テスト当日。
皆自身がありそうな顔をしている。これも全部、
「欠席者はなし、全員揃ったな。お前ら落ちこぼれには最初の関門がやってきたわけだが何か質問は?」
平田がこのクラスは大丈夫だと宣言する。茶柱先生もその自信のありように感心している様子だった。
「あー、あと、烏間は別室受験だ。理事長室に行って来い」
「はーい」
杏樹は筆箱すら置いていき、廊下を歩いて行ってしまった。クラスメイト、綾小路以外は不思議そうな顔をしている。
「説明は最短でもテストが終わってからだ、それまでは自分のことに集中していろ」
「ではチャイムのなり始めで終わりだ、それ以降に書いたら失格だから心して挑むように以上」
一方、杏樹は理事長室で理事長にパソコンの前に案内された。
「久しぶりだね杏樹ちゃん。ここに全科目の問題があるから解き終わったら教えてくれるかい? 早く終わってもいいよ。そしてその後口頭試問だから」
「わかりましたー」
杏樹はここ最近ペンを持つようになったが、大学在籍中はほとんどキーボード打ちだったためタイピングのスピードはプロだ。
数学から解き始める。理事長室には杏樹がカタカタと叩くキーボードの音が響いている。特に危ないところもなくスムーズに解き切り、今度は理科。単語問題が本当に楽だ。中間や期末テストではパソコンが使えるが、普段の授業つまり小テストではパソコンが使えないのが痛いが、まぁこの配慮をしてくれた学校には感謝しかない。小テストでは0点だった社会と国語も全て空欄を埋め切る。
「理事長せんせい終わりました」
「お疲れ様、早かったね。次は口頭試問にうつろうか」
理事長が現代社会の問題点についてのミニプレゼンから、論語の白文での音読など様々なことを要求されそれに答えていく。
「試験は終わりだよ。お疲れ様。みんなが終わるまでの時間よかったら君の研究について教えてくれないかな?」
「もちろん喜んで!」
杏樹は嬉々として自分の研究について丁寧に解説し、質問にも答え、そして今後の展望、やりたい実験について精一杯プレゼンをしていた。理事長は笑顔でそれを聞いてくれていた。
チャイムがなり教室に戻っていいと言われお別れを言って教室に戻ってきた。
教室に戻ると須藤が英語の過去問をやっていなかったらしく、それがネックだがそれ以外は問題ないということらしい。
それよりも今は戻ってきた杏樹のことがクラスメイトは気になるようだ。
気を遣ってなのかなんなのか直接は聞いてこない代わりに視線を感じる。
杏樹はこの空気感に耐えきれなくて先生に助けを求めた。
「そうだな、みんなも気になっているだろうから簡潔に説明しよう。烏間は平均より字を書くことが苦手な特性を持っている。だから学校側はテストを理事長監視のもとでPCの利用を認めるという措置をとることにした。ただ、隣でキーボード音がなっていたら他の生徒の集中を妨げてしまうかもしれないため別室受験だ。何か質問はあるか?」
「それずるくね? だってキーボードって予測変換とかあんじゃん。俺らが文字ミスったら点数引かれんのに、そういう可能性がないってことだろ?」
「そうはいうが池、この措置を否定するということは、学校側は視力が良くない人の眼鏡を取り上げ、骨折した人に松葉杖をつくなということになるんだが。補助具はずるいか?」
「でも、採点基準が同じなのは納得いかないよやっぱ」
「そこは心配するな、漢字問題などどうしても測れない部分は代わりに時事問題の口頭試問や論語を白文で音読など追加で試験が行われている。もし希望者がいれば医師の診断書さえ持ってきてくれればいつでも対応するぞ」
クラスの雰囲気は理解はしたけど今すぐには納得はできん。って感じだった。
確かに文字が書けないなんてどういうことだって思うよね、わたしもそう思う。でも書けないんだ。なんて杏樹は呑気に考えていた。
杏樹の特性を知ってからも特に杏樹と仲良い女の子たちは表向き態度を変えることはなかった。
放課後、テストお疲れ会として杏樹は軽井沢とカフェで甘いものを食べていた。
「その文字のやつってどんな感じなのかイマイチわかんないんだけど、あたしができることってなんかある?」
「ラブレターの代筆?」
「何それっ、……つまり今まで通りでいいってこと?」
「そういうこと」
「読むのは余裕なんでしょ? てかあたしより杏樹の方がめっちゃ博識だし、ちょーぶ厚い本読んでるのよく見るし」
「わたしの場合は読むのも話すのも大丈夫。書くのも英語なら恵ちゃんと同じ速さくらいかもね」
「確かに、英語まじで全然だったから教えてもらえてほんと助かったもん。今回は過去問なくても英語は結構高得点取れてたと思うし。てか杏樹発音とかも上手だよね? どうやって勉強してんの?」
「あれ、言ってなかったけ? 小2から去年までアメリカの大学に通ってたの」
「あーほぼネイティブってことねーって?! って大学? もしかして昔のニュースって杏樹?」
「何ニュースって?」
「なんか、あたしと同い年の子が日本人最年少でアメリカの大学に受かったみたいなそんな感じのやつ」
「それかも?」
「うわーまじか。ハイスペなのは知ってたけど、杏樹まじでやばかったんだ。てかそしたらなんで日本の高校?」
「なんか、同期とか教授に高校は最高だから一回行って見たらどうだ的なこと言われて、その時は10月だったからあっちはもう新学期始まってたからこっちきたの」
「なるほど、つまりあたしたちが今こうして仲良いのは結構運命的ってことね」
「そゆこと」
杏樹はパンケーキの最後の一口を口に詰め込みながらうなずく。
二人で他愛もない話をする放課後は去年までの杏樹には考えられないものだった。こんな非日常が日常になりつつありそれだけで杏樹は満足していた。
そしてこの生活が続くことを願い続けた。