Common life 日常的非日常   作:Dangelo

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船から探索前まで。この小説で恒例乗り物篇からのスタートです。


第三巻(完)
No,3.1


 常夏の海、広がる青空。澄み切った空気。そよぐ潮風は優しく体を包み込み、真夏の猛暑を感じさせない太平洋のど真ん中。

 

 そう、ここはまさにシーパラダイス。

 

「うおおお!最高だああああああああ!」

 

 豪華客船のデッキから高らかに両手をあげ、池の叫び声が響き渡る。

 

「すごい眺め、最高なんだけど!」

 

 軽井沢率いる女の子グループも満面の笑みで大海を指差す。

 

「本当に凄い景色……!」

 

 櫛田もまた、恍惚としたため息をついて海を見ていた。

 

 一方で杏樹はというと

 

「(船はどの乗り物よりも本当に無理なんだよなぁ、この匂いと揺れが二週間……生きて帰れるかな)」

 

 集合が朝5時でバス移動でもともとやられていたこともありすでに顔色は青くなっていた。朝食を船内で食べそれから自由行動だったが、杏樹が口に入れることができたのはヨーグルトとフルーツのみ。

 

 客室で寝るとなると、ルームメイトに気を使わせてしまうかもしれない。そう考えた杏樹は、とりあえずまだ歩けるので理論上一番揺れない中央エントランスに向かい一人でポツンと座って一向に効かない酔い止めが効くのを待っていた。

 

『生徒の皆さんにお知らせします。お時間がありましたら、是非デッキにお集まりください。あと10分ほどで島が見えて参ります。しばらくの間、非常に意義のある景色をご覧いただけるでしょう』

 

 杏樹も他の生徒同様それを聞いて、デッキに移動しようとしたが、すでに一人で立って歩くには厳しい状態になっていたので諦めることにした。

 

「(部屋に戻りたいけど、たどり着けるかな……酔い止めが効けばマシになるんだけど……船に乗った後に飲んだからなぁ)」

 

 仕方なく端末を取り出し、緊急連絡先の番号を打ち込んでいく。

 

「……もしもし茶柱先生、動けなくなったので助けてもらえませんか?」

「烏間? どうした? どこにいる?」

「船酔いが、酷くて、今中央エントランスにいます」

「そうか今行く。動かず待っていろ」

 

 近くにいたのだろうか?数分で茶柱先生がやってきた。

 

「ひどい顔色だな、立てるか? 支えてやるから部屋に戻ってギリギリまで寝ていろ、降りる準備が整ったら起こしに行こう」

 

 なんだかんだこういうところでは優しい先生なんだななんて思いながら、自室に半ば引きずられながら戻った。

 

 しばらく吐きそうで吐かないというなんとも微妙な時間を過ごしたが途中で意識を失い、先生に肩を揺すられ目が覚めた。

 

「ほとんどの生徒がこの船から降りている。ジャージに着替えて端末を持ってできるだけ早く降りてきてくれ」

 

 そう言って先生は立ち去った。眠っていた分、前よりはスッキリしている。急いでジャージに着替え、トイレをすまし外に出た。杏樹は本当に最後の一人だったらしく、携帯を預けてDクラスのみんなが集合しているところによろよろと向かった。

 

「今からDクラスの点呼を行う。名前を呼ばれた者は返事をするように」

 

 なんとか間に合ったのか、合わせてくれたのか杏樹は無事点呼に参加することが叶った。

 

『ではこれより本年度最初の試験を行いたいと思います』

 

 このメガホンを持った説明役の先生の一言でバカンスだと思っていた多くの生徒がざわめく。

 

『期間は一週間、君たちはこれからの一週間、この無人島で集団生活を行い過ごすことが試験となる。なおこの特別試験は実在する企業研修を参考にして作られた実践的、かつ現実的な者であることをあらかじめ言っておく』

 

 試験の説明を受け終え、マニュアルを基に茶柱先生が追加の説明をしていく。杏樹は今度は陸酔いに耐えるため必死に己と戦っていた。なんて不器用な体なんだ。この試験でリタイアしたらマイナス30cl、クラスポイントが減ることによるヘイトが溜まるに違いない。

 

 みんなの後ろに移動し、地べたに座り込む。

 

「大丈夫か?」

 

 声をかけられ上を向くと綾小路がいた。

 

「うん、船酔いからの陸酔い。経験上あとちょっとで治る気がする……大丈夫リタイアするほどじゃないから」

「そうか、何かあったら言ってくれ」

 

 杏樹は体育座りをして頭は下を向けていたものの、普段の授業とは違い話は珍しくちゃんと聞いていた。占有スポットの話、他クラスのリーダー当てで多くのポイントがもらえる話。そしてトイレを買うかどうかで揉めている様子も。

 

「試験統率力のないDクラスじゃ先が思いやられるわね。しかも杏樹もこんな感じだし」

 

 なんだか堀北からかわいそうな目を向けられた気がしたが気にしないことにする。

 

「今回の試験。思ったよりずっと複雑で難解な課題と言えそうね……」

 

 どんどん他のクラスが動き始めているのに焦るDクラスの面々。仕方なく全員移動することになった。

 

「……清隆くんお願い」

「なんとなくそんな気はしていた」

 

 そう言って綾小路はしゃがんで背中を向ける。

 

「えっ? 手貸してくれるだけでいいんだけど……まぁありがとう」

 

 杏樹は遠慮がちに背中に体重を預けた。

 

「見て、あそこの二人超お似合いじゃん」

「やば、意外と綾小路って意外と顔はいいもんね。前から思ってたけど杏樹の横に立ってても違和感ないくらいだし」

「杏樹ちゃん大丈夫なのかな? バスの時点で既に体調やばそうだったけど」

 

 女子たちが好き勝手話している中、綾小路は背中にあたる柔らかい感触から意識をそらすのに必死だった。杏樹も永遠のゼロではないため硬くはないのだ。

 

 少し日陰に入ったところで話し合うためにもう一度みんなで集まった。杏樹は下ろしてもらい、手ごろな木の根の上に座る。

 

「杏樹ちゃんはトイレの購入についてどう思う?」

 

 櫛田からの問いに杏樹は答える。

 

「……トイレは必要経費じゃないかな。もしそれがなかったら誰かが脱落する可能性が高くなる、と思うよ」

「いや、我慢できるだろ!」

 

 杏樹はいまだ体調が優れず人に気を使ってる場合ではない精神状態である。そんな時の大きな声での生産性のない感情的な反対意見に杏樹の何かがキレた。

 

「……この試験の目的は、いかにクラスポイントを貯めるかじゃないと思う。クラスに不和なく過ごしきり、かつリーダーを当てられないようにすること。そしてリーダーを当てること。リーダーあてで必要経費の点数くらい余裕でひっくり返る。もしここで我慢をしたとして、それに不満がある人が他クラスに自分のプライベートポイントを見返りに情報を流し自分だけおいしい思いをしようとするかもしれない。そんな人が出てきてもおかしくない。そう認識したんだけど、みんなはどうかな?」

 

 正論の弾丸と、いつも通り笑顔なものの普段の杏樹とは思えない、否と言えそうにない雰囲気に反対意見だった男子達も圧倒され同意してしまった。

 

 それを好機と捉えたのか平田がどんどん話を進めていく。

 

「じゃあ、みんなトイレ設置ってことでいいね?ーーーー次は、さっきも意見が出てたけど、ベースキャンプを決めるために僕らも探索するべきだと思う。どこに腰を据えるかでポイントの消耗に大きく関わってくるからね」

 

 Dクラスだけ動いていない焦りというよりも、クラスの反発を防ぐために平田はそう発言していた。

 

「この中にサバイバルに精通した人とか、いないかな?」

「洋介くんわたし探索行くよ〜、休んでたおかげでさっきよりは体調マシになった」

 

 杏樹は先ほどとは違い、いつもの感じで名乗り出る。いつもよりもまだ顔は青白いが、船から出てきた時よりはだいぶ血色がいい。

 

「あの、わたしでよかったら行くよ!」

 

杏樹が名乗り出た後櫛田も続いて名乗り出る。クラスのアイドル2人が名乗り出たおかげか続々と男子が名乗りをあげ11人集まった。

 

「後一人誰か行ってくれないかな?」

 

 すると意外なことに控えめに佐倉が手をあげた。これで12人。

 

「じゃ、3チームで行こうか今1:30だから成果の有無にかかわらず3時に一回ここに戻ってくるように」

 

 杏樹のチームは高円寺、綾小路、佐倉の4人だ。通称あまりものチーム。別に杏樹は余ったわけじゃない、余った者と仲がいいだけである。




どうしても堀北より先に杏樹をおぶって欲しかったんです。今回はそのためだけの回です。
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