Common life 日常的非日常   作:Dangelo

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No,4.15

 試験最終日

 

 人の嘘を見抜けるようなエスパーでもない限り優待者を見抜くのはたやすくない。特に嘘に慣れた人は特に。

 

「ねぇ今日は最終日だからみんなに伝えたいことがあるの」

 

 杏樹が唐突にそう切り出す。

 

 膠着状態だった雰囲気が思いもよらぬ人物の発言で動き始めた。今までほぼ自分の意見を出してこなかった杏樹からの提案だ。みんな警戒半分、興味半分の目で杏樹を見る。

 

「今回このグループで優待者を見つけちゃったんだけど、それが残念ながらDクラスなんだよね。それで、よかったらなんだけど誰かABCのクラスの人で協力してくれないかな? 私に30万prをくれる約束してくれれば誰でも良いんだけど。どうかな?」

「は? どういうことだよ烏間」

「え? まじでいってるの杏樹?」

「最終日までなにもおこらなければそうしろって言われてるし、達成したらお小遣いももらえるし」

 

「その指示したやつが誰か知らないが、もしDクラスに優待者がいるとして、仲間を売るなんて俺は反対だ。というかそもそもほとんど真面目に考えていないお前がなんで優待者を知ってるんだ?」

「それは優待者が教えた人に教えてもらったから。つまり又聞き」

 

 嘘である。さっきどころかこの試験開始直後から知っていた。

 

「待って、杏樹ちゃん。証拠でもないとそれは信じられないよ。この場を混乱させるって作戦かもしれないでしょ?」

 

 一之瀬が少し動揺しながら誰かが先にその提案を買わないように牽制をする。

 

「でも、どうやって証拠を見せればいい? わたしも又聞きだから優待者って本人確認したわけじゃないしなぁ……まぁ誰も取引してくれないんだったらいっか。そしたらみんな話し合い続けて? わたしは話し合いに参加してもDクラスに優待者がいるんだもん。意味ないよね?」

 

 杏樹はそう言って唐突に誰かに電話をかけはじめる。

 

「……もしもし? 生憎誰も提案に興味なかったみたい。証拠はって聞かれちゃった。うん、えっ、もう少し粘れるかって? むりむりみんな信用してくれないもん。えー、はーいじゃあ20万pr送ってねバイバイ」

 

 杏樹は携帯の電源を切り、そのまま座ってみんなの方を眺める。

 

 A,B,CそしてDまでみんな動揺している。みんなはどこに動揺したのだろうか? 杏樹が優待者を売ろうとしていることか、それとも杏樹にその指示をだした人についてだろうか?

 

「杏樹ちゃんのいう通りだとDクラスに優待者がいるみたいなんだけど、どうかな?」

「オレは優待者じゃないぞ?」

「俺も違う」

「えっあたし?! 違うわよ」

「まぁみんなそう答えるよね」

「わたしも違うよ、ほら、優待者の人の証明はできないけどわたしの証明はできる」

 

 そう言って見せるのは杏樹の携帯に送られてきたメール。ちゃんと選ばれませんでしたと書かれている。

 

「おい、何見せてんだよ? ほんとに協調性ってのを知らないのか?」

「ふふっ、やっぱりプライベートポイントって魅力的じゃない? じゃぁ交渉しろって言われているし、もっと破格の条件をつけよっか。今わたしは送ってもらったポイントを含めて手元にprを30万ほど持ってる。もしわたしが言った優待者がはずれだった場合15万pr振りこむ。その代わり当たったら35万わたしに頂戴? クラスポイント+15万prもらえるか、15万pr -クラスポイントか。それに今一人のせいでクラスポイント50失ったとして、別にABCはクラスポイントの差的に問題ないんじゃないかな? Dもサバイバルで鈴音ちゃんががんばった分がへるだけで元と変わらないし。それともこの3人の中からみんなで頑張って探す? それだとわたし的には入るポイントゼロで困るんだけど……」

 

 クラスポイントが絡むと一之瀬は出てこれない。そしてBクラスのメンバーも。期待できるのはAかCだが、Cも龍園の影響で下手なことができないと考えると、どうだろう?

 

「なんだ、結局こんなに譲歩しても誰も食いついてくれないのかぁ。みんな言ってるけどやっぱりこの試験って優待者一人勝ちだね。証拠がない一般市民は役もちには勝てないのかぁ。じゃあさっきの取引は締め切りってことで。あとはわたしにメリットがあるのって結果1だよね。帆波ちゃんは結果1派だったっけ? お願いしても良いかな?」

 

「杏樹ちゃんはそんなにすんなり諦めちゃっても良いの?」

「だってできることは全部やったけど無理だったっぽいし……帆波ちゃんが頑張ってくれたらわたしも50万prもらえるでしょ? ここでわたしが優待者暴露してもわたしが保身に入って嘘をついてるかもしれないって疑われるかもだから特に優待者を名指しすることは避けるけど」

「そうだね。……確実に結果1が狙える方法は一つあるよ」

「それは?」

「みんなで自分の携帯を見せ合うこと。さっき杏樹ちゃんは見せてくれたけど、優待者じゃない人なら確実にメールを見せれる。参加しない人は疑われることを覚悟しなきゃいけない。どうかな?」

「Bクラス的にはそれで良いですね」

「本気なんだな一之瀬、お前たちが賭けに出るなら、オレもその作戦に乗ろう」

「綾小路くん……良いの?」

「あぁ杏樹の話を聞いてる限り優待者はDなんだろ? 誰かに裏切られるよりはクラスポイントが減らない方を選ぶのは必然だ」

「待て、綾小路。俺は反対だぞ、こんな露骨な作戦うまくいくわけないだろっ」

 

 幸村が止めようとするのを振り切りメールを見せる。そして優待者でないことを知らしめる。

 

「うん、確かに。綾小路くんも優待者じゃないみたいだね」

 

「私も賛成する」

 

 伊吹が携帯を取り出す。

 

「正気? 私たちに得なんてなんもないよ!」

 

 当然リスクに反対する真鍋。しかし伊吹から返ってくる言葉もまた理にかなった一言だった。

 

「優待者じゃない人、優待者の所属しないクラスの人はこのままじゃ何も得られないわけでしょ。Bクラスだってそれをわかってる。それじゃいつまでも上のクラスには追いつけない。だから携帯まで見せてきた。それは私も同じ考え。それだけのことよ」

「それはーー」

「それともあんた、もしかして優待者なわけ?」

「ち、違うって」

「なら見せられるはずよね。携帯」

 

 ある意味脅しとも取れる仲間の言葉に観念し携帯を取り出しメールを見せる。軽井沢も携帯を全員の前に差し出す。

 

「綾小路だけじゃなくてお前もなのか軽井沢。この作戦に乗るつもりなのか?」

「あたしは自分のためにやるだけ。だってプライベートポイント欲しいもん」

 

 そう言って見せたのはやはり優待者には選ばれませんでしたという文章。

 

「幸村、さっきから何にびくついてるわけ? 烏間もDって言ってたしあんたが優待者?」

 

 伊吹が幸村にツッコミを入れる。その瞬間幸村の顔が硬くなったのはみんながわかった。

 

「うわ、まじ?」

「いや、幸村は優待者じゃない。前にそう言ってたぞ」

 

 綾小路が慌ててフォローを入れるも一部から失笑が漏れる。

 

「それを信じろって? そいつが嘘ついてるかもじゃん」

 

 真鍋は疑いの目を当たり前のように幸村に向ける。

 

「結論を出すのは早いよ、幸村くんにだって考えがあるんだから」

「……わかった見せる、見せれば良いんだろ? ただ一つ約束してくれ」

「約束? どういうことかな幸村くん」

「裏切らないで欲しいってことだ。この場にいる誰にも。特にAクラスは携帯を出して目の前に置いてくれ。いや全員だ、全員携帯を見える位置に置いてくれ」

「意味がわからないな」

「そのままの意味だ。それ以上もそれ以下もない」

「まぁ良いだろう、置くくらいなら」

「嘘をついてすまなかった綾小路……」

 

 誤り学校から送られてきたメールをみせる。そこに記載されていた文章は全員とは一文が違う書かれたメール。

 

「俺が優待者だ……こんなことになるとわかってたなら、最初から話しておくべきだった」

 

 町田が立ち上がると幸村の携帯を覗き込んだ。

 

「メールは本物のようだな。個人メールも本人のもので間違いなさそうだ」

「偽物なわけないよ。学校側から説明を受けたでしょ。改竄は禁止。学校のメアドから送られてきてるから偽の文章って可能性もない」

 

「てことは幸村で決まりだね」

 

 真鍋がうなずく。

 

「ごめんなさい幸村くん、こうするしかなかったの。このグループで裏切りを出すわけにはいかないから……」

「いや、これで良かったのかもしれない。烏間のせいで確実にクラスポイントを失うよりな」

 

 そう言って幸村は杏樹を睨みつける。

 

「これで全員が俺が優待者だとわかっただろ?たどり着ける答えが出てきたはずだ」

「お願い、幸村くんの勇気を無駄にしないで欲しい」

「俺たちは葛城さんの指示で動いている。勝手な真似はしないさ」

 

「俺は信じたい。いや、信じる」

 

 願う幸村。

 

 

 幸村が手にしている携帯が室内に鳴り響く。誰よりもその着信に驚いたのは幸村だ。慌ててテーブルから回収しようとしたが、上手くいかず手から落とす。発信者の名は『一之瀬』

 

「何をしているんだ一之瀬、こんな時に幸村に電話をかける必要はないだろう」

 

 町田はけげんそうな顔で一之瀬を見る。

 

「学校は『メールの改竄』は禁止って言ってたよね。でも携帯そのものに細工することは禁止されてない。これがどういうことかわかる?」

 

「この優待者と書かれている携帯の持ち主は本当は綾小路くんのだよね? だって今私が電話をかけてる相手は綾小路くんであって、幸村くんじゃないもん」

「で、でもおかしいじゃないか。幸村の個人メールの履歴はどうやって説明するんだ?」

 

「それはフェイク、発信履歴やメールアプリだって手間だけど入れ替えは可能だよ。それに人って簡単に嘘は吐けないんだよ。さっきから杏樹ちゃんの表情違和感があるし。伝えられた優待者と違ったんじゃない? それに幸村くんも最後の最後油断したのか態度がいつもと違って挙動不審だったもん。私たちも考えてはいたんだ携帯の入れ替え。だけどこの作戦には決定的な弱点がある。それは電話番号の存在。履歴やアプリは偽造できてもSIMがロックされている以上入れ替え不可能。だから電話を鳴らせば持ち主がわかるってわけ。そうじゃなきゃ携帯を見せ合うプランを提唱はしないよ」

 

 五分以内にグループを解散させ自室に戻るよう指示される。

 

「クッソっ!」

 

 その幸村の叫びは本物。嘘偽りのない真実。

 

「残念だったな幸村。意外と良い線だったけどな」

 

 町田たちはニヤニヤと笑い、全てを見破られた幸村を侮辱するようにそう言った。

 

「ともかくこれで綾小路くんだってことが確定した。杏樹ちゃんにも一応聞いて良い? 綾小路くんで正解?」

「うん、正解。少なくともわたしはそう聞いたよ」

「全員裏切らずに結果1をとるって約束して」

「ああもちろんさ、信用してくれ。行くぞ」

 

「作戦に乗った俺が間違ってた最悪だっ」

 

 幸村は綾小路が持っていた携帯を掴み取り俯き加減で外に出て行った。

 

「清隆くん。一緒においしいもの食べにこーね?」

「あぁそうだな」

 

 杏樹と綾小路はもう呑気にポイントをもらったことについて話し合っている。結果1になるにはまだ油断は出来ないのに。

 

「ねぇ二人ともちょっと良いかな?」

「何? 帆波ちゃん」

「この携帯入れ替え作戦は誰が思いついたの?」

「もちろん堀北に決まってるだろ」

「そう、じゃあ堀北さんに伝えておいてもらえるかな。作戦大成功だよって。杏樹ちゃんも演技力が凄かったね」

「大成功? 演技? 大失敗の間違いじゃないか?」

「確かにさSIMカードは携帯ごとにロックされてる。だけどロック解除の方法はあった……そうでしょ? だって星之宮先生に聞いたらポイントさえ払えば解除できるって言ってたから」

 

「偽りの答えの後に出てきた答えを人は真実だと錯覚してしまう。パスワード解除するそぶりまでした幸村くんが優待者じゃなかった。その嘘が露呈した瞬間綾小路くんが優待者だって事実が顔を覗かせる。それにその前の杏樹ちゃんによる自分のポイントを犠牲にしてまでの賭けとSIMカードから判断すれば、誰もDクラスが、そして綾小路くんが優待者だと疑わない。それこそが罠。入れ替え、二重以上に罠しかけてたでしょ。本当はどっちだったの? 軽井沢さん? それとも杏樹ちゃん?」

 

『兎グループの試験が終了しました。結果発表をお待ちください』

「あーあやっぱ誰かが裏切っちゃったか」

 

「帆波ちゃん、私が優待者だよ。どう? 見抜けた?」

「もし私が投票するとしたら軽井沢さんだったな。彼女も幸村くんと同じで様子が変だったもん。ただそれは、綾小路くんが軽井沢さんに自分が優待者だと伝えてたからってことかな?」

「That’s right でもどうして言わなかったの? わたしか恵ちゃんだって。実質Dを援護したようなものじゃん」

「だってAとCどちらが間違えても私たちにはプラスだから。最初から結果1も結果3も目指してないの。私たちが目指していたのは結果4」

「町田か」

「違う違う、森重くんだよ。彼は坂柳さんの派閥。葛城くんには従いたくないだろうし、ポイントがもらえるならラッキーくらい思ったんじゃないかな?」

「じゃぁいつの間にかBとDは共闘してたってことだね」

「一つ聞きたいんだけど、あの時杏樹ちゃんは誰に電話をかけてたの? 龍園くん?」

「ん? 自分?」

「自分?」

「うんそういうアプリがあるの。だってかける相手いないし」

「つまり、これは誰からの指示でもなく杏樹ちゃんが考えたってこと?」

「鈴音ちゃん半分、わたし半分。こう見えてわたしって有能なんだよ? 秘密ね?」

 

「それじゃ、私はこれで。禁止事項に触れちゃうと大変だからね」

 

 

四度もの受信音がそれぞれの携帯から鳴る。

「ん? 何これバグ?」

「いやそうじゃないっぽいぞ」

 

 




おまけ(1日オフの日の朝)

「おはよー、恵ちゃん」
「おはよ、昨日さ、おいてっちゃってごめん。杏樹は結局いつ部屋に戻ってきたの?」
「んー、あのあとちょっと話してコーヒー飲んで、片付けて……もう終わったから帰るってなったんだけど……あっ」
「ん? なにかあったの?」
「いやっちがうの恵ちゃん、普通に清隆君に送ってもらっただけっ!」
「ふーん、ならいいけど。朝ごはんどうするの?」
「えーっと今日は他クラスの子と遅めの朝ごはん約束してるからそっちで食べるかな」
「そっか、ならアタシは篠原さんとかと一緒に食べることにしよっと」
「じゃ、別行動だね〜」

 軽井沢が電話をかけながら部屋から出て行ったところで杏樹は地面に蹲み込んだ。

「あー、いろいろやっちゃった……よね?  いや、ワンチャン夢かもしれないし……引かれたかな? いや、清隆くんだもん。特になんも思ってないはず。普通にわかれたし最後顔見てないけど……というか、なんであの時頭の中に『ママ直伝、眠い時の可愛い女の子の仕草その8』が浮かんじゃったんだろ……それにGOサイン出したの誰? わたしだよ!!……別に清隆君ターゲットでもなんでもないし。むしろこう言うのって龍園くんにやるべきだったよね?!  あーもうバカ……顔暑い……」
「杏樹ちゃんすみっこでなにしてんのー?」
「なっなんでもない!!」


お気に入り600人ありがとうございます。
novel.syosetu.org/280843/ もよかったら。こちらはストーリーに関係ないただのイチャイチャです。
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