マネージャーさんが熱を出してから2日が経った。
でも、マネージャーさんは目を開けることはなかった。
次第に、不安が募っていく。
まほろや莉子と一緒に話していると、だんだんと不安になっていく。
だからわたしは、1人でいることの方が多くなっていた。
「マネージャー……さん……」
マネージャーさんの方を見ても、目を閉じている。
2日間、ほとんどこんな感じが続いている。
たしかにマネージャーさん、普段から忙しくて、なかなか大変だったとは聞いてたけど……
マネージャーさんはすごく真面目だから壊れやすいのかな……でもそれでわたしに迷惑をかけないでほしい。
そんな思いが強くなる。
本人はそんなこときっと意識してないし、わたしのこともちゃんと考えてくれているはず……だとわたしは信じていた。
それでも、時計の針は止まったまま。
わたしとマネージャーさんの2人だけの…‥秒針はいつ動くの……
このまま永遠に止まったままなんて嫌だよ……わたし……どうしたらいいの……
そんなことを思っていたら、気づけば夜になって、わたしも寝ないと行けない時間になっていた。
「あ……もう寝ないと……」
わたしは、マネージャーさんがいるベッドに入ったその時……
「ん……んん……」
え……?
私は何が起きたのか分からなかった。
「み……みは……る……?」
わたしの名前を呼んで、マネージャーさんが起きてくれた。
「マネージャー……さん……」
マネージャーさんの頬にわたしの雫が1滴落ちた。
その雫が光り輝いていた。
「あれ……?何があったの……?」
マネージャーさんの記憶が少しだけ剥がれ落ちていたのかな?
私は悲しい気持ちを和らげるため、マネージャーさんの唇を奪う。
「ん……」
それは、優しくて深くて……ゆっくりと時が動くのを感じる。
自然と悲しい気持ちが薄れていく。
お願い……マネージャーさん……目を覚まして……
ただこの一心だった。
正直、わたしもあまり覚えていない。
でも、マネージャーさんが目を覚ましたことだけは鮮明に覚えていた。
「マネージャー……さん……」
わたしは優しくて、甘くて……透き通るような声で呼ぶ。
「美晴……さん……?」
マネージャーさんもわたしの声に応えてくれる。
この時間が、一番好き。大好き。
それは、この先ずっと変わらない。
マネージャーさんがわたしの頬を触る。
「美晴さん……ごめん……」
「マネージャーさん……大丈夫ですか……?」
「僕の心と体のバランスが……完全に崩れ落ちちゃったみたい……」
「だから……こんなことに……」
「うん……ごめん……」
「マネージャーさん……謝らなくていいですよ……これから……ゆっくりでいいですから……マネージャーさんのこと……ゆっくり調律していきますね……?」
「ありがとう……」
マネージャーさんがわたしに抱きつく。
それは、少しだけわたしの胸を締め付ける。
でも、幸せな気持ちが強かった。
「美晴さん……」
「なぁに?」
「すっごく……幸せだよ……大好き……」
マネージャーさんが幸せっていう言葉を口にしたら、わたしもちょっとだけ胸が高まる。
でも、その気持ちを抑えて、わたしは応えた。
「わたしも……すごく幸せだし……大好きです……」
マネージャーさんがふとした時に発した言葉って……彼はきっと、何も気付いてない……
でも、その幸せっていう言葉だけは、わたしも、マネージャーさんも、きっと覚えているはず。
マネージャーさんは、熱が下がってないのに、まだちょっとクラクラしてた。まだふらついてて、目線も合ってないような感じがした。
でもそれ以上に、マネージャーさんが目を覚ましてくれたことが嬉しかった。
きっと彼は、まだ喋るのもままならない。
それでも、わたしに伝えたいことがあるから、口を開いてくれているはず。
でも無理だけはしないでほしい。
わたしはマネージャーさんの目を見つめた。
「いっぱい……甘えていいんだよ?」
それは、わたしもマネージャーさんも、お互い無理しないでほしい……そういうことに違いない、そんな気がした。
「はい……」
不安と疲れから解放されて、わたしはコテッと寝てしまった。
マネージャーさんが頭をポンポンと撫でてくれて少しだけドキドキしてる。
うぅ……いまだに慣れないよ……
ちょっぴり恥ずかしい気持ちもあったけど、幸せな気持ちが強い。
わたしは、ゆっくりと目を閉じた。
「おやすみ……」
マネージャーさん……おかえり……
ー翌朝ー
「ん……」
わたしがマネージャーさんよりも早く起きた。
でも、マネージャーさんはすぐ起きた。
「おはよう」
久しぶりに、この言葉をマネージャーさんに言えた気がした。
なんだか、嬉しかった。
少しだけ気持ちも和らぐ。
「美晴さん……おはよう……」
マネージャーさんも少しずつ元気になっていた。
それが何よりも嬉しかった。
「マネージャーさん、朝ごはん食べますか?」
そう聞くと
「うん。美晴さんが作ったご飯が食べたいな……////」
「うふふ。今から作ってくるから、待っててくださいね?」
「うん。楽しみにしてる」
なんだか、ちょっとだけ夫婦感があったけど……マネージャーさんも気にしてなかったし……いいよね……?
わたしは、マネージャーさんの分のご飯も作る。
風邪が治ったばっかりだから、口に入れやすいものがいいよねということで、朝はフレンチトーストにした。
でも、ちょっと甘さは控えめだけど。
これなら、わたしとマネージャーさんでわけわけして食べれるからね。
わたしがご飯を作ってる間にマネージャーさんが階段をゆっくりと降りてきた。
マネージャーさんは重たい目をこすっていて、まだ眠そうだった。
みんなは仕事やレッスンに出ていて、わたしは今日は休みだし、マネージャーさんもこんな感じだから、ずっと家にいようかしら。
たまにはこんな日が……あってもいいよね?
そんなことを思っていたら、朝食ができた。
「おまたせー!」
「うん。すごく美味しそう」
マネージャーさんも美味しそうに見つめる。
それがわたしは嬉しい。
「美晴さんは優しい」ってよく言ってくるけど、マネージャーさんだって、優しいですよって言いたくなっちゃう。
「冷めないうちに食べましょ?」
「そうだね。いただきます」
「はーい。いただきます」
マネージャーさんと私で、ちょっと遅めの朝ごはんを食べる。
マネージャーさんも美味しそうに食べているのをみてなんだか安心した。
ここ数日、何も口にしてなかったからかな?
まるで、お腹をすかせた子どもみたいに食べていた。
その様子を見てると、何だか嬉しくなってきた。
それは……わたしがマネージャーさんのことを好きだからなのかな?
答えはわからない。
でも、嬉しいことに変わりはなかった。
「ごちそうさまでした」
「あ、洗い物やっておきますから、置いといてくださいね?」
「うん、ありがとう」
マネージャーさんには、いっぱいお世話になっているから、これくらいはやらないと……ね?
洗い物が終わって、部屋に戻ると、マネージャーさんはわたしのベッドで再び眠りについていた。
まだ本来のマネージャーさんには程遠いけど、これからちょっとずつ良くなってほしいな……
わたしは、洗い物が終わると、わたしの部屋に戻った。
マネージャーさんは、またうとうとしてた。
まだ心のどこかで体のだるさが残っているのかな?
でもしばらくは無理をさせない方が良さそうね……
でも、マネージャーさんが元気そうでよかった……
マネージャーさんがまた元気になったら……散歩に出かけたり、また2人で何かしたいな……
でも、それができるようになるまでは、もう少し先の話。
それまでは、みんなで支えてあげよう。そんな思いが強くなっていた。
「すぅ……すぅ……」
マネージャーさんは寝ていた。
まだマネージャーさんが元通りになるまではもう少し時間がかかりそう……
でも、もう少し……だよね……?
わたしの知ってる「静かだけど、いつも優しい」マネージャーさんと早くお話したい……
わたしは彼が寝ているベッドに毛布をかぶせる。
ゆっくりしてて、ふわふわしてるこの空間と時間に、わたしたちは支配される。
その時間に、チクタクと時計の秒針の音だけが流れてゆく。
わたしは、少しだけ笑顔になる。
マネージャーさんの寝顔がかわいいから、ついついいじりたくなっちゃう。
でも、それをするとマネージャーさんにいじわるって言われる……
それも、1つの楽しみ。
わたしは、机の上に置いてある日記をしまった。
その日記に、「マネージャーさんが、マネージャーさんであるために、わたしは何でもする」と決意を書いた。
皆さんこんにちは。おみです。
この度は「僕を愛する、君のために。Op.11」を読んでいただきありがとうございます。
このお話は実は書く予定がなかったのですが書き足しました。
マネージャーも美晴さんと同じく心因性発熱を起こしてしまい、それにより数日だけ寝込んでいました(人によって治りが違うのが特徴です)
そして最後の言葉「マネージャーさんが、マネージャーさんであるために、わたしは何でもする」というのは美晴さんならではなんじゃないかなと思ってます。
さて物語は間も無く東京編へ。お楽しみに。
それでは次回。