ぐだぐだテンペスト   作:禁断のノッブヘッド

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ぐだぐだワルプルギス

 魔王クレイマンの話はこうだった。

 

 曰く、魔王カリオンは魔国の主(リムル)に魔王を名乗るように仕向けた。魔王の座に魅せられたリムルは箔をつけるためにヴェルドラの封印を解くことを提案し、その生贄に選ばれたのがファルムス王国。まんまと焚きつけられ(以下略

 

 つまるところ、

 

なんか魔王カリオンに魔王ならね?と言われた。……なりたい!魔王めっさなりたい!

人間の魂が必要だからファルムス王国と戦争やろっかな、でも戦力足りないからヴェルドラに任せよーっと

なったはいいけど魔王の席がない、ぴえん。けどカリオンが魔王クレイマンを潰せばいいんだよと言ってくれたので、共謀して潰しちゃおうかな

よーし魔王になるぞー!←今ここ

 

 

 というわけだ。

 

 

「これらの情報は全て、私の配下であるミョウランから伝えられたものです。しかし、残念ながら彼女はもうこの世にいません……。なぜなら――――――」

 

「え、ミョウランちゃん死んだん!?」

 

 続けようとしたクレイマンを気にした様子もなく、ただ純粋に驚く信長。

 実は信長、ミョウランとは何回か話す機会があった。

 それだけの会話だけでも彼女が優しい性格だと分かったし、なにより気安い態度を取らなかったので信長のお気に入りだったのだ。

 だからこそ、ミョウランの死を知ってひどく残念に思ったのである。

 

 

 それに勢いを削がれたのか、苦笑いを浮かべてクレイマンが頷く。

 

「え、ええ。そこのスライム――――――リムルに殺されて、ね」

 

 そう告げるクレイマンの表情は、自信に満ち溢れていた。

 しかし、そこでもまた他の魔王から質問が入る。

 

「おい、クレイマンよ」

 

「……なんですか?魔王ダグリュール」

 

「話の真偽は置いておくとして、肝心のカリオンはどこなのだ?陰謀の張本人であるカリオンに聞いたほうがよかろう」

 

「それは、無理なのですよ」

 

 なぜなら、その魔王カリオンはミリムの手によって殺されたのですから。

 

 そう続けたクレイマンの言葉を聞いて、会場の者の目がミリムに集まる。

 そのミリムといえば、無表情のままボーっとしているだけだ。

 普段のような元気溌剌とした姿とは程遠い。

 そのことに、信長始め各魔王は違和感を覚える。とはいえ、クレイマンの話の途中なので遮るような真似はしなかったが。

 

「ですが、ミリムを責めることはやめてあげてください。彼女は友人である私のことを思ってカリオンを滅ぼしたのです」

 

「カリオンを、のう」

 

「……以上で、私の話は終わりです。魔王を僭称するスライムなど、ここで始末するべきが当然かと」

 

 

 一礼するクレイマン。

 彼の話が終わったことで、次は来客であるリムルの説明となる。

 

 その場で立ち上がったリムルは、そっとテーブルに手をついて口を開いた。

 

「クレイマン、お前――――――」

 

「なんじゃ。つまりお主はそのリムルとやらが嫌いなのだろう?なら潰せばいいではないか、魔王らしく」

 

 しかし、それは信長の台詞でかき消されることになった。

 え?ちょ、ま。と困惑するリムルを横目に、信長は続ける。

 

「気にくわないものがあれば壊せばいい。欲しいものがあれば奪えばいい。それが魔王ではないのか?」

 

「え、いや、だからですね。これは私だけの問題ではなく」

 

「そんな細かいことを魔王は気にするのか?近年の魔王は理知的になったものじゃのう、ワシの世代なんぞ『好き勝手やるのが魔王の特権!』じゃったのに。まっことなげかわしい」

 

 はあっと溜息を吐く信長。

 彼女が生きた時代は前世(・・)も含め動乱の時代だった。強い者が生き、弱い者は死ぬ。そんなことは世の常識であり今更蒸し返すような話ではなかったのだ。

 彼女からすればクレイマンの話は一笑に伏すような内容だったのである。

 

 それに続くようにダグリュール達も言う。

 

「うむ。ノブナガの言う通りだ……この程度の問題、魔王達の宴(ワルプルギス)で取り上げるようなものでもあるまい」

 

「そうだねー。ぶっちゃけ俺からすればどうでもいいっていうか、ねぇ?」

 

「何で私に振るのよディーノ!いやまあ、アタシも途中から話は聞いてなかったけども!」

 

「我は下等なスライムなど認めたくないが……そこの不死族(デスマン)よりは些かマシか」

 

 

 罵詈雑言の嵐とまではいかないが、ちょっと角が立つ会話。

 

 それはクレイマンの計画が破綻しかけている証拠であり、事実上の死亡宣告であった。

 クレイマンはそのことを理解しているのか、あたふたと焦り始める。

 

 それを見たリムルは、振り上げた拳の先に困っていたのだがこれは丁度良いかもなと思い、今度は信長に邪魔されぬようにゴホン!とわざとらしい咳をして宣言する。

 

「いいぜ、クレイマン。正直俺もお前にはムカついてたんだ。武力で解決するってのがこの魔王達の宴(ワルプルギス)の仕来りってんなら、喜んで殴り合いで解決しようじゃないか」

 

 この時のために色々と情報を用意してきた自分のことは棚に上げ、リムルは拳を握る。

 リムルにとってこれは最も望んでいた状態だし、否定するようなことを誰がするものか。

 

 それに焦るのはクレイマンだ。

 計画では他の魔王の賛同を得て、正当な裁きをリムルに下すはずであった。

 クレイマンは戦闘に向いた魔王ではない、裏でコソコソする頭脳派魔王。

 はっきり言って戦闘だけでなら、事実上名ばかりのラミリスの次に弱い魔王なのである。

 

 そんな身体能力ナメクジのクレイマンに、さらなる不幸が舞い降りる。

 追い打ちをかけるように、ギィもその案に追従したのだ。

 

「別にいいじゃねえか、クレイマン。お前の力でもってソイツを倒してみせろ」

 

 弱者に“魔王”の名は相応しくない。

 それを暗にクレイマンに告げたギィの目は笑っていた。

 

 

「――――――ッ!?」

 

 唇を噛むクレイマン。

 予想外もいいところだ。こんな状況になるとは露ほど思っていなかった。

 

 

 ……しかし、だ。この状況は私にとって有利なのではないか?最強の切り札であるミリムが私の手の内にある今ならば、リムルさえも殺せるのではないだろうか?

 

 そのことに、わずかに開いた希望の光に、クレイマンは活路を見出す。

 そうだ、最古の魔王たるミリムならば、生まれて数年もしない魔王などに負けるわけがない。

 

 会期の兆しを得たクレイマンは、またもや饒舌に宣言する。

 

「……いいでしょう。ならばやっておしまいなさい、ミリムよ!その下賤なスライムを叩き潰すのだ!」

 

 

 

 

 1

 

 

 

「ぐああああああああああああ!お、おたすけー!」

 

 

 そう言って即落ち二コマのようにリムルに吸収されたクレイマンのことなどリムルたちはすっかり忘れ、思い思いに談笑に更けていた。

 哀れクレイマン、話のネタにもされないとは情けない。

 

「おいミルス、従者のしつけがなってないようだな。我が盟友たるリムルを侮辱するとは、我が教育してやろうか?」

 

「……私に話しておいでですか?私は魔王ヴァレンタインの侍女(メイド)にすぎませんが」

 

「えっ」

 

「ダメだぞヴェルドラ!バレンタインは正体を隠しておるのだ、今は代替わりが魔王をやっているのだ!それと名前はルミナスなのだ!」

 

「ばっ、おまー!言っちゃっとるじゃん、ミリムお主それほぼ言っとるから!あああああほれみろルミナスの顔面が(#^ω^)になっておるわ!」

 

 モロにバラすミリム(操られたのは演技でした)に、信長が追い打ちをかけてルミナスを怒らせたり。

 

「ベレッタ……これ何?」

 

「おおリムル様!よくぞ聞いてくださいました、これはですね、クレイマンが所有していたビオーラという人形に備わっていた武具の数々でございます!」

 

「はあ、それで」

 

「はい!もちろん全てリムル様に捧げますとも!これもどれもワレをこの世界に現界させてくださったリムル様のためのもの!」

 

「本音は?」

 

「ぶっちゃけこれと引き換えにテンペストに移住させてもらえないかななんて」

 

「わーお商魂たくましい」

 

 

 どんどん(ラミリス)に似てきたベレッタにリムルが恐れを抱いたりと、話が盛り上がっていた。

 

 ……それからしばらくして。

 皆が席に着いたのを見届けた魔王ギィが、グラスを片手に持ち尋ねる。

 

 

「――――――さて、今回の魔王達の宴(ワルプルギス)だが、問題は片付いた」

 

「まあ、ワシらほぼ何もしなかったけどネ!」

 

 横からのツッコミを無視して、ギィは話を進める。

 

「俺としてはこれで終わりにしてもいいんだが、せっかくの機会だ。何か言いたいことがあるヤツはいるか?」

 

「そうじゃな、ワシへの尊敬が最近薄れておるのが――――――」

 

「もうお前は黙れ」

 

「合点承知之助!」

 

 ギィからの睨みを受けて、ふんずりながら黙る信長。

 リムルやカリオン(しれっと復活した)などの比較的新参な魔王からすれば、それは肝が冷える行動だったのだが他の魔王がスルーするのを見るに、別段珍しいことでもないらしい。

 

 静寂が魔王達の宴(ワルプルギス)の間に降りて、雑音が消える。

 

「……そうだな、ここに俺がいるのはちょいと場違いみてぇだな」

 

 そう言ったのは、獅子王(ビーストマスター)カリオンだ。

 神妙な顔で呟いた後、はあっと心底悔しそうに溜息を吐く。

 

(え、何でカリオンさんが場違いなんだ?)

 

 リムルの頭の上に疑問符が浮かぶも、その後の言葉でそれは氷解する。

 

「俺じゃ、覚醒したクレイマンに勝つことは難しかっただろうし。とにかく、実力が不相応なんだよ俺には。だから俺は魔王を降りる」

 

「そうか?俺は後数百年もすればお前も覚醒すると期待していたんだがな」

 

「期待はありがとよ。……ってことで俺はお前の配下になることにしたから。よろしくなミリム!」

 

「はあ!?」

 

 なるほど、確かにカリオンさんの魔素量は、こう言ってはなんだが魔王にしては少ない。

 少ないといえどハクロウのように武芸が達者だという路線もあるだろうが、恐らくカリオンさんは力業での戦闘なのだろう。

 獣人族の王なんだし、魔王はやめなくても俺は良いと思うんだが……。

 

 でもまあ、カリオンさん本人がそう言っているのならしょうがない。

 カリオンさんがミリムの配下になるのも道理に適っているし、彼らが良いのなら俺達は何も言うことはあるまい。

 

「いやなのだ!こんな暑苦しい男などワタシはいやなのだ!」

 

「てめっ、俺の国を破壊しといて何言ってんだ!」

 

 

 ……何も言うまい。

 

 仲が良さそうな二人の主従を見て、不安になるリムルだったが、そこであることに気づく。

 

 

「――――――ってことは、十大魔王じゃなくなるのか?」

 

「「「「む!」」」」

 

「え?」

 

 またもや静寂が下りて、雑音が消える。

 俺の発言がダメだったのかと焦るリムルだったが、そんなものは杞憂である。

 なんせ、これから話されるのはただの名称決めなのだから。

 

 

 

 

 

「だ、か、ら!ここは『九人の妖精(ラブリーピクシー)』が妥当でしょうよ!」

 

「阿呆め。ワシやルミナスはまあいいだろう、だがダグリュールはどうなのだ!」

 

「それは、……ちょっと筋肉質な妖精ってことにするのよ!」

 

「こんな筋肉達磨な妖精がいてたまるか!」

 

 ギャーギャー騒ぐラミリスと信長。

 耳を塞いで逃れようとするルミナス以下一同。

 そして混ざりたそうにウズウズしているミリムとヴェルドラ。

 

 はっきり言ってカオスである。

 ここ数十分ほどずっと続いているのだが、一向に決まる気配は見えない。

 ……もう九大魔王で良いと思うんだが。

 

「そんなに言うんだったら、ノッブだって何か案を出してみるのよさ!」

 

「――――――そうさな、『超新星爆発ダイナマイト魔王9th(ノッブ親衛隊)』なんてどうじゃろか」

 

「アンタに聞いたアタシがバカだった!」

 

「なにおう!?」

 

 しかし、いつまでもこんな話をするわけにはいかない。

 

 リムルも必死に頭を回転させ、案を練る。

 九人の魔王だから……数字は欲しいよな。よし、九は決定。

 じゃあ、後はどうするか――――――?

 

 

 そう思って、なんとなく空を見上げたリムルに天啓が下りる。

 

 視界一杯の夜空。きらめく星々たち。

 なにより、燦爛と輝く恒星が九つ――――――

 

 

「……『九星魔王(オクタグラム)』、なんて」

 

 

 それは、何気なく放った小さな声。

 しかし、それは響き渡るように魔王達の宴(ワルプルギス)の間に響き渡る。

 

 気づけば、誰もがリムルの方を向いていた。

 

 ――――――あれ、なんか俺やっちゃいました?

 

「『九星魔王(オクタグラム)』、か」

 

「へえ……良いんじゃない?」

 

「うむ。それぞれが星に匹敵するという意味かのう」

 

「いいね!さっすがリムル!どっかの魔王とは違って!」

 

「なっ、それお主が言う!?いや良い案じゃとは思うけど!」

 

 言葉を噛み砕くように、うんうんと頷く魔王一同。

 あのレオンも満足そうな顔をしているので、これはかなり好評かもしれない。

 良かった良かった、一瞬静まったときは死ぬかと思ったよ。

 

 魔王ギィもこれにはご満悦。

 とびっきりの笑顔で、判決を言い渡したのだった。

 

 

「決まり、だな」

 

 

 

 

 

 メイドの原初の青(レイン)原初の緑(ミザリー)が口を揃えて言う。

 

 

「「改めまして、本日来客された方々をご紹介させていただきます――――――

 

 

 悪魔族、“暗黒皇帝(ロード・オブ・ダークネス)”ギィ・クリムゾン様。

 

「おう」

 

 竜人族、“破壊の暴君(デストロイ)”ミリム・ナーヴァ様。

 

「はーいなのだ!あ、ラミリスよ。そこの肉切れいらぬならワタシが食べてあげるのだ」

 

 妖精族、“迷宮妖精(ラビリンス)”ラミリス様。

 

「ちょ!?アタシが魂込めて育ててきた至高の一切れを取らないでよ!?」

 

 巨人族、“大地の怒り(アースクエイク)”ダグリュール様。

 

「うまいな。この酒の果実はユーラザニアのものか?」

 

 吸血鬼、“夜魔の女王(クイーン・オブ・ナイトメア)”ルミナス・バレンタイン様。

 

「……ふんっ」

 

 堕天族、“眠る支配者(スリーピング・ルーラー)”ディーノ様。

 

「働かないで食べる肉ウメー」

 

 人魔族、“白金の剣王(プラチナム・セイバー)”レオン・クロムウェル様。

 

「……肉と野菜は豆腐で分ける、それによって油がしみこま……だから適当に投入するな」

 

 魔人族、“人類の裏切り者(ノッブ・オブ・ノッブ)”ノブナガ・オダ。

 

「うまければそれでいい!以下略!」

 

 妖魔族、“新星(ニュービー)”リムル=テンペスト様。

 

「いや鍋パーティーやってるときにやることじゃないだろ……って、え!?オダ!?ノブナガ!?」

 

 

 ――――――この日より、魔王達は新たな呼称で畏れられることになる。

 

 その呼び名は『九星魔王(オクタグラム)』。

 

 新月の夜、真なる魔王達の時代が幕を開ける――――――

 

 

 

 




クレイマン

 死んでしまうとは情けない。

カリオン

 ノッブに対してはかなり気安い態度をとるが、同じ最古の魔王でもギィには堅苦しくなってしまう。是非もないよネ!

ディーノ

 ノッブとディーノ、二人してギィの城に泊まりに行ったのだが、二人仲良く追い出された。そして二人仲良く迷った仲。

ミリム

 例にもれず仲がいい。どれくらい仲がいいかというと、言葉には表せられないくらい。とはいえミリムはある事件でノッブに借りがあるので、たびたびそれを使われて酷い目に遭うことも多数。

ダグリュール

 すごく仲がいいわけではないが、悪くもない持ちつもたれつの関係。たまにその自慢の筋肉を触られる。傍から見たらロリとおっさんなので普通に事案。

ルミナス

 表面上はノッブのことを嫌う態度をとっているが、実はかなり好意的に見ている。そしてそれはノッブや他の魔王にもバレるぐらいには演技が下手。ただし、それが友情か劣情かは誰も知らない……。


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