効力を発揮せず、傍目には不発だったように見えた――というのが真相である。

 

「な、ぜッ」

 

 そう。種を明かせばそれだけのこと。一定以上の実力を持つ錬金術師ならやってやれないことではない。

 しかしそのためには術の発動を実際に見た上で、陣の構成など詳しい仕組みを理解していなければならない。直前に人体破壊を少し見ただけのエドワードが、なぜその派生技である物質破壊を理解し、防ぐことができたのか?

 

「貴様ッ! 一体何をしたッ!?」

「聞いてなかったのか? 言っただろ、『そいつはもう知っている』って」

「……なん、だと?」

 

 答えはまさにシンプル。

 ――エドがこの破壊の錬金術の詳細について、すでに把握していたからだ。

 

「俺、一時期馬鹿みたいに医療系錬金術にのめり込んだことがあってな。怪我や病気を治す術を求めて、国内外の文献や研究者たちをあちこち訪ねて回ったんだよ。南はアエルゴ、西はクレタ、東はシン国――――はさすがに遠いから、あっちから来た商人から技術書を買ったりとか……」

 

 そこで一旦言葉を切り、エドは確信を持ったようにそれを告げた。

 

「そんでもって……、東のイシュヴァール地区の辺りにも、な?」

「ッ!?」

 

 スカーの顔色が目に見えて変わった。

 己の素性に当たりを付けられたからではない。

 この少年が何を言うのか、見当が付いてしまったからだ。

 

「貴、様……。では、それは……ッ」

「ああ」

 

 エドが一度大きく頷く。

 

「東部の街で見つけた資料に載っていた、破壊と再生の錬金術だよ」

「……ッ」

 

 今度こそスカーは言葉を失い、その場に立ち尽くした。

 そんな彼に構うことなく、エドワードは()()について滔々と語り続ける。

 

「他人の研究書を勝手に見るなんて術師として失格も良いトコだけどよ。あまりに見事な内容なもんで……、つい読み耽っちまった」

「! ……兄さん、それってあのときの」

「ああ。廃墟になったあの街で、瓦礫の下から出てきた僅かな資料だ。練丹術を組み込んでアレンジした、当時の俺たちの一歩も二歩も先を行っていた革新的技術。きっとアレがなきゃ、俺の医療錬金術もここまで進歩させられなかった」

 

 意思と関係なくスカーの全身が震える。それは、己の秘技をあっさり打ち破られたことに対する怒りなどではなかった。

 

「後遺症が残るような怪我を負った人、原因不明の不調に苦しむ人、不治の病に苛まれる人、……いろいろな人たちがいた。もちろん全てを救えたわけじゃないが、この技術のおかげで多くの人の笑顔を取り戻すことができたんだ」

「……ッ」

 

 断罪者としてこの場に立っていたはずなのに、今や彼は己が神の審判を受ける罪人であるかのように感じていた。

 

「これを書いた人に会えたら、一言お礼を言いたいと思ってたんだ。――『貴方の研究のおかげで多くの人を助けることができた。たくさんの笑顔を生むことができた。本当にありがとう』ってな」

「……ッ!」

 

 震えるスカーの瞳に、エドの視線が突き刺さる。

 

「なのに……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――なんでアンタ、その技術を人殺しなんかに使ってんだよ?

 

 

「……ッ」

 

 怒りの色も糾弾の色もなく……そこにはただ微かな悲しさだけがあった。

 それは復讐者の激情に冷や水を浴びせかけるには十分過ぎるものだった。

 

(……兄者)

 

 

 

『我々は世界の大きな流れの中の小さな一でしかない』

 

 

『せっかく縁があるんだから、もっと知る努力をするべきだ。そうすればもっと理解し合える』

 

 

『負の感情が集まれば、世界は負の流れになってしまう。逆に正の感情を集めて世界を正の流れにすることもできる』

 

 

『そのために私は錬金術を学んでいるんだ』

 

 

 

 

 

 

 

 ――生きろ。死んではいけない!

 

 

 

 

(ッ……兄者!)

 

 スカーの脳裏に、かつて兄と過ごした穏やかな日々がよみがえる。

 決して眼前の敵に絆されたわけではない。

 国家錬金術師を屠ったことを後悔などしていないし、今後復讐を止める気も毛頭ない。

 けれど――

 

「俺はこの力を、誰かを悲しませるために使うつもりはねぇ」

「……ッ」

 

 かつて兄が語った理想を体現する術師に対し、一瞬とはいえ憧憬を抱いてしまったこともまた事実で……。

 この期に及んでもなお殺意を維持できるほど、残念ながら彼の心根は冷徹にはなり切れていなかったのだ。

 

「どこまでも優しいこの技術は、人を幸せにするために使われるべきなんだ!」

「く……ッ」

 

 何に対して恐れているのかも分からないまま、スカーはエドワードから大きく距離を取った。

 そして彼は、この場を一旦預けようと破壊の右腕を振りかぶり――

 

 

 

 

 

「この治癒の力は――後遺症が残るような怪我を負った人(ヤリ過ぎで勃起不全に陥った人)や、原因不明の不調に苦しむ人(精力が減って二回戦ができなくなった人)や、不治の病に苛まれる人(真性○茎に悩む人)たちを、大勢救ってきたんだッ!!」

「………………」

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………、台無しであった。

 

「多くの人たちが充実したエロ人生をまた歩めるようになった! 世界が性の感情に満たされて皆が笑顔になったんだ! それをもたらした奇跡のようなこの技術を、なんでアンタは殺人なんかに使っ「ふんッ!!」――おわぁああーーーッ!?」

 

 このままなら、復讐を思いとどまるとまでは行かなくとも、彼の心に一石を投じる結果にはなったかもしれないのに……。まったくもって台無しであった!

 一瞬遅れで冒涜者(エドワード)エロ脳(頭部)を破壊し損ねたスカーは、感情の抜け落ちた顔で一言宣言した。

 

「……貴様を神の元へは行かせん。いや、地獄すらも生温い。安息も救いも許しも、永久に与えられぬものと思えッ!!」

「ちょ、なんで急に殺意マックス!?」

「滅せよ、国家錬金術師いいいーーッ!!」

 

 ――敬愛する兄の研究成果を借りパクした挙句、エロス目的で運用して得意気に笑う敵国の人間?

 そりゃブッコロされても仕方ない!

 

「ちょ、タンマタンマタンマ! えっ、使い方が気に食わなかった!? ならチ○コを巨大化する技術に転用した話を――!」

「~~Δ♯×%&●$!!!」

「ほわあああ!? もっと怒ったああッ!?」

 

 その後……怒りが限界突破した復讐鬼によって、エドワードは数時間に渡って市中を追い回された。

 必死に説得しようにも相手は聞く耳も持たず……、司令部の皆さんもなんだか冷たい目線のまま積極的に救助もしてくれず……。

 結局、命がけの鬼ごっこは日没まで続き、両者スタミナ切れとなって引き分けに終わる。スカーは特大の舌打ちを残して姿を消し、エドワードはなんとか死神の手から逃げきったのであった。

 

 

 

 

 

 ………………。

 

 

 

 

 

 ……………………。

 

 

 

 

 

「……はぁはぁはぁッ、ボロボロだな、俺たち!」

 

「うん。兄さんだけね」

 

「カッコ悪いったら……ゼェ、ゼェ……ありゃしねえ!」

 

「うん。ホントにね」

 

「でもッ……ゲホ、ゲホッ……生きてる!」

 

「うん。生きては、いる」

 

「生きてさえいれば何度でもやり直せる! 怪我もしていないし五体もちゃんと揃ってる! つまりは俺の勝ちってことだ! ハハッ、ざまぁ見ろ、スカーめ!」

 

 激しく息を切らしたまま両拳を突き上げて笑うエドワード。

 冷たい石畳に寝転んで勝利宣言する兄に対し、弟は無慈悲に現実を突き付けたのである。

 

「まあ、社会的には死んでるけどね?」

「それを言うなぁ!」

 

 市民に白いネバネバを擦り付け、下半身丸出しで街中を爆走した挙句、複数の建造物を完全破壊。

 少年は街を混乱に陥れた罰として留置場にぶち込まれ、彼が所属する東方司令部の評判は一夜にして地に堕ちたという。

 

 

 ――ジャキン!

 

「エドワード君? ちょっとお話しましょうか?」

「ひぇ……!」

 

 残念でもないし当然の結果だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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