真理の扉にチ〇コ持って行かれた!   作:マゲルヌ

9 / 12
9話 過つは人の性、許すは神の心

 とある初夏の昼下がり、爽やかな風に庭の草木が揺れている。幼いエドワード少年は満面の笑みを浮かべ、母が作業している畑へと駆けていった。

 その手に大事そうに握られているのは、ややずんぐりしたデザインの馬の人形だ。実物とはところどころ違う点もあるが、足の関節や尻尾、目や耳や口といった細部までとても丁寧に作られている。子どもの手作りにしてはよくできたコレは、つい先日学び始めた錬金術で作成した、エド少年初めての作品であった。

 

「おかあさん!」

「どうしたの、エド?」

 

 怒った姿などほとんど見たことのない母は、今日も穏やかな笑みを浮かべて振り返る。収穫したトマトを乗せたエプロンの裾を摘まみ、幼いエドと目線が合うようにゆっくりと腰を落としてくれる。

 そんな優しい母に、エドは得意げな笑顔で手製の馬を差し出した。

 

「へへ~~、プレゼント!」

「あら、母さんに? どうしたの、これ」

「ボクが錬成したんだよ!」

「まあ、エドが? さすが父さんの子ね」

 

 渡された馬を愛しそうに抱え、母はエドの頭を優しく撫でてくれる。

 

「こんなに立派なものを作れるなんて、本当にすごいわ、エド」

「へへっ」

 

 まだ母が病に倒れる前……、皆で笑って暮らせていた、在りし日の眩しい記憶であった。

 

「でも――」

「え?」

 

 

 

「――ダッ○ワイフのデザインには失敗しちゃったのね?」

 

 

 

 いつの間にか母の手には、地下室に仕舞い込んだはずの空気嫁が握られていた。

 

「う……うわあああああーーーッ!!!?」

「それに本物の女体はここまで細くないわよ? ちょっと童貞の妄想が入り過ぎてるんじゃ――」

「やめてええええーーーッ!!!?」

 

 

 

 

 

 ――――

 

 

 

 

 

「っていう夢を見たんだよッ!!」

「きっつ!!」

 

 ……母親からエログッズにダメ出しされるとか、地獄にも程がある悪夢だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 タッカーの事件から一夜明けた翌朝、エルリック兄弟は再び東方司令部を訪れていた。

 未遂に終わったとはいえ、娘を代価に使うという前代未聞の違法錬成事件だ。裁判にはかなりの時間がかかるはずだし、終わった後もこれまでの生活に戻るのは無理だろう。特に、真相を知ったときのニーナの気持ちを思うととても放っておくことなどできない。

 そんなわけで、エロ小僧な割にお人好しなエルリック兄弟は、何かできることはないかともう一度ニーナの様子を見に来た次第だ。

 

「ああ゛~~~、朝から酷い目に遭った」

「こっちのセリフだよッ。聞いただけで精神に大ダメージだったよ!」

 

 しかし今はそれとは別件で気分がドン底に沈んでいた。タッカーの件で自分たちの家庭についても思い出した影響だろうか。ずいぶんと久しぶりに母トリシャとの古い記憶を夢に見たわけだが……。

 

「なんで俺はあんな気まずいシーン捏造してんだよ。もっと綺麗な場面いっぱいあっただろ。どういうチョイスなんだよ、俺の深層心理……」

 

 さすがの最年少国家錬金術師といえども、実の母にダッ○ワイフを寸評されるのはダメージがデカかった。これが父親ならばまだ男どうし分かり合う道もあるだろうが、かーちゃんはイカンよ、かーちゃんは……。

 

「捏造っていうか、兄さん……8割方は本物の記憶じゃないか。一時期狂ったみたいにエログッズ作ってたから何回か母さんに見つかって……。あのときの居た堪れない空気はトラウマものだったよ?」

「うぐっ……。そ、それもこれも、修行途中で家を出ていったあのアホが悪いんだ! あいつがもう少し先まで指導してくれていれば、無計画に濫造して見つかるなんてヘマはしなかった!」

「酷い責任転嫁を見た……。オネショをしたシーツを隠す子どもよりタチが悪い」

「う、うるさい! お前だってエロ本を野菜室に隠してインクを染み出させてしこたま怒られたくせにッ」

「な、なにをー! そっちだって60km/hの風圧(おっ○いの感触)を体験するために走行中の汽車の屋根に飛び乗って危うく逮捕――ッ」

 

 

「――二人とも? ここが公共の場ってことを忘れてないかしら?」

「「ひぇッ!?」」

 

 兄弟間黒歴史デスマッチに突入しようという矢先、背後からの冷たい声に二人揃って飛び上がる。

 そのまま慌てて回れ右。

 追加のお小言をもらう前に慌てて彼らは最敬礼姿勢を取った。

 

「お、おはようございます、ホークアイ中尉!」

「今日もお勤めご苦労さんです、中尉殿!」

 

 軍属ではない弟と少佐相当官の兄。どちらも一中尉に(おもね)る必要はないはずだが、そんなもん知らんとばかりに揃って背すじを伸ばす。

 どうも昨日の夜あたりにナニカされたのが原因のようだが、聞かれると二人とも蒼い顔で首を振るので真相は定かではない。

 

「と、ところで! ニーナの様子はどうですか!? もう目覚めました!?」

「あとッ、タッカーの身柄は!」

「…………はぁ」

 

 あからさまに話題を変えているのは明白だったが、リザさんは懐の深い女。今回は見逃してくれるようだ。

 

「タッカー氏は資格剝奪の上、中央で裁判にかけられる予定よ。ちょうど今、セントラルから担当の人が引き取りに来ているわ。……もっとも、しばらくはまともに口がきける状態じゃないでしょうけどね?」

「あ、あはは……」

 

 少々やり過ぎた自覚があるエドワードは、冷や汗をかきながら明後日の方向へ目をやる。無駄足を踏んだ取り調べ官には申し訳ない気持ちでいっぱいである。

 

「そ、それで、ニーナの方は……?」

 

 誤魔化し半分といえど少女を心配する気持ちは本物だ。恐る恐る尋ねる14歳の少年に、リザは優しい笑顔で答えた。

 

「安心なさい、アルフォンス君、もうそろそろ目覚めるはずよ。一度他の生物と合成されたのに身体は全て正常。診断した医者も『すごい技術だ』って驚いていたわよ」

「そ、そうですか……」

 

 ホッとする弟の背中にエドは軽く手を添える。

 

「良かったな、アル。完璧な仕上がりだった自負はあるけど、それでも何か起きる可能性はあったもんな。これで一安心てもんだ」

「うん。頑張った甲斐があったよ」

 

 顔を見合わせ、兄弟で拳どうしを打ち付ける。今度こそ誰かを救うためにと、長年磨き続けてきた技術が実を結んだ。喜びも一入というものだった。

 

「よし! じゃあニーナが目覚めたときに元気付けられるように、プレゼントでも買いに行くか!」

「お、いいね、兄さん。どういうものが喜ばれるかな? やっぱりお菓子? それとも玩具?」

「全部買っていけばいいだろ。快気祝いなんだしケチケチすることはねえよ」

 

 そう言ってエドは分厚い黒財布をヒラヒラと振った。

 

「さすがは国家錬金術師! 金と権力の象徴! よっ、銀時計の輝きがニクイね!」

「ふはははッ、そうだろう、そうだろう。その内この財力を生かしていろんな女の子をゲットしてやるぜ!」

「そのときはぜひ御供します、偉大なるお兄様!」

「わはは、苦しゅうないぞ!」

 

 頭の痛くなる会話を繰り広げながら、兄弟は支部の廊下を駆けていった。

 やっぱりまだまだ子どもね――と一瞬笑ったリザだったが、言ってる内容はただの成金親父だと気付いて頭が痛くなった。

 その内キャバ嬢に貢いだりしないように願うばかりである。

 

 

 

 

 

 

 ――――

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様です、大佐」

「ああ、戻ったかね、中尉」

 

 司令部の地下にある一室では、件のタッカーの取り調べが行われていた。資料を取って戻ってきたリザは紙束をマスタングに手渡し、改めてガラス窓の向こうのタッカーを見る。

 

 

『いつからこんな馬鹿な真似を考えていた?』

 

『………………』

 

『こんなことをして、いつまでも誤魔化し切れると思っていたのか?』

 

『………………』

 

『娘が可愛くないのか? 犠牲にすることに躊躇いはなかったのかよ、アンタ』

 

『………………』

 

『チッ! 時間の無駄だったな』

 

 

 

「見ての通りだ。何を聞いても、強めに脅しても、うんともすんとも言わん」

「……なるほど」

 

 ――憔悴。

 その言葉以外が見当たらないほどに、今のタッカーは生気のほとんどを失っていた。違法研究とはいえ、人生全てをかけて求めていたモノをほんの数分の片手間で覆されたのだ。しかもそれをやったのは自分の半分も生きていない子ども。大の男がああなってしまうのも無理のない話だろう。

 ……決して同情などはできないが。

 

 

 ――ガチャリ。

 

「か~~ッ! 駄目だ、あの野郎何も喋りやがらねえ!」

「完全に心折れたといったところですな」

 

 取調室から二人の男性軍人が出て来る。悪態を吐きながら頭をガシガシ掻いているのはマース・ヒューズ中佐。セントラル・シティで司法関連の任に当たっている優秀な将校だ。

 その隣のニメートルを超える大男はアレックス・ルイ・アームストロング少佐。マスタングやエドと同じく、“豪腕”の名を冠する国家錬金術師である。

 

「すまんな、ヒューズ。手間をかけることになってしまって」

「……ま、個人的にはスカッとしたがね。女房や娘を実験に使おうなんざロクな男じゃねえ。天罰覿面ってモンだ」

 

 ヒューズは渋い顔で吐き捨てる。愛妻家かつ子煩悩の彼にとって、今回のタッカーの所業は到底許せないことだったろう。誰憚ることなく辛辣な思いを口に出す。

 

「しかし……これでは、セントラルでもまともな裁判にはならないかもしれませんな」

「構わねえさ。鉄格子付きの部屋と一生の付き合いになるのは変わらねえんだ。それにある意味ラッキーだったかもしれんぞ? 司令部に勾留されたことで命が助かったかもしれねえんだしな」

「なるほど……確かに」

「??」

 

 マスタングは軽く眉根を寄せる。

 辛辣な発言よりもその後の内容の方が気になったからだ。

 

「どういうことだ、ヒューズ?」

「ああ、そうだった。タッカーのことは実はついででな。今回はお前さんに直接忠告したくてここまで来たんだ」

「なに?」

 

 ますます訝るマスタングに対し、ヒューズは神妙にその名を告げた。

 

「――傷の男(スカー)って名前を知ってるか?」

「!」

 

 それは……今世間を騒がせている連続殺人犯の通り名だ。素性も武器(えもの)も目的も一切不明にして神出鬼没。ただ額に大きな傷があるらしいということしか分かっていない。

 その殺害状況や国家錬金術師狙い(被害者の共通点)について一通り説明し、ヒューズはマスタングに忠告を述べた。

 

「――こっちでも奴が目撃されたっていう情報もある。しばらく護衛を増やして大人しくしててくれ。これは親友としての頼みでもある」

「…………」

「ま、ここらで有名どころと言ったらタッカーと、あとはお前さんだけだろ? しばらく気を付けてくれりゃ憲兵隊が解決――って、どうした、ロイ?」

 

 そこには冷や汗を浮かべて副官と顔を見合わせる男の姿が……。

 

「中尉、エルリック兄弟は……?」

「先ほど司令部を出ていきました。おそらく大通りで買い物をしているはずですが」

「チッ、こんな時に……! すぐに車を出せ! 手の空いてる者は全員大通り方面だ!」

「お、おい?」

 

 マスタングは取調室を飛び出し、待機している部下たちに片っ端から命令を下していく。

 その焦り混じりの檄を受け、司令部は俄かに喧騒に包まれていった。

 

「急げ! エルリック兄弟は大通りだ!」

「相手は国家錬金術師殺害犯! 激しい戦闘が予想されます!」

「第一種装備で出るぞ! ヘルメットと盾を忘れんなよ!」

 

 小銃やライフルで武装した憲兵たちが、焦りの表情を浮かべながら足早に建物を飛び出していく。

 

 

 

「商業地区が酷いことになる前に、早く彼らを確保するんだ!!」

 

 

 

 ……その焦りようは、本来の世界線とはちょっと違っていたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「なあアル、これなんかどうだ?」

「えー? 女の子のプレゼントに超合金はちょっと……」

「お前のケモナー図鑑だって大概だろ。それで喜ぶのなんて特殊性癖者(俺たち)ぐらいだぞ」

「犬好きならアリかなーと思って」

 

 大通りのショッピングモールにて、兄弟は相変わらず頭の痛くなるやり取りを繰り広げていた。

 ――辛い想いをした女の子に元気が出る物を贈りたい。

 と、考えだけは立派に売り場を練り歩いているわけだが、なかなかこれといったものが見つからない。

 一応安パイとして花束やケーキといった無難なところはすでに確保しているのだが、それだけでは少々味気ない。ここでオリジナリティや外連味を加えてこそ、女を喜ばせるデキる男と言えるだろう。

 兄弟は根拠のない自信とこだわりに突き動かされ、女子の心に刺さりそうな奇抜な品を探していく。

 

 そんな変化球ばかり投じているからいつも暴投を繰り返すのに……。

 真実に気付くには今しばらく時間がかかりそうだった。

 

 

「あ、いたいた、エドワードさん! ――エドワード・エルリックさん!」

「「ん?」」

 

 お宝を見つけるよりも捜索班に見つかる方が早かった。謎の部族の置き物を品定めしていたエドのもとへ司令部所属の憲兵が走り寄って来る。

 

「無事で良かった、探しましたよ!」

「何々? 俺に何か用事?」

「はい、至急本部に戻るようにとのことです。実は、連続殺人犯がこのあたりに――」

 

 

 ――そのとき、彼らの頭上を影が覆った。

 

 

「「?」」

 

 何事かと見上げた彼らの目の前には、額に傷を持つ浅黒い肌の大男が一人。サングラス越しでも容易に分かる憎悪の瞳でエドを見下ろしていた。

 

「エドワード・エルリック! 鋼の錬金術師ッ!!」

「「ッ!?」」

 

 全身が硬直するほどの凄まじい殺気!

 直後、全員が弾かれたように動き出す。

 

「額に傷の――ッ」

 

 大男が右手をエドに向かって突き出し、憲兵が腰の銃に手をやった。

 その瞬間、理屈よりも理性よりも、エドの本能が何より声高に叫んでいた。

 

 ――あの右手はヤバイ、と!

 

「バッカ……やろうッ!」

「うわッ!?」

 

 向かって行こうとした憲兵の襟をひっつかみ、エドは思い切り後ろに跳んだ。

 傷の男の長い間合いのギリギリ外まで飛び退くも、憲兵の腕が僅かに()()に触れてしまう。

 

 瞬間――

 

「がアああああーーーッ!!!?」

「「ッ!?」」

 

 発動の兆候は見られず、錬成光も極僅か。

 傍目には憲兵がただ悲鳴を上げただけにしか見えない。

 しかしエドほどの実力者なら一目見ただけで理解できた。彼の右腕の一部を()()()()それは、紛れもなく錬金術の業であると!

 

「アルッ!」

「でええーーい!」

 

 ――ドガンッ!!

 

「むッ!?」

 

 逡巡は一瞬。驚愕を胸に仕舞ったエドたちは即座に意識を切り替え、命令に従ったアルが傷の男を蹴り飛ばす。

 

「アルッ、おそらく物質を分解する特殊な錬金術だ!」

「!」

 

 敷石から錬成した槍を投げ渡しながら、エドは弟に鋭く命じる。

 

「あいつの両手には絶対触れるなよ! 遠い間合いから時間稼ぎにだけ集中しろ!」

「分かった! けどなるべく早く来てね!」

「ああ! この人の腕を治したらすぐに行く!」

 

 ――パンッ!

 

 両手を合わせ、ブラリと垂れ下がる憲兵の腕に押し当てる。上腕の筋肉が根こそぎ抉れており、おそらくは内部の生体組織もズタズタに破壊されている。完全に治すには今しばらく時間がかかるだろう。

 

「死ぬなよ、アル……!」

 

 兄弟のシリアスな戦いが久しぶりに始まった。

 

 

 

 

「でやああッ!」

 

 2メートルを超えるアルの長身から高速の槍術が繰り出される。ただでさえ長い手足の上に槍という長物だ。間合いの長さは3メートル近くにもなり、素早く突きを繰り返すだけで相手は容易に近付けない。

 

「フン!」

 

(くっ! 全然当たらないなぁ、もう!)

 

 しかしながら、見た目ほど余裕があるわけではなかった。相手の動きはかなり速い上、見切りの能力も正確だ。純粋な近接戦闘力で言えば完全に負けているだろう。距離を取って細かく速い攻撃を繰り返しているからこそ、ギリギリで凌げているに過ぎない。

 あの破壊の腕には触れられただけでアウト。

 鎧の身体を持つアルとはいえ、当たり所によっては一撃で戦闘不能になりかねない。師匠にしごかれていたとき以来の緊張感を以って、アルは決死の覚悟で槍撃を繰り出していった。

 

「やあああッ!」

 

(チッ……、厄介な)

 

 一方で傷の男――スカーもまた攻めあぐねていた。

 標的はまだ10代の年若い兄弟。あっさり目的を達せられるかと思いきや、蓋を開けてみればとんでもない。命の危機が目前に迫っているというのに、まるで怯えることなく二人とも冷静に対処していた。

 腕前についてもまた驚異的だ。自分と斬り結んでいる弟の熟練の槍術もそうだが、何より、視界の隅に映る兄の使う医療錬金術である。人体破壊によって修復不能にまで壊された憲兵の腕が、まるで時間を巻き戻すかのように再生されていく。

 その凄まじい技量にスカーは知らず奥歯を噛み締める。

 

 標的が手強く厄介……というだけではない。

 

 軍事技術に特化したアメストリスの国家錬金術師が……、かつて自分たちを無慈悲に滅ぼした冒涜者の一人が……、他者を助けるために錬金術を使っている。

 その事実に男は言い知れぬ不快感を覚えていた。

 

「ッ~~、邪魔だ、どけッ!」

「うわッ!」

 

 体内の激情を吐き出すかのごとく、スカーは怒号とともにアルフォンスを蹴り飛ばす。

 弟の方は殺害対象ではないが邪魔するならば容赦はしない。こうして手をこまねいている間に国家錬金術師(兄の方)に逃げられでもしたら本末転倒だ。

 

「神の御許に逝くがいい!」

「ッ!」

 

 互いを想い合う兄弟の姿。

 在りし日の穏やかな記憶を揺さぶられながら、スカーはそれを振り払うように右腕を突き出した。

 傷だらけの掌が無骨な鎧に触れる――

 

「これでッ」

 

 ――寸前、

 

「今だよ兄さんッ!」

「おうよ!」

「ッ!」

 

 やはり己は冷静ではなかったとスカーは歯噛みする。目の前の弟に集中する余り、兄の方を意識から締め出してしまっていたのだ。

 ヘマをした自分に舌打ちを零しながら、彼は不意打ちに対処すべくエドワードの方を振り返り――

 

 

 

「な゛ッ!?」

 

 瞬間、スカーの中で全ての思考が停止した。

 それは、彼の短くない半生においても初めて目にする光景。

 凄惨な殲滅戦を生き抜いた武僧の精神を以ってしても、思わず硬直するほどの、極めて冒涜的な姿だった。

 

「くらえ、通り魔あああッ!」

 

 ――15歳の少年が白昼の大通りでパンツをずり下ろし、股間から蒸気を吹き上げていたのである!

 

「ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲! 発射あああッ!!」

 

 ――ズドンッ!!

 

 天を衝く鋼の砲塔より、輝く弾丸が射出される!

 少年の股間から飛び出した白い塊は、凄まじい速度でスカーの身に迫り!

 

 

「ッ~~神よッ!!」

 

 

 あまりに狂気的なその所業に、復讐者は思わず神に祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。