Common life 日常的非日常   作:Dangelo

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No,4.6

「はぁ、杏樹がいて良かった。これで杏樹もいなかったらふつーに耐えられないもんこんなグループ」

「おんなじグループで良かったね〜」

 

 杏樹と軽井沢はまたしても時間ギリギリに部屋に到着した。ただ今回は走っていないから上出来だ。杏樹的にとっていい女は遅れて登場してくるものらしい。まぁただの言い訳だ。原因は軽井沢とお互いにメイクをして遊んでいたら思ったよりも盛り上がってしまい時計を見たら集合15分前だっただけだ。たいそうな理由でもない。慌てて顔面を仕上げ、髪を整えたものの結局2分前行動となってしまったのだ。

 

 船内アナウンスが流れ始めた。

 

『ではこれより第一回グループディスカッションを開始してください』

 

 当然、状況も周りのメンバーもよくわからないグループ内では誰も率先して話そうとはしない。いきなり静かで嫌な重たい空気が流れ出す。ただその中でその様子を一之瀬は小さく微笑みながら見守っていた。そして誰も発言しないことをしっかりと確認した後立ち上がる。

 

「はいちゅーもーく!大体の名前はわかってるけど、一応学校からの指示もあったことだし、自己紹介をした方がいいと思うな。初めて顔を合わせる人もいるかもしれないし」

「今更自己紹介の必要なんてあるのか?学校側も本気で言ったとは思えない。自己紹介をしたいやつだけすればいいんじゃないか?」

 

 杏樹としてはなんとしてでも自己紹介をして貰わなければならない。そこでてこでも譲らなそうな町田に杏樹が声をかける。

 

「あの、これは実際にあった企業研修を参考にして作った試験だったよね? その時自己紹介しない人って……即使えない人って思われちゃわないかな? わたし、君がそう言う類の人だとは思えないんだけど……どうかな? 自己紹介だけでも参加してほしいなぁ……えっと」

「町田だ、町田浩二だ。これでいいか?」

「よろしくね浩二くん」

 

 それから一之瀬が続き時計回りでの自己紹介が始まった。

 

 そう()()()()自己紹介が。最初の説明会の時、杏樹は自己紹介を勧める学校に妙な感じがし質問をした。クラスでの自己紹介は自主的なものをやったが、学校に勧められることなんて一切なかった。平田が開催しなければあのまま自己紹介なく今まで過ごしてきただろう。なのに今回は即席のグループ。自己紹介をする意味を感じさせない試験内容。しかも名前だけは確実に言うようにという指示。違和感の原因は多分これだろう。これは『名前』がキーワードに違いない、そのような思考に至った。

 

 まぁただ単に学校側が仲良くなる助言として言っただけの可能性も否定はできない。ただ、そんなに自ら選択肢を無駄に広げていく必要はない。『名前』と言う条件が全ての優待者に当てはまてば、他の可能性があろうとそれは正解なのだから。

 

 一人一人自己紹介をしているのを杏樹は携帯にメモしていく。今時は携帯でメモを取ることが社会的にOKの風潮になってきているらしい、ありがたい。

 

「じゃぁ最後杏樹ちゃん自己紹介お願い」

「烏間杏樹、下の名前で呼んでね。よろしく」

 

「さてと、これで学校からの言いつけは果たせたかな? それでこれからのことだけど、どうやって進めていこっか? 私が進行役をするのが嫌だったら言ってもらえる?」

「帆波ちゃんが司会でいいと思うよ〜」

 

 杏樹は自己紹介が終わったことで、もうこの話し合いに興味があまり残っていなかった。司会の役目を一之瀬に押し付け杏樹は龍園とのデートでどうしようか、何を話て何を話さないべきかを思案して時間を過ごしていた。スマホで何度もメールをチェックし、『デートで気をつけるべき7つの法則』『俺様男子に好かれる女性の性格10選』なんてのまで読んでいる。まさか自分にも真面目に意見を求められるとは思わずに。

 

 杏樹が携帯に夢中で周囲の状況に気付いていないことに軽井沢が気付いて肩を叩く。正確には気づかないフリをしていたのだが、そんなことはどうでもいいか。

 

「杏樹聞かれてるよ?」

「えっあ、ごめん。この後の約束がちょっと気になってて? 聞いてなかった、なんて言ってたの?」

 

 取り繕うように顔を赤らめ、はにかんでそう尋ねるその姿に一部の男子は息をのんだ。一方女子は白い目で杏樹を見る。特に伊吹からしてみれば、龍園と会うことに浮かれてるとしか思えない態度だ、こいつ馬鹿なのか? と内心白けた目で杏樹を見ている。

 

 軽井沢はこの雰囲気を一刻もどうにかするために、ため息をついた後今の状況を説明してあげる。

 

「なんか、一之瀬さん的には結果1? がいいんだけど、それだと優待者が炙り出されるからAクラスは黙秘するって感じ。で、今は杏樹はどうする? って聞かれてる」

「えっ? わたしはいっぱいポイントがもらえるのがいいな」

 

「決まりだな、誰も具体的な方法は思いつかないようだ」

「待って、町田くん。葛城くんの案は確かに悪くない作戦だよ。誰も疑わず嘘をつかず、傷つけ合う必要がない。そして全クラスの結果的には平等にポイントも手に入る。多くの人が納得する理由もわかるよ。でもよく考えて見て、この作戦ってAクラスだからこそ提案できると思うんだよね。卒業までにこう言う試験は後何回あるのかな? そう考えると試験のたびに足並み揃えることって最終的なクラスの位置もずっと変わらないってことだよね?」

 

 一之瀬の言葉に幸村は今までどうしてそんな単純なことに自分は気づかなかったんだと言う顔をしている。町田の言葉巧みな誘導が皆を損得のみで判断するよう運んでいたのだ。ただ一之瀬にそう言われて黙っているはずもなく、町田は反論する。

 

「待て一之瀬。言いたいことはわかったが、それだと望める結果は結局一つしかないぞ。全員で正解したとしても、このグループ全員が均等に大金を手に入れるだけ。お前の望む展開にはならない。それとも話し合って優待者を見つけ出して裏切るつもりか? お前は先ほど結果1を目指すと言っていた。信用ならないな」

「差が詰まることはないって言ったけど、このグループはCとDが4人ずつ、AとBが3人。つまり上位クラスと下位クラスの差を縮められることはできるんじゃない?」

「確かにな、それを上位のBが許すのか?」

「そうしないとAクラスに逃げ切られちゃうかもしれないからね」

「先に言っておくが、既にAクラスは話し合いには応じないことだけは覚えておけ。お前たちが結束して話すなら好きにすればいい」

 

「さーてと、どうしたものかな。除け者にするのは避けたいけど、クラスの方針じゃ仕方ないね。あ、でも話し合いに参加したくなったら言ってね!」

「Aクラス不参加で優待者を見つけるのは無理なんじゃないか」

 

 状況の変化に焦った幸村が問い詰めるように一之瀬に文句を言う。幸村としても勢いを掴みつつあるDクラスが割りを食うのは避けたいのだ。

 

「もしAクラスに優待者がいるなら個人に絞るまでは簡単じゃないかもね。でも、単純に確率で言えば4分の3こっちにいることになるよ。それに誰かまでわからなくてもどこにいるかわかればやりようはあるんじゃない?」

「彼らが話し合いを拒否したから隠さず言うけど、もしこの3クラスの中に優待者がいるのなら、私は最悪隠し通してもいいと思ってる。だけどAクラスに優待者がいるのであれば、それを突き止めた上でどうするべきか考えていきたいと思ってる」

「……信用できないな」

 

それを拒否したのは幸村。それから真鍋にも拒絶の意思が見て取れた。

 

「もしAクラスの中に優待者がいたとしても本当に特定できるの?」

「今はまだ、そこまで先のことを考える必要はないんじゃないかな? まずは優待者がどこにいるのかを絞り込んでいくことそのものが大切だと思うんだよね。この話は、今私がこの場で考えたこと、対話を続けていけばこれから先もっといいアイデアだって出ると思うんだよね。だって試験は始まったばかりなんだから」

 

 この会話の中で杏樹はほとんど何も話さなかった。所謂様子見ってやつだ。この場で積極的に動いて注目を集めてしまうよりは、いまいちこの試験に積極的に参加する理由が見出せない、だって優待者じゃないし、みたいな様子を見せておく。とうとう話は止まってしまい各自時間まで好きに過ごすことになった。すると、Cクラスのメンバーが軽井沢のほうに近づいて声をかけている。

 

「ねぇ軽井沢さんだっけ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「何」

「私の勘違いじゃなかったらなんだけど……もしかして夏休み前にリカともめた?」

「は? 何それ、リカって誰よ」

「私たちと同じクラスの子でメガネかけてるんだけど。覚えてない?」

「知らない、別人でしょ」

「おかしくない? 私たち確かに聞いたんだよね。Dクラスの軽井沢って子に意地悪されたって、カフェで順番待ちしてたら割り込まれて突き飛ばされたって聞いたんだけど」

「……知らないし、って言うかなんかあたしに文句あるわけ?」

「別に確認してるだけ。その話が本当なら謝って欲しいの。リカって自分で全部抱えちゃうタイプだからさ、私たちがなんとかしてあげないといけないから。リカに確認してもらうけどいい? いいよね、軽井沢さんじゃないなら問題ないでしょ」

 

 その時、軽井沢は突如顔をあげて真鍋の持つ携帯を払い除けた。その勢いは思ったより強く、宙を放物線軌道をしながら杏樹の方に飛んできた。キャッチするには勢いがありすぎるので杏樹は咄嗟のことに手で顔を守る。ここで払い除けたりしたら食事中にフォークを投げてゴキブリを殺すようなもの、つまりやばいヤツだと警戒されてしまう。ただいくら待っても衝撃が走ることはなかった。隣にいた綾小路がその携帯を見事キャッチしてくれたようだ。すごい手の大きさ。

 

「あれ? 痛くない……あぁ清隆くんありがと」

「あぁ」

 

 綾小路はキャッチした携帯をそっと真鍋の近くの机に置いた。

 

「何すんのよ!」

「それはこっちのセリフ、勝手にあたしを撮らないで。別人だって言ってるでしょ」

 

 ヒートアップしている会話を後ろに杏樹は席を立ち伊吹に話しかける。

 

「ねぇ澪ちゃん、龍園くんの好きなことって何かな?趣味とか特技とか、血液型とかでもいいし何か知ってることない?」

「は? 私あいつと仲良くないから」

 

お前この状況でそれを聞くか? みたいな顔で見られるがそれも想定内だ、恋愛に関してはアホなキャラの方が得をする。ちなみに調査は少女漫画だ。

 

「とにかく撮らせてもらうんだから」

「嫌だってば! ねぇ……この子になんか言ってあげてよ」

 

 軽井沢は町田にすり寄って助けを求めた。

 

「無断で写真を撮るなんて許せないんだけど、町田くんはどう思う?」

「……そうだな、真鍋。軽井沢が嫌がってるんだからやめてやれ」

「ま、町田君には関係ないでしょ」

「今の話を聞く限り、悪いのは真鍋のように思える。軽井沢が知らないと言ってるんだから決めつけることはできないだろう。友達に再確認したほうがいいな」

「ありがとう町田くん」

 

 尊敬の念を込めた目で町田を上目遣いで見る軽井沢。試験ではグループのメンバーと距離をおくAクラスだったが、まんざらでもない様子だった。竹本たちは少し面白くなさそうだったが。まぁさっきから町田ばかりおいしい思いをしているのだ。一之瀬と杏樹に話しかけられ、軽井沢に助けを求められる。望遠鏡で彼の様子を見たらハーレムだろう。

 

「当たり前のことをしただけだ」

 

 そう照れ臭そうに町田は答えていた。

 

 一時間が経過してアナウンスが流れたところで解散になった。杏樹は一番最初に立ちあがった。

 

「じゃぁ明日もよろしく、バイバイ」

 

 小走りで時計を見ながら扉に向かう。もちろん彼に会いにいくために。




毎日しおりが進んでいくのを見るのが楽しかったです。
読者様がいたから毎日投稿を続けることができましたありがとうございます。
お気に入り、しおり、感想、評価、全てがわたしのモチベです。
今後もエタらないようせめて二人がくっつくまでは時間がかかっても書き続けます。
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