綾小路が櫛田の方のテントの調整をしていると堀北が話しかけてきた。
「雑務を押し付けられて大変ね」
「どの口が言うんだよ。堀北、お前が余計な推挙さえしなければ問題なかった」
「仕方ないでしょ、保険は必要よ」
「平田は悪いやつじゃないだろ。人間誰もが裏表を持って生きているとは限らないぞ」
「それはそうね事実わたしに裏表はないもの。けれど大抵の人間は本音と建前を使い分けているはず。あなたたちだってそうあるように。それにしても随分と平田くんを信頼してるわね二人とも」
「あぁ少なくともオレは頼りにしてるぞ」
「大役を務めるのは立派だけど結果がついてこなければ意味がない。あんなこと許されないもの。杏樹は知ってると思うけど、今Dクラスが所有しているポイントってわかる?」
「まるで想定外の支出があったみたいだな、心当たりはないぞ?」
「ついてきて」
行き先は言わずもがな、女子テント。軽井沢テントの中をチラッと見せる。
「これはーーーー」
そこには寝やすいようにしいたマット、充電式扇風機、枕。男子にとっては覚えのない代物が数多くテントに置かれている。テントから離れ焚き火を目指しながら二人は話を続ける。
「杏樹が気づいて止めるまで軽井沢さんたちが購入し続けていたわ。彼女たちは平田くんには相談していた、なのに綾小路くんが知らないと言うのはそう言うことよ」
「お前が言いたいことは分かったけど、オレから言うことは特にないな。使ってしまったポイントは戻ってこないからな」
「このまま何も起こらなければいいのだけれど、犯人がつかまっていないのは非常にリスキーよ。だから一刻も犯人を見つけたい」
「で、オレに協力して欲しいと?」
「えぇ、男子と亀裂が入った以上私一人じゃどうしようもないし、杏樹は当事者だから接触は危ないわ」
「分かった。役に立てるかはわからないがな。協力しよう」
「随分物分かりがいいわね。今日は杏樹も静かで変だし、あなたもすぐ協力するなんて……何か狙いでもあるの?」
「人の好意は素直に受け取った方がいいぞ、友人の下着が盗まれた。動く理由には十分だろ」
「えっ今日わたし静か?」
「少なくともあなたが私の前で口を開いたのは今が初めてよ、あなたでもショックは受けるのね……まぁいいわ、悪いけどテントに戻るわ」
堀北は小刻みに呼吸しながら髪をかき上げて背を向けて歩き出そうとした。
「なぁいい加減白状したらどうだ堀北?」
「なんのことかしら」
「お前この試験が始まった時から体調悪かっただろ」
「……別に普通よ」
「嘘つけ」
「いつから気づいてたの?」
「船から降りる時だな。あの時オレはお前に何をしてたか聞いたろ。その時だ」
「もう5日も我慢しているのここでギブアップしたら無駄になる。おやすみなさい」
堀北は今度は本当に立ち去ってしまった。
堀北が立ち去ったため、焚き火の前には二人になった。
「杏樹大丈夫か?」
「……?」
「あの夜のオレみたいな瞳してるぞ」
「あぁフライ返しが犠牲になった事件の日かぁ……これでどう?」
「世界中で起こってるすべての出来事に幸せを感じてそうな顔だな、気味が悪いぞ」
「レディーの顔を気味が悪いなんて言うなんて……ひどいっ」
「あぁいつもの杏樹だ」
「あはは、こういう時
「恐怖や嫌悪感は必要以上に感じてないってことでいいのか? あの事件ではストレスもかかるだろ、無理はするなよ?」
「大丈夫、心配かけちゃった?」
「杏樹がフランス人形になってないか何回か確認するくらいには」
「結構心配してくれてたんだね」
「今回の事件について杏樹はどう思ってる?」
「憎悪や過度な好意か撹乱かーーそして一番わたしたちにとって都合が悪いのは撹乱。前二つはそのままわたしに物理的に近づいてきてくれたらツキノワグマじゃなければ問題ないし、大ごとになったからって警戒して諦めてくれれば万々歳。だけど、撹乱の場合清隆くんの退学につながる場合があるからしっかり捌いとかないと危ないなって。まぁとりあえずこういうことができる人は女子だと伊吹さん、それか桔梗ちゃん」
「ん? 伊吹はわかるがなんで櫛田なんだ?」
「まず、わたしのテントの人は夜中一歩も外に出てないから、女子だった場合もう一つのテントなのは確実。その中で今回のことを起こせる勇気や行動力があるのはその二人。つまり消去法。鈴音ちゃんは行動力あるけど、もし犯人鈴音ちゃんならわたし人間不信になる」
「それは間違いないな。じゃあ男子は?」
「所持に関していえば一人疑ってるけど、窃盗ってことに関してはわかんないなぁ」
杏樹は綾小路のポケットを見ながらそう言う。
「……本当杏樹はなんでもお見通しだな……これ、オレが預かった。返すタイミングが分からなかった、すまない」
綾小路はジップロックに包まれたそれをポケットから出そうとするがその手を杏樹に優しく掴まれる。
「いつ言ってくれるのかなって思ってたの、でもそれは清隆くんが焼却炉に突っ込んどいてくれない? 自分ではもう触りたくないから、お願い?」
「っわ、わかったからその顔はやめてくれ。オレがその顔に弱いこと知っててやってるだろ」
耳をほんのり赤くし目をそらしながら綾小路がそう問いかけたが返事は優しい笑顔のみだった。
「で、犯人はどっちなの清隆くん?」
杏樹は先程2人の名前を出した時の綾小路の反応を見逃してはいなかった。
「伊吹だとオレは思ってる、さっき接触したときにそう感じた」
「よかった他クラスで」
「杏樹は櫛田について何か知ってるのか?」
「何かって何かあるの彼女?」
「いや、知らないならいいんだ」
「そう、ねぇ清隆くん残り一日どう過ごす? わたしは一人で砂浜に行く予定なの」
「オレは堀北と伊吹と動く予定だ」
「Cと交渉でもしてるの?」
「いや、リーダーを変える」
「なるほど。それは盲点だった」
「杏樹こそ砂浜で何をするんだ?」
「盗聴」
そう言ってジャージの中から取り出したのはトランシーバーだった。
「それは伊吹のか?」
「違うよ? ポイント不正利用。鈴音ちゃんにバレたら怒られちゃうね」
「軽井沢たちを野放しにしたのはそのためか」
「そゆこと、Cに行った時チャンネル数をゲットしてきたから明日は誰が話し始めるか楽しみに聞く予定」
「トランシーバーは傍受できるのが致命的だな」
「もしかしたら明日清隆くんと運命的な出会い方をするかもね」
「似たようなとこを狙ってるんだ、運命も何もないだろ。必然だ」
「でもできるの?ぜーったい鈴音ちゃん責任を自分で取ろうとするよ?」
「自ら棄権するのが理想だが、最悪強硬手段を取るかもしれないな。失望したか?」
「それが間接的にも今後の彼女のためになるのならわたしは口出しできないな。代替案も思いつかないし」
「そうか」
「でも、必要以上にはダメだからね? 最低限。そして背負える分だけ」