Common life 日常的非日常   作:Dangelo

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No,2.4

 寮の部屋にたどり着いたのは6時。

 

 ただ7月だからかまだ外は明るい。昨日よりは全然早く帰らせてくれた。

 

 ストーカーを抑えるために無理をした制服はしっかり変なシワがついてしまっている。部屋着に着替えて、制服をハンガーにかけアイロンをかける。

 

 すると玄関のチャイムがなった。

 

 インターホン越しに見えるのは私服姿の綾小路。先ほどエントランスで別れたのになんの用だろうか?今日は晩ご飯の日ではないぞ?と不思議に思いながら玄関を開ける。

 

 無言の綾小路が少し怖くて、こちらも無言でドアを閉めようとすると足をドアの間に挟まれた。どこぞの新聞の人か集金の人だろうか?ただ、実際に新聞の人や集金の人を見たこともやられたこともないので、それがお話の中だけのものなのかは定かではないが。

 

 いつもと雰囲気が違う綾小路を前にドアを諦め、杏樹は後ろに素早く飛び退く。今なら杏樹にはゾンビに詰め寄られながらも必死に戦う準備をする強い系ヒロインの、そして綾小路にはゾンビを殺し続ける生活に絶望を感じた役のオファーが何件か来てもおかしくないだろう。そんな表情をしていた。

 

 そのまま綾小路は杏樹の部屋に入り、杏樹に詰め寄ってくる。慌てて杏樹は近くにあったフライ返しを手に取りスカート下のナイフホルスターにゴムナイフの代わりに差し込む。見た目は不格好だがこのゴムナイフよりはマシだろう。

 

「清隆くん何?」

「……」

 

 返事の代わりに杏樹を掴みかかろうとする綾小路の手を流す。そのままなぜか部屋の中で総合格闘技(杏樹のみ武器あり)が開催された。杏樹の部屋にほぼ家具がないのが救いだ。下の階の人がまだ帰っていないことを願いながら、杏樹は綾小路の攻撃を捌いている。フライ返しを使いながら。

 

 体格差を埋める技術を杏樹は小さい頃から元第一空挺団トップ、現防衛省情報本部室長の父に直々に仕込まれているのだ。もちろんそれだけじゃない。彼女の母親には女の嗜みは3歳から教わり続けている。

 

「ねぇ何か言ってよ清隆くん!」

 

 綾小路に一瞬隙ができた瞬間杏樹は綾小路の胸元に飛びついて唇を奪った。

 

 綾小路が完全に止まった。

 

 キスを続けながら、杏樹はそのまま綾小路を押し倒す。いとも簡単に綾小路は杏樹のベッドの上に座ることになった。

 

「んっ……ぷはっ。……落ち着いた?」

「……っえっあぁ、悪い」

 

 先ほどの黒いオーラを放った綾小路はおらず、呆然としている綾小路がいた。

 

「で、何?どうしたの? わたしの部屋を壊す気?」

「……すまない。オレは男女には体格の差があるんだから、簡単に突っ込んでいくなって言いたかっただけだったんだが、色々考えてたらいつの間にか玄関にいた。あと思ったより杏樹が上手だった……な?」

「つまり、今日のこと怒ってたってこと?」

「まぁ、身もふたもない話そういうことだ」

「あんな成人男性より清隆くんの方が100倍怖かったよ。目からハイライトって概念が消し飛んでたもん」

「杏樹が並大抵の男に負けないのはわかったが……き、っキスはダメだろ」

「ん?」

「……なんでそんなに警戒心がないんだ。もしかしたらオレがこのまま押し倒すかもしれないんだぞ」

「大丈夫、わたしはママと違ってフリーだからってあちこち口説いてるわけじゃないから。それにその時の対処法も何通りか教えてもらってるの」

「なるほど、この性格は母親譲りなんだな。理解した」

 

 会話になっていない会話をしているが、綾小路も杏樹も頭が正常に回ってないのだ。一方は急にキスされ、一方は急に家に入ってこられたのだ。これで平常心はただの猛者だ。

 

 お互い反射で話している。

 

 杏樹は綾小路の上から退いて、フライ返しとゴムナイフを交換する。ちなみにフライ返しは尊い犠牲になった。

 

「いつもナイフホルスターしてるのか?」

「お守り」

「それは画期的なお守りだな。中身はなんだそれ?」

「パパが使ってたナイフらしいよ。切れないけど」

 

 ゴム製のナイフはピンと弾かれるとブルブルと振動した。

 

「ーーとりあえずオレが言いたいのは無闇に危険に突っ込んでいかないでくれ…心配なんだ」

「……ごめんね?今度から清隆くんに頼るようにする」

「それ昨日も言ってたからな?」

「ムー、それを言われると手も足も出ないなぁ」

「ぐうの音が出ないんじゃないか?まぁオレも須藤の方に気を取られてたから、な」

「どうしてそんなにわたしの事心配してくれるの?」

「……?初めての気が合う友達だからか?」

「初めての友達の地位が高いね」

「そうか?」

「たぶん?」

 

「夕飯は食べたか?」

「まだだよ」

「じゃ今日はオレが作る」

「よろしく〜、わたしパスタ食べたい」

「わかった」

 

 パスタを頬張りながら杏樹はもう一度よく考える。彼との関係はなんなのだろうと。

 

 そして出た結論は彼と同じ。初めての同じ目標を目指す友達。

 

 翌日裁判はCクラスが訴えを取り下げて綾小路の勝利だったらしい。偽の防犯カメラにビビって弱気になったそうだ。ペナルティーはなし。

 

 ちゃっかり杏樹は約束通りカメラの映像を見せてもらった。一ノ瀬の演技も綾小路の演技も裏事情を知らなければ騙されてしましそうなくらい迫真な演技だった。杏樹も演技の時だけ参加したかったななんて考えていたが、確実にそういう興味本位だけで杏樹が入ったらジャンルがシリアスからギャグまたはR15に早変わりしていただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 馬鹿だなオレは。何を熱くなり始めてるんだか。勝手にDクラスを分析して、論じて。それが嫌で、この学校を選んだんじゃないのか?

 

 上を目指すのは堀北たちであってオレじゃない。

 

 オレはただ平凡な、何事ものあい日常を求めているだけ。

 

 そうでなければ、いけない。

 

 オレは、誰よりもオレのことを知っている。

 

 自分がいかに欠陥品で、愚かで……恐ろしい人間であるかを。

 

 そんなことを考えていることはクラスの誰も気づいていなかった。もちろん杏樹も。




二巻は杏樹目線だと須藤を救うのにあまり役立っていないので視点が少ないんですよね。
なので一巻よりも話数が少なくなっております。
綾小路の感情がばらけてきているのですが、最終的にはハッピーエンドを目指してたいです。
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