Common life 日常的非日常   作:Dangelo

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No,4.2

「あれ? もしかしてずっと部屋にいるのかい?」

 

綾小路が客室の窓から見える海の景色をぼんやり眺めていると、ルームメイトの平田が声をかけてきた。

 

「出歩く理由もない。特別遊ぶ相手もいないしな」

「杏樹さんは?」

「忙しいと連絡がきた」

「須藤くんとか、池くん山内くんとか、あとは堀北さんは?」

 

確かに彼らには友達の部類に入れてもらっているのは確かだが、綾小路は優先順位のかなり低い部類の友達でしかないのだろう。今平田が口にした人物に綾小路をこのバカンス中誘った者はいない。綾小路はあまりの友達の少なさになんだか悲しくなる。

 

「もう少し、綾小路くんは積極性があれば友達ができると思うよ。余計なお世話だけどね。あっそうだ、12時半から軽井沢さん達と合流してお昼ご飯食べる予定なんだけど、一緒にどうかな?」

「軽井沢、たち?」

「うん、他に女子3人くらい、嫌かな?」

「遠慮しとく、オレは別に軽井沢達とのグループとは仲がいいわけじゃないし」

「何となく躊躇するのはわかるよ。だからこそ僕を頼って欲しいかな」

「待ち合わせまでもう10分もないぞ? 早く行ったほうがいいんじゃないか?」

「じゃあお昼だけど、僕と二人だったらどうかな?」

「えーと、別にいやじゃないが、約束があるんだろ?」

「軽井沢さん達とはいつでも食べれるよ。でも綾小路くんはこうして同じ部屋になったわけだし、一緒に食べる機会は今までほとんどなかったから」

「後で軽井沢に恨まれるのは勘弁なんだが」

「大丈夫だよ、軽井沢さんはそんなことで恨む子じゃないから。やっぱり軽井沢さんに断り入れるね」

 

やや強引に平田は軽井沢に断りの電話を入れる。

 

「……本当に良かったのか?」

「もちろん。それじゃあデッキに行こう。軽食だから食べやすいしね」

 

半ば強引にオレを引っ張り出す平田に何か裏があるのかもしれないと思いながらもオレはベッドから立ち上がり平田について行った。

 

 

「無人島の時は協力してくれてありがとう、綾小路くんには犯人を探す手伝いをしてもらったのに満足にお礼も言えなくてごめんね」

「謝ることじゃない。結局役に立ててないしな。下着を盗んだ犯人を見つけたのは堀北だ」

「結果的にはそうだけど、嫌がらず協力してくれた綾小路くんには感謝してるよ。杏樹さんに返せた?」

「いや、返そうとしたら処分を頼まれた。盗まれた物に未練はないらしい」

「確かに返ってきたところで女の子としては気味が悪いだろうからね」

 

話をしながらデッキにたどり着き、空いている席に二人は腰を下ろす。メニューに視線を落としながら平田は申し訳なさそうに話を切り出した。

 

「実は少し相談があるんだ」

「相談?」

 

やっぱり裏があったのか。それで自分と差し向かいで食事をする時間が欲しかったというわけか。と一人綾小路は納得する。

 

「相談者として適さないオレに声をかけるってことは……ピンポイントな内容か?」

「僕と堀北さんの橋渡し役になってもらえないかな? やっぱりこの先、Dクラスが一致団結して頑張っていくのに堀北さんは必要不可欠だと思うんだ。先日堀北さんの活躍で僕たちDクラスは思わぬ成果をえた。一気にクラスの士気は上がったと思うし、堀北さんを慕う人たちも増えたと思う。これは大きな変化だよ」

「ま、そうだな」

 

 堀北鈴音という少女はDクラスの生徒で入学後の数少ない綾小路の友達?でもある。向こうもそうだろうし、今現在も杏樹をのぞいて友人らしい友人がいない孤高の人物だ。持っている能力は総じて高く文武両道。欠点は、孤高が災いして誰とも絡まない性格と、人付き合いが苦手なため高圧的な態度をとることが多いことだろうか。

 

「そんな今だからこそ、僕を含めもっと彼女はみんなと仲よくなるべきだと僕は感じる。協力し合えばもっと上のクラスを目指せる気がするんだ」

「橋渡しと言ったらオレより杏樹のほうが適任なんじゃないか?」

「……それは思ったんだけど、彼女と話すのは難しいんだ」

「難しい?」

「なんて言ったらいいんだろう、普通に楽しく雑談はできるんだけど、いざ真面目な話をしようと思って話しかけると、話そうと思ってたことと違うことを話して終わってたり、タイミング悪く時間が来たり……一定以上近づけない……って感じなんだ」

「平田でもそんなことがあるんだな」

「そうなんだ。逆に彼女と普通に話している君が不思議だよ。で、話を戻すけど、僕の意思を綾小路くんなりに変換して堀北さんに伝えて欲しいんだ。僕の存在を伏せた上でね」

 

 平田は何かに焦っているように見えた。詳しく聞きだそうかと思案していた時に邪魔が入った。

 

「あー! やっぱりここにいたんだ、平田くんっ。一緒にご飯食べよ?」

「えーっと軽井沢さん、さっき断りの連絡入れたと思うんだけど……」

 

 困った顔をする平田を女子が取り囲む。

 

 綾小路は静かに自分の食べ物を持って邪魔しないように席を離れようとした時だった。

 

「あっ綾小路くん、杏樹のとこ行った?」

「どういうことだ?」

「あれっ知らない? 杏樹真面目そうな英語のなんか読んで船酔いして今医務室だよ、行ってないなら行ってきたら?あたしあんたらのこと応援してるから」

「あぁ」

 

 綾小路は返事をしたものの、最後の応援が何の応援してるのかわからなかった。まぁそれを軽井沢に聞き返せるほど綾小路は彼女と交友関係を築いていない。言われた通り医務室に直行する。食べかけのサンドウィッチを片手に。

 

 

「あらぁ珍しいお客さんね、どうしたの?」

 

 星之宮先生は突然現れた綾小路に興味を示した。

 

「烏間ってここにいますか?」

「杏樹ちゃんならそっちのベッドにいるわよ〜何ぃ? 二人は恋人なのかしら?」

「どんな感じなんですか?」

「相変わらず無視するのね、そうねぇ〜目眩、頭痛、吐き気、手足の冷え。典型的な船酔いね、どうしたらこんなにひどくなるのかしら……そろそろ何か胃に入れないと余計気持ち悪くなっちゃうだろうから起こそうと思ってたところっ」

「ちゃんと養護教諭やってるんですね」

「本当失礼なんだから……杏樹ちゃん起きれる?さっきよりは顔色いいわね」

 

 星之宮先生はベッドで横になっている杏樹に声をかける。杏樹の肌は陶器のように青白かった。

 

「……んん……大丈夫です」

「お迎えが来たわよ、少し外の空気すって何かつまんできなさい?」

「ん……お迎え? ……わたし死ぬ?」

「死神じゃなくて悪かったな、大丈夫か?」

「清隆くん?なんで?」

「いや、心配だったし。立てるか?」

 

 綾小路はそのなんで、が『なぜこの状況を知っているのか』を指しているのを理解していたが、そう返事をして手を差し出した。杏樹はそれを握ってベッドから抜け出す。まだ寝起きだからかポヤポヤしている杏樹を連れて歩き出す。

 

「じゃあ頼んだわよ、綾小路くん。杏樹ちゃんは今度は動けなくなる前に来るのよ〜」

 

 

「今日一日ずっとこんな感じだったのか? 忙しいってのはどうなんだ?」

「……忙しかったのは本当、仲良くしてた教授が論文出したらしくてそれがちょうど読めたから……読んじゃおって思って。今日は朝から超体調が良かったから、大丈夫だろうって……ずっと文字を追ってたの。そしたら気づいた時には胃がひっくり返りそうなところまで、ね。恵ちゃんに連れてきてもらったの。今はお腹も空いてるし、頭も痛くないよ」

「軽井沢から医務室にいると聞かされるこっちの身にもなってくれ、今は大丈夫なんだな?」

「うん、大丈夫だよ。恵ちゃんから聞いたのかぁ、なるほど」

「杏樹、オレの精神衛生のためにルールを決めよう」

「ん? 精神衛生? ルール?」

「そうだ。犯罪、体調不良は起こる前に連絡するなり相談するなりしてくれ。他にも危険そうなことは小さなことでもちゃんと報告してくれ。わかったか? そもそも体調不良に関しては自己管理がーーーー」

「なにそれ、パパみたいなこというのね」

「オレはまだ杏樹とは4ヶ月程度の付き合いだが、その父親の気持ちがよくわかるぞ。仲良くなれそうだ」

 

 

「ーー清隆くんはもうお昼ご飯食べた?」

「さっきサンドウィッチを少し口に入れただけだ、まだ残ってる」

 

 綾小路は右手を見せながら言う。

 

「じゃぁわたしもパンもらってこよっかな、一緒に食べよ?」

 

 杏樹はパンが置かれている場所で右左を見ながらなかなか手に取ろうとしない。

 

「何をそんなに悩んでるんだ?」

「んー、これとこれ両方食べたいんだけど絶対お腹いっぱいになっちゃうなーって」

 

 杏樹が指を指してたのはリンゴのパンとチーズのパン。さっきまで船酔いだった人が全部食べるには確かに難しそうな量だ。

 

「どっちも持ってって、余ったらオレが食べるよ」

「いいの?!」

 

目を輝かせて聞いてくる杏樹を見て思わず口が動きかける。

 

「…わ…いな」

 

 オレ今なんて言おうとした? 声に出てたか? 綾小路の内心の動揺に気づかないフリをしてくれたのか、気づかなかったのか。

 

「どうしたの? とりあえず食べれる場所探しにいこっか」

 

 杏樹はそう言って、片手にパン片手に綾小路の手を掴み廊下を歩き始める。綾小路は握られた手を振り払うことなく、そのまま杏樹にただついて行った。

 

 

綾小路side

 

「うまそうに食べるな、そんなに美味しいのか?」

 

 杏樹はパンを一口大にちぎってゆっくりゆっくり味を確かめるように食べている。幸せそうな顔だ。

 

「うん、お腹も空いてたしわたし好みの味。口つけてないから味見してみる?」

「いいのか?」

「はい、口あけて?」

 

 伸ばそうとした手が空中で行き場をなくしオレはなんとも奇妙な体勢でストップする。一方杏樹はパンを一口大にちぎってオレの口の前に持ってくる。綾小路は一瞬自分が何を求められているのが理解できず体が固まる。

 

「ん? 食べないの?」

「……っあ、あぁ食べる」

 

 ここで断るのもおかしいか、そう結論づけ思い切って顔を近づけパンを口に入れるも緊張で味がしない。綾小路も1男子高校生ってことだ、こういう耐性はあまりない。心拍数が上がっていることに気づかれないよう必死だ。

 

「美味しいでしょ?」

 

 極め付けに杏樹の笑顔を至近距離で見せられたらもう綾小路は考えることを放棄するしかなかった。

 

「そうだな」

 

 

「ーーーー顔色良くなってきてるな」

「本当? だれかと話してた方が船酔いしにくいって本当だったんだ〜。そういえば、お昼誰かと食べる予定だった?そのサンドウィッチ、デッキのでしょ?」

「あぁ平田とな。ただ軽井沢に争奪戦に負けた挙句衝撃的な事実を伝えられたからな、結局平田とサシで話たのは10分くらいだ」

「洋介くんと二人っきり?! 誘ったの?」

「そんなにおどろかれるのは心外だが、まぁもちろんあっちから誘ってきたんだ」

「ああやっぱり、でなにが目的だったの?」

「普通に友達だと思って誘ってくれた可能性を無視しないでくれ。まぁ実際端的にいえば平田と堀北の仲介役に任命されたんだ」

「おめでとう、えーっと、恋のキューピット?」

「わかってて言ってるだろ、今回の試験結果で堀北の株が上がったからより一致団結するために協力したいんだと」

「んー? 動機は平田くんらしいけど、行動はらしくないね。で引き受けたの?」

「いや、引き受ける前に解散した」

「なるほど、それはなんかごめんなさい」

「いや、元々軽井沢がきた時点で解散はやむなしだったからな、それに少し気になることがあった。なんと言うか平田が何かに焦ってると言うか……ん?」

「どうしたの?」

 

 オレがポケットを急に漁り始めたのを見て杏樹が疑問を口にした。オレは漁り出した携帯の画面を杏樹に見せる。

 

「佐倉からメールが来た」

「これは、遊びのお誘い?」

「いや、そこまでは書いてないから何か相談とかじゃないか?」

「そっかじゃ、どちらにしろ今日は解散だね」

「あぁ悪い」

「わたしは部屋に帰って論文の続きでも読むことにするよ」

「必ず水分を取りながら、適度に休憩を入れるんだぞ?」

「はーいパパ」

「オレはいつからお前のパパになったんだ」

 

 杏樹はいたずらげに笑い、女子のフロアに向かって小走りで行ってしまった。体調はもう本当に大丈夫なようだ。

 

 オレは杏樹の姿が見えなくなったあと指定された場所に向かった。




今回も今回でイチャイチャ回。
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