さっさと歩いて行った堀北に置いていかれる二人の構図はもうおなじみだ。
二人で歩いて客室まで行こうとした時、杏樹が『あっ』とそこそこ大きな声を出す。そしてガンッという音。
「どうした?」
綾小路が後ろを振りかえるとバキバキになったスマホを拾う杏樹がいた。
「眠いところ悪いんだけど、携帯ショップに付き合ってくれない?」
「……ふっ、あぁ行こうか」
綾小路はうっすらと笑い、割れたスマホを杏樹の手から取り上げた。
「割れたものは危ないから、オレが持ってるよ」
「ありがと」
杏樹もスマホを落とした人とは思えないほどニコニコしながら感謝を示した。
スマホの画面修理の
待っているか、取りに来るかと聞かれたので待っていることにした。ソファに案内されて、ここで待っているように言われる。ここは店内がすぐ見渡せる上に、お客様のプライバシーを守るためか防音用のガラスが貼ってある。話合いの場としては適しているかもしれない。
「今から清隆くんが優待者だよ、よろしくね」
「あぁ、バレないように幸村くらいと相談しようかと考えている」
「それがいいかな、恵ちゃんよりもいい反応をしてくれそうだし」
「それよりも、本気で龍園のことが気になってるのか?」
「そうなら清隆くんはどうするって言うの? ……ねぇ怖いんだけど清隆くん」
「裏切るなら杏樹だろうが容赦しないぞ」
先ほど龍園にされた同じ体勢、つまり顎を掴まれる。
「裏切る?」
杏樹からしたらそのつもりは更々ないが、ここで綾小路の地雷を確かめておくのも大切だと判断し、とぼけたふりをする。すると、やはり、いや思っていたよりも綾小路の何かに触れたらしい。いつぞやの瞳で見つめられる。
今回は前回より至近距離だ。
もし杏樹が
綾小路の脅しはトラウマ級である。
「お前はオレのために動き、オレはお前のために動いてきた。それは龍園についた時点で解消だ。そして解消した後はオレの過去を少しでも知ってるお前はオレの危険因子でしかない。つまり、オレは全力でお前を潰す、全てを使って……な」
「……」
「お前が俺を隠蓑にしてることはわかっている。手始めにそれをクラスメイトにバラそうか?」
「……」
「それとも、体の方がいいか? 俺がお前を抑え込んで犯すこともできるぞ?」
「……」
「だんまりか。どうなんだ? オレにつくか、龍園につくか。それくらい答えられるだろ?」
「清隆くんにつくよ。もちろん。損得で考えてもそうだし、せっかくの友達1号をここで失うって惜しいと思わない?」
「はぁ……そうだな、オレとしても今杏樹が敵になるのは避けたい。ただでさえ面倒な状況が二重三重と重なってる中で杏樹が敵になるのは痛手だからな」
「わたしって有能でしょ?」
「それは認める、そんな杏樹に一つ頼みがあるんだが」
「何?」
「今回の試験で龍園の懐にはいれ。二重スパイだ。できるだろ?」
「え、ベンゾジアゼピン受容体作動薬用意しようか?」
※ちなみにベンゾジアゼピン受容体作動薬は情緒を安定させるのに役立つお薬の一種だ
「生憎、オレは大真面目だ。元々そのつもりだろ?」
「そうだから別にいいけど……5分前まで龍園につくな的なこと言ったばっかりじゃん」
「杏樹の気持ちをしっかり確認しておかないままスパイなんて頼んで裏切られたらこっちの被害が甚大だからな、保険だ」
そう言って取り出したのはボイスレコーダー。
「うわぁ、鬼畜だこの人」
「なんとでも言ってくれ、ただお前も人のこと言えないだろ?」
杏樹のカーディガンの内側を漁る。
「ちょっ、き、清隆くん!?」
「ほら、お前もオレと同じだ」
確かに、常時ボイスレコーダーは持ってるはいるが、女の子の服を弄るなんて破廉恥だぞと言いたかった。ただ、杏樹には綾小路の服をめくるという前科があるので強く出れない。
「待って! それは濡れ衣! 今は電源入れてない!」
「入れるべき相手を間違えなかったことは褒めてやろう」
「心配性だなぁ、わたしは清隆くんに一途だって前から言ってるじゃん」
「それは態度で示してくれ」
「それをして困るのは清隆くんでしょ。毎日『清隆くんって本当に頭もよくって、スポーツも得意で、こないだなんてリーダー当ての功績全部鈴音ちゃんに譲ったんだって?! 本当に紳士だね』とか言ってあげようか?」
「やめてくれ。オレが悪かった」
「はーい」
綾小路side
龍園が杏樹に興味を持ったのはオレにとって都合が良かった。堀北では龍園と戦うにはまだ足りない。だからと言って今龍園がDクラスを疑っている以上、オレが動くわけにはいかない。ここで杏樹を動かしたいというのは少し前から考えてはいた。
そして、今日。龍園と杏樹の初めての会話。
龍園は杏樹をとりあえず気に入ったらしい、それが本気なのか、罠なのかは判断がつかないが。まぁ7割罠だろう。それに杏樹が自らかかりに行った。
杏樹はその可能性があることに気づかない人間ではない。彼女なりに考えてのあの行動だろう。
ただ、彼女は何を考えた?
彼女の行動は本当にオレのためになるものか?
疑問が湧き出てくる。
今回のサバイバル試験では杏樹は大きな成果を見せてくれた。それで、少々手放しにオレのために動いてくれると信用し過ぎているしれない。
人間は変化する生き物、味方だった者が次会った時には敵になっているなどよくある話だ。
今、彼女が本心では裏切っていたとしても、Cクラスのスパイをしてます何か? なんて態度をとられたらオレは見抜けるか、まだわからない。それに気づいた時にはもう既に手遅れだった場合、オレの計画が破綻するだけでなく、オレ自身も危険に晒される。それは何をしてでも避けなければならない。彼女がオレを裏切らない保証が欲しい。
ただ、いつそれを確認するか。どうやって確認するか。どちらにしろ、オレの過去を知らない堀北の前では話せない話だ。ここは一回解散して、二人きりになれる時間を作ろう。そう考えて一度部屋に戻るという発言をした。堀北は杏樹にいろいろ言っていたが当の本人が何処吹く風なので諦めて去っていた。
そしてオレも堀北に続き席を立って歩き始めようと一歩前に足を出した時後ろから何かが起こった音がした。
振り返って音の原因を見ると、杏樹の携帯の画面が雲の巣になっている。
「眠いところ悪いんだけど、携帯ショップに付き合ってくれない?」
この言葉で杏樹が何を示唆しているのかがわかった。つまり、やはり杏樹はオレと同じこの試験の攻略法を見つけていたということだ。
思わず微笑が溢れる。こんなにも、オレと思考が同じなのかと。やっぱり杏樹を手放したくない、オレの手元に置いておきたい。そう再認識させられる行動だった。
携帯ショップで杏樹の画面の修理のついでにSIMロック解除をお願いする。須藤の点数を10万で買わなかったのは大きかった。その分ポイントにまだ余裕がある。
待っている間、オレは先ほどの保証を作るのに今が丁度いいのでは、と杏樹が優待者の話をしている間に持っていたボイスレコーダーを片手で起動させた。杏樹が気付いている様子はない。
そして、オレは杏樹に尋ねた。今回の龍園のことはどういうことか、と。杏樹はその質問に対してはぐらかそうとする。
まぁ、もしスパイをやるとしても裏切るなら味方から。杏樹ならそうするだろうからこの返答だけでは判断できない。
ただ、ここで杏樹にオレにつくと言ってもらわないといけない。
そこで、オレは詰め寄った。
杏樹の表情は笑顔を保っているものの、目には感情は一切浮かばない。杏樹は確かに闇を持っているはず、闇は互いを惹き付ける。俺は彼女に惹かれた、それが証拠だ。
深い闇を持つ者が、相手の闇を包み込んでいく。
はずだった。
だが、杏樹は墜ちない。俺がいろいろカマをかけても思った反応が返ってこない。人は動揺すればボロを出す。つまり、今杏樹は一切動揺していない、または動揺を隠すスキルを持っているということだ。
杏樹の闇はなんだ?
俺よりも深い闇を持っているとでも言うのか?
やっぱり彼女は強かった。その数多くの脅しに屈することはなく、ただいつも通り自分の意見をのべた。そしてその意見は入学当初から一貫として変わらず、嘘をついている様子も特になかった。
杏樹は強い男が好きだと言っていた。俺が龍園より強ければ自然とついてきてくれるだろう。
態度を緩めオレが徐々にいつもの雰囲気に戻ったのを感じたのか、杏樹もいつものふざけた感じに戻る。一応ボイスレコーダーに録音した事を伝え釘を刺す。
これで裏切りが起こらないとは思っていない。少しの証拠とオレのスタンスを杏樹に伝えることがこの場において重要なのだから。あとは彼女についてだが……彼女の闇を探るのはもう少し先でいいだろう。
毎日投稿は3日までです。
毎日追ってくださってる方ありがとうございます。
なぜか字下げが起こらないところが2箇所ほど……。対処法が分からず直せません( ; ; )