Re:呪は月を擁いて   作:鉄屋

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第十一話 『想いの行先』

 

 平時とは打って変わって爆音が響く空、その発信源で全身を白く覆う鎧が舞っていた。

 胸の膨らみから女と判るそれは、剣一本で次々と飛び交うミサイルを切り裂いていく。爆風に飲まれても汚されない純白の騎士は、世界中に散りばめられた映像越しに見る人々誰もを魅力した。

 

 其処へもう一つ、大砲を背負った白い全身鎧が浮かんできた。

 此方は舞う丸みを帯びた騎士鎧とは違い、所々が角ばっており男のフォルムを思わせる。ただ、大砲を構えようとする動きは機械的でぎこちなく、舞い踊る騎士とは全く比べ物にならないブリキのようだったが、それから発射された光線は幾つものミサイルを貫き、一度に多重の爆音を響かせる力強い銃士だった。

 

≪むっくん、撃った感想はどうだい?≫

「……コレ、俺が乗ってる意味あるのか?」

 

 その銃士の鎧を着こむ神威に束の明るい声が響くが、返事は呆れ声だった。

 だがそれもその筈、神威が動かしたのは人差し指一本だけであり、他は粗全て束の遠隔操作。身体自体は微動だにせず固定砲台の様に次の標的へと旋回する様は、乗っている神威にとって自分の方が操られているとしか思えてならない。

 

≪ほうほう快適と≫

「聞けよ」

≪んじゃ、もう一発いってみようか≫

「だから聞けよ」

 

 開けていた視界も急に狭まり、スコープ越しのように標的しか映らず、遠近感がまるで無い。

 外気でも感じれれば少しは気が引き締まるのだろうが、それすらも完封されている神威にはどうしても戦場に立っている気がしない。

 

≪ターゲットをロックしたらトリガー!≫

「たーげっとをろっくしたらとりがー」

 

 指一本しか動かせない状況ではゲームにも成らず、もはや繰り返すだけの作業(ルーチンワーク)領域だ。やる気が微塵も無くなった神威は、束の言葉を適当に反復しながら言われるままに引鉄を引いた。

 

≪コラ、やる気をだしなさーい! 7発外しただろー!?≫

「……一発で全部薙ぎ払えるもん付けときゃよかったんだよ」

≪お義姉ちゃんの言う事をちゃんと聞きなさーい!!≫

「いや、お前が俺の言う事聞けよ。このポンコツが……っ!?」

 

 神威は束に悪態をつきながらもう一度引鉄を引こうとしたところで、心臓付近に何か突き刺さる衝撃を受けた。飛来するミサイルは一刀の下に切り裂かれているので、攻撃を受けたわけではない。鎧内部から発せられるものだった。

 

≪え? ……ちょ、なんで!? この子も反抗期!?≫

 

 劈くような束の声が脳内に響くが神威に気にしている余裕は無い。それどころかもはや認識すら出来ず、刺された箇所から侵食するナノマシンにカタカタと振るえるだけであった。

 

「あ……ア、ァ……」

 

 暗く成っていく視界、無く成っていく感触。じわりじわりと塗り替えられるような感覚に、神威の意識は反転した。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

「また此処か……」

 

 見渡す限りの白い空間。忌まわしい思いをした場所に、気づいた時にまた立っていた。

 あの時とは違い、自分の手足が小さい事から(神威)の儘なのだと理解するが、解かったところでどうしようもない。

 

「今度はなんだ……!?」

 

 とんとん……と、後ろから肩を叩かれて振り返ると、ここ一年で鏡越しに見慣れた顔が、もう一人居た。何時も鏡に映る顔とは違い、もう自分には出来ない裏表もない純粋な表情をした神威が。

 

「お、おい!?」

 

 目の前の神威は驚く俺の手を取り、白い空間を駆けだした。

 何処まで行くのか、どうして此処に居るのか、俺をどうしたいのかと訊いてみるが、前を向いたままで何も答えない。

 何も答えないのは……成り代わった俺を恨んでいるからか。後ろめたさを感じつつそう訊こうとしたところで、何か白以外のモノが見えてきた。

 

「椅子……?」

 

 辿り着いた所に在ったものは、座るシート部分以外は金属で造られ、体を縛るようなベルトが付けられた椅子。其処へ引かれる儘に座らせられると同時に、其処から逃がさぬようにとベルトが俺に巻き付いた。

 

「待てっ!!」

 

 もう終わったとばかりに離れようとするアイツの腕を、今度は俺が確りと掴んだ。たぶん此の儘いけば、俺だけがあの世界に戻る。だから、せめて一緒にと思いっきり腕を引いた。

 だが、ずるりと何か硬いものを引き出しただけで、アイツはそのまま離れて行って、消えてしまった。それも笑顔で……。

 

「なんで、笑えるんだよ……」

 

 途端に薄暗く成った“部屋”で一人ごちた。

 アイツが解からない。何を考えているのか、何を想っているのか、全く解からない。だが、俺に何をさせようとしてたのかは、何時の間にか左腕付近に在る操縦桿を見て解かってしまった。

 今、右手で掴んでいる操縦桿型のキーデバイスを左と対称の所に接続すれば、それで終わる。それで俺は(神威)として戻ってしまう。

 

「お前はそれでいいのかよ……」

 

 返ってくる声は無いが、応えるように接続部が淡く光った。まるで、IS(コイツ)に宿ったかのように。

 

「この、馬鹿野郎がぁっ!!」

 

 俺はその接続部にキーデバイスを、殴る様に叩き付けた。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

「神威! 返事をしろ!!」

 

 神威を包むISが光を放ち、卵の様な白い殻に包まれてから数分経った。

 千冬は今すぐにでも駆け寄りたい気持ちを抑え、飛び交う邪魔なミサイルを片っ端から墜としていく。

 

「応えてくれ神威――――ちぃっ!!」

 

 意識が神威に向いてる為か、剣筋がブレて切り裂けず離脱も遅れ、強い衝撃を受け装甲が飛び散った。だが、即座にナノマシンを使った再生能力で瞬時に修復を済ませる。

 そして、鬼気迫る表情で今度は束へと怒鳴った。

 

「おい束! お前が造ったモノだろ!? なんとかならないのか!?」

≪……あの時注入したのはナノマシンは修復用だから傷つかなければ意味が無い……≫

「束! 聞いているのか束!?」

≪でもこの同調率の上昇は……≫

「応えろっ! 束ぇっ!!」

 

 だが思考の海へと浸かりきった束には、千冬の声は届かず殻に包まれた神威の解析だけを進めていた。

 解析が終われば救出手段が生まれてくるのだが、冷静さを欠いた千冬にはそこまで考えが至らない。生まれる感情を其の儘に、束へと怒鳴り散らす。

 

「応えなければ殺すぞ! 束!!」

 

 一年前、龍我と絆に誓った事。その想いが今は呪縛となり、神威を死地に送った束に殺意が芽生えていく。若しこのまま神威が帰らねば、若しまた失うようであれば、千冬は今歩く剣の道を捨て、残った一夏を守る以外は切り捨てる道を選びかねない。

 だが、それと同等の別の想いが、叫びに籠められていた。

 

「応えて神威を助けろ! 束!!」

 

 漸く悲しみを越え、気兼ねなく笑える環境まで育った家族と周囲。その中で束は、方向性の違いは有れど同種の苦しみを知り、友と呼べる者だ。壊したくない、失いたくない、そう思う心が確かに有る。

 

≪……あ、そっか、そーゆーことか!≫

 

 千冬の想いが通じたのか、それともただ解析が終了しただけなのか、束が漸く思考の海から上がってきた。

 

「束、神威は助かるのか!?」

≪それに関しては全く心配無し。てか、心配するだけ損だね≫

「……どういう意味だ?」

 

 先程までの想いを無にする束の言い分に、これまた先程とは違う怒りが千冬に沸々と湧き起こってくる。だいたい、一発ぶん殴れば治まるくらいの怒りが。

 

「今神威はどうなっている。納得する説明をしろ」

≪うんとね、あの子がむっくんに修復用のナノマシンぶっこんだんだけど、用途目的が全然違かったんだよね。束さんとしたことが固定観念に囚われるなんて……むっくんめ!≫

「お前の事はどうでもいい。早く先を話せ」

≪ぶぅ~。わかったよ≫

 

 神威への文句を墜としたミサイルよろしく切り捨てられた束は、不承不満ながら千冬に説明をし始める。

 注入されたナノマシンは、神威の脳から体各部へ伝える信号を読み取り機体に伝える為のセンサー。全身に張り巡らせるのは、脳からの送られ方、それに対する筋肉の動き、尚且つ癖すらも読み取り誤差無く順応に動く為の作業中。今、神威を覆う殻が割れれば、人と機械の壁を越えた人機が現れる。そう束は語る。

 

≪だから、フィッティングが終われば動ける筈だよ。自分の躰だと思え……ううん、そんなこと感じないくらい自然に、完璧に!≫

「……」

 

 だが、説明が進むごとに不満を忘れ段々と高揚していく束とは反対に、千冬は眉間に皺を作り危機感を覚えて行った。

 千冬と自身が装着するISとでは、境界線は明白で壁を超える感触まで感じることは無い。だが、人と機械の壁を取り払うという事は、機械が受けた衝撃を人がそのまま感じるという事に成る。装甲が削られれば人肌を削られるように、失えばその部分をもぎ取られるように、そして、ISの命ともいえるコアを失えばそれに伴なったものを……。

 

「束、それは……」

 

 危険ではないのか? と、擁いた危機感を訊く前に、その時が来た。

 殻に罅が次々と入っていき、パラパラと剥がれていった。その中から段々と姿を見せたモノは、生まれた胎児のように膝を抱えていた。

 

≪き、きたあああぁぁぁ!!≫

 

 殻が粒子に変わり四散していく中、ゆっくりと足を伸ばし出てきたモノ。その姿に千冬は目を見開いた。

 背には二枚の羽をL字に付け、背丈まで伸び剣の柄が付いたような砲身。より人体に近く成った脚部。外に伸び人体から離れた肩部。その肩から腕を通り、足元まで伸びる蒼いラインのような突起物。全体的に白で統一されたカラーリングと違い、胸部は赤と青が混じる前へと伸び、其処から腹部へ淡い翠を思わせる鏡面板が付いていた。

 ただ、四つの黄色いブレードを額に張り付けた白い頭部は項垂れ、目の部分に光が無く瞳を閉じているような翠をしていた。

 

「神威……?」

 

 何かに耐えている。灰色をした手を握り締める様からそう読み取った千冬が声を掛けるが、出てきたモノは何も返さずに、ただ、吠えた。

 

「―――この、馬鹿野郎がぁっ!!」

「な……!?」

≪へ……!?≫

 

 呆気に囚われる千冬と束を置いて、IS(神威)は機動し始めた。

 長い砲身が上を向くと同時に羽も開き、Xを模った四枚二対の羽に成り、砲身共々右肩後ろにスライドした。

 そして、反転した四枚の羽裏の鏡面版が突如として発した怒気に呼応するように瞳と共に爛々と輝き始め、担ぐように構えた砲身の先端部が撃鉄を鳴らすように伸びた。

 

≪な、なんかヤバ気!? ちーちゃん、回避プリーズ!!≫

「だが!?」

≪これマジでヤバイって!! 近くに居たら蒸発するって!!≫

「……くそっ!!」

 

 生じる桁外れのエネルギー量を感知した束が千冬に離れるように指示し、千冬が躊躇いがちに離れた瞬間、ガチンと引鉄が引かれた。

 

「なっ!?」

≪な、なんじゃこりゃあああっ!?≫

 

 解き放たれたモノは、人一人呑み込んでも御釣りは有り余る、地平線の彼方まで伸びる太い閃光。吞まれたミサイルは勿論の事、その余波であっても軽く爆散させていった。

 

「うあ……ァアアアアアアア!!」

 

 そして砲身を振り、まだ足らぬとばかりに次々とミサイルを呑み込んでいった。その発する怒りが尽きるまで……。

 

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