Common life 日常的非日常   作:Dangelo

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No,3.9

綾小路side

 

「おかえり」

 

 点呼から一時間たった頃ようやくオレはベースキャンプへと辿り着いた。

杏樹がタオルを持ってこちらに駆け寄ってくる。ほんのり目元が赤くなっている、何があったのだろうか? 杏樹からタオルを受け取ると、何か飲みもの持ってくると言ってまた走っていってしまった。

 

「綾小路くん! 堀北さんは大丈夫だったのかい?」

 

 平田に声をかけられ、熱がひどくリタイアさせた旨を伝える。

 

「それは仕方がないね。ありがとう」

 

 平田はそう言った後オレの耳元に近づいてこう言った。

 

「杏樹さんから大体聞いたんだけど、彼女自身ショックを受けてたみたいで雨の中泣きながら帰ってきたんだよ。彼女、責任を感じてるみたいなんだ。だから申し訳ないんだけど諸々支度が済んだら話を聞いてあげてくれないかな? 今は落ち着いてるみたいだったけど……無理してそうだから」

 

「どうしてオレなんだ? 櫛田とか軽井沢がいるだろ?」

「それが、どうも二人が話しかけても大丈夫って言うらしいんだけど、側から見てて変な感じは拭えなくてね。あれは放っておくとまずいと思うんだけど……綾小路くん杏樹さんとよく話してるから、Dクラスのためにもお願いできないかな?」

「……わかった、濡れた服をどうにかした後少し話してみようか」

「お願いするよ」

 

「ん? どうしたの清隆くん」

 

杏樹のもとに行くと普段と全く変わらない様子で反応する。

 

「なんか、平田から慰めてこいって言われたんだがなんのことだ?」

「あー、やりすぎちゃったかな?みんないい子だもんね。まぁ、ただ単に帰ってそのまま伝えたらヘイトが鈴音ちゃんに向くかなと思ったからちょっとだけ女の武器を使っちゃった」

 

そう言って目元を指差す杏樹。案の定というかやっぱりという感じだ。彼女がおかしくなる理由がないんだから全部演技だと言われ納得する。彼女のスペックに呆れオレは苦笑いを浮かべる。

 

「効果は抜群だったようだぞ、至る所で杏樹をどうにかしてくれってせがまれた」

「あはは、これでしばらくはこの技封印かな。」

「しばらく見れないのか……オレも見たかったな」

「そんな楽しいものじゃないよっ、それよりどうだった? 鈴音ちゃん変われそう?」

「あぁ、まぁ人生の指針なんてそう簡単に変えられるものじゃないからな、時間はかかるのは想定内だ」

 

 

 

 

 

先ほど本心を語ったが、杏樹のことには触れてなかったな。

 

 勝つための道具。それは堀北や平田と変わらない。少々機能性が優れている多機能な道具でしかない。つまり利用することにはその他有象無象と変わらない。

 

 ただ、彼女にも逆に利用されている。だからお互い様だろう。オレの近くにいることで彼女自身の異常性をクラスメイトから隠している。

 

利用し、利用され。

 

 この関係にオレは徐々に、いや初めから心地よさを感じている。これは同気相求なのだろうか。今のオレにとってこの学校生活と同じくらい彼女を何者にも奪われたくない。この思いは今までのオレの人生において抱いたことのないものだ、だからこそ追求することに価値があるかもしれない。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 過酷だった試験が終わりを迎えた。残すは結果発表のみ。

『只今より試験結果の集計を行います。しばらくお待ちください。すでに試験は終了しているため飲食やトイレは自由に行って構いません』

 

 結果発表、それぞれ思うことはあるだろうがたぶん裏で起こった事の真相を把握しているのは杏樹と綾小路だけだろう。ただ杏樹はどうやって伊吹がカードを盗めたかの詳細までは綾小路に教えてもらえなかったので良く知らないが。

 

「4位Cクラス0ポイント、3位Aクラス120ポイント、2位Bクラス140ポイント1位Dクラス225ポイント。以上だ」

 

 この結果に何も知らないDクラスのメンバーは大いによろこび、船内にいた堀北に様々な謝罪と感謝の意を伝える。堀北の頭の中にははてなマークでいっぱいだろうが、杏樹はそれをニコニコと眺めているだけだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ようやくDクラスのメンバーから解放された堀北は綾小路と杏樹のもとに早足で鋭い視線をしながらやってきた。

 

「この試験結果どういうこと?」

「皆目検討もつかないって顔だな」

「えぇ何もかもありえない、聞かなきゃいけないことが山ほどある」

「何から聞きたいんだ?」

「全て」

 

 どうやら綾小路がネタバレを進めてくれるらしい。杏樹も綾小路の行動の全てを知っているわけではないので聞き専に回る。

 

「今回オレたちのこの試験に対する認識はリーダーあてのみだった。300ポイントをどうやりくりするかなんて大して差はない」

「確かに初めに杏樹がそんなことを言っていたわね」

「そこでオレはスポットを探索することに名乗り出て、誰よりも先にあるスポットに先回りする予定だった。あそこが一番船の上から見て占有に最適な場所だった。本当はいろいろ探るだけのつもりだったが、偶然戸塚がリーダーであることがわかった。その後、杏樹がCクラスに潜入した」

「それも謎だけどまぁ良いわ」

「そこでトランシーバーのチャンネルとか、その他いろいろ見聞きしてきたの」

 

 その他いろいろはいろいろだ。

 

「その後オレ達はBクラスに行って同盟を組んだ、そして最終日オレらは同じ目的を違う方法で追い求めた」

「わたしは最終日、伊吹さんか誰かが確実にトランシーバーで連絡をとると思ったからその日一日ずっとトランシーバーと睨めっこしてた。そしたら龍園くんが集合場所をありがたく丁寧に教えてくれたの。そこには葛城くんもやってきて、AとCが繋がっていること、リーダーの情報を共有していることがわかった。そしたらちょうど清隆くんがきてくれたからそこで得た情報を全部伝えた」

「それを伝えられたオレがやることは一つ。お前をリタイアさせることだった」

「リタイア? なぜ?」

 

 一枚のカードを見せながら綾小路は語る。

 

「試験は公正でなければならない。だからルールは基本的に公正に作られる。リーダーが体調不良なんかでリタイアした時、どうなると思う?」

「それは……リーダーが不在になるわ。だから占有権も消える……」

「違うな、マニュアルにはこう書かれてあった。『正当な理由なくリーダーを変更することはできない』と。リタイアは正当な理由に当たると思わないか?」

「だからあなたはわたしを?」

「これがCやAクラスから知られながらも被害を受けなかった理由だ。だがこんなことをしたのがオレたちだとわかったらいろいろ困るから杏樹に一芝居うってもらった」

「鈴音ちゃんが伊吹さんをわたしのために追いかけて、もともとの体調不良とか色々で倒れちゃった。今清隆くんが運んでると思うってね」

 

「この際あなたたちが私たちを駒のように操ってたことや相談なく独自で動いていたことはいいわ。二人が本気を出せばAクラスも夢じゃないことはわかったし。で、今回なんであなたたちはそんなに必死に動いたの?」

「行事を楽しむため」

「オレは体調が悪い中がんばる堀北に感銘を受けて」

「二人が何も話さないのは今の返事でよくわかったわ。最後に一つ教えて二人は手を貸してくれる?」

「オレのことを一切詮索しない限り、手助けしよう」

「右に同じく」

 

 堀北がデッキから去った後二人は残された。

 

「お疲れ様。怪我大丈夫?」

「堀北を連れていくときに少し踏み外して打ったんだ。今頃青痣確定だな、背中だから見ることはなさそうだが」

 

 そう言って綾小路は腰上の背中に手を当てる。

 

「うわ痛そぉ」

 

 杏樹は躊躇なく綾小路の体育着を少し捲り上げた。綾小路が手で示した部分に大きな青痣がしっかりあるのを確認して顔を顰めた。

 

「でも青痣だけだから残らなそうだね」

 

「っおい?! 急に服を捲るなんて破廉恥だぞ?!」

「えっ? ごめん?」

「よくパーソナルスペースが狭いって言われないか?」

「あー今のってアウト? 嫌だった?」

「嫌ではないが心構えがあるのとないのじゃ雲泥の差だ。今度から見るなら宣言してくれ」

「なるほど」

 

 

「ーーそれでさっき茶柱先生のどうだった?」

「オレをイカロスだと言っていたぞ」

「イカロスってクレタ島の迷宮ラビリントスの話だっけ? わたしは英雄だったらペルセウス、神だったらアフロディーテ派だよ」

「オレは神はヘルメス派だし、英雄に推しはいない」

「じゃぁなんでイカロス? あだ名にしては一文字も合ってないけど。強いていうなら四文字つながり?」

 

「『自由を得ようと飛び立ったが、それは父が指示して飛び立たせただけであり自らの意思で飛んだわけではない』というところことがオレとリンクしてるらしい。あとこうとも言っていたな。『オレはいずれ自ら退学を選ぶ』と親は先生に言ったらしい。『太陽に翼を焼かれて大海に落ちて死んでいったイカロス』のような結末を迎えるということらしいぞ」

「大丈夫だよイカロスは傲慢でアポロンに近づこうとしたから落ちた。太陽神に近づかなければ焼け落ちることもないよ」

 

 

 

 

「太陽神……かオレにとっての太陽神はなんだろうな」

 




やっと三巻完結、長かった。
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