「謎の存在・・【アトラル・カ】・・。」
『そう。蟷螂のような腕と爪、しかしそこには翼のような翼膜が付いている。しかも、蟷螂の見た目で金属のような硬さ。そして、蜘蛛のように尾から糸を出す。それはワイヤーよりしなやかで弾力があり、なおかつ強い。これを使い、巨大な怪物のように瓦礫を組み合わせた化け物を作り上げて内部から動かす。知性は高く、凶暴で狡猾。』
「まさに謎の存在だな・・。そんなものが?・・生きてるのか?」
『私のようにISの意識として存在すれば、居る可能性は大いにある。』
手に入れた情報をお互いに交換することに成ってしまったが、それでも大きな収穫はあった。
此処にはすでにナターシャ・ファイルスはいない。拘束した状態のイーリス・コーリングを連れて帰国したからだ。学園長に尋問内容と対処は話しているので、あとは報告を待つのみだ。
それよりも考えをまとめたい。
まずは、今回の事件によって手駒に二人の熟練したパイロットが手に入る事。
一人は現国家代表、もう一人は専用機を与えられるほどのテストパイロット。
この二人が学園の教師として、または戦力として配属されるならば、十分に各国の戦力からも相手できるだろう。
アメリカの首輪さえなければだが・・。それも致し方ない事か。
むしろほかの国の方が厄介なのだからな。アメリカ自体は技術提供をしながらデータ取りで済んでいるが、他国は紛争に、戦争用にと軍にISを配備して国連軍として紛争地に送り込んでいる。それで実際に戦闘データを取っているのが実情だ。
ドイツではISを人に合わせるのではなく、人をISに合わせる研究を行っていたくらいだ。
どこかの国も後ろ暗い事など叩けば埃が舞い上がるだろうぐらいなのは知っている。
下手するとそれが原因で冷戦の氷河期になることは避けたいのだからな。
まさに氷河期で骨から凍る『アイスボーン』だ。
そんな事よりも『アトラル・カ』と織斑千冬の事を調べなければならない。
これが最優先な状況なのはわかった。しかしどうするべきなのか・・。場所はどこにいるのか・・。相手にどう対処するべきなのか・・。
「問題が山積みだな。」
『確かにね。織斑千冬、アトラル・カ・・そして、篠ノ之箒・・。結局敵対するならあの時始末しておけばよかったわね。』
「確かにな。・・しかし、あの時は捕獲依頼。討伐じゃない。篠ノ之は十分に対処したと思っていたし、恐怖を植え付けたから、敵対できないと思ったんだがな?何か失敗したか?」
『・・もしかして、アトラル・カに乗っ取られた?』
「ISとなったモンスターに?・・恐怖で委縮したところに意思を奪われるか・・。あり得るな・・。ならばもはや人ではなく化け物・・モンスターだな。」
そう判断した俺は、それに対しての考えで動くことにしようと決めた。
襲撃からしばらくの期間が過ぎ、ナターシャとイーリスが学園に赴任してきた。専用機の機体を失ったイーリスには学園から一機、汎用機を貸し出して専用の装備をつけている。普通は無いIS用のナックルなどの格闘装備だ。それを用意したのは俺だが。
もとになった装備はいくつかあるが、双剣なども取り入れた動きを想定した武器を作らせそれを適用した。イーリスは機体になれるように訓練を欠かしていないらしい。
俺は警備の班長中本警備室長を前にして話す。
「ハンター・・、いや、イチカ・ハントは学園を去るだと?」
「はい。どうやら織斑千冬が動いている模様。目的は復讐。ならばここにとどまるのは学園に対し危険と判断。先ほど学園長より、アメリカの元国家代表イーリス・コーリングが問題を起こした件でこの学園に送られること、一緒にナターシャ・ファイルスもともに赴任することが決定したと・・。ならば戦力は十分。ここにとどまる必要もなく、危険のないところで犯罪者グループ、織斑千冬、篠ノ之箒を一網打尽にしようと思います。」
「それは・・、君じゃないとだめなのか?」
「えぇ・・。どうやら相手は自分じゃないと【狩れない】相手らしいですから。」
俺はそう言って【ダブルクロス】を見せる。
「・・そう・・か。ならば仕方ないのかもしれん。君ほどの尋常じゃない機体でないと相手できない化け物ならば・・。」
そう言って中本隊長は俺の事を真剣な眼差しで見つめる。
「勝てる見込みはあるのだね?」
「当然。・・俺は【ハンター】です。狩れない獲物はいない。」
そう言った俺を見て中本隊長は頷いた。
「ならば、しょうがない。ここを危険にさらすことが一番のリスク。それを避けるためならば致し方ない事か‥。しかし、相手がどこにいるのか分かっているのか?やみくもに探すわけにもいかんだろ?」
「それは束によって情報を拡散。それにより、いくらかの組織がこちらが手薄になったと勘違いして来たなら、イーリスとナターシャによって迎撃・対処すればいい。元とはいえ国家代表と最新鋭機のテストパイロットに選ばれる二人だ。十分に強い戦力となる。」
「ふむ・・、確かにな。」
顎に手を当てて唸りながらも、納得したようだ。まぁ、強さから言えば明らかに下位互換だからな。最強戦力を失うのは惜しいのだろう。
「しかし、それでうまく釣れるか?」
「篠ノ之箒、織斑千冬の両名は織斑一夏に固執していた。そして、俺という人物にも。だったら、イチカ・ハントの名を一時的に捨てて過去の織斑一夏に【戻る】。そうすれば、あいつらは確実に釣れる。」
「・・やはり、君が織斑一夏だったのか。」
「まぁ・・。体自体はかなり変わり果ててしまいましたがね。・・鈴には悪い事をした。でも、これが終わったら俺は・・きっと消えます。だから、・・これでお別れです。」
「・・急に秘密を明かしたと思えばそう言う事か・・。」
「すいません。・・例の化け物を倒した際に、元に戻れる保証は無いので・・。」
全力で龍化も使い完全につぶす。その際にきっと俺は龍化のし過ぎで戻れなくなる。化け物になるだろう。そんな俺はここに居る資格はない。
「・・そう、か。」
そう言って中本隊長は深く座り、沈み込んだ。
「もう、これ以上は聞かないよ。君が進むべき道に行きなさい。」
「はい・・。お世話になりました。」
学園寮にはすでに連絡し、決定済みの事だ。本来ならひっくり返すことすらできない。そこまで進めて俺は今回の話をしたのだから。既に引くことなどできない。
それを分かって、中本隊長は唸っていたのだろう。
「では、・・ありがとうございました。」
「あぁ、こちらこそ・・。君の幸せを願うよ。」
そう言ってお互いに握手をした後、俺はその部屋を後にした。
そして、廊下を歩き、窓から空を見る。外は暗く、星と月が見えた。
あちらの世界とは全く違う空を見上げ、懐かしき思い出を頭に浮かべた。
「・・終わったなぁ・・。」
色々と楽しい事もあったが、やはり俺は化け物。
こんなところに居てはいけないんだ。学生生活など、やはり俺には・・化け物には不相応だったのだろう。
そう思い、空を見上げた首を戻す。
拳を握り、元の部屋に戻るとすぐにすべての荷物を片付け収めた。
すぐに必要そうなものはポーチへ居れて腰に下げ、あとは収納箱に入れた後、ソレをISに収めて学園の表に出る。
そして、頭を下げて学園に礼をする。
「こんな化け物を受け入れてもらいありがとう。そして、さようなら。」
こうして俺の学園生活は終わりを告げ、知り合いの前から姿を消した。