Common life 日常的非日常   作:Dangelo

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No,1.4

 少しずつ学校生活にも慣れ、放課後どこかに遊びに行く生徒も増えてきた。

 

「櫛田ちゃんカフェ行かない?」

「うん、いくいく! あ、でもあと二人誘ってもいい?」

 

 櫛田は誘ってくれた女の子に少し待つように伝え、杏樹と堀北の方にやってきた。

 

「堀北さん、杏樹ちゃん。私これから友達とカフェ行くんだけどよかったら一緒にどうかな?」

「興味ないから」

 

 堀北は問答無用。一刀両断する。

 

「ごめん、今日は疲れちゃったから早くベッドに飛び込む予定なの。また今度誘って〜」

 

 杏樹もまぁなんとも自分勝手な理由で誘いを断る。ただ、杏樹の場合疲れていると不機嫌になったり省エネモードでほぼ機能しない可能性もあるのでこの判断でたぶん正解だ。

 

「そっか、二人ともまた誘うね」

「待って、櫛田さん。もう誘わないで、迷惑なの」

 

 堀北は冷たく、そう言う。取りつく島もない。

 

「また誘うねっ」

 

 櫛田はいつもの笑顔を絶やさずにそう言って戻っていった。

 

「桔梗ちゃん、もう堀北さん誘うのやめなよ。私あの子嫌いーーーー」

 

 その廊下での女の子の発言はしっかり杏樹、綾小路そして堀北に届いていた。

 

「あなたたちまで余計なことを言ったりしないわよね?」

「あぁ。お前の性格は十分理解したつもりだし、無駄だろうからな」

「個人の自由だからいいんじゃない?」

「安心だわ」

 

 堀北は自分のペースで一人教室を出て行った。

 

「綾小路くん、杏樹さん。ちょっといいかな?」

 

 いつの間にか教室に残っていたのは杏樹、綾小路、平田の3人になっていた。

 

「堀北さんのことだけど、どうにかならないかな? 女子からも意見が出ててね。彼女いつも一人だから……もう少し仲良くするよう言ってもらえないかな?」

「それは個人の自由じゃないのか? 堀北が誰かに迷惑をかけてるわけでもないし」

「もちろんわかってるよ。だけど心配する声も多いからね。僕はクラスの中で絶対いじめなんて問題起こさせるつもりはないから」

「大丈夫だよ洋介くん、時と学校が全てを解決してくれるよ」

 

 そんなまたもや無責任な発言を残し、杏樹はカバンを手に持って手を振りながら教室を去った。

 

 一方教室では

 

「綾小路くん、今杏樹さんが言ってた意味ってわかったりするかい?」

「意味ってなんのだ?」

「学校がってどういう意味かなって?」

「そこまで深読みすることではないんじゃないか?」

「……そうだね、なんか杏樹さん独特の雰囲気に飲まれちゃったみたいだ」

 

 

 月末、入学してもう1ヶ月経とうとしている。

 

 相変わらず授業を熱心に受けているのは一部のみで、ほとんどが私語や遅刻の常習犯となっていた。

 

 ちなみに杏樹はと云うと、興味のある授業以外はこっそり文字を書く練習に勤しんでいた。板書はすでに各教師から書かなくても大丈夫なようにコピーをもらっているので板書に追われることはない。教科書に書いてある漢字をそのまま写しとる作業、見たものをただ写す作業でさえ疲労度が半端ない。少しずつ少しずつ気が向いた時気が向く分だけをもっとーにのんびりと練習していた。ただ普段の生活で問題なく使えるレベルになるのはまだ先な気がして杏樹はため息をつくしかなかった。

 

「ちょっと静かにしろ、今日はちょっとだけ真面目に受けてもらうぞ」

「どういう事っすかー佐枝ちゃんセンセー」

「月末だからな、小テストを行うことになった。後ろに配ってくれ」

 

 主要5科目の問題がまとめて載った、それぞれ数問づつの、まさに小テストだ。

 

「今回のテストはあくまでも今後の参考用だ。成績表には反映されない。ノーリスクだから安心しろ」

 

 杏樹は問題に目を通す。どの問題も方針や答えは開始10分で既に検討がついていたのだが、如何せん書くのに時間がかかる。

 

 杏樹はとりあえず数学の記述(ほぼ数式と記号のみで書いた)を書き終え、理科の計算を解き、開始30分以降単語を書く問題をゆっくりゆっくり進めていく。50分の試験時間は杏樹の書くスピードでは到底間に合いそうになく、残り10分の合図の時にはまだほとんどの日本語を書くべき場所はまだ空白だった。

 

 仕方なく、生物の単語など英語で書けるものは英語で書いてみる。一種の悪あがきだ。

チャイムがなり解答用紙が回収される。

 

 社会系特に日本史はどうしようもなくほぼ空欄となってしまった。どの問題も口頭試問だったら確実に取れるのに、と杏樹は悔しさでほんのりと目に涙を浮かべた。

 

 

 小テストも終わり、教室内では遊びの誘いが飛び交っている。

 

 この1ヶ月でほとんど女子はグループを形成しつつあった。女子は軽井沢、櫛田が二大グループの核となっている。杏樹は特に軽井沢と仲がいいが、グループに所属しているわけではなかった。杏樹がフラフラしていると、それを見つけた軽井沢が自分のところに杏樹を呼び寄せるのが毎度お決まりのパターンだ。

 

 杏樹がいつも仲良くしている人は?  と聞かれたら、綾小路か軽井沢。たぶん堀北も、とみんな答えるだろう。大体そんな感じだ。別に他の人と話していないわけではないし、むしろ全員と話しているがそこの3人とはなんというか濃度が違うのだ。

 

 

 5月最初の学校生活を告げる始業チャイムがなった。

 

 茶柱先生が険しい顔をしながら教室に入ってくる。

 

「せんせー、ひょっとして生理でも止まりましたか?」

 

 池が失礼な発言をするが、先生は無視して話し始めた。

 

「これより朝のHRを始める。が、その前に何か質問はあるか?気になることがあるなら今聞いておいたほうがいいぞ?」

 

 先生は質問があることを確信しているような口ぶりだった。その言葉に何人かの生徒が手をあげる。

 

「あの、ポイントが振り込まれていないんすけど、毎月一日に支給されるんじゃなかったんすか? このままじゃ無一文になっちゃいますって」

「山内、前にも説明しただろ。その通りだ。ポイントは毎月一日に振り込まれる。今月も振り込まれたことは確認されている」

「え、でも……振り込まれてなかったよな?」

 

何人かの生徒が顔を見合わせて頷きあっている。

 

「……お前らは本当に愚かだな。」

 

 支給額がクラスで同じ、つまり連帯責任制度であったことに杏樹は先生の発言と態度で理解した。杏樹は自由の国アメリカで長いこと過ごしてきたので、連帯責任なんて考えもつかなかったが、ここは日本。そういうこともありうるのか、と一人うなずいていた。

 

「ははは、なるほどそういうことだねティーチャー。理解できたよ、簡単なことさ、私たちDクラスには0ポイント振り込まれた、ということだよ」

「はぁ?なんでだよ。毎月10万ポイント振り込まれるって……」

「私はそう聞いた覚えはないね。そうだろう?」

 

 ニヤニヤ笑ながら高円寺は先生に堂々と指をさす。

 

「態度には問題有りだが、高円寺のいう通りだ。全くこれだけヒントをやって自分で気付けるのが数人とは実に嘆かわしいことだ」

 

 教室がざわざわし始める。

 

「……先生質問いいですか? ふに落ちないことがあります」

 

 平田が手をあげる。このクラスのリーダーらしい行動に杏樹は尊敬の眼差しを向ける。

 

「振り込まれなかった理由を教えてください。でなければ僕たちは納得できません」

「遅刻欠席合わせて98回。授業中の私語や携帯の使用391回。ひと月でよくここまでやらかしたものだ」

 

 平田がいろいろと粘ったものの、入学した日に説明したや、学校の決まりで詳しく教えることはできないと一蹴されていた。

 

「本題に戻ろう、お前たちはこの1ヶ月学校で好き勝手な生活をしてきた。学校側はそれを否定するつもりはない。ポイントに関しても個人の自由だ。」

 

 先生によって貼り出された白い模造紙には各クラスのクラスポイントが書かれていた。

A 940

B 650

C 490

D 0

 

 

「なぜここまでクラスポイントに差があるんですか?」

 

 平田の問いに先生は皮肉を混ぜながら答える。

 

「だんだん理解できてきようだな、お前らがD組に選ばれた理由が。この学校では優秀な生徒たちの順にクラスわけされるようになっている。もっとも優秀な生徒はAクラスへ。ダメな生徒はDクラスへ。合理的なシステムだ。つまりお前達は不良品の集まりということだ」

 

 なんともな言われようだ。「発達の余地がある」くらい言ってくれと杏樹は抗議した。

 

 もちろんそれは心の中だけで外に出すことはなかったが。杏樹にパリは向いていない。

 

「さて、ここで残念なお知らせがもう一つある。先日やった小テストの結果だ。揃いも揃って粒揃いで、先生は嬉しいぞ。中学で一体何をやってきた」

 

 貼られた成績表を確認すると、上位数名以外は微妙な点数しか取れていない。特に下位は20点に満たない者もいる。

 

 杏樹の結果は41点 数学4問と英語の2問(残りの2問は和訳問題だった)、理科の2問と部分点。国語と社会は解けたと思った問題でも文字が書けてなかったらしく全滅という感じだ。わかっていたが平均が65前後だろうから杏樹は勉強ができない組に分類される。

 

 

 ホームルームが終わり、テスト結果に諦めをつけ杏樹は振り返って堀北と綾小路のところに席を寄せる。

 

「清隆くん何してるの?」

「あぁ、どうにかしてポイントの詳細を割り出せないかと思って」

「確かにそれがわかったら対策が楽になるね〜」

「でも現段階で詳細を割り出すのは難しいんじゃないかしら? それにあなたがそれを調べたところで解決する問題とは思えない。このクラスは単純に私語や遅刻をしすぎたのよ」

 

「堀北もここを卒業すれば好きな職につけるというのにつられて入ったタマか?」

「……どうしてそんなことを?」

「いや、AとDの差を聞いたときショックそうだったからな」

「そんなの大なり小なりみんなそうでしょ。入学前に説明があったならともかくこの段階で言われて納得なんてできない」

「わたしは高校にいれたらなんでもいいなぁ」

「杏樹は極端だな、というオレもAだのDだのいう前にポイントの確保をしたいところだな」

「あなた達には向上心というものがまるでないわね。ポイントなんて副産物でしかないわ。なくても生活に支障は出ない。事実学校には無料で利用できるものがあるでしょう?」

「生活に支障は出ないねえ……」

「先月2人はいくら使ったのかしら?」

「ん、オレはざっと2万くらいかな、初めから10万もらえないかもしれない可能性を教えてくれたからそんなに散財はしてない。杏樹は?」

「私もおんなじくらいだと思う、でもクラス単位での評価は予想外だったね」

 

 ここにいるメンバーはそこまで大変ではないが、使い切ってしまった人たちにとっては悲惨だろう。山内や池が騒いでいる姿を3人は哀れみの目で見ていた。

 

「みんな少し聞いて欲しい! 特に須藤くん。今月僕たちはポイントがもらえなかった。これは、今後の学校生活において非常に重要な問題だ。まさかずっと0ポイントで過ごすわけにはいかないだろ? だからこそ来月こそはポイントを獲得したい。そのためには遅刻や授業中の私語はやめるように互いに注意するんだ」

「は? なんでそんなこと平田に注意されなきゃいけないんだ。ポイントは変わらないんだから意味ないだろ」

「でもそれらをやり続ける限り僕たちのポイントは増えない」

「……お前が何やろうと勝手だけどよ、俺を巻き込むなよ」

 

 そう言って須藤は教室を出てってしまった。教壇を降りた平田が杏樹達の方に歩いてくる。

 

「堀北さん、杏樹さん綾小路くん。放課後ポイントを増やすためにどうしていくべきか話し合いたいんだ。是非君たちにも参加してもらいたい。どうかな?」

「どうしてオレ達なんだ?」

「全員に声をかけるつもりだよ。だけど全員に一度に声をかけてもきっと半数以上は話半分に聞いて真剣に耳を傾けてくれないと思うんだ」

「ごめんなさい、他を当たってもらえる?話し合いは得意じゃないの」

「無理に発言しなくてもいいよ。思いつくことがあったらで構わないし、その場にいてくれることだけでも十分だから」

「申し訳ないけれど、私は意味のないことに付き合う気はないから」

「これは僕たちDクラスにとって最初の試練だと思うだからーー」

「断ったはずよ、私は参加しない」

 

 強く冷静な一言。平田の立場を斟酌しつつも堀北は再度拒絶を示した。

 

「そ、そうか。ごめん……もし気が変わったら参加してほしい」

 

 残念そうに引き下がる平田をもう堀北は見ていなかった。

 

「杏樹さんと綾小路くんは?」

「んー、いるだけならいいよ?」

「じゃオレも。特に何かできるわけじゃないけど」

「ありがとう、話し合いの場にいてくれることが重要なんだ」

 

 平田が戻って行った後綾小路がふとつぶやいた。

 

「平田も偉いよな。ああやって行動を起こすんだから、落ち込んでもおかしくないのに」

「それは見解の一つね、安易に話し合いを持って解決する問題なら苦労はしないわ。それに私には素直に今の状況を受け入れることなんてできない」

「受け入れることなんてできない?それってどういう意味だ?」

 

 

 綾小路の質問に答えずに堀北は黙り込んでしまった。

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