ぼーん、と除夜の鐘のような重厚な響きを、浅見由衣と
異様な重低音が立て続けに空気を振るわせた。真っ暗な積乱雲に視界を阻まれる中、それは雷鳴の轟くようにも感じられた。まさか寺に吊り下がっている大きな梵鐘があぜ道の真ん中に落ちて来ようなどとは想像だにしないから、一連の不可思議な現象を目にした浅見由衣は、ちょっとしたパニックに陥っていた。
「ちょっと、これ大丈夫なの……まずくない?」
「…………」
この場において、浅見にとって唯一の拠り所である御子江が沈黙したままなのが、より不安をかき立てる。二人の視線のさきには矢を放ったのち地面に両手をついてうなだれている梓巫女の姿があった。──その唯愛は息を吸おうと顎をあげた際、視界の端にふたつの人影を見つけて、猫のように腰を上げると墨色の暗雲のなかへ走っていった。
その暗雲も次第に風に流れて少しずつ小さくなっていく。水田を濁らせる黒い水は、時間を逆行させたように、水中に広がった泥炭が乾いた羽毛のかたちを取り戻して風に消えていく。そうして棚田のあちこちに立ち昇りはじめた墨色の細長いつむじ風を、秋山凜子は不思議そうに眺めている。いつしか石切兼光の刀身を覆っていたヘドロも消えていた。
「……勝った……勝ったのね!」
空を見上げた瑞穂はホッと胸を撫で下ろした。紗世と多恵も脱力して地面にへたり込んだ。梵鐘を騒がせていた虚空丸の声は止んでいた。
そこに白衣の袖を血に染めた唯愛が走ってきた。
「──誰かいる。こっち見てた。たぶん警察だよ!」
ええッ、と三人が色めきだった。
「はやいとこ行きましょう。このもやが晴れないうちに……」
紗世と多恵が顔を見合わせた時、
「唯愛、あんた、それ……」
瑞穂は唯愛の左腕を指した。深々と刻まれた裂け目はクレバスのようで、もはや血の一滴も滴っていなかった。
「ああ、これ、うん」
当の本人ですら自分の状態を把握していないのか傷口を不思議そうに眺めているばかりで、そんな唯愛が平静でないことは誰の目にも明らかであった。
「あんた、やばいって。はやく手当てしないと!」
「うん、わかってる」
秋山凜子が頭上に右手をかかげると、あぜ道に刺さった長巻が引き抜かれてその手に吸い込まれた。さらに瑞穂が放り投げた鞘がどこからか飛んできて刀身にストンと被さった。
「唯愛はわたしが連れて行く……
長巻を瑞穂に手渡しながら、凜子は紗世に尋ねた。
「え、ええ……お願い」
「こっちは自力で戻るよ」
言いながら瑞穂はオートバイのほうへ走った。
「それじゃ、みんなひろがって鐘に手をついて」
あとの三人が凜子の指示で梵鐘を囲んだ。凜子は梵鐘に飛び乗ると指先で空を切った。──四人を結んでできた四面体の重心から空間の亀裂が生じ、彼女たちと梵鐘は、そこに吸い込まれた。
ようやく棚田が見通せるようになった頃、そこには誰もいなかった。
──遠ざかるバイクの排気音を聞いた浅見由衣は「終わったの?」と、おそるおそる尋ねた。暗雲が細かく千切れて霞んでいくのを眺めながら「ひとまずは」と、うなずいた御子江華怜は、打ち上げ花火を鑑賞し終えたみたいに手ぶらで車内に戻っていくので、浅見も慌ててあとに続いた。
「ひとまず?……まだ続くってこと?」
「と言っても、残っているのはあと一体ですが」
「さっきの子、そっちに向かったってこと?」
「さあ、どうでしょう……もう今夜は終わりだと思いますが」
ボンネットを波打たせたセンチュリーが、車体の何処かからキュルキュルと情けない音を漏らしつつ、ようやくエンジンを始動させた。
「どうしてそんなことわかるの?」
「勘ですよ、カン」
御子江が携帯電話を操作してブツブツと会話をはじめたので、浅見はそれ以上の追及を諦めた。
秋山凜子は泰陽寺に全員と梵鐘を帰還させると、返す刀で、唯愛を連れて
待機している女医が処置用の部屋に唯愛を運んだ。中央にあるのは、外科手術のための設備というよりは検死のためのステンレスシンクのような作業台で、それでも無いよりはマシである。
唯愛は顔色も青白く、瞳孔を震わせて、首の位置も定まらない。女医は彼女の上腕に巻きつけた止血帯のロッドを回し締めながら「輸血が必要かもしれない」と小さく言った。
とはいえ、それを梓巫女に施しても大丈夫なのだろうか。彼女は、乃愛の怪我に際して提案した血液製剤による輸血療法を、しゃべるムササビに反対され釘を刺されたのを思い出していた。
「わたしの血を使ってください」
片腕を吊った乃愛がこちらを睨むように立っている。
「わたしにはわかります。唯愛は全身全霊で弓を射ったんです」
「どういうこと?」
「わたしと唯愛は同じ血液型です。どうか使ってください」
「乃愛ちゃん、気持ちはわかるけど、それは無理よ」
「どうしてですか」
「じかに血液を送るのは危険行為よ。双子であろうが梓巫女であろうがリスクを無視できない」
「そんなこと言ったって!」
静かな口論……もとい乃愛を落ち着かせる女医の声を聞きながら、汚れた衣服を交換した凜子のもとに外の闇から草の男が現れて言った。
「──秋山どの、なにやら不穏な動きをする集団があります」
「不穏な集団?」
自分たち以上に不穏な集団がいるのだろうか。という疑問はさておき、
「十三分ほど前、寺院に預けられた怪異の置物が持ち出されました。三か所から同時に」
「置物……というのは、巫女が夜導怪を炎で焼き固めたものか?」
ええ、と男はうなずいた。
「梓巫女がこれまで封印したイタチ、ヤモリ、ヘビの置物は、いままで市内の三つの寺院に安置されておりましたが、それが次々と、しかも少々、手荒な方法で……」
「雀女は無事ですか?」
「ええ、秋山どのが運んだアレは、どうやら規格外だったようで……」
「それは浄胤和尚の指示で?」
「恐らくそれはないかと。和尚はいまだ病院に。今頃は就寝中でしょう」
「彼のほかに誰が?」
「追跡を続けておりますが、まだ掴めておりません」
「……わかりました」
凜子は泰陽寺へ跳んだ。梵鐘のまえで休んでいた紗世と多恵は、ワープしてきた彼女を見るやハッとして駆け寄った。
「唯愛は?」
「大丈夫だ、医者がついてる。──怪異たちを動かすように言われた?」
「いや……どうして?」
凜子が説明すると二人は首を傾げた。
「そんなの知らないよ!」
「私たちのほかに
そうか。と言ったきり凜子が黙り込んだので、二人は不安そうに顔を見合わせた。
「なに、泥棒ってこと?」
「三つのお寺から一斉に盗まれるなんて、偶然で片付けられるかしら」
「ちょうど我々が動いているのと同じタイミングで多発的に行われた。なにか嫌な予感がする」
多恵は梵鐘に手をついて「これは大丈夫かしら」と言った。
「この重さの鐘を持ち出すことは出来ないだろう。だけど、二人とも危険を感じたら……」
「わかってる。宿坊に引っ込んでるよ。どうせ何もできないだろうし」
そう言いながら紗世は指先に挟んだペラペラの紙垂を左右にあおいでみせた。稲妻を呼び起こす邪気払いの道具も、あくまで怪異を制圧するための力であって人間に対するものではない。それは瑞穂の長巻から放たれた秘剣・白刃魚の水滴を受けても凜子が無傷だったことからも分かる。
「なにかあれば私の仲間が見張っているだろうから」
「仲間って?」
そう言った紗世はハッとして口を閉じた。烏丸スバルのことを思い出してしまい辛かった。多恵も同じようなことを勘付いて凜子のほうをチラと見たが、彼女はなにも答えずに走り去っていった。その一方で、なにも知らない瑞穂が長巻を片手に小走りで正面から境内に入ってきた。
「ひゃー、もう最悪っ」
泥まみれの瑞穂が頭を振ると乾いた土がパラパラと宙を舞った。
「バイクは?」
「近くに置いてきた。見つからないようにね……唯愛は?」
「凜子さんが連れてったわ。お医者さんに診てもらってるって」
「そう、ならよかった……」
安堵のため息をついた瑞穂に、二人は先ほどの話をした。封印した怪異が持ち出されたことを聞いた彼女は、面倒くさそうに頭を掻きむしり、またしても乾いた土がパラパラとこぼしながら宿坊のほうに歩きはじめた。
「……とりあえず、私は風呂に入るから。バケモンが来ようが泥棒が入ろうが……火山が噴こうが疫病が流行ろうが、わたしは風呂に入る──!」
泰陽寺を後にした凜子がしばらく夜道をひとり歩いていると、月明かりのつくる木陰のなかを小さな影が横切った。
彼女の見上げた先にある枝の樹洞から顔を覗かせたのは毛むくじゃらのモモンガであった。特徴的なクリっとしたまん丸の黒い目がふたつ、こちらを見つめていた。
「お前か、境内からずっとこちらを見ていたな?」
モモンガのいる方向から、舌ったらずな女性的な声が流れてくる。
「──気をつけて。彼らは武装している」
「彼らとは何だ、なにが目的だ?」
「──彼らは夜導怪を狙っている。強力な依代としての夜導怪を……」
「そいつらの名前は?」
「──それは言えない」
「お前の親戚か身内といったところか?」
声は答えなかった。モモンガは短い前足で頭を掻いていた。
「……コテージに梓巫女がいる。傷を負って血が足りてない。医者は輸血を躊躇している。行って指導してやってくれ」
凜子の言葉を承諾したのか、拒んだのか、しばしの沈黙のあとにモモンガは樹洞から這い出て、枝をつたい、木の幹を登りはじめた。
「もし梓巫女が一人でも欠けるようなことがあったら……お前たちをそこから引きずり出して、残らず叩き斬る……!」
モモンガが幹を蹴って宙におどり出た。それは全身を座布団のように平たく広げて滑空し、森のなかに音もなく消えていった。
──それからほどなくして、
ふと、道の左右を田畑と林に挟まれ、進路上に三台のみとなった瞬間、二台目のワゴン車がわずかに減速しながら窓を下ろした。車外へ伸ばした片腕が持っていたのは、銃身に太い消音器を付けた
プスス、プスススッ……と、鼻息のような発射音は、アスファルトとタイヤの乱雑な摩擦音にまぎれて、後続のセダンの前面に無数の弾痕を打ちつけた。急ブレーキを踏んで射線から逃れたセダンを嘲笑うかのようにワゴン車は音を立てて急加速した。
『……銃撃発生、対象は銃火器を所持、対象は銃火器を所持!』
工事用の囲いを四方に立てた廃車置き場に、草の面々と凜子の姿があった。整然と積まれたスクラップの片隅にプレハブ小屋があり、そこは草の通信施設のひとつであった。
『黒のワンボックス二台。一四〇号線を熊谷方面へ向けて走行中。花園インター付近から二五四号線、関越道へ合流する可能性あり……』
『一台は二九九号線を南下、三分後には翔丸トンネルを抜けて市外に出ます』
無線機に送られてくる情報を精査する一同をよそに、小屋から数メートル離れた場所に凜子は立っている。
「──秋山どの!」
草の男に呼ばれるや否や、凜子は印を切り、両足で地面を蹴った。彼女の足もとに地割れのような青白い亀裂がスゥっと現れて──コンクリートの天井を抜けて着地したのは、全長およそ二キロの翔丸トンネル内のちょうど中間地点、オレンジ灯に照らされたセンターライン直上であった。
凜子は五十メートルほど先に、こちらに向かって疾走するワゴンを捉えた。同時に相手も凜子を見つけたようで、彼女を威嚇するように、ともすれば轢き倒さんとばかりに加速をはじめた。
三秒と経たずにワゴンが眼前に迫ってくる……その瞬間、凜子は後部座席にボスンッと尻もちをついている。
「──ッ!」
外にいたはずの女が飛んできた。いや、降ってきた!──男たちは言葉もなかった。
運転手を除いて助手席に一人、後部座席に三人──目が合った彼らの首すじを凜子は鞘に収めた石切兼光で打ちのめし、助手席の男が向けた短機関銃を、グリップを握る左手ごと棒手裏剣でダッシュボードに縫いつけた。
「ぅいいっ」
男の引きつった悲鳴は爆竹のような発砲音と閃光にかき消された。意図せず射線に入ってしまった運転手が
──秋山凜子が、茶褐色の置物と、
「これが対魔忍……」
草の男が凜子に対して、そこで起きたことをわざわざ尋ねることもしなかったが、彼女の連行してきた作業着の男が、その左半身を鮮やかな血吹雪で染め上げているところを見るに、まずまずの修羅場であったことは間違いなさそうだ。
涼しげな顔をした凜子は、足もとに転がる男の左手首を掴み上げた。
「お前ら誰だ。どこの指示だ」
男は唇をわなわなと震わせている。二十代後半ぐらいの、市役所の相談窓口に立っていそうな優男で、体格や表情から訓練された人間でないことは容易にうかがい知れた。
「お、おれはバイトだ……運ぶのに雇われただけで……な、何も知らない」
汗と血に濡れる左手首を締め上げると、手の甲を貫通した棒手裏剣の先端から蛇口のように鮮血が流れ落ちる。そのしずくを頬に受けた男は、いよいよ怯えたように首を振った。
「……本当になにも知らないです、すんません、ホント許してくださいっ!」
豪を煮やした草の男が凜子に小さく言った。
「どうか、尋問は我々に」
「…………」
凜子が手首を解放すると、男は泣きながらその場にうずくまった。
「お願いします、お願いします、見逃してください……時間までに戻らないといけないんです!」
「戻りたいなら洗いざらい話すことだな」
土下座するように頭を地面に押しつけて、男は叫んだ。
「はやく帰らないと、こ、殺されるっ!」
「だから誰に──」
その時、丸くなった男の背中の、ぴんと張った作業着が背筋にそって縦に破れた。突然のことに凜子も草の男もハッとしたが、さらに二人を驚愕させたのは、肩から腰にいたるまで男の素肌に奇妙な記号が描かれていたことだ。
「これは……」
一瞬のうちに確認できたのは、漢字と梵字の連なり、大きな人型と五芒星ぐらいのもので、タトゥーにしてはお粗末で、落書きのような筆跡がかえって不気味だった。肩を震わせて男の呼吸が荒くなった。背中の筋肉と皮膚を波打たせる“なにか”が、男の体内をいたずらに駆け巡っているのが見えた。
「おい、どうしたッ」
凜子が肩を掴んでからだを起こそうとすると男の手足もそのままついてくる。全身を強張らせて、ひっくり返った亀のように仰向けに倒れた彼は呼吸すらままならないのか、クッ、クッ、と喉を鳴らしている。
「ぐ、ぎぃ、ぎ、ぎぎ……」
食いしばる歯の隙間から苦悶の音がする。助けを求めるようにキョロキョロと虚空をさまよっていた眼球がひっくり返ると、男の四肢と頭部が作業着の袖と襟のなかに吸い込まれるように消えていく──!
アッと驚きの声をあげて凜子が作業着を掴んだが、そこに人間の痕跡は残されていなかった。足もとを薄汚れたスニーカーがコロコロと転がった。
「口封じ、か……」
草の男がつぶやいた。通信小屋から顔を出した女が、立ち尽くす二人に声をかけた。
「急襲班、接敵します、あと三分!」
逃走グループは一四〇号線を二手に分かれた。一台は山を突っ切るバイパス道へ、一台は北東へ流れる荒川──永瀞渓谷と呼ばれる景勝地──をなぞるように県道へ。このとき彼らの動きに合わせて道路に設置されたライブカメラが数分間、映らなくなったのだが、後日システム障害として片付けられた。
──前者のグループはトンネルをひとつ抜けたさきにある道の駅に入った。営業を終え、常夜灯だけがともる駐車場に停車し、降車した五人組は周囲に目を配りながら車の後部に回った。
「おい、替えの車どうした?」
男が駐車場を見回しながら、バックドアを押し上げる一人に尋ねた。
「白のカローラ、“ち“の三三六八、聞いてなかったのかよ!」
「それが見当たらないから言ってるんじゃないか!」
言い合いをはじめた二人をよそに、車内から厚手の布で包んだ塊を運び出そうとした男三人が突然、ワッと飛び上がり、そろって崩れ落ちた。ワゴンの死角から現れた複数の影が、手に持った黒塗りの
それに気付いた二人は踵を返して逃げ出したが、新たに道の駅へ乗り入れた二台のセダンが減速することなく彼らに突進し、ボンネットに押し上げ、はね飛ばした。頭を地面に打ちつけた一人はそのまま動かなくなり、受け身をとった一人はセダンから降車した男にバトンで叩きのめされた。
布に包まれた怪異の置物を確保した草の急襲班は、倒れている男たちをそのままに来た道を引き返していった。
──後者のグループは、荒川と山に挟まれた二車線の道路をひた走っていたが、峠道に差し掛かったところで不意に前方から照明を浴びせかけられた。昼間のような光にたちまち車内が慌ただしくなった。
「止まるな、行け行け!」
視界を真っ白に飛ばされながら運転手はアクセルをベタ踏みして加速した。直後に破裂音がして制御を失ったワゴンはガードレールと鉄柵に接触した。彼らは明かりから逃れるのに必死で、道路に敷かれたスパイク付きのバリケードに気付かず、まんまと四つのタイヤをバーストさせたのだった。
「ちくしょうッ」
助手席の若い女が短機関銃を片手に車外へ踊り出ようとした。フロントガラス三、四の小さな穴が空いて、ヘッドレストに肉味噌と茶色に染めた髪を散らした。ドアが破られ、残る四人の男たちは引きずり出された。黒ずくめの集団が彼らを囲んでいた。
「運ぶよう指示されただけなんだ、本当だ」
「どこへ持ってくんだい?」
「それは……」
言い淀んだ彼らの表情が恐怖から混乱へと変わっていった。彼らは一斉に胸をかきむしり、地べたを這いつくばった。
「うう……取ってくれ、誰か、取ってくれェ!」
「雇い主はだれだ、答えろ!」
「それだけは……い、言えない……」
「言わなきゃ、お前ら全員報われねェだろ!」
草の言葉に感化されたのか、男たちのなかでひときわ若そうな一人が、震える手でポケットから携帯を取り出し、放り投げた。
「……これか、ここに入ってるんだな?」
男たちの背中が隆起した。彼ら自身も予想だにしていなかったのか、ひいい、と悲鳴をあげるものがいた。
「爆弾かッ」
「離れろ!」
草たちは四人から距離をとった。ミチミチ、コリコリと砂を轢くような音がして、土下座をするように地面に頭をこすりつけた四人は背中をしきりに機にするようにもがいている。草のひとりが意を決して作業着の背面を襟もとからナイフで割いてみると、盛り上がった背中に描かれた奇妙な文字と図形が露わになった。
──ブポボッ。
掃除機に吸われたような音がして、その場から四人の肉体が忽然として消えた。あとには、くたくたになった作業着と靴と靴下、下着だけが残された。それはワゴンの助手席に残された女も同様であった。
草たちは呆気にとられながら無線機に呟いた。
「一班、完了しました。五人、生死不明。置物を回収します……」