Common life 日常的非日常   作:Dangelo

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No,4.13

 真夜中2時すぎ。軽井沢に杏樹は叩き起こされた。

 

「杏樹、今から平田くんとこ行くから起きて」

「……ん……5分で、いや10分で……支度するから待って」

 

 杏樹は大きく伸びをしてソファから立ち上がり顔を洗いに行く。

 

 本来ならこんな時間に目を覚ますことはないが、軽井沢のお願いで、しかも寝る前に伝えられていたのですんなり起きることができた。ベッドで寝たら絶対に起きれないだろうということでソファで座りながら寝ていたのだ。同室の子は不思議そうに見ていたが、軽井沢がここで寝ちゃったけど自分が寝る時に動かしとくといえば納得したのか各自自分の床についたのだった。軽井沢が ベッドに一人で運べるかどうかは同室の子は考えることはなかったらしい。

 

 軽井沢と杏樹はこっそりと平田に会いに行くために部屋を抜け出した。

 

 

「……なんで綾小路くんと平田くんが一緒にいるわけ?」

「僕が呼んで一緒に来てもらったんだ」

「平田くんが? どうして? 3人で話そって話だったじゃん」

「うん、でも軽井沢さんが電話口で言ったことが気になってね。状況を知ってるらしい綾小路くんに来てもらった方がいいと思ったんだ。勝手なことしてごめん」

「状況なら杏樹がいるし……」

「電話で言ってた話だと杏樹さんも当事者だからね、中立の立場になるのは難しいんじゃないかな?」

「う……まぁそうかもしれないけど」

 

「で、今Cクラスの真鍋さんと揉めてるって聞いたけどそれは本当のこと?」

「本当だよ洋介くん」

 

 軽井沢の代わりに杏樹が答える。

 

「綾小路くんは軽井沢さん達が真鍋さんともめた話については把握してる?」

「それなりには」

 

「軽井沢さんが言うには彼女達に言いがかりをつけられたらしいんだ。それで人気のないところに連れて行かれて暴力を振るわれる寸前だったって聞いたんだけど」

「ああ。それは本当だ。むしろ軽井沢を庇う杏樹が蹴られていたのを見た、幸村も見てる」

「そっか……」

 

 少し考え込むような仕草を見せ平田は目を閉じた。

 

「もし真鍋さん達が一方的に暴力を振るったのならきちんと対応しなきゃいけない。友達同士で暴力沙汰なんて絶対に許さないからね」

 

「2人が一方的に酷い目に遭わされたそれであってるかな?」

「いや……」

 

 綾小路は見たままのことを伝える。

 

「なるほど、それで僕にあんなことを言ったんだね」

「あんなこと?」

「軽井沢さんは僕に真鍋さん達への仕返しをお願いしたいって言って来たんだ」

「なんで話しちゃうわけ……」

「軽井沢さんらしくないからだよ。暴力で解決したいなんて君らしくない」

「彼女が困ってるんだよ? 彼氏なら助けてくれるのが普通じゃない? それに綾小路くんも杏樹が一方的にやられたの見たでしょ? 悔しくないの?」

「もちろんそうだけど、目には目をの精神は僕にはない。知ってるよね? これから一緒に考えよう。どうすれば真鍋さん達と仲良くなれるか」

「無理だよ洋介くん。他人との揉め事まで巻き込んで自分の正当性を示してくる人と仲良くなるなんてできない」

 

 杏樹は基本軽井沢の味方だ。

 

「でもそれはもともと諸藤さんと揉めなかったらこんなことにならなかったんじゃないのかな?」

「だって……それは……仕方なかったんだって……篠原さん達がいたし」

「篠原がいたから仕方がない? どう言うことだ?」

「あんたは口出ししないで」

 

「お願いだから助けてよ……平田くんは私を守ってくれるんでしょ?」

「もちろん守るよ。だけど理不尽な理由で真鍋さんを傷つけることはできない。話し合うことでお互いが納得のいく結論を出すように誘導してみる」

「だから無理なんだってば! そんなことができるならもう杏樹と実行してる」

 

「理由がなんであれその期待には応えられないよ。僕にとって軽井沢さんも杏樹さんも大切なクラスメイトの一人だ。困っていれば助けるし、守るよ。だけどそのために他の誰かを傷つけることはできない。それがCクラスだったとしてもね」

「嘘つき! 守ってくれるって言ったのに!」

「嘘? 僕は最初から一貫して同じ態度でいるつもりだよ。最初に言ったよね? 僕らは本当の彼氏彼女じゃない。付き合うフリをするのは構わないけど、君一人に肩入れすることは絶対にないって」

「っ?! なんで? なんで今それを言うの!」

 

 杏樹はこの事実を入学当初から知っていたから、軽井沢が言っているのは綾小路のことだろう。

 

「そろそろ新しい選択肢が必要だと思ったからだよ。僕は君を助けたいんだ」

 

「あたしが、杏樹が、暴力振られてもいいってこと?」

「だから、そうは言ってないよ。杏樹さんが受けた暴力はきちんと責任はとってもらうし、これ以上軽井沢さんを困らせないでと言うつもりだ。不本意かもしれないけど軽井沢さんは謝ろうとしていたって伝えても構わない」

「洋介くんその手段は一番とっちゃダメなやつかな。真鍋さんは謝ろうが謝るまいが結局それだけじゃ満足しない。謝ったら下だと思われていじめられる可能性が上がる。そして恵ちゃんが下になることはDクラスの損失にもつながる。真鍋さんの一人勝ち。そう思わない?」

「そうなるかもしれないけれど……だとしたら僕に手伝えることはないよ。残念だけどね」

 

「もういい! 今日で関係は終わり!」

 

 軽井沢は持っていた缶ジュースを廊下に叩き落として走って行ってしまった。杏樹は追おうとするが、綾小路に手を掴まれる。

 

「ちょっ痛った!! 清隆くん! そこ! あざ!」

「あぁ悪い、さすがに湿布だけじゃまだ痛むか。鎮痛剤もらってこようか?」

「……いいよ、触らなければ痛くないから」

 

 杏樹は少し綾小路から離れる。それを綾小路は少し残念そうに見つめる。二人の空気感をかえようとかはわからないが再び平田が話し始めた。

 

「綾小路くん。僕には出来ることと出来ないことがある。だから今君がここにいることをわかってほしい」

「橋渡し以上のものを望んでいるみたいだけど随分勝手だな。全員の味方だろ?」

「そうだよ。僕は軽井沢さんの味方だし、杏樹さんの味方そして綾小路くんの味方だ。でも当たり前のことだけど相手によって態度を変えるよ。君はみんなが思うよりもずっとしっかりしてる」

「完全買いかぶりだな」

「本当にそうかな? これでも僕は相手の気持ちを読む自信がある。だから分かるんだ」

「まずはおまえと軽井沢の関係について改めて聞きたい。やっぱり付き合っていると言うのは建前で本当じゃなかったんだな」

「その言い方だと綾小路くんには見当がついてたってこと?」

「4ヶ月付き合ってお互い苗字よび。呼び方に関してはまだ杏樹と付き合ってると言ったほうが納得するだろ?」

「その通りだよ。僕らは付き合っていなかった。でも、互いに付き合うことが必要だと感じたから付き合った。この矛盾が理解できるかな」

 

「入学から三週間くらいで噂になって、そこから軽井沢の知名度が急上昇した。おまえは軽井沢の地位を手助けするために彼氏を演じたんだな」

 

 平田が微笑む。

 

「自分を守るためか」

「よくわかったね……今君からその言葉を聞いた時正直鳥肌が立ったよ」

「堀北から聞かされてただけだ。それに杏樹と一緒にいることが多いからそれとない話は耳にする」

「待って! わたし口軽くない! 信頼大切!」

「杏樹騒ぐな、誰か来たらオレらがまずい」

 

 杏樹は不貞腐れながら先ほど買った缶コーヒーをちびちび飲んでいた。飲み終わると手持ち無沙汰をどうにかしようと二人から離れトイレに行き清掃道具を運んで軽井沢が汚した床を磨き始めた。杏樹の奇行には慣れている二人はそのまま話を進めていく。

 

「綾小路くん。正直に言うと僕には君たちが……言葉は悪いけど少し気味が悪いと言うか、不気味な存在に見えるんだ。気を悪くしたらごめんね」

「不気味? どうしてそう思ったんだ?」

「入学してから君たちを見ていたけど、その時の二人と今の二人は別人だよ。出ている気配も喋る言葉も、全てが同一人物だとは思えない。特に君の変わり方は慣れて来たとかで説明がつかないくらい……ね」

「言っただろ。堀北の助言あればこそだ。オレ達のグループの情報は堀北に逐一伝えている。あいつからの指示で二人とも動いているだけだ。まぁ杏樹は軽井沢とは普通に仲がいいから今は軽井沢寄りだが。その分オレがカバーしている」

「堀北さんなら軽井沢さんを救うことがクラスの向上につながると判断したんだろうね」

「ああ」

「でも僕は綾小路くんもすごいと思ってるよ。池くんや山内くん達とは少し違う」

「オレはあの二人以下だぞ」

「堀北さんの命令で話してるんだとしても、今ここで僕と会話をしているのは綾小路くんだよね。あらかじめ指示できる内容でもない。それに君の話には明確なロジックが組み込まれている。一朝一夕でできるものじゃないよ」

「……」

「君が言ったことだけど、軽井沢さんの彼氏を引き受けたのは彼女のためだよ。彼女に頼まれたんだ。助けてほしいって。ちょっと想像できないかもしれないけど、軽井沢さんは小中と9年にわたってずっと酷いイジメをあってたんだ」

「疑うわけじゃないが、本当の話なのか?」

「もちろん僕が軽井沢さんに出会ったのはこの学校に入ってからだよ。でも僕には分かる。虐められてた人には特有の匂いと気配があるんだ。だから付き合うことを承諾した。軽井沢さんは僕の彼女と言う立場と何があっても裏切らない友達を得て過去から脱却したんだ。たぶん今の性格も本当の軽井沢さんの性格じゃないと思う。無理して強気に振る舞ってるんじゃないかな」

「だが待ってくれ。なんとなくわかったがお前にとってのメリットはなんだ?」

「メリット? いじめが起こらないことだよ」

 

「納得いかないかい?」

「そうじゃないが、そこには深い意味があるんだろ?」

 

「僕は中学2年生になるまでは目立たない生徒だったんだ。」

「平田が? ちょっと想像つかないな」

「僕には小さい頃から仲良しの幼なじみがいてね。中学生の時初めて別のクラスになったんだ。それでも最初は一緒に遊んでたんだけどだんだん数が減って来て、新しい友達とばかり遊ぶようになったんだ。でもね、その裏で彼はいじめに遭っていた。彼は何度もSOSを出していた。けど僕は本気で取り合わなかった。ある日僕はいじめの現場を見てしまった。僕は何もできなかった。今の環境が壊れるのが怖くて、ずっと見ぬふりをしてたのを責められるんじゃないかと思って。ある日サッカーの朝練の終わり、彼は顔がはれた状態で僕を待っていた。その時は正直居心地が悪かった。彼に関わると自分もなんて思いもあってね。そんな僕の醜いところを感じたんだろう。彼はその日の授業中窓から飛び降りたそうだ」

 

「飛び降りた……死んだってことか?」

「脳死って判断されたみたいだよ。今もご両親は彼の回復を祈ってる。その時初めて気づいたんだ、我が身かわいさで彼を死に追いやったんだって。これが彼の救いになるとは思っていない。だけど、せめてもの償いをしたい」

「お前の気持ちも分からなくないが、世の中そんなに単純じゃないだろ。今日もどこかで誰かが虐められていて、その彼みたいに自殺しようとしている。それを止めるのは不可能だ」

 

「もちろんわかっている。僕は正義のヒーローじゃない。だけど、せめて傍にいる人は助けたい。助けなくちゃいけない。それが罪を背負った僕の責任なんだ」

「なら今回のケースではどう判断すればいい?お前は軽井沢と真鍋、相反する二つを救おうとしている。けど、それは成り立たないものじゃないのか?」

「……矛盾してるのはわかっているよ。だから君がここにいるのかもしれないね」

 

「まさか、僕はこの話を誰かにするとは思わなかったよ。この事実を知る人がいないことも、この学校を選んだ理由だったりしたんだけどね」

「この一件堀北さんに預けてもいいのかな?」

「途中で口出ししないことを約束するなら堀北がなんとかしてくれるはずだ」

「僕は君たちを信じることにするよ。それが僕の理念にもつながるはずだから」

「あぁ伝えておく」

 

「綾小路くん、彼女も虐められてたとかそういうの聞いてたりするかい?」

 

 小声でそう言って少し離れている床をきれいに磨いている杏樹の方を見る。

 

「その匂いってのが反応したのか?」

「まぁそんな感じかな」

「そういうことは聞いてないな。真鍋との時も軽井沢と違って怯えている様子もなかったし。まぁ話したことはないからオレもよく知らないな。そろそろ杏樹を手伝わないと余計被害を広げそうだ」

 

 杏樹は床を拭きながらも頭をゆらゆらさせ、今にもバケツとともにひっくりかえりそうだった。綾小路はそんな杏樹を抱き上げ、ベンチに連れて行き座らせ自分は床拭きの続きを始めた。

 

 慌てて平田もそれを追って手伝いをしに行った。床は軽井沢の汚したものというよりは杏樹の絞り切れていない雑巾のせいで広がった水たまりに覆われていた。

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