Common life 日常的非日常   作:Dangelo

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ストーカー表現入ります。トラウマがある方などはブラウザバックをお勧めします。


No,2.3

 3年生からのいい目撃情報はなく、杏樹は特に変わらない日常を過ごしていた。

 

 変わらないというのは少し違うかもしれない。

 

 なぜか最近放課後、背中に視線を感じる。

 

 振り返ってもそこには誰もいない。

 

 こんなことを何日も繰り返していた。

 

 

 ある日の帰り道。

 

 いつものように気配を感じる。

 

 いつもよりお粗末な尾行にどうしたんだろうと思いながらも無視して防犯カメラが多い場所を通って寮のエントランスに入る。

 

 いつもならそこでどこかに行ってしまうのだが、今日はついてきているようだ。見た目は若めの男性。

どこかの店員だろうか?

 

 記憶はない。

 

 そして不幸なことに管理人さんが今日に限って行方不明だ。杏樹はポケットから携帯を取り出し電話をかける。そして、ポケットに電話をしまいエレベーターがくるのを待っていると案の定声をかけられた。

 

「あのさ、ちょっといいかな?」

「どちら様ですか?」

「杏樹ちゃんだよね、一目惚れしたんだ。君のことはなんでも知ってるよ。ネットでもいろいろ調べさせてもらったんだ」

「?」

「これは運命だと思うんだ。杏樹ちゃんの誕生日すぎたらお嫁さんになってくれるよね?」

「あの、話が見えないのですがとりあえず離れてください」

「あ”? なんで他人行儀なの俺らの仲じゃん」

 

 彼の手が杏樹の背中に回る。ブラウスをスカートから引っ張り出し、直に手を侵入させようとする。

 

「やめてください、警察呼びますよ!」

「何を言ってるんだ? 俺たち相思相愛なのになんでそんなことを言うんだ?」

「あなたとは今日が初対面であなたのことは何も知りませんこれ以上はやめてください」

「女が男に勝てると思うなよ」

 

 支離滅裂な会話。Siriのほうがまともに答えてくれる。

 

 杏樹は殴られそうになるのを避け、体勢が崩れたところを襟首を持って地面に叩き付ける。男性の目を手で塞ぎ、腕を固めて男の体の上にまたがる。

 

 こういう時に限ってなかなか人が通りがからない。みんなどこにいるのだろう?

 

 拘束を解こうと必死に暴れる成人男性を押さえつけ続ける。これが暴れ馬に乗った時の気分か。犯人が素人で助かった。

 

 両手両足、成人男性を押さえつけるのに必死でこれ以上何もできない。抑え込める自信はあったのだが、それ以降のプランを練っていなかったことに今更気づいて落ち込む。こういう時自分のダメさを感じる。

 

 何分たったか、救世主がやってきた。電話を手にした綾小路が走ってきてくれた。

 

「っ無事か?!」

「手伝って、血が止まりそう」

 

 杏樹の抑え込んでる手は元々のピンクがかった白ではなく、青、いや、土気色になっている。

 

「おっさん、何やってんだよ」

 

 杏樹と綾小路はポジションを交代し、綾小路が成人男性を羽交い締めにし杏樹はやっと解放される。

 

「杏樹警察に連絡だ」

「えっ、あ、うん」

 

 犯人を捕まえたこと、綾小路が来てくれた事に満足してそれ以降のことを考えていなかった杏樹は慌てて警察を呼ぶ。警察がくる数分間、犯人は必死に杏樹のことを罵倒していた。一目惚れしたにしては酷い言われようだった。放送禁止用語が飛び交っている。

 

 3人がかりで駆けつけた警察に男の身柄が引き渡された。綾小路が録音していた音声データを警察に渡す。警察から事情聴取をされた後飴ちゃんをもらって解散になった。

 

「ごめんね清隆くん夜遅くまで付き合ってもらっちゃって」

「いつから気配に気づいてたんだ?」

「数日前からかな」

「どうして言ってくれなかったんだ? もしかしたら最悪になったかもしれなかったんだぞ!」

「……ごめん」

「っ、いや、そういうことが言いたいんじゃない……あー、オレは杏樹が学校に来れなくなったら困るから…」

「……」

「今度なんかあったらちゃんと言ってくれよ」

 

 綾小路は走ってきた時に崩れた髪の分け目をかきあげながらそう言う。

 

「……清隆くん須藤くんの件で最近忙しそうだったから、それに自分でも確保くらいできると思ったんだもん」

「急に連絡が来たと思ったら男の気色悪い愛の告白を聞かされて、その後狂った男の声とぶつかる音とかを聞かされる身にもなってくれ……」

「今度からは先に相談します」

「よろしい」

「ありがと」

「あぁ」

 

「明日の裁判だけど、どんな感じなの清隆くん?」

 

 重めの雰囲気を変えるように杏樹が別の話題を提案する。

 

 Cクラスは訴えを下げる気はないようで、話し合いは生徒会のもとで行われる。ちなみに須藤を立ち合いをするのは堀北と綾小路らしい。平田が出てきていないことに驚いたが、須藤はそこまで平田と仲が良くないのを思い出し、一人で解決する。

 

「オレは末端なんだが、櫛田とか平田とか堀北にでも聞いたほうがいいんじゃ?」

「わかってるくせに、ひどいこと言うね。今一番を走っているのは清隆くんだと思うよ」

「……杏樹のその自信はどこから来るんだ?」

「んーー友達としての信頼?」

 

「ーー目撃者は佐倉で確定した。自分から協力するとも言ってくれたがやっぱり分が悪いな」

「Dクラスの女子、しかも目撃者を聞かれてからしばらくしてから名乗り出てる。証拠としては微々たるものだね、むしろ桔梗ちゃんが言葉巧みに証言したほうが勝率高いかもだし」

「そうだな、あとBクラスの一之瀬が他の目撃者探しに協力してくれている」

 

 杏樹としては、自分と話す時間が減って他クラスに交渉しに行ったり、休日を返上してまでいろんなところに聞き込みに出ているのを知っていたのでなんだかあまりの進まなさにかわいそうになってくる。

 

 あとは、Bクラスの一之瀬とか言う、委員長みたいな女の子と歩いていた時はコミュ障設定はどこに消え失せたんだ清隆くん、と思わず突っ込むところだった。綾小路の意見だと、相手がいろいろ気を遣ってくれているらしい。

 

「ずばり勝算はあるの?」

「元から勝つつもりはない」

「須藤くんの勝算じゃなくて、清隆くんの勝算」

「そう言うことなら何個かプランはある」

「頑張って」

「そうだ、関係ないんだが一つ聞きたいことがある」

「何?」

「世の中の女子は不審者を自分で捕まえられるわけじゃないよな?」

「そしたら今頃ストーカー被害で泣き寝入りなんて言葉を聞かないと思うよ」

「だよな、堀北と杏樹が異常なだけか」

「異常って酷いなぁ、わたしの場合は誘拐されないようにパパが教えてくれたからできるだけだよ」

「まぁその顔で生まれたら父親も警戒するだろうな」

「パパすごいんだよ、象も眠る麻酔に耐え切れる肉体の持ち主なの」

「……それはすごいな」

「信じてないでしょ!!」

 

 さっきまでの重たい雰囲気はほぐれ普段と変わらない会話に移っていった。

 

 

 

 次の日。

 

 どうやら1回目の裁判は話し合いが平行線を辿ったらしく、一日の猶予が与えられたらしい。

 

 その日の昼休み、佐倉に杏樹は話しかけられていた。

 

「あ、杏樹ちゃんっ! 今日の放課後、一緒に帰らない?」

「ん? いいよー、どこいく?」

「カフェ行きたいなって、やっぱり相談があって」

「いいよ〜」

 

 意外と思われるかもしれないが、佐倉と杏樹はたまに登下校で会ったら話す仲なのだ。佐倉は人見知りで、あまりクラスに馴染めていないが、杏樹には何かを感じたのだろう。杏樹は佐倉に話しかけても怖がられない数少ないうちの一人だ。

 

 今日も朝、昨日のストーカー退治事件についてさらっと話したら食いついてきた。杏樹としてはおもしろ話として話したつもりだったのだが。なんだろう、彼女もストーカー被害に遭ってるんだろうか? なんて思いながら承諾した。

 

 カフェで見せられたのは大量の手紙。愛だの運命だのそんなロマンチックな言葉が詩的に並んでいる。正直言ってどれも見るに耐えないものばかりだ。たぶんシェイクスピアに見せたら、しばらく執筆が滞るだろうレベルだ。これを見せられたら昨日の成人男性はまだマシだったのかもしれない。まぁ犯罪者にマシも何もない。

 

 これは早く警察に通報した方がいい。杏樹は自分のことを棚に上げて佐倉にそうアドバイスをする。

 

今日、その男が勤めている電気屋にいくらしい。万が一のことがあったら困るから杏樹についてきて録画しておいてくれないかとお願いされてしまった。

 

 これを杏樹が朝ストーカーについて話していなかったら、一人で決行しようとしていたらしい。もちろんついていくこと、そして隠れて録画するんじゃなくて隣に立っていることにする。他人が立っていたら犯人も無理やりなんてことはしないだろう。たぶん。

 

 一緒に家電量販店に向かう。

 

「危ないって思ったら逃げようね」

「うん」

 

 佐倉が話していた特徴の男性が受付をしている。店内には彼以外いない。佐倉は迷わず彼のところに向かっていき、杏樹もその後ろについていきながらポケットからこの量販店で買ったペン型カメラを起動させる。自分の売ったものが自分の首を締めることにつながるなんてなんとも皮肉な話だ。

 

「もう、私に連絡してくるのはやめてください!」

「どうしてそんなことを言うんだい?僕は君のことが本当に大切なんだ。雑誌で君を見た時から好きだったんだ。ここで再開したのは運命だと感じたよ。好きなんだ、君を思う気持ちは止められない!」

 

 どうしてストーカーは揃いも揃って気持ち悪いのだろう。まだドット柄の何かを見続ける方がマシだ。集合体恐怖症だけど。

 

「やめてください! どうして私の部屋を知ってるんですか! どうしてこんなもの送ってくるんですか!」

「……決まってるじゃないか。僕たちは心でつながっているからだよ」

「もうやめてください、迷惑なんです!」

「どうして、どうしてこんなことするんだよ! 君を思って書いたのに!」

「こ、こないで!」

「それ以上彼女に近づいたら、警察に連絡しますよ!」

 

 杏樹はそろそろ危険になってきたと判断し、佐倉との間に体を滑り込ませる。

 

「邪魔すんなよ! 今から彼女に僕の愛を教えてあげなきゃいけないんだ……、そうすれば佐倉もわかってくれる」

「もう一度警告します。離れてください」

「クッソ、どけよ」

 

 なぜ自分の思いどおりならなかったら暴力に頼ろうとするのか。杏樹は男の手首を掴むと捻り上げ、体重を使って抑え込んだ。前回の教訓を生かして、今日は結束バンドを持っている。男の手首を縛り上げ、動けないように押さえる。

 

「愛里ちゃん誰か呼んでくるか警察!」

「え、あ、え」

 

 佐倉はパニックになっててその場で動けてない。

 

「清隆くんに電話!」

「っは、はい」

 

 電話を今受けたのになぜか数秒もたたずに走ってきた。遅れて一ノ瀬もついてきている。

 

「っはぁ、だからなんで先に、実行する前にオレに連絡しないんだ杏樹っ!!」

「それよりもこの人どうにかして、生命力が魚なの!」

「おっさん、ほんと勘弁してくれよ。明日には新聞の一面だ楽しみにしてろよ」

 

 犯人を杏樹と綾小路が押さえつけている間、一ノ瀬はパニックになってる佐倉を介抱していた。

 

 一ノ瀬が警察を呼んでくれたのだろう。またもやあの3人組の警察が駆けつけてくれた。

 

 思わず彼らが「またかよ嬢ちゃん」って宣わったのも仕方ないと思う。昨日の今日だ。

 

 今度は四人で事情聴取を受ける。

 今日はラムネがもらえた。

 

「ごめんね帆波ちゃん、巻き込んじゃって」

「いいよー、急に綾小路くんが走り出したのについていったのは私だし」

「そういえば今回の裁判色々Dクラスのためにやってくれてるみたいだね。ありがと」

「明日は安心してていいと思うよ。さっき綾小路くんと劇をしてきたの。あたかもあたかも特別棟に防犯カメラが設置されていたって思わせるためにちょっとね」

「わーそれは見たかったな。もしかしてだけど映像残ってるんじゃない?見せてほしーなー」

「にゃっ杏樹ちゃんさては何をやったか知ってるなぁ」

「あはは」

 

 自分たちがポイントで買って取り付けた防犯カメラの情報は見放題だ。

 

 綾小路は佐倉が泣いているのを慰めているようで、杏樹と犯人がつかまって以来一切会話することなく寮で別れた。




次話は解釈違いを起こされる方いるかもしれないので忠告しておきます。
綾小路が変です。
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