転生したらクーフーリンだった件について   作:いk

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兄貴についていけ。


プロローグ

 冷たい空気が満ちた街を、中を駆け抜ける影があった。

 

 その影の名はヘルディオ。西方諸国を中心に活動する裏組織……つまりギャングの幹部である。

 

 ここ、アルテーオ王国を隠れ蓑として使っており、息を潜めるためには最高の立地だったためかなりの頻度で訪れていた。

 

 確かに、小国が分布するこの地域なら一つ一つの国の力はたいしたものではない。自警団なども禄に整備されておらず、公には出来ないような取引などにも絶好の場所なのだ。

 

 だから、今回も何事もなく終わるはずだった。はずだったのに。

 

「何で……!何でこんな辺境に奴がいるんだ……!」

 

 思わずヘルディオは、この最悪な状況に愚痴を吐いてしまう。

 

 それは無理もないことだ。

 

 誰が、西国の番犬とも呼ばれるほどの大英雄がいることを予想できるだろうか。

 

 ヘルディオとて油断をしていたわけではない。

 

 上層部からの命令で仕事を任されたとき、最近西方諸国に現れた二つの英雄について聞かされていた。

 

 

 一人は『閃光の勇者』マサユキ、閃光の如く突如として世に台頭し、閃光のように敵を一蹴することから呼ばれているらしい。

 

 彼が率いるパーティーも彼に見劣りすることはなく、勇者パーティーに相応しい戦いをしているようだ。

 

 ただでさえ『勇者』なのに強力な味方が付いているなんて、さっさと魔王倒して来いよと言いたくなるほどの理不尽。

 

 

 関わりたくないなとうんざりしたのは裏組織に所属する全員の共通する思いだろう。

 

 そして、次に聞かされたのはとある二人組の英雄についてだった。

 

 なんでも、造り物かと間違えるほど整った顔を持つ青い槍兵に、それを召使のように扱う珍しい白色の髪をたなびかせる少女。

 

 夜な夜な街を飛び回り、悪事に手を染める者の心臓を抉り取っていくという話が一番有名だそうだ。

 

 彼らを目撃した者はおらず、世間からは暗殺者やら義賊やらと噂されているだとか。

 

 目撃者がいないのなら、何故そんなにも情報が回っているんだと疑問が湧くも、自分が考えることではないと判断してヘルディアは今回の取引に応じた。

 

 

 念のため勇者マサユキと謎の英雄の現在の場所を確認し(義賊紛いの方は、最後に出現したのが東の方だったため反対に位置するここには来れないと予想していた)、自分の仕事に影響は来ないし命が狙われることはないと思っていた。

 

 

 しかし、ヤツはいた。

 

 

 取引場所に向かえば、そこは既にヤツによって制圧されており、地面にはお得意様だった公爵の亡骸が無惨にも倒れていた。それが見えた瞬間、ヘルディオは即座に来た道を引き戻り逃走を始めたのだ。幸いなことに、ヤツは自分を見ても追ってこようとはしなかった。事件現場に迷い込んだ哀れな市民だとでも都合のいい方に勘違いしてくれたのだろうか。いや、むしろ己の姿を見た者がいれば例えすれが市民といえど殺そうとしてくるだろうか。

 

 それを確かめる術をヘルディアは持っていない。

 

 ただ背後から感じる得体の知れないナニカの気配に怯え、暗闇の中を走ることしか自分には許されていないのだ。逃げ場も仲間もいない辺境の地で、ただ少しでも生き永らえようと、一握りの希望に縋って逃げつつけることしか。

 

 

「あッ!」

 

 

 地面に叩きつけられる音が市街地に響く。

 

 それはヘルディオが、小さな段差に足を取られて倒れた音だった。

 本来ならば躓くことはない段差も、この極度の恐怖の中では立派な障害物に他ならない。

 

 殺される、そう思い、これから来るであろう痛みに耐えるように目を閉じて食いしばる。

 

 だが、いつまでたっても痛みはヘルディオに襲い掛かってこなかった。

 

 そのことに疑問を抱き、少しづつ瞼を開いていくと。

 

「ははッ……。なんだよ、俺の思い違いかよ……」

 

 

 そこには、人影は一つも見かけられず、ついさっき通り過ぎたときと変わらない暗い細道だった。

 

 敵はいないということに、苦笑いしながらも安心したように大きく息を吐く。

 

「……寿命が何年、いや何十年も縮まった気がすゃぶぜ?

 

 突如、視界がブレる。

 気づけば、ヘルディオは倒れていた。

 痛みも、何も感じることなくいつの間にか倒れてしまっていたのだ。

 

 はて、俺は何故倒れているんだ?

 そう思い腕に力を込めても、起き上がるどころかピクリともしなかった。

 

 そのことに、ヘルディオは異変を感じる。

 指先もだんだんと冷えていく気がするし、何よりも自分を囲むように漂う赤い水が理解出来なかった。

 

 なんだこれは?血なのか?なら誰の?まさか……俺のか?

 

 

「へっ、コソ泥めが。生きて帰れるとは思うなよ?」

 

 地を這うような低い声が、ヘルディオの頭上から聞こえた。

 そして、ヘルディオはやっと理解したのだ。

 

 後ろに束ねた青い長髪、全身を覆い隠す青の装束。

 そして何より……どこまでも深い色をした、紅の槍を見て。

 

 ああ、そうか。

 俺は、俺はーーーーーーーー

 

 

 

「ま、英雄に殺されたんなら、栄光だと思って逝くんだな」

 

 あの、クーフーリンに殺されたのかーーーーーーーーー。

 

 

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