Common life 日常的非日常   作:Dangelo

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No,4.3

綾小路side

 

「はぁっ…はぁーーーーーっ……はああああーーーっ…」

 

 メールの差出人である佐倉の下に近づいていくと悩み深そうなため息が繰り返されていた。

 

「どうしたんだ?」

「わあ! あ、綾小路くんっ!」

 

 そんなに驚かれるような声のかけ方をした覚えはなかったが、佐倉には不意打ちだったようでいつも丸めている背筋をピンと張って慌てふためいていた。

 

「驚かせて悪いな」

「う、ううんっ。私がちょっと、変に緊張していただけだからっ」

 

 友達との待ち合わせくらいで緊張しているようだと、まだまだ私生活は大変そうだな。

 

「オレになんの用だったか聞いてもいいか?」

「うん、実は、その、私、同じ部屋の人とのことで、ちょっと悩んでて」

「悩んでいるってのは仲良くなりたいのになれないってことか?」

「どうなんだろう、仲良くなりたい気持ちと一人でいたい気持ち両方ある。だから、ダメなんだろうね、私って」

「ちなみに同室は?」

「篠原さん、市橋さん、前園さん……だよ」

 

 なんとも個性の強いメンバーだ。篠原は軽井沢と近い関係にある女子の顔役だ。男子とも真っ向から言い合える頼りがいのあるやつだが、合わない相手には容赦ないとこがあるからな。一橋も似たタイプだ。前園はあまり知らないが、口と態度が悪いイメージだ。佐倉にとって苦手とする部類の人で集められた部屋だな。

 

「でも、どうしてオレに?」

「……綾小路くんなら、何かアドバイスくれるんじゃないかな、って思って…か、勝手に頼ろうとしてごめんね。綾小路くんも忙しいのにね」

 

 明らかに人選ミスだがそれを佐倉に伝えるのも酷だろう。

 

「別にいいさ、ただ助けになってやれるかは別問題だけどな」

 

 オレ自身佐倉の同室の誰とも仲良くないため、佐倉をうまく助けてやってくれとも言えない。杏樹なら篠原あたりになら声をかけるのも可能かもしれないが…

 

「あれ?綾小路くんと佐倉さん。こんなとこで何してるの?」

 

 客室からひょっこりと姿を現したのは、櫛田桔梗だった。佐倉の明るかった表情は途端に雲間に消え、居心地の悪そうな雰囲気に変わる。自分の感情をコントロールするのが苦手なのだろうか?堀北と似てるな。

 

「あ、邪魔するつもりはないよ?」

「……私、部屋に戻るね」

 

櫛田が慌てて引き止めようとするも、佐倉は船内へと駆け足で戻っていった。オレとしてはこの手の相談は櫛田にするべきだろうがナイスタイミングだったがそうではなかったらしい。

 

「うー、ごめんね。バッドタイミングだったね。声かけないほうがよかったかな」

 

別に謝ることはない。ただ佐倉が人付き合いを苦手としているだけのことだ。ただ、杏樹だったら佐倉が逃げることはなかっただろう。彼女と櫛田の違いはやはり裏の顔があるかないかだろうか?佐倉は意外と人のことを見ているのかもしれない。

 

「そう言えば、船に戻って初めて櫛田と話した気がするな。色んな子と遊んでいるのだけは遠目に確認していたんだが」

 

 櫛田は学年1の人気者だ。Dクラス内となると話は別な気もするがまぁ大体そんなもんだ。入学式の日に全員と友達になると公言したことを、現時点で完遂しようとしている。もちろんごく一部の子を除いてだが。

 

「今日はCクラスの子たちと遊ぶ約束をしてるの。綾小路くんもくる?」

「えっ、参加してもいいのか?」

「……えっ来るの?」

 

嫌な間ができた。行ってみたい本音が少し出てしまったが、櫛田もまたその本音に一瞬戸惑ったようだ。これは社交辞令。社交辞令にはきちんと社交辞令で断るのが礼儀だ。

 

「冗談だ、オレが参加するタイプじゃないのはちゃんとわかってるだろ?」

「もー、そうだよね。ちょっとびっくりしちゃった。綾小路くんって面白いね」

「そ、そうか?」

 

 本気で面白いと思ってくれたとは思わないが、櫛田がいうと本気に聞こえるから怖い。杏樹が言うとなんでも冗談に聞こえるのも怖いが。

 

「それじゃあ行くね」

 

 軽く別れの言葉を交わしてオレは自室に戻った。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 杏樹が自室で読みかけの論文の続きを読み進めていると突然邪魔が入った。キーンという高い音。学校からの指示や行事の変更などがあった際に送られてくるメールの受信音だった。

 

 杏樹は論文を読むことに集中するためにわざわざマナーモードにしていたのに、それを超えて強制的に音を出されて無性に携帯を放り出したくなった。というかベッドに投げた。それに続いてアナウンスまで流れ始めた。

 

『生徒の皆さんにご連絡いたします。先ほどすべての生徒宛に学校から連絡事項を記載したメールを送信いたしました。各自携帯を確認して、その指示に従ってください。また、メールが届いていない場合は、お手数ですがお近くの教員まで申し出てください。非常に重要な内容となっておりますので、確認漏れの内容にお願いいたします。繰り返しますーーーー』

 

 杏樹は何度も流される放送に観念してベッドに寝転がりメールボックスを開ける。

 

『まもなく特別試験を開始いたします。各自指定された部屋に指定された時間に集合してください。10分以上の遅刻にはペナルティーを科す場合があります。本日18時までに2階204に集合してください。所要時間は20分ほどですので、お手洗いなど済ませた上で、携帯をマナーモードか電源をオフにしてお越しください』

 

 杏樹は先ほどの邪魔された怒りを全て電源を切ることに注いだ。これで邪魔されない。もうマナーモードなんて甘っちょろい手段はとらん!なんて一人内心荒ぶっていた。そのせいで綾小路と堀北のグループチャットに気づかなかったのは仕方がない。

 

「杏樹〜何時どこだった?」

「18時204だったよ、恵ちゃんは?」

「まじ?! 一緒じゃん! 今回の特別試験クラスごとの協力系だったらいいなぁ。杏樹いれば心強すぎ!」

「えっ一緒に行こっ、試験ってどんなのだろ〜身内で争う系だったらやだね」

「それはあたしの勝ち目ゼロだから」

 

 軽井沢と杏樹の井戸端会議は盛り上がってしまった。ただいまの時間17:55。

 

「ねぇ、走んないとヤバイ?」

「たぶん」

 

 杏樹は軽井沢と目を合わせ、頷き。二人同時に走り始めた。扉の前で息を整える現在時刻17:59。

 

「はぁっ……杏樹……速いってっ」

「ごめん、でも10分までペナルティならないんだよね。恵ちゃんの肺が回復するまで待つよ」

「お願い」

 

 そして18:00二人は堂々と中に入った。

 

「失礼しまーす」「遅くなっちゃってごめんなさい」

 

「え、清隆くんだ〜」

「え。何これ、なんで幸村くんたちがいるわけ?」

 

 ここで二人は目にした光景に驚く。女子だけ、またはもっといっぱいいると思っていた。

 

「時間厳守だと伝えておいたはずだ、遅刻だぞ。早く席に座りなさい」

「はーい」

 

 杏樹は嬉々として綾小路の隣の席を確保する。もちろん軽井沢は杏樹の隣だ。

 

「Dクラスの幸村、綾小路、烏間、軽井沢だな。ではこれより特別試験の説明を行うーー」

「真嶋先生質問いーですか?」

 

 杏樹が真嶋先生が口を開きかけた時に重ねてそう宣言する。

 

「今の段階では質問は一切受け付けない。黙って聞くように」

「うわ出た、すぐそれなんだから」

 

 軽井沢が杏樹の気持ちを代弁した。

 

「今回の特別試験では、一年全員を干支に擬えた12のグループに分け、そのグループ内での試験を行う。試験の目的はシンキング能力を問うものとなっている。ここにいる4人は同じグループとなる。そして今この時間、別の部屋でも同じように『君たちと同じグループになる』メンバーに対して同時に説明が行われている」

 

 それに対しての不満を軽井沢と幸村がそれぞれ先生にぶつけるが帰ってくるのは冷静な返しのみだ。杏樹たちのグループは卯組だ。

 

メンバーはこの通り。

A竹本、町田、森重

B一之瀬、濱口、別府

C伊吹、真鍋、藪、山下

D綾小路、烏間、軽井沢、幸村

 

「あっ帆波ちゃん一緒だ」

「杏樹いいの? 伊吹さんも一緒じゃん」

「あー、まぁ? 今回は鞄ないし」

「そうじゃないでしょ」

 

「無駄話は済んだが? 説明を続けるぞ。今回の試験では、大前提としてAからDまでの関係性を一度無視しろ。そうすることが試験をクリアするための近道であると言っておく。今から君たちはDクラスとしてではなく、兎グループとして行動することになる。そして試験の合否の結果はグループ毎に設定されている。特別試験の結果は4通りしかない。例外は存在せず必ず四つの結果となる。詳細はこの紙に書かれている。この紙は持ち出し、写真は禁止だ」

 

『夏季グループ別特別試験説明』

 

本試験では各グループに割り当てられた優待者を基点とした課題となる。

定められた方法で学校に解答する事で、4つの結果のうち一つを必ず得ることになる。

 

・試験開始当日8時に優待者に選ばれたか否かを伝える

・試験日程は4日後の午後9時まで

・話し合いは自主性に委ねる

・試験の解答は試験終了後、午後9:30から午後10時のみ優待者を当てる権利を有する。解答は一人一回

・解答は自分の携帯を使って所定のアドレスに送信すること

・自身が配属されたグループ以外への解答は無効

 

結果1:グループ内で全員が正解していた場合、グループ全員にprを支給する

結果2:グループ内で一人でも不正解、未解答がいた場合、優待者に50万prを支給する

結果3:試験終了を待たずに学校に正解を告げた場合、正解者は50clと50万prを得る

結果4:試験終了を待たずに学校に不正解を告げた場合、不正解者は−50clを受け、優待者に50clと50万prを支給する

 

「待って全然わかんない、杏樹わかった?」

「とりあえず後でこれと同じ冊子を再現するからその時に教えてあげる」

「杏樹マジ神!」

 

「君たちは明日から、午後1時と午後8時に指示された部屋に向かえ。当日は部屋の前にそれぞれのグループ名の書かれたプレートがかけられている。初顔合わせの際には室内で必ず自己紹介をするように。そして室内に入ってから試験時間内の退室は基本的に認められていない。トイレ等は済ませておくように。万が一体調不良の場合は担任に連絡して申し出るように」

 

 杏樹を見ながら最後の一言を付け加えたということは、杏樹がグロッキーで死にかけた2回のどちらかは確実に知られているのだろう。恥ずかしい。

 

「あと、優待者は学校側が公平性を期し、厳正に調整している。優待者に選ばれた、選ばれなかったからと言って変更は不可だ。また学校から送られてくるメールのコピー、削除、転送、改変などの行為は一切禁止する。この点をしっかり認識しておくように」

 

 

「部屋をでちゃいけないっていつまでそこにいればいいの?」

「説明に書いてあっただろう。毎回一時間。初回の自己紹介以外は好きに使えばいい。一時間経過したら部屋に残って話すのも退室するのも自由だ。しっかりしてくれ」

 

 幸村がさも理解力のないやつだと見下した態度でそう軽井沢に説明する。

 

「先生そろそろ質問いいですか?」

「なんだ烏間?」

「その最初の自己紹介で話さないといけないことってありますか? 例えば名前とか」

「何言ってんだ烏間? 常識をわざわざ聞いて恥を晒すな。それとも名前を言わない自己紹介があるとでも本気で思ってるのか?」

 

 またしても嫌味っぽく幸村が反応してくる。そこで杏樹も補足説明に入る。

 

「例えば名前よりも芸名やあだ名が有名とか。あと他にも、カラスマって言いにくいから最初からCall me Angieって言って烏間は名乗らず自己紹介とか?」

 

 真嶋の表情は一見何も変わっていないように見えるが、杏樹は真嶋が足先を動かすのを見逃さなかった。彼の自分でも気づいていない癖なのだろう。焦っている時や、驚いた時に彼はそうする癖があるのを杏樹は平常授業で気づいていた。杏樹が板書ミスを指摘すると大体この仕草をする。まぁ苛立っている時の癖という線も否定できないのだが。

 

「学校側としては日本の学生の一般的な自己紹介を想定していると答えておこう。それ以外に質問がないならもう説明は終わりだ。解散していいぞ」

 

 先程の流れから早々に杏樹と軽井沢のことは諦めたのか幸村は綾小路に話しかけていた。

 

「おい、綾小路。終始無言だけどちゃんと理解できたのか?」

「なんとなくは、分からないところは後で教えてくれ」

「全く、どうして俺のグループはこんなにポンコツだらけなんだ……不本意だが、同じグループになった以上まずは結束を深めることが必要不可欠だ。明日の優待者発表次第だが、これからもう少し4人で話し合いをしたーー」

 

 廊下に出ると先生を抜きにした話し合いを提案する幸村。そんな未来を見据えた言葉などどこ吹く風の軽井沢は携帯を手に取り左手に杏樹の手、右手に携帯をもち背を向けて歩き出す。

 

「おっおい、軽井沢。俺の話を聞いていたのか?」

 

 全く気にもとめず通話を始める。歩くスピードに変化もない。

 

「(ばいばい)」

 

 杏樹は後ろを向いて綾小路に手をふり口パクで挨拶をしたら綾小路も口パクでまたなと言ってくれた気がした。

 

 幸村が必死に杏樹と軽井沢を指差しながら、綾小路に何かを訴えている。大変そうだ。




お気に入り、しおり、感想、ここ好き、評価ありがとうございます。
とりあえずいったらいいなと思っていたUA10,000超えて嬉しいです。今後もよろしくお願いします。

良いお年を。

ps.過去編パス限定にしました。nicodeangeloがパスです。
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