その日の夕方、美晴さんは熱が下がった。
僕も心配していたから、少しだけホッとした。
「美晴さん、どこか行きたいところはある?」
僕がそう質問した。すると、美晴さんの答えはすぐに返ってきた。
「マネージャーさんと、夜景が見たい」
とのことだった。
「じゃあ、行こっか」
そう約束した。
その日の16時半ごろ、僕たちは夜景を見る場所へ向かっていた。
僕らは福岡市営地下鉄空港線を使って、目指した先は室見駅。
この駅は空港線の終点である姪浜の1つ隣の駅で、福岡市ではあるが、中心街からは少し離れた場所である。
「よし、降りよう」
「ここ……ですか?」
「うん。ここから20分くらい歩くよ」
「はい……」
美晴さんは、少し不安そうな顔をしている。
でもそれは、僕も同じ。
だって、行ったことのない場所だったから。
「ここの山を登るみたい」
「ここ……ですか?」
「うん、登ろっか」
「はい」
2人で山を登る。
道は険しくはなく、緩やかである。
その上、山道特有の道がないというのは一切なく、ちゃんと車が走れるように、道路も舗装されていたので歩きやすかった。
2人で歩くこと20分、目的地についた。
「美晴さん、着いた……」
「はぁ……はぁ……」
美晴さんは息切れしていた。
数日寝込んでたから……運動不足なのかな?
「大丈夫?」
「はい……」
僕がそっと手を差し伸べる。
美晴さんも、その手を握ってくれる。
「少しだけゆっくりしよっか」
2人で近くにあるベンチに腰を掛ける。
やってきたのは、愛宕神社と呼ばれる神社。
今日はここで夜景を見ることにする。
美晴さんも少しずつ落ち着いてた。
病み上がりには少しハードだったかな?
近くにあった自販機で買った暖かいお茶を美晴さんに渡した。
「美晴さん、落ち着いた?」
「はい」
「じゃあ、行こっか。もっと良く見える場所へ」
僕らはもう少しだけ歩いて、もっと夜景が見える場所へと向かった。
そこには、まだ見たことのない絶景が待っていた。
「わぁ……!」
「おお!」
2人が驚くのも無理はない。
「綺麗……」
「どう……かな?」
「すごく嬉しいです……!」
「よかった」
自然と僕も笑顔になる。やっぱりこういう景色には人を笑顔にさせるものがあるのだろうか……って考えてしまう。
「マネージャーさん」
「なぁに?」
美晴さんの顔はどこか切ない顔をしていた。
そこには、 少し寂しさもあった。
「わたし……この1年、マネージャーさんがいなかったら、どれだけ悲しい思いをしたのかなって……ふと……思っちゃったんです……」
「僕も、美晴さんがいなかったら、きっと今頃、悲しみのどん底にいたと思う……」
もしも僕が美晴さんに出会えていなかったら、今年1年、本当に悲しみの底にいたかもしれない……でも、そうならなかったのは、きっと美晴さんのおかげ……
「マネージャーさん……わたし……来年もこうなるのかなって思って……」
「美晴さん……」
美晴さんは泣いてた。
僕もすっと悲しい思いになっていく。
美晴さんが僕にもたれる。
その体は外の空気に冷やされて、冷たかった。
僕がぎゅっと美晴さんのことを抱きしめる。
「僕はね、美晴さんのことをすごく大事に思ってて、一番そばにいてあげたいってずっと思ってた。でも、それが叶わなくなって、僕もストレスに耐えきれなかった。だから……本当にごめん……こんな悲しい思いさせて……」
美晴さんに、ありのままの思いを伝える。
そのありのままの思いは、消えていく。
映る景色は、悲しみのどん底にいる2人と、明るい未来を照らしてくれる夜景だけだった。
「美晴さん」
ゆっくりと顔を近づける。
少しひんやりとした美晴さんの頬が触れ合う。
「ん……」
僕は、少し恥ずかしそうにして、こう言った。
「この夜景も綺麗だけど、美晴さんの方がもっと綺麗だよ」
美晴さんの頬を伝う雫は、悲しいものから嬉しいものへ変わっていた。
「本当……ですか……?」
「もちろん」
「嬉しい……です……」
この場所は今、2人だけしかいない。
目に映る景色は、たくさんの光に照らされ、鮮やかだった。
それよりも、スポットライトを当てられたかのように、美晴さんが綺麗だった。
美晴さんの左手をぎゅっと握る。
その手は、いつしか暖かくなってた。
美晴さんの涙を、僕の手で拭く。
「美晴さん。もし僕が大学を卒業した暁には……少し早いかもしれないけど、一緒に暮らそう」
僕は美晴さんがいる前でこう約束した。
僕の心の中では、最初は大学院に行くつもりだった。
でも、今の自分の状態と、美晴さんのことも考えて、大学院に進むことをやめた。
美晴さんの目からは、涙が止まらなくなっていた。
「はい……約束ですよ……?」
「もうちょっと……待ってね……」
「はい……」
少しだけ……ほんの少しだけ……美晴さんのこと、分かったのかもしれない。
好きな人がずっと近くにいない寂しさと、兄がいないこの世界の残酷さを……
「マネージャーさん……」
美晴さんの、少し小さな小指が僕の目の前にある。
その小指に、僕の小指を当てる。
2人で目を閉じておでこを合わせる。
ゆっくりと流れ行く時間の合間の、この約束……
忘れることのない夜景と、交わした約束。
空は星が、僕らの明るい未来を、見守ってくれている。
その空の下で……
「わたし……今……とっても幸せ……」
「うん、僕も……」
こうして2人だけでいる時間は幸せだし、ずっとドキドキするし、今でも慣れてるかと言われたら慣れてない。
それでも、僕はこの時間が大好きだ。
美晴さんの頭が僕の肩に乗る。
暖かい美晴さんと、冷たい空気の温度が、僕の音を調律してくれる……
それは、きっと美晴さんも同じ。
寂しい音が、幸せの音へと変わっていく……それが、今なんだなっていう音が微かに聞こえたような気がした。
この幸せは、きっと数日後を迎える来年を、明るく照らしてくれている、希望の光であると信じて……
ただ2人で、その夜景を静かに見つめた。
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「美晴さん」
後ろから、マネージャーさんの声。
後ろから、ゆっくりとマネージャーさんが、わたしの首元にストールを掛けた。
わたしは戸惑った。この気持ちも、このストールのことも……
そのストールは、少しだけスコールがまぶされていて、わたしに似合っていた。
「マネージャーさん……?」
「これは、僕からのクリスマスプレゼント」
「……!」
マネージャーさんの声を聞いて、初めて気がついた。今日がクリスマスだということに。
「去年、美晴さんが「マネージャーさんと来年も一緒にクリスマスを過ごしたい」って言ってたよ」
こうして、わたしの言ったことをやってくれる。そんなマネージャーさんのことが、わたしは好きで……幸せになってた……のかな……
「マネージャーさん……ありがとうございます……去年の約束を覚えてくれたことも、そしてこのストールも……ずっと……忘れません……」
「ありがとう、美晴さん」
「はい……」
マネージャーさんが、後ろから抱きしめてくる。
外の気温は冷たいのに、体は暖かい。
マネージャーさんからもらったストールのおかげかな……それとも、マネージャーさんがいるからなのかな……どれだろうな……ううん、きっと、全部だよね……こんな甘い冬……わたし、初めてだよ……
「マネージャーさん」
「ん?」
「また来年のクリスマスも、一緒に過ごしましょうね?」
「もちろんだよ。一緒に過ごそう」
マネージャーさんといる時間そのものが、今のわたしにとっての1番の幸せで、思い出……
また1つ、思い出が積み重なっていく。
その思い出は、数日後迎える来年を、明るく照らしていた。
皆さんこんにちは。おみです。
この度は「僕を愛する、君のために。Op.4」を読んでいただきありがとうございます。
1日2話も出すなんてお前どうしたって思ってる方も多いかもしれませんが、作り置きしていたのでそれを投稿しているだけです(笑)
でも、今年に関しては僕も本当に最悪な年で、何をしてもうまくいかなかったかなって思います。そのせいで現に体の状態は悪いので(今はまだ落ち着いてますが)
ちなみに今回の話に出てきた室見駅から徒歩20分程度の夜景スポットは実在するので、気になった方は是非調べてみてください。ちなみに僕は行ったことないです(笑)
今年は不幸が重なった年だったので来年はきっといいことが連続する年になるといいなと思ってます。
さて、次回は新年かそれまでに元気が出たら投稿したいなと思います。(多分新年になりそう)
それでは皆さん良いお年を!そしてこの小説を来年もよろしくお願いします。
それでは次話もお楽しみに!