わたしにとって、初めてのことだった。
こうして、マネージャーさんの前でこんな姿を見せてしまったのは。
それでも、マネージャーさんは何も言わずに、ただ優しく、受け止めてくれて、心配してくれる。
それが、何より嬉しかった……
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(あれ……?)
わたしは目を覚まして、たしかにマネージャーさんと言ったはずなのに……マネージャーさんにはあたかも聞こえていないかのように振る舞う。
「美晴さん、起きた?」
(何かが……おかしい……)
「美晴さん……?」
(あれ……?声が……出ない……?)
わたしの口から、声が発せない状態に陥ってしまった。マネージャーさんも、その異変にすぐに気づく。
「声が……出ないの?」
(そうかも……)
声が届かないなら、私は、ジェスチャーで伝えるしかない。それも、ちゃんとマネージャーさんはわかっていた。
こんなことになっても、ちゃんとマネージャーさんは、わたしのために尽くしてくれる……それが嬉しかった。
「何か食べる?」
わたしは、しっかりと頷く。マネージャーさんも、そのことをしっかりわかってくれる。
「今から作ってくるからちょっと待っててね」
マネージャーさんはわたしの頭を撫でてから、部屋を出ていった。
部屋の中がわたし1人になる。
時計の針の音だけが流れていく。
こうしてゆっくりできるの……いつぶりかな……
気付けばわたしは、目を閉じていた。
「お待たせ。美晴さん……」
マネージャーさんが部屋に入ってきた。
でも、その時、わたしは気持ちよさそうに寝ていた。
だからマネージャーさんが部屋に入ってきていたことにも気づいていない。
「寝ちゃったか……」
マネージャーさんが再び部屋を出て行く。
こうして、マネージャーさんと過ごしているうちに、だんだんと体調が良くなっていっているような気がした。
そんなことを思いながら目を覚ます。
「ん、んん……」
「美晴さん……起きた?」
マネージャーさんはすぐ横にいた。
そのことに、少し驚きながらも、どこか甘えたいところもあった。
「少しはゆっくりできた?」
わたしはゆっくりと頷く。
マネージャーさんは、わたしのことを第一に心配してくれる……
それが嬉しかった。
「美晴さん、少しは食べて」
わたしはマネージャーさんにぺこっと頭を下げる。マネージャーさんも、それにしっかりと応えてくれる。どうして、マネージャーさんはこんな私でもこうして尽くしてくれるの……?
「今は僕のことは気にしないで。しっかり治してくれたら、他に何もいらない」
ずっと心配してくれているマネージャーさんへ申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、わたしはおかゆとりんごを食べた。
りんごは蜜入りのもので驚いた。
あまり食べていなかったので、お腹が空いていたのでこれでもかというくらい、食欲があった。
マネージャーさんもわたしが食べている姿を見て、少しホッとしていた様子だった。
わたしがご飯を食べ終える。
「美味しかった?」
うんと、しっかり頷いた。マネージャーさんもすこしホッとしてた様子だったのも嬉しかった。
「皿片付けてくるから、少し待ってて」
マネージャーさんがお皿を洗うために一度部屋を出て行く。
マネージャーさんがそばにいないだけで私は悲しくなる。
(あれ……どうしてなのかな……?)
それは答えにならなかった。
「お待たせ。遅くなってごめんね」
マネージャーさんが部屋に戻って来た時、わたしの鼓動が早くなる。
いつもマネージャーさんといた時にはなかった鼓動の早さだった。
気付けばわたしはマネージャーさんの腕を掴んだ。
「ん?」
その目は、ものすごく蕩けていた。マネージャーさんに、わたしが求めてるもの。それを当ててほしい気持ちがあった。
わたしが何を求めているのか、それはマネージャーさんも知っている。
そのために今ここにいてくれていると思うから。
「美晴さん、甘えたいの?」
わたしは恥ずかしそうにしながら、しっかりと頷く。
マネージャーさんが、少しだけ笑って、わたしにこう言った。
「わかった。おいで。いっぱい甘やかすから」
わたしの体は熱があるはずなのに、さらに熱を帯びる。
でも、それが嬉しかったからか、わたしは泣いていた。
「そんなに嬉しかったの……?」
そんなの、嬉しいに決まってる。だから、わたしは、しっかりと頷いた。
マネージャーさんがわたしの横に寝転がる。
ずっとドキドキしていたのに、またマネージャーさんは……ずるいことをして……
マネージャーさんがもうずるすぎた。
でもそのずるさに溺れたかった。
マネージャーさんに心を支配されたかった。
それが、今のわたしの癒しになるのだから……
わたしは、マネージャーさんの手に頬を当てた。
マネージャーさんの手は、洗い物をした後だったからか、少し冷たかったけど、わたしの体の暖かさと混ざって、ちょうどいい温度になっていた。
もうわたしは、マネージャーさんのそばにくっついて甘えていた。
マネージャーさんも優しくそれを受け入れてくれて、すごく嬉しかった。
わたしの深い傷が癒える、そんな優しく甘い時間だけがゆっくりと流れていく。
それは、わたしのこころにぽっかりと空いた大きな穴を埋めてくれる。
もう……わたしは、マネージャーさんに、溺れていた。
マネージャーさんへの好きな気持ちで、溢れていた。
わたしは、マネージャーさんの頬にゆっくりと唇を当てた。
マネージャーさんの頬は少しだけ柔らかかった。急だったから、すごくびっくりしてたのがまた可愛かった。
「美晴さん……大好きだよ……//」
少し恥ずかしそうにしながらマネージャーさんがわたしの頭を撫でる。
背中がゾクッとしたが、すごく久しぶりだったからなのかも。
マネージャーさんの優しい手の感触が、わたしの頭に伝わる……もうそれだけでも嬉しかった……
ありのまま思いを、マネージャーさんが、ちゃんと応えてくれる。
もっとマネージャーさんと一緒にいたいって思うようになる。
もう、わたしは感情を抑えられなくなっていた。
「美晴さん」
マネージャーさんが、わたしのベッドの上にくる。
その瞬間、わたしは唇を奪われる。
(あ……マネージャーさんに……支配される……)
「ん……」
(あぁ……わたし……もうダメ……)
両手を塞がれたわたしには、どうすることもできなくなっていた。
ただ、マネージャーさんに従うしかなかった。何も抵抗することもなく、ふらっと力が抜けたわたしは、ゆっくりとマネージャーさんに溺れていった……
わたしの目からは、涙が零れ落ちていた。
それは、きっと幸せの涙だった。
西日が窓の外から差し込む。
少し眩しいくらいだけど、このくらいがちょうどいい。
マネージャーさんに、また甘えたくなるくらい優しい時間だった。
わたしはゆっくりと目を閉じた。
この時間が続いてほしい。あるいは、ゆっくり流れて欲しい……誰にも邪魔されたくない……この時間も、この気持ちも……
ずっと……マネージャーさんと幸せな日々を送りたい……マネージャーさんさえいたら……他に何もいらない……
その思いがより強くなる……
静かに唇を離して、目を開く。
わたしの目からは……涙が止まらない。
だって、大好きな人に……たくさん甘えてるし、心を癒してくれる。
それに、マネージャーさんも答えてくれていたことがわたしにとって一番の幸せだった。
わたしはマネージャーさんの手をぎゅっと握る。
その手は、少しだけ大きくて、暖かかった。
こうしてマネージャーさんと一緒にいる時間って、なんだかあっという間に過ぎ去ってしまうようで……少し悲しいけど、すごく落ち着くし、楽しい……
あ、ちょっぴりクラクラしてきた。
でもそのくらいたくさん甘えることができて、幸せだったのかな……
それは、きっとマネージャーさんも同じ……
「僕はね……美晴さんといれて……幸せだよ……」
マネージャーさんのまっすぐな思いがわたしの心に届く。
ありのままのマネージャーさんの思いは、わたしにとって一番嬉しい。
わたしは、赤い空に照らされて、また寝てしまっていた。
ー2時間後ー
「……さん……」
「美晴……さん……」
私の耳元で響く、優しい声。
その声で、私は目を覚ます。
「よく寝れた?」
目はしっかりと開いてたから、よく寝れたのかな……しっかりと頷く。
「ならよかった」
マネージャーさんが笑顔になる。
あまりマネージャーさんは笑顔を見せないから、幸せなのかな……嬉しいのかな……
少しだけ気持ちが和らぐ。
わたしも、マネージャーさんにつられて笑顔になる。
「甘やかそうか?」
なぜだろう。わたしは心のどこかでマネージャーさんにもう甘えていたのかもしれない……どこか甘えてしまっている。
それでも、マネージャーさんは何も言わずに受け止めてくれた。
「美晴さん、おいで」
わたしはマネージャーさんの膝枕の上に乗る。
それと同時に、マネージャーさんがわたしの体に毛布を被せてくれて、頭をポンポンと撫でてくれる。
この温度とこの感触……どこか懐かしい気持ちになる。
「これで暖かくなった?」
わたしは嬉しくて、でもちょっぴり恥ずかしかった。だから、ちょっとだけ頷いた。それにマネージャーさんが反応してくれた。
「じゃあ……今夜は2人だけで暖かくしよっか?」
「……///////」
わたしの顔が赤くなる。もう……そうやって、マネージャーさんは誘惑して……
「そうやって、照れてるのもかわいいよ……」
マネージャーさんはわたしの頭を撫でる……恥ずかしすぎて言葉にならない。でも、こうしているだけで幸せになってる。もう、嫌なことなんて忘れるくらい。わたしは、マネージャーさんの袖を掴む。
「なに?」
わたしは、マネージャーさんの袖をぎゅっと掴んだ。顔はすごく赤かったから、マネージャーさんの袖で隠した。わたしの心の中に、わずかな不安があった。それでも、マネージャーさんの心は決まっていたかのように答えてくれた。
「美晴さん……もっといっぱい甘えておいで」
あ……伝わったんだ……わたしの思い……
少しだけ、嬉しくなって涙がこぼれ落ちた。
ゆっくりだけど、こうして幸せな時間が動き始めて、わたしは嬉しかった。
マネージャーさんの膝枕を受けて、わたしはまた深い眠りについてしまった。
マネージャーさんがポンポンと頭を撫でてくれる。わたしの心の底が、自然とマネージャーさんの優しさで満たされていく。
わたし、マネージャーさんにもう溺れきってしまったのかな……
今日はずっとマネージャーさんにいっぱい甘えて幸せだった。
マネージャーさんの膝枕が暖かい。
その暖かさを受けて、わたしはコテッと寝てしまった。
「美晴さん?」
「スー……スー……」
私は寝息を立てて寝てしまった。
「美晴さん……おやすみ……」
止まっていた時間が、ゆっくりと動き出した。
皆さんこんにちは。おみです。
この度は「僕を愛する、君のために。Op.2」を読んでいただきありがとうございます。
多分僕が書いた小説の中で1番の甘々回のような気がしますが、みなさんいかがでしたでしょうか?
こういうの、一度は書いてみたかったので、今回書けて良かったです。
さて物語の方に出てきた美晴さんの突然声が出なくなったのは、心因性失声症になってしまったからです。
ちなみに、熱を出したのも、心因性発熱です。(ここらへんは完全に設定になりますが)
心因性発熱は一度なったことがありますが、ストレスが熱になることあるんだなって感じでした。そのせいで試験受けれなかったり親に迷惑かけましたが……
という話は置いておいて、次回は明日投稿予定です。
それでは次話もお楽しみに!