「あれ高円寺くんは?」
夜の点呼の際に高円寺がいないことに平田が気づく。
「高円寺は体調不良を訴えて船に戻ったぞ。お前たちのポイントは30ポイント減った。これはルール上どうしようもない」
担任からの報告にみんな悲鳴を上げるが、その苛立ちをぶつける相手がもういないのだからどうしようもなかった。
支度をしてテントから出て朝の点呼が終わったら自由行動だった。杏樹は砂浜のほうに向かう。木の影から様子を伺い、入っていくタイミングを見計らう。入りさえすれば後はどうにでもなる。何人かがバーベキューをしているのを確認し、死角を縫ってそこと合流した。紙皿に焼けた肉を取り分けてる女子に話しかける。さもここにいるのが当たり前というように堂々と。
「わたしもそれとっていい?」
「いいよー、好きなの取ってって〜」
肉の焼け目をみるのに必死でこちらをみる気配はあまりない。
「ありがとう! ずっとやってんの辛くない? わたしこれ食べ終わったら変わるよ」
「いいの? さすがにちょっと暑くてさ、水飲みたかったんだよね。これトング。よろしく〜」
杏樹は肉焼きという職を無事ゲットした。
「俺たちにも肉くれるか?」
「うん、ちょっと待ってね、はいこれ。わたしここ離れられないからお肉クーラーボックスから追加で持ってきてもらってもいい?」
「おう、まかせろ! 俺行ってくるわ」
「じゃあ俺野菜もとってこよっか?」
「いいの? 助かる!」
そこは奇妙な光景だった。Dクラスである杏樹がさも当たり前かのようにCクラスのメンバーに受け入れられているように見える。
まぁこれはCクラスが今回の試験をバカンスとして捉えているからこそ可能な技だ。警戒心たっぷりのところに混ざるのだとしたらそれなりに設定などを作ってから挑む。
「ねぇこれ終わったらリタイアするって聞いたんだけどほんと?」
「そうなんだよ、今日の夜には龍園さんとあのどっかいった二人以外リタイアって予定だから、俺たちと一緒に遊ぶなら今のうちだぜ?」
「じゃっ俺代わりに肉焼くからさ一緒に遊んできなよ」
「ありがとう! みんな優しいんだね、Cクラスってみんな龍園くんみたいに怖いのかと思ってたけど優しくて安心しちゃった」
「みんなが龍園みたいなやつだと思われたら困るよ」
「そうだな、俺らあんな強くないし横暴でもないだろ、でも龍園さんに逆える力もないけどな」
「やばかったよなぁ、ああいうのを暴君って言うんだよなぁ。俺も喧嘩強くなったら好き勝手できんのに」
「お前が喧嘩強いとかいっぺん生まれ変わってこないと無理だろ」
杏樹はそれからも言葉、仕草、得た情報を巧みににつかいこなし色々情報をすっぱ抜いていた。龍園が独裁で仕切っていることや、今回の試験は思ったよりも早くにリタイアすることなど。
(ちゃっかり肉もいただいて、海でも遊んでいる)
堀北と綾小路が昨日行っていた通り偵察に訪れたのに杏樹は気づいた。
「嘘でしょ……こんなことってあり得る?!」
堀北は目の前の光景に驚きを隠せていなかった。
「どういうつもりなのCクラスは。節約するつもりがないってこと?」
そんな中、二人は龍園に呼び出されていると男子生徒に言われ、その生徒について龍園の方に向かった。
「こんなにポイントを使うなんて持たないわよ。何を考えてるの」
「見ての通り俺たちはバカンスを楽しんでいるんだ」
「これは試験なのよ。それがどういうことかわかってるの? トップが無能だと大変ね」
「バカなのはどっちだ? こんなクソ暑い無人島でサバイバルなんて冗談じゃないな。小さなクラスポイントを拾うために必死に身を削るDクラス。笑えてくるな」
「いいわ戻りましょう綾小路くん、これ以上ここにいても気分が悪くなるだけよ」
「またな鈴音」
「どこで調べたのか知らないけど、気安く呼ばないでくれるかしら」
「論外ねCクラスは。完璧な自滅をしてくれたお陰で助かるわ。後で困った時どうするか見ものね」
「そうかな鈴音ちゃん」
「っ、杏樹? どうして? いつからいたの!?」
「最初から? そんなことより、Cクラスはまだ自滅してないよ」
「どういうこと? ポイントもないなか試験を凌ぎ切ることは無理よ」
「考えてみて。与えられたポイントは300ポイント、期間は一週間。これだと期間内に豪遊するのにポイントが足りないことは確か。私たちはポイントを削った。彼らは?」
「……期間を削った、でもどうやって」
「高円寺くんがいい例かな? そうだよね清隆くん」
「あぁ、適当に体調が悪い、精神的に不安定だなんてでっちあげてリタイアすればいい。そうすれば全員客船に戻って生活ができる。なんの苦労もなく夏休みを過ごせるってことだ」
「じゃぁ彼は本当に最初から試験を放棄していたってこと…?」
「この試験は文字通り自由だ。龍園の考えも一つの正解だろう。Cクラスは伊吹ともう一人が謀反を起こして不在らしいし、1日に数ポイント確実に失うことがわかっている。どれだけ節約しても失うことが確定しているポイントだからこそ思い切った戦略に出たのかもな」
「諦めずに連れ戻すなり考えるべきよ。絶対に間違っている。理解不能よ」
「そうかな? 試験終了後にいろいろ見えてきそうだけどね」
「どういうこと?」
「よっし! 時間もあるしBとAも回るんでしょ? わたしもついてくね、Cのことは一旦知れたし」
「誤魔化したわね、そういえば、杏樹は私たちが浜辺を訪ねる前からあそこにいたの? どうやって?」
「普通に友達になったの」
「嘘よ、今はクラス対抗中よ? 他クラスの人に与えるポイントも情報もないはず」
「でもみんな優しくしてくれたのが事実だから、わたしからはそれ以上の説明は不可能」
「にわかに信じられないわ。で、何か情報は得られたの?」
「今日リタイアすることは確実だよ」
「はぁ、遊んでいるだけでなんで情報が入ってくるのかしら……杏樹も綾小路くんも本当に掴めないわ」
「だって清隆くん」
「オレはただの事なかれ主義者だ」
「じゃぁわたしは……何だろ?」
BとAもそれぞれ見にいき、3人はDのベースキャンプに戻ってきた。
今回の杏樹のゲットした情報の中で一番有益だったのは、トランシーバーのチャンネル数だった。
「杏樹おかえり〜帰ってきたばっかで悪いんだけど野菜畑見つけたんだって? 早速場所案内してほしいんだ」
探索の時に高円寺が不自然に歩みを止める場所が何箇所かあり、後日その周辺のみ細かく調べたところ野菜畑が見つかったのだ。多分高円寺はクルーズ客船から眺めて気づいていたのだろう。
「わかった! じゃあなんか入れる袋持っていこっか」
堀北綾小路と別れ、何人かの女子に囲まれる。軽井沢を筆頭に何人かの女子が杏樹についてくるのを確認しながら、道を進んでいく。
「じゃーん! ここがとうもろこし!」
「すご! ほんとに生えてるじゃん美味しそ」
「いっぱい持って帰りたいね」
「でも野菜って何日常温でもつの?」
「とうもろこしは痛みやすいから一日持つかどうかくらいかな?」
「でも取られちゃったらやだよね」
「とりま人数分持っていこうか」
「さんせー!」
今回ちょっと作者の語彙と描写力がなくて……Cクラスに簡単に入り込めるなんてありえねぇよって思った方いたらごめんなさい。堀北に龍園が遊んで行くかって誘ってる時点でそこまでクローズな空間ではないと認識した上で書きました。