Common life 日常的非日常   作:Dangelo

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No,4.4

 朝食の時間。

 

 生徒たちの間で人気のビュッフェを避け、杏樹と綾小路は船の甲板で優雅な朝を満喫していた。

 

 そこにあるカフェ『ブルーオーシャン』の早朝はほとんど生徒の姿がない。その中でも日陰にあたる不人気な奥のテーブルに杏樹は座って綾小路と一緒にもう一人を待つ。

 

 時刻は7時59分。約束の時間1分前になるとその待ち人は現れた。

 

「随分と二人は早いのね」

 

 机の上には飲みかけのアイスティー、どちらも氷が溶けかけなことから杏樹達がしばらく前から来ていたのがわかる。

 

「昨日の続きを話しましょう」

「学校からの呼び出しや詳細は一緒だったのか?」

「あなたの言っていたことと全く同じね。強いて言うなら担当の先生が違ったことくらいでしょうね」

「グループメンバーは?」

 

 見せられたのは堀北の手書きの紙。

 

A葛城、西川、的場、矢野

B安藤、神崎、津辺

C小田、鈴木、園田、龍園

D櫛田、平田、堀北

 

 まさに杏樹の一方的な知り合いオールスターのようなメンバーである。まぁ一番プ○キュアっぽい一之瀬がいないが。

 

「なるほど、これは必然的組み合わせと見た方が良さそうだ。ただ少し不自然な点もあるな、Dクラスは全員リーダー気質だから杏樹が漏れたのも人数的な理由だろうとして、Bは一之瀬が入らないのは変な話だ。正直安藤や津辺より一之瀬の方が牽引しているイメージだしな」

「一之瀬さんはあなた達のグループにいるのよね、彼女がどれだけ優秀かを知っているのはBクラスだけなんじゃないかしら。リーダーの資質と優秀さは比例しないわ」

「それ自分のことを言ってるのか?」

 

 綾小路のフリには堀北は睨み付けるだけだった。

 

「たぶん兎グループはうさ耳が似合う人が選ばれたんだよ、ほら恵ちゃんも帆波ちゃんも、伊吹さんも似合うと思わない?もちろんわたしも」

 

 杏樹はさも大発見かのようにそう語るが堀北の一言によって続けることはできなかった。

 

「それはあなたの隣を見ても言えることかしら?」

「……清隆くんもうさ耳似合うよ」

「いや、オレは似合わなくていいんだ」

 

 

「話を戻すけど、ここから察するにこのグループ分けに法則があるのかしら? 似通った成績ってわけでもなさそうね」

「これは確実に竜は意図的に組まれているな」

「優待者ってグループを決めてから選んだのかな? 選んだ後に調整が効くようにグループを組んだのかな?とりあえず優待者は1クラス3人だから……」

「待って学校側は一言もそんなこと言ってなかったわ? 優待者の人数が平等なんてことはわからないわよ?」

「だって真嶋先生が学校が公平性に期し、厳正に調整してるって言ってたよ? そこは確かじゃないかな、まぁ今から優待者の発表後、個人から連絡が来るだろうから3人出てくれば確実だね」

 

 そのとき一斉に端末が鳴る。3人はすぐに携帯を見せ合う。そして杏樹の携帯には優待者に選ばれたと書かれていた。

 

「で、杏樹は何を目指すの?」

 

 あまりにも無用心な会話に杏樹は紙にウサギで有名なあのお口がバッテンのキャラクターを描く。それでは伝わらなかったようなので、仕方なく携帯に文字を打ち込む。

『壁に耳あり障子にメアリー』

 ようやく納得したようなので杏樹も話を再開する。

 

 メニュー表を3人で見ながら会話を行う。ちょうどいいメニューがここブルーオーシャンでは注文できるのだ。

 

「もちろんクワトロ (裏切りをだす)ピザ(結果)かな?」

クワトロ (結果4)ダブル(結果2)シングル(結果1)の方が安い(簡単)んじゃないかしら?」

「だってクワトロピザ(結果4)が一番お得そうじゃん」

「綾小路くんは、何派かしら?」

「杏樹がクワトロがいいならクワトロピザでいいんじゃないか?」

 

 決してピザの話をしているわけではないのはみんなわかっている。堀北がこの類の冗談に乗ってくるのは珍しいが誰が聞き耳を立てているかわからないと言われれば、このふざけた会話に乗るしかない。非常に不本意そうだが。

 

 結局ピザは注文せず、おかわりのアイスティーを注文した。

 

 話は移り変わり堀北所属の竜グループの話になる。

 

「ーーーー参考までに聞くわ。あなた達がもし私と同じ班だった場合一番警戒すべき相手は誰だと思う?」

「杏樹、それか龍園」

「ねぇ清隆くん怒るよ?」

「杏樹それは後でにして。それよりどうして? 葛城くんは?」

「葛城は高校一年生にしては優秀だが所謂正攻法を好む人間だ、だからこそより警戒するのは龍園の方だろう」

「葛木くんはもっと筋肉に訴えるタイプだと思ってたけど修行僧タイプだったね〜龍え…っ()()()行きたいね〜」

 

 杏樹は今話題の人が目に入り無理やり話を変える。

 

「何言ってるの急に」

「あぁ流石にいろんな施設が揃っていると言っても学校内に()()()はないな」

 

 綾小路も気づいたのか話を合わせる。1人置いていかれた堀北はこの人たちは今度は何を考えてるの? とイラついていたが、その数秒後に納得した。

 

 

「いい天気だな鈴音、今日は金魚のフン以外にもう一人いんだな、朝飯か?」

「気安く名前で呼ばないでって言わなかったかしら? 伊吹さんも猫かぶるのやめたからってあっさり行動を共にするのね」

「……」

「メールは届いたと思うが、結果はどうだったんだ? 優待者にはなれたか?」

「教えるわけないでしょう。それとも、聞けばあなたは教えてくれたのかしら?」

「お望みとあればな」

 

 龍園が空いている席に背もたれを前にして座る。

 

「だがその前に聞かせてくれよ、どうやって無人島の試験あの結果が出せた?」

「何を聞かれてもあなたに教えることは何もないわ」

 

 揺さぶりに動じる様子もなく冷静にあしらう。大した演技力だ。

 

「どうにもしっくりこないんだよーー」

 

 

 堀北と龍園が何やら真面目な話をしている中、杏樹と綾小路は遊園地の話を続ける。

 

「アトラクションの中でなにが1番好き?」

「無難にジェットコースターかな、杏樹は?」

「わたしはコーヒーカップが面白いと思うの、円軌……アトラクションの中で自分で動かせる数少ないものらしいから」

「(塩基ってなんだ?)杏樹なら酔うから苦手とか言うと思ったが」

 

 2人とも行った記憶のない遊園地について、情報として知り得る知識を総動員し、かつただの学生の雑談らしい着眼点を意識して話している。ここで円軌道がとか言い始めたら途端に普通の会話ではなくなってしまうだろう。そこらへんの常識は杏樹も持ち合わせている。

 

 その姿は2人の事情を知っているものからすれば滑稽以外なにものでもない。龍園は2人の思惑通りか、堀北との会話に集中している。このままフェードアウト希望だ。

 

 

「昨日の集まりの様子だと、葛城は随分とお前を警戒している様子だな、鈴音」

「無理もないわ。彼はDクラスの私にそれだけの力があると思っていなかったから。それはあなたや伊吹さんも同じでしょう?」

「クク、まぁ否定はしない。俺は他の誰かが噛んでいると睨んでるんだがな」

「どう想像するのも勝手だけど何か根拠でもあるのかしら?」

「無人島での試験。種がわかってしまえば難しいものじゃない。だがお前みたいな真面目ちゃんタイプが思いつく策略じゃない、だろ?」

 

「わたしが立てた策略がどんなものかわかっているのかしら? どんなふうにポイントを得て、失ったか。詳細は不明だったはずよ」

「試験終了時、俺はお前の名前を書いたが結果は違っていた。試験終了前にリーダーが別の誰かに変わっていたってことだ」

「それで看破したつもり? そんなことは少し考えれば誰でもわかることよ」

 

「葛城はすべてお前の企んだものだと考えている。だが、俺の読みじゃお前がリーダーになったことも、リタイアしたことも想定外だったはずだ。初手に打つ策略じゃないんだよ」

「保険を打ったとは考えられないの?」

「肝心なのはリーダーを入れ替えたのが誰だったのかだ、お前に指示を出してた奴がいたんじゃないか?」

「よく理解できないわね。生憎わたしには満足な友達はいないわ? 強いて言うなら目の前にいる二人よ」

「リーダーを変えたと仮定するならこの二人のどちらかが濃厚かしら? 一人は伊吹さんの作戦に巻き込まれた被害者だけど」

 

 フェードアウト作戦はまさかの味方の話題振りのせいで潰されてしまった。表情はいつも通りだが、今の杏樹の内心は『スズネ……ホリキタ……この裏切りもんがあああああああっ!』である。

 

「なるほどな、ま、さすがに金魚のフンがやったってことはないだろうが……それより、お前いいツラしてんじゃねぇか。名前は?」

「烏間杏樹」

 

 もう生贄になる覚悟はできた。どうせ餌食になるなら役立つ生贄になってやる。杏樹は龍園から一番自分が綺麗で、そして色っぽく見える角度に調整する。彼みたいなタイプは子どもらしい可愛いよりも綺麗な女の方に惹かれるタイプだと判断した。

 

「今ならそんな冴えない堀北の金魚のフンじゃなくて俺の女にしてやるよ、どうだ?」

「んー、わたし一途な人の方が好きなの。だからその彼女がいる人とは……ね?」

 

 杏樹は伊吹をチラッと見て言う。

 

「こいつは俺の駒なだけだ、もしお前が俺の女になったらいい思いさせてやれる上にこいつを顎で使えるぞ?」

 

 ひどい顔で伊吹が杏樹と龍園を見比べている。それに続くくらい訝しげな顔で堀北が、ほぼ無表情の綾小路も目線を左右させている。

 

「その話はこの人達がいないところでしたいかな、どう? 今日の1回目の話し合いの後とか?」

「わかった、俺の連絡先だ。集合場所は俺の部屋でもいいか?」

「それもいいけど、最初はロマンチックなとこが良いかな?」

「はっ、じゃあ場所も含めて連絡しよう」

 

 杏樹と龍園の話はひと段落?し、また龍園の関心は堀北に戻る。杏樹は携帯をいじり、龍園の連絡先を登録しておく。

 

「いいことを教えてやる、Dクラスにはお前以外にも頭のキレる奴がいる、間違いなくな」

「全然いい事じゃないわね、実にどうでもいいことよ。勝手に結論を出しているのなら、いちいち私に聞かなくてもよかったんじゃない?」

「話をする事で見えてくる事もあるんだよ。ともかくお前とよかったぜ鈴音、これはゲームだ、すぐ裏で動いた奴を突き止めてやる。この金魚のフンも杏樹も含めて全員が対象だ」

「ひとつ聞かせて、どうしてそんなにDクラスに執着するの? 他にも気にする相手はいるでしょ?」

「すでに葛城や一之瀬は俺の敵じゃない。潰そうと思えばいつでも潰せるって事だ」

 

「だったら坂柳はどうなのさ?」

 

 そう言ったのは、堀北ではなく伊吹だった。

 

「あの女は最後のご馳走、今食うにはもったいないってだけだ」

 

「帆波ちゃんに澪ちゃんに鈴音ちゃんに、坂柳? さん、それに葛城? さん? そんなにたくさんの女の子のことが気になってる人と話すことはないかな、やっぱさっきの話はお断りで」

「はっ、そう言うなよ、杏樹。今一番興味があるのはお前なんだ。それに葛城は男だ。気色悪いこと言うなよ」

 

 杏樹の顎を引き上げ、そらしていた顔を無理やり合わせられる。

 

「そういうのは他の場所でやってくれないかしら、不愉快だわ」

 

 堀北は潰れたゴキブリでも見たかのような顔をしている。

 

「せっかく惚れた女を口説くチャンスに他のやつなんか気にしてる余裕はないんだ、悪いな鈴音。で、どうだ杏樹?返事は?」

 

 杏樹は自分の顎に置かれている龍園の大きな手を優しく包み込み、顎から外させる。ただ上目遣いは変わらずキープしながら。

 

「一回だけ、まずお試しってことでどう?」

「上出来だ、じゃまたな。いくぞ伊吹」

 

 龍園は上機嫌で、伊吹は摩訶不思議な気持ち悪いものを見てしまったみたいな顔をしながら去っていった。

 

 

 龍園と伊吹が見えなくなった後、杏樹と綾小路は同時に深い息を吐いた。

 

「鈴音ちゃん、部屋を出る時は右を見て左を見て手を上げて出た?」

「それは信号のルールでしょ? 突然何よ」

「堀北、お前見張られてるんじゃないか? タイミングが良すぎる」

「それは伊吹さんにってこと? でも部屋の入り口を見張ってたってことは気の遠くなる作業よ。私は滅多に外に出ないから」

「偶然ならいいが。ミスったな」

「はー」

「杏樹あれはどう言うこと? あんな奴と二人で会う約束なんて、危険よ!」

「んー、一回もちゃんと話したことないからわからないけど……かっこいいじゃない?」

「あなた、本気で言ってるの?!彼と何かあったら自分が痛い目あうだけじゃ済まないのよ? 伊吹さんに下着を盗まれたのは間接的にあの人のせいなのよ! わかってるの?」

「でも話してみたら意外と優しいかもしれないじゃない? ()()()()には」

「その惚れたってのも怪しいわ、今の流れ的にあなたを疑ってるんじゃない? 綾小路くんも何か言ってあげて」

「何かありそうだったら警察かオレを呼んでくれ、オレを呼んだ場合身代わりくらいにはなってやる」

「そこは助けてよ、えっ、身代わり……?」

 

「……オレはまだ眠いから部屋に戻ることにする」

「そうね、今のところ、話し合いをすることで進展はなさそうだし、個別に進めていくしかないわね。それじゃお疲れ様。進捗があったら報告をお願い、杏樹も何かあったら言うのよ、というかあなたの感性が信じられないわ、あんな下品な男の何がいいのかしら」

「お疲れ〜」

 

 堀北は()()()()()()には疎いのだろうか。まぁ杏樹が慣れすぎているのかもしれないが。杏樹の言動を本気と捉えているようだ。

 




あけましておめでとうございます。
色々な方からこのSSについてアドバイスをいただけて本当に感謝です。
今後も精進して参ります。
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