Re:呪は月を擁いて   作:鉄屋

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お久しぶりデース。


第十三話 『綻ぶ期先』

 束さんをリンチしてから暫く、事態は被害者を装う首謀者の思うとおりに進んでいるようで、国々は今、未知なる兵器の対策に追われている。

 

 俺達も事情聴取はされたが、まだ子供ということもあり、あまり重視されていないようだった。重視されている人はやはり製作者である束さんで、対策人物の中心になりつつあるらしい。

 同時に開発手順や場所の問い詰めも続いているらしいが、本人は襲撃に遭ったので何も残っていないの一点張り。胡散臭く見られているところもあれば、発見時には本当にボロボロだったので信じられる方が多く、俺達が頑張った甲斐が有るというものだ。まぁ、兎耳を圧し折ろうした時は本気で抵抗してきた為、此方も熱が入ってしまった――激しい争いの末に片耳を折る事に成功した――だけなのだが、結果オーライと言ったところだろう。

 だが信じる信じないは別にして、束さんが居ないと対策が進まないので、受け入れるしかないのが現状だと思う。なんせ、自分達が及ばない技術力と頭脳を見せつけられたのだから。

 その所為で束さん自身も、段々と帰れぬ日々に浸かって行っている。俺達では到底手助けできない領域なので任せるしかないので見ているしか出来ないのだが、実際に銃爪(ひきがね)を引いた身としては、思う所が無い訳では無い。

 

 だが、俺のことなど如何でもいいとばかりに、周りの変化があった。それは、食生活をメインとした環境。俺の持家を成ってしまった漆月家で、よく調理等々の家事をしていたのは信じられない事に束さんだったので、自分達で自炊をしなければならなくなった。

 幸いなことに、俺が酷いながらも出来るので、なんとかなっているのだが、そう遠くないうちに襤褸が出ると思う。一夏と箒も手伝ってくれているが、まだまだ戦力とはいえない段階で、戦力として期待できるようになるにはもう少し先だろう。一応、最初は千冬姉さんが率先してやったのだが……残念ながら、普段の頼りに成る面は出てこなかった――――見てる方が泣けてくるくらいに。なので、家事関係は俺の仕事に成った。

 とは言え、篠ノ之道場に通ってそのままご馳走になったりするので、大した負担には成って無い。ただ、毎日は悪いので、週の半分くらいは買い物して自炊している。

 そして、今日は帰って自炊の予定だ――

 

「隙ありぃっ!!」

「あっても突けなきゃ意味ねえよ」

「いたぁっ!?」

 

 ――目の前の光道音を叩きのめしてから、だが。

 渾身と思われる突きを躱して、脳天に一撃お見舞いしてやった。

 

「いたたぁ……。乙女の頭をおもいっきり叩かないでよ」

「全力で来た相手に手を抜くのは失礼ってもんだろ?」

「にしても限度ってものがあるでしょ」

 

 防具を外して頭を擦る光道音に、鼻で哂うように言ってやった。

 ただ、自分で思っているより遥かに力が入っていた可能性はある。涙目で訴えてくる辺り、そんな気がする。

 だがナノマシンを注入した影響で、自由にとまでは行かないが、脳のリミッターを外せるように成ってしまったので、これでもマシに成った方なのだ。全力を出すと、それはもう酷い事に成る――――特に俺の身体が。それもすぐに治ってしまうけど……激痛にのた打ち回りながらだけど……。

 

「で、ギブアップか?」

 

 思った事を億尾も出さずに、竹刀で肩を叩きながら見下ろすと、途端に反骨心を出し始めた。

 相手に成り始めて知ったが、こいつも結構な負けず嫌いである。面を被り直し、竹刀の先を向けてきた。

 

「まだよ。今日こそ一撃入れてやるんだから」

「はいはい、出来るといいな」

 

 企み事ならいざ知らず、剣の事なら俺に分があるし、抜かれる気も全く無い。

 だが今の俺はこの体を慣らす事が第一。都合の良いことに、こいつはまだ女とは見れない年頃だし、良い練習台に成ってもらおう。まぁ、成長しても俺はこいつを女として見れないような気もするが。

 

「いくわよ!」

「いつでもどーぞ」

 

 さっさと斬りかかってくればいいものを、と思いながら俺も構え直し、襲撃に備える。

 どうしても一撃入れたいのなら、不意を衝くなり相手が緩みきっている時なりを狙えばいい。其処に思い当たらないのは、まだ子供の範疇だからだろう。

 とは言っても、もう侮れない部分が有ったりする。破れかぶれに成らないあたり、子供の範疇から脱している。

 

「……ふんっ!」

「外れ」

「っ!?」

 

 だが、まだやられはしない。袈裟斬り気味の斬撃を引いて躱し、返す前に先程と同じく脳天に落としてやった。

 今度は先程より力加減が上手くいったらしく、恨めしい視線を送ってくるだけに止まった。

 

「う~……」

 

 ただ、唸ってはいるが。

 こうしていればただの子供に見えるのだが、学校では何故アレなのだろうか。

 だがまぁ、それも子供故だからかもしれないが。角言う俺も中身はアレだが、周りに頼らなければならないから子供でしか居られないし。否めないだけだとしても。

 

「もう一度よ!」

「諦めれば?」

「光道院 麗に諦めるという文字は無いわ」

「あ、そう。まぁ、返り討ちにするだけなんだが」

「何時までそんなことを言ってられるかしらね?」

「言ってやるさ、何時までもな」

 

 ただ、切っ先を突きつける目の前の相手に、負けたくないと思っているのは俺も同じ。子供っぽいと自分でも思うが、負けたくないのだから仕方がない。

 大人げない、大いに結構。だって子供だもの、童心に返ってもいいじゃない。

 

「いくわよ!」

「どーぞ、やられに来てください」

 

 正々堂々と向かってくるこいつを、また返り討ちにすべく俺も構え直した。子供で居られるうちはそれでいい、そんな事を思いながら。

 

 そう思っていたんだ、この時は、まだ……

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 光道院を存分に叩きのめし、途中で食材を買い、家に帰った。

 事件を起こした直後はその話題で持ち切りだったが、時間も経てば飽きもくる。周りの熱気も収まり始め、以前と変わらない空気が流れ始めたが、決して冷め切った訳ではない。

 千冬姉さんや一夏、箒達はまた事情聴取を受けに行っているので、家には誰も居ない。なので、帰ってくるまでに下拵えを終えてしまおう。

 とは言え、今日は鍋の予定なので、白米を炊いて食材を切っておく、くらいしかやる事は無い。始めて十数分で終わってしまった。

 まだ帰ってくる気配は無かったので先に汗を流させてもらったが、上がる頃にはもう居ても良い時間と成っていた。

 

「まだかな……?」

 

 カチコチと動く時計の長い針は一周し、風呂から上がってから一時間経ってしまったが、未だに帰ってくる気配も、連絡すら無い。もう日は落ちきったというのに、音沙汰が無いのは可笑しい。

 何か遭ったのだろうか、そう思った時だった、言いようの無い危機感らしきものを感じたのは。

 

何か(・・)が、遭った……!?」

 

 知らない、憶えていない……筈なのに、確信がある。神威(おれ)にとって、好ましくない『何か』が……。

 気のせいかもしれない、勘違いかもしれないが、直感的な部分がそれを否定する。以前も感じた、漠然とした確信が在り、ぐらりと視界が揺れた。

 頭を押さえ、思い出そうと没頭するが、肝心の『何か』は一向に顔を見せない。出てくるものは焦りと、危機感や警告の類だけ。

 

「なんだ、何が遭った?」

 

 視線が俺の意思とは関係なく、落ち着きなく動き回る。思い出せないが、このままでは、きっと拙い。

 探しに行くべきか、だが行き違いに成るのでは。思い出そうとする事から離れ、行動に移そうとするが、その思考も纏まらない。如何するべきか、如何したら良いのか、全く判断が出来ない。

 だが、このままで居る方が、きっと拙い。

 

「!!」

 

 考える事を止め、飛び出そうとした所で、来客を知らせるチャイムが鳴った。

 帰ってきたかと強張った身体から力が抜けるが、すぐに可笑しい事に気づく。

 若し、帰ってきたのならば、鍵を持っているので普通に入ってくる筈。だが、チャイムを鳴らすということは、本人達でない証拠。

 誰だ、と勘繰る俺を催促するように、もう一度チャイムが鳴った。

 

「どちら様ですか?」

 

 若干身体を強張らせながら扉を開けると、約一年前に葬儀場で会った人が居た。

 

「遅くに御免なさいね。私のことは憶えているかしら?」

「……更識 楯無さん、ですよね?」

「あら、ちゃんと憶えていてくれたのね。嬉しいわ」

「はい、御子女のお二人にはお世話になったので」

 

 膝を折り、視線の高さを合わせてくる。以前に会った時と変わらない仕草なのに、何故だか俺の身体は強張っていた。

 待ち人は帰らず、代わりに来訪者。タイミングも踏まえ、好ましくない『何か』まで繋がる不吉な予感が頭を過ぎる。

 

「……その様子だと、勘付いているようね」

 

 考えを読んだような発言に、確信した。来訪の理由は、俺にとって警告と成るものか、後悔するような内容と成るもの、そんな気がする。

 

「私が来た理由……恐らく貴方が考えている通りでしょう」

「……」

「だから最初に訊いておくわ。此れから話す内容は、貴方にとって辛い内容に成るでしょう。……それでも、聞く気は有る?」

 

 身を起こし、問い掛けてくる眼光は鋭かったが、俺は負けじと頷いていた。後悔しても知らないよりは遥かに良い、そう思えたから。

 俺が肯定する様を確認すると、鋭い眼光を消し、嬉しそうでいて困ったような笑みを作った。

 

「矢張り……血、かしら」

「……血、とは?」

「引こうとしない所が龍我……貴方のお父さんにそっくりなのよ。私を困らせる事が多かったけれど、ね」

 

 以前は母親似だったのに、と言われても、俺の知る由は無い。知る事は出来ないし、知ったとしても最早意味の無い事な上、対処に困るだけだ。

 そんな俺の様子が可笑しいのか、含みある笑みに変わった。

 

「ふふ、御免なさいね、貴方に言っても困るだけよね」

「いえ……」

「話は……少し長く成ると思うから、上がっても良いかしら? 立ったままでは疲れるでしょう?」

「はい、構いませんが……」

 

 玄関付近に置いた時計に目をやった。上げても構わないが、千冬姉さん達が何時帰って来てもおかしくない。

 

「時間なら、気にするだけ無駄よ」

「何故、言い切れるのですか?」

「その質問の答えも、話の中に有るわ。案内をお願いできるかしら?」

「……はい」

 

 順を追って説明する積もりなんだろうか、質問には答えてもらえなかったが、この人に会うまで発していた危機感や警告の類は、何故か消えていた。

 解決の光明だったら良いが、話の傾向を思うに、それは無いだろう。

 なので、この感じは恐らく――

 

「此方です」

「ありがとう」

 

 ――手遅れ、なのだろう……

 

 




今更ですが、IS8巻で楯無の本名が判ってしまいましたね。
お蔭で練り直りが必須です。
お待ちしている方には申し訳ないのですが、またお久ぶりになりマース。
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