綾小路side
Aクラスは2回目の集まりでも話し合いには一切参加しなかった。当然、1クラスが欠けた状態で腹を割った話などできるはずもなく、時間だけが容赦無く過ぎ去っていく。これがもしただの人狼ゲームだったなら占い師や霊媒師などお助けメンバーがいながら人狼を探していくし、毎日一人吊ることで選択肢を狭めていくことができるのだが。この試験はそういう類の手段が一切ないのだから仕方がない。
「とりあえず、こうして集まるのも2回目だしそろそろ打ち解けあっていく必要があるんじゃないかな? 集まる回数も限られてるしね」
やはり今回も最初に動いたのは一之瀬だった。さすがは平和を望むBクラス。それは浜口ともう一人の生徒も全く同じだ。ぶれることなく共同戦線を打ち出す。
「打ち解け合うことは必要ないと思うが、話し合いが必要なことには賛同する。Aクラスは勝手に試験から降りたつもりかも知れないが、Dとしては優待者を突き止めたいからな」
「でも話し合いなんかで答えが見えてくるわけ? 意味ないでしょ」
「わたしも恵ちゃんに賛成。この時点で自分が優待者です! なんて言い始めたら逆に怪しいもん。それに疑われながら話すのって疲れちゃうし」
「そんな話し合いとか堅苦しく考えなくていいよ。友達同士の雑談って思ったら楽しいんじゃないかな? 優待者がわかったらラッキーくらいに思えば気楽に過ごせるんじゃない? 町田くんたちみたいに殻に閉じこもっちゃったらこの時間のせいでせっかくの楽しい思い出が打ち消されちゃうと思うんだけどなぁ」
「一之瀬達が楽しむのは勝手だが、目的の優待者を見つけるってのは不可能だろう。もし優待者が仲間にさえ黙っていたらどうする? その二人を信じられるのか?」
「それは町田くんにも言えるんじゃないかな?」
町田と一之瀬が言い争っている間も軽井沢はずっと携帯をいじっていた。まぁ杏樹も隣で何かを読んでいるから、その行為自体には違和感はないが。
ただ、軽井沢に関してはやはり何かがいつもと違う。奇妙な違和感が続く。
いつもと違う軽井沢、真鍋たちのやりとり。
そしてその正体に気づく。どれも軽井沢
話に参加している最中は軽井沢もそこそこ目立つが、それも話を終えるとすぐ沈下していく。このグループをカースト制度で表すなら杏樹より下なのは一之瀬との仲の良さの問題もあるだろうが、Cクラスの真鍋よりも低い位置にいる。これこそが違和感の正体。
Dクラスが上位に食い込むために必要なことは、今ポイントを増やすことよりも増やしていける体制を作ることだ。AやBに比べ、Dの結束力は格段に低い。そのため欠かせない存在となりそうなのが軽井沢恵、Dクラスの女子を統治する少女だ。
だからこそ今の態度が少し気がかりだ。もっと強気に場を支配すると思っていた。使える人材なのか使えない人材なのかを見極める必要がある。試験が短い分多少強引にでも藪を突いて見るべきかも知れないな。
軽井沢がカースト上位層をまとめ、そこから漏れた人を杏樹がサポートして引き上げる。この制度を確立すればDはより強くなるかも知れない。杏樹がそれに加担するかはわからないが。
2回目の集まりが終了し、オレは動き始める。
「ちょっといいか?」
オレの存在には気がついていたようだが、話しかけられるとは思っていなかったのか少し警戒した様子で真鍋が振り返る。
「軽井沢と話してた件あったよな。カフェで突き飛ばしたとか突き飛ばしてないとか」
「それがどうしたの」
「100%じゃないけど、軽井沢が別のクラスの女子と揉めてるの見たんだよ」
「それ……本当に?」
「たぶんな。その時の悪い空気っていうか、気まずい感じを覚えていたから一応伝えておこうと思ってな」
一度うやむやとなった軽井沢との固執事件を振り返させたところでオレはそそくさと元来た道を引き返す。実際そんなところを見たわけではないので話を続けたら嘘がバレてしまうからな。この火種で真鍋たちがアクションを起こしてくれることを期待しよう。なぜか大人しい軽井沢の反応が見たい。
この試験が始まってから杏樹と話す機会が極端に減った。龍園と近づいている今オレと話す事はバレる可能性があるのもそうだし、異性と一緒にいるところもあまり見られたくないだろうから仕方がないのだが。普通に友達と話せないのは寂しいものだ。
そうは言っても毎日送られてくる杏樹からの録音データを聞いているから、毎日杏樹の甘い声を聞いている。龍園の甘い言葉は正直いらないが。
この録音を聞いているせいでイヤホン生活を強いられているのも地味に苦痛だ。FBIやCIAが任務中ずっとインカムをつけていることに尊敬を覚える。こっちはいつ外耳炎になるかヒヤヒヤだ。これは安いイヤホンだからだろうか。もう少しいいものを買う必要があるかもしれない。
部屋に戻るともう0時近かった。ベッドに腰を下ろすと平田が声をかけてきた。
「お疲れ、綾小路くん。ずいぶん遅かったね」
「ちょっとな、ああそうだ、少し平田に聞きたいことがあるんだがいいか」「疲れていると思うんだけどもしよかったら話をしない?」
ほぼ同時にオレと平田の言葉が被った。
「うん? 僕に聞きたいことって何かな?」
「いや、先に平田の用件を聞こうか、オレのは後でもいいやつだから」
「幸村くんから相談があってね、試験の報告をしあおうってことになったんだよ」
「俺は綾小路を入れたって意味がないと言ったんだけどな」
「本当は高円寺くんも参加してくれると嬉しいんだけどね、断られてしまったんだ」
「すまないね、平田ボーイ。わたしは今肉体美の追求に忙しいのだよ」
「実は僕のところに2人優待者になったって連絡が来たんだ」
「なんだって? 一体誰なんだ?」
「それは、僕の口からは言えないよ。信頼して教えてもらっている話だし」
この2人というのは杏樹ではないことは確実だ。つまりオレはこれを知れればDクラスの優待者が全員わかるということだ。
「俺たちが信用できないっていうのか平田。お前も知っているなら俺にも知る権利がある」
「……そうだね、僕も相談したいとは思ってたんだ……実は」
「なぁ平田、一応携帯か何かに打ち込んだ方がいいんじゃないか?」
「そうだね」
撃ち込まれたのは竜グループ櫛田、馬グループ南
「なるほど」
よりによって櫛田か。杏樹から聞く限りCクラスと繋がっている可能性がある彼女がこの試験で絶対的な権利を得たとは……。まぁ試験終了後のことを考えれば大きな裏切り行為はできないだろう。そう信じたい。
「兎グループでも議題に上がったことだが、それぞれクラスに優待者は3人。つまり、Dクラスには3人いるはずだ。あと一人その正体を黙っている奴がいる」
ここで話してしまおう。
「あーちょっといいか?」
俺は携帯にメールの画面を出して、二人に見せる。
「おっおま……」
「そっかそうだったんだね」
「悪い、いつ言うのが正解かわからなくて言い出せなかった。一応堀北には言ってある」
高円寺が急に筋トレをやめたと思ったら携帯をいじり始めた。その瞬間通知音が3人の携帯に流れる。
「高円寺今の!?」
幸村が狼狽している。『猿グループの試験が終了いたしました』というメールが届いた。高円寺は猿グループ、つまり高円寺が裏切ったということだろう。
「こんなのは嘘つきを見つける簡単なクイズさ。君たちが面白そうなことをやっているから私も手伝ってあげようと思ってね。ノブレスオブリージュさっ」
そう言ってバスルームに姿を消して行った。幸村は『なんなんだあいつ』はみたいなことをぶつぶつと言っていたがもうどうにもできない事に時間を割いている暇はない。話を進めよう。
「あー話を戻すが、幸村よかったら携帯を交換してくれないか? 堀北からの指示なんだが、履歴を全部変えてパスワードも覚えておけと」
「なるほど、あぁ、わかった。つまり、俺がお前の代わりに優待者のふりをすればいいってことだな」
「そういうことだ、俺を守ってくれ」
幸村はこれで本気で演じてくれるだろう。
兎グループの方できる事はもうない、他クラスが動くのを待つのみ。後は軽井沢のことさえ片付ければいい。