色黒ガチムチ男に襲われた。
市街地を白濁まみれにして撃退した。
逮捕された。
「やばい、チ○コが詰まっちまった!」
「何言ってんの、兄さん。頭沸いた?」
イシュヴァール殲滅戦の生き残り――
「ちげーって! 昨日のネオアームストロング(以下略)鳥モチ砲のせいで
「えぇぇ……なんでさ? 試運転は何度かやったんでしょ?」
弟・アルフォンスはついに兄の脳味噌が詰まってしまったのかと失礼な感想を抱くも、事態は意外に深刻だった。
「確かに試し撃ちはしたけど、ありゃ落ち着いた状況でゆっくりだったからな。昨日みたいに緊急発射するのは初めてだったから、ちょっと機構に負担がかかったのかもしれねぇ」
「うわっちゃー……。兄さん、それは状況に合わせてもっと丁寧に調整すべきだったよ」
「わ、分かってるよ! 洒落で付けた機能だから適当にやっちまったけど、正規品でこんなことになっちまったらどんだけ患者を不安にさせるか……。こりゃ反省しないとな」
「そうそう。これじゃ僕ら発明者として名折れだよ」
……研究者が職業倫理について真面目に議論しているように見えるが、言ってる内容はチ○コについてである。
「あー……鋼の? それは、そんなにマズい事態なのかね?」
食後の茶を啜るマスタングが微妙な表情で問う。内容が内容だけに正直関わりたくなかったが、
「ああ、マズいな」
「すごくマズいです、大佐」
「具体的には?」
「出口が詰まって排泄できなくなって、膀胱が爆発する」
「マズいじゃん……」
「むしろ膀胱より先に砲身に液体を貯め込んで、常にフル勃〇状態になっちゃうかも」
「超マズいじゃん」
「最終的に放出機能が誤作動を起こして、予期せぬタイミングで○○が大量に撒き散らされる可能性も」
「滅茶苦茶ヤバイやつじゃん!!」
常の余裕を忘れて叫ぶ散らすマスタング。
このままでは東方司令部が膀胱司令部とかバーストシティ(※暴発的な意味で)だとか呼ばれてしまう!
いや、最悪大総統の前でそんなことが起きてしまえば物理的に首を切られるかもしれない。軍の上に行くどころかお空の上へさようならだ。
「鋼の! すぐにリゼンブールまで修理に戻りたまえ! これは基地司令としての命令だ!」
「わ、分かった。ちょっと電話借りるよ」
ってなわけでエルリック兄弟は一路故郷へと向かい、大事な大事なチ○コの修理を行うことになったのである。
「――あ、もしもし、ウィンリィ? あのさ、昨日チ○コの使い過ぎで砲身に不具合が出ちまってさ。悪いんだけど、明日の朝一番で処理してくんねえかな?」
「鋼の! 言い方ぁ! ここ食堂ッ!!」
――ざわッ!?
「あ、うん、ピナコばっちゃんにもよろしく言っといて。やっぱタマの扱いはばっちゃんが一番うまいからさ」
「さすがに僕でもマズいって分かるよ、兄さん! 誤解が広がってる!」
――ざわわッ!?
「ハハ、分かってるって。チ○コの方はお前にしか任せないよ。あぁ、うん、嘘じゃない。――俺のチ○コの専属は、一生お前だけだぜ?」
「最低の口説き文句だぞ、鋼の!」
「あれでまだ絶交されてないのが不思議よね」
普段からエロばかり考えているから言動がそっち方面に寄ってしまうと思われる。日常の過ごし方の大切さがよく分かる一幕だった。
「じゃあ今回も料金は弾むから、チ○コの世話よろしくな? えーと、ザ別300万センズで……オプションの方については応相談で」
「最後まで誤解生む言い方だよ兄さんンンン!!」
余談ではあるが……このときの会話が元で、『鋼の錬金術師は援交している』という噂がまことしやかに囁かれるようになった。そのとばっちりで監督者であるマスタングは上層部に呼び出され、厳重注意を受けるはめになったという。
……あとついでに『エドワード・エルリックは熟女もイケる』という事実無根の噂まで広まったが、こちらは完全な自業自得なので同情の余地はなかった。
◇◇◇
「吾輩が護衛役なのである。よろしく頼むぞ、エドワード・エルリックにアルフォンス・エルリック」
「護衛よりも今は医者が欲しい。正座した足が痺れて痛い」
「身から出た錆であるな」
ホークアイ中尉から原因不明のお説教を受けた後、エルリック兄弟は故郷リゼンブール行きの汽車に飛び乗った。その道中、再びスカーに襲撃される恐れがあるということで、護衛としてアームストロング少佐が二人に同行している。
この兄弟なら襲われてもまた撃退できそうだが、純戦闘員ではないエドワードをこの状況で放置しては軍の風聞にも関わるため、こうして豪腕の錬金術師が護衛役として派遣された次第だ。
……ぶっちゃけこれ以上問題行動を起こさないためのお目付け役でもある。もう減給は嫌だ、とは呼び出しを受けた際のマスタングの談。
「二人だけであのスカーに挑もうなどと……、子どもが危険なことしちゃダメだぞ?」
「分かってるって。必要がなきゃ俺たちだってやらねえよ」
「そうそう。僕たちは健全な平和主義者ですから」
「あと、いかがわしいブツももう錬成しちゃイカンぞ? そういうのはもっと大人になってからだ」
「へっ、生憎そっちは聞けねえな。エロ探求は俺たちのライフワークなもんで。な、アル?」
「えへへ、改めて口にするとちょっと恥ずかしいね」
ちょっとどころではない。大恥である。
「ぬぅ、分からず屋兄弟め! また失敗してもう片玉まで失ったらどうするのだ! アルフォンスの方も魂にどんな影響が出るか分からんぞ!」
「安心してください、少佐。さすがに再チャレンジは元の身体に戻ってからにしますから」
「ああ。そのためにも早く賢者の石を見つけねえとな」
「……こんな不純な動機で探される賢者の石がかわいそうになってきたぞ」
数多の錬金術師が追い求めた夢の物質をチ○コ錬成に用いようなどと……。しかも原因はダッ○ワイフ作製による身体欠損。
現代の術師の端くれとして、アレックスは先人たちに土下座したくなってきた。
「大丈夫! 『賢者』って名が付くくらいだから発明者もきっとエロには寛容だよ。賢者タイム的な意味で」
「最初に作った人も、実は精力増強剤として開発したんじゃないかな? 凄いエネルギーの塊だって言うし、『何度でもビンビンですよ』みたいな?」
「んなわけがなかろうが」
「『哲学者の石』って異名もなんだか意味深に聞こえてきたな……」
「『赤きティンクトゥラ』もチ○コが訛った名称かもしれないね……」
「やべえな、昔の偉人たちの来歴も意味深に感じられてきた」
そしていつも通り暴走する議論。
「ハエと人間を合成した古代の錬金術師は、ひょっとしてモンスター娘を造ろうとしていた?」
「シン国で医療錬金術の礎を築いた“西の賢者”も、自在にエロを楽しむために人体を研究していた?」
「ってことはクセルクセスが滅んだのもエロス関連の何かが原因ってこと? 性癖の不一致で仲違いしたとか?」
「こりゃ東の賢者にも何かあるな? この国に錬金術を広めたのも、きっと変態的なナニかを求めたからだぜ!」
つまり。
「「結論。錬金術の祖は皆、エロスの権化だった!!」」
「ふぅ。今日も良い天気であるなぁ」
護衛として派遣された豪腕の錬金術師は早くも他人のフリを始めた。
…………。
………………。
――――
そんな、常軌を逸した会話が繰り広げられる空間から、少々離れた座席にて。
(公共の場でなんて下品な! これだから人間はッ!)
美しい黒髪と起伏に富んだスタイルの妖艶な美女――ホムンクルスのラストさんが激しく憤慨していた。トラブルメーカーであるエルリック兄弟の監視の任に(嫌々)ついていたわけだが、あまりの品の無さに早くも意志が挫けそうだった。カモフラージュで広げている新聞も怒りでしわくちゃになっている。
(下らないエロ妄想にお父様まで巻き込んでんじゃないわよッ! 確かに裏でいろいろ暗躍してるけど、あれは真っ当な陰謀であって断じていかがわしい目的じゃないわッ!)
真っ当な陰謀とは一体……?
ラストは混乱している。
(だいたいお父様はとっくに感情を切り離しているんだから、そんなふしだらな欲望なんてあるわけないでしょ! 色欲なんて下劣な感情、生きていく上で不要なのよ!!)
怒りのあまり思わず自己否定。
「……ッ……いけない、さっきからペースを乱されているわ」
頭痛を感じ始めたところで我に返り、ラストは頭を押さえながら自問した。
下等生物の言葉なぞに自分は何を躍起になっているのか、と。
(所詮人間なんて虫けらのごとき存在。人柱として使い潰す道具に過ぎない。愚かな道化のさえずりを一々気にするだなんて、お父様の子として恥ずかしい失態だわ)
そうしてラストは立ち戻る。
下劣な会話に渋面を浮かべる婦女子から、偉大なる創造主に仕える尖兵へと。
(そう、私はお父様の忠実なる僕にして“最強の矛”。この国の全てをお父様に捧げる約束の日まで、冷徹な刃として自らの役目を全うする。あんな変態小僧どもの戯れ言に心を乱されるなんて、断じてあってはなら――
「ねえ、お姉さん?」
「ッ!?」
気付けば目の前には憎たらしい金髪金目。
自らの父を思わせる容貌に至近距離から覗き込まれ、ラストの総身が大きく跳ねる。
(し、しまった、つい意識を集中し過ぎて――!)
慢心。
失態。
痛恨のミス。
会話内容に気を取られている隙に監視対象の接近を許してしまうとは……!
「なあアンタ、さっきから俺たちのこと熱心に見てたよな?」
「な、なにを……私は別に」
「いや、どっちかと言うと見ていたのは…………俺という個人かな?」
(馬鹿な! すでにこちらの狙いまで看破されている!?)
甘かった。
所詮子どもだと思って見くびっていた。
腐っても史上最年少国家錬金術師。
たとえ中身が俗物であっても、決して油断して良い相手ではなかった!
「ちょうどいいや、俺からもお姉さんに用があったんだよ」
「くっ……!」
エドワードが両手を軽く振りながら腰を落とした。明らかに戦闘態勢に入った姿にラストの動揺が加速する。
(どうする!? 今ここで殺る!? いえ、駄目よ、貴重な人柱候補を許可もなく抹殺するわけには……! けどこのままじゃ私たちの秘密が!)
逡巡の間に伸ばされる少年の手。
あのスカーをも容易く撃退した、万物の破壊と再生を司る錬金術の極致。
直接その身に叩き込まれればホムンクルスといえどただでは済まない。
「へっ、俺は全て気付いてたぜ。アンタ――」
激しい動揺に硬直するラストの肩を、少年の右手が掴んだ。
(や、殺られる……!)
「アンタ、逆ナン目的で俺に熱い視線を送ってたんだろう?」
……。
…………。
………………。
「――――は?」
生まれて初めてと言っていいほど冷たい声が、ラストの口から漏れ出た。
「分かってるって、皆まで言いなさんな。あまりに麗しく、知性に富んだこのエドワード・エルリックの姿を見て、思わず声をかけたくなったんだろう? 照れなくても良いって」
「…………」
「だけど申し訳ない。あいにく俺には今やらなきゃいけないことがあって、お姉さんの愛を受け入れることはできないんだ。どうか許してほしい」
………………。
彼女の創造主はかつて言った。
『足元を這いずる虫けらなど、レベルが違い過ぎて嘲笑う対象にすらならないだろう?』と。
ラストは今、不敬にもこの小僧を父の前に連れていきたくなっていた。
偉大なる我が創造主は、コレを目の前にどんな反応を見せてくれるだろうか?――と。
「う~ん、でも身体は滅茶苦茶好みなんだよなぁ。ここであっさりさよならするってのもちょっと惜しい気もするし。う~む、悩ましいぜ」
「……ッ」(ビキビキ)
そうしてラストは、新たな一つの知見を得る。
世の中には通常の
もはや恐怖など地平の彼方へ吹き飛び、ラストは人知れず拳を握り締めた。
「よし! じゃあせっかくなんで、次の駅に着くまでいっしょにお茶でもどうッ?」
最強の矛?
そんなモンこの変態野郎にはもったいない。ステゴロだけで十分だ。
ほら、ちょうど殴り易い高さに良い的があるぞ?
「できればイチャキャバみたくソフト系お触りを有りにして、男女の濃密な時間にしてくれればとても嬉し「黙りなさい、このアホガキがッ!」ブヘェ!?」
スケベ小僧の身体が上方へ打ち上がった。ホムンクルスの怪力で下顎を打ち抜かれたエドワードは見事に空中で一回転し、荷物用網棚に頭から突っ込んだ。
天井から吊り下がった両脚に向け、ラストは冷たく吐き捨てる。
「うるさい男は嫌いよ。下品な男はもっとね!!」
「……あ、ありがとうございますぅ」
「ッ……へ、変態!!」
まったくもってその通り。反論の余地などない特殊性癖の発露を受けて、最強の矛は両肩を掻き抱いて後ずさった。
「そんな口説き文句で女性にモテようなんてとんだ勘違い野郎だわ! 一生寂しく非モテ童貞やってなさい、この玉無し野郎!!」
「おっふ!」
「フン!」
――これは敗退ではなく転進である。
そんな誰に聞かせるでもない言い訳を胸中で叫びながら、ラストは若干涙目のまま後方車両へ走っていった。
(こんな愚か者に我々の計画を阻止できる知性なんて無いわ! 監視はこれで終了よ!)
「グラトニー! グラトニー、いるッ? さっさと帰るわよ!」
「ラスト、どうしたの~? 怒ってる~?」
「ホント、男って最低だわ! アンタはあんな風になっちゃダメよ、グラトニーッ!」
「よくわかんないけど、わかった~!」
かくして。
一片の武力も使わず、一人の犠牲も出さず。
エドワード・エルリックは歴史上初めて、スケベ心でホムンクルスを撃退した男となったのである。
…………。
………………。
――――
「兄さん、さすがにあの口説き文句はないと思うよ? 訴えられたら100%負けてたよ」
「仕方ないだろ? あの姉ちゃん、イーストシティからずっと俺らをストーキングしてたんだから。穏便に帰ってもらうにはあれくらいしか思い付かなかったんだよ」
「穏便?……だったかなぁ?」
「それよりもアル、ちょっと引っ張り下ろしてくれ。金網に頭が突っ込んで動けん」
「あっ、そこは演技じゃなかったんだね」
「あぁだだだ!? も、もっと優しくッ!」
アルフォンスは腰まで壁に埋まった兄を力任せに引っこ抜いた。
当然ながら引き抜かれた頭は血みどろストロベリー。
師匠にしっかり鍛えられていなければ即死だったかもしれない。
「あがががッ……頭と顎が超痛い。なあ、コレ大丈夫か? 頭蓋骨にヒビとか入ってないよな?」
「それくらいなら問題ないでしょ。いつものことなんだし放っとけば治るよ」
「治ってたまるか! お前は兄貴を何だと思ってんだ!」
問い詰める兄に、弟は真面目腐った声で答えた。
「人間かどうかも怪しい不思議生物? 最近はもう僕より人外染みてきてるよね」
「おい、聞き捨てならんぞ、鎧男! 自分だって最近は無機物に萌えてきてるくせに!」
「いやいや、守備範囲100歳の年上スキーには負けますよ」
「はあ!? なんだその酷い風評! どこ情報!?」
――ギャー、ギャー、ギャー!
強敵を退けた直後、兄弟による不毛な第二ラウンドが始まろうとしている中、
「あの、そこの君、頭は大丈夫かね? ……いや、皮肉ではなくて文字通り」
「「ん?」」
「酷い出血だよ。とりあえず、近くに私の診療所があるからそこに……」
「あ、ドクター・マルコー」
「……え?」
真理を追い求める兄弟は、何やら重要人物っぽいオジサンと邂逅した。