僕を愛する、君のために。   作:おみのSS部屋

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Op.9 その涙を受け止めて

一家殺害事件が起きてから一夜が明けた。

朝日は昇るはずがなかった。

その後、突如として雨が強くなり始めた。

 

午前9:00、僕は一人で家を出た。

誰にも「いってらっしゃい」と言ってくれないことが、今までの生活と違うことを暗示していた。

家の鍵を普段ならかけるのだが、かけなかった。

何故なら、もうこの家には戻ってこないから。

今までの家の鍵は、近くにあった花壇の土の中に埋めた。

この時、思い出の全てが壊れたのだと感じた。

1時間して大学について、大学に退学届を出した。

大学の友達に、「大学辞める」って言っても、理由を聞いたら納得してくれたし、「頑張れ」って応援してくれた。でも、ぼくにはそんなことなんて関係なかった。僕はここに来たことそのものが間違いだった。

 

正直な話、大学のことを全く信用していなかった。何でこんなにも頑張ってるのに報われないのかが不思議でたまらなかった。友人関係もあまりいいとは言えなかったから、大学を辞めようかとも考えたくらいであった。

そんな大学とはおさらばして、僕はひたすら東京を目指す。時刻はお昼を回ったくらいだった。

近鉄を使って京都まで向かい、新幹線で東京を目指す。

外は大雨が降っていて、この先進路が絶たれるかもしれない。そんなことも考えたりしていた。

名古屋に停車した。ここで1本のアナウンスが入った。

 

「現在大雨の影響で東海道新幹線は運転を見合わせています」

 

東海道新幹線は大雨のため名古屋から新横浜の間で見合わせとなっていた。

運転見合わせとなっている間、僕は早く美晴さんに会いたい。その一心だった。

一抹の不安を抱えながら、運転再開の時を待ち続けた。

 

ー3時間後ー

 

「運転を再開します」

 

アナウンスが入り、静かに名古屋を発車した。

その時の僕は、何1つ考えていなかった。

 

ー2時間後ー

 

「ふぅ……着いた……」

 

東京に無事に着くことができた。

東京は大雨が降っていて、雷も鳴っていたが、東京駅に着くことができた。予定到着時刻より3時間半遅れての到着だった。

時刻は19:30を回っていて、すでに暗くなっていた。

東京の外は大雨が降っていた。

まるで、僕の心を示すように。

東京駅は人が多い。そのため、身を隠すようにして移動して、美晴さんたちがいる寮まで走った。

雨にも負けず、風にも負けず……

風邪ひいてもいい。どうなってもいい。

美晴さんに会いたい。ただその一心でひたすら走った。

10分くらいして、美晴さんたちがいる寮に着いた。20時を前だった。

寮の目の前の扉を開ける。

 

すると疲れからか、そのままソファーで横になってしまう。

 

「すぅ……すぅ……」

 

「莉子……どうする?」

 

「美晴の部屋に運ぶから手伝って」

 

「うん。わかった」

 

僕は莉子と絢に美晴の部屋のベッドまで運ばれる。

本人たちは後で聞いたら重かったと答えていたので、本当に申し訳ない。

 

ー1時間後ー

 

「ただいま〜」

 

「おかえり〜」

 

美晴さんが帰ってくる。

それでも、僕は寝たきりのままだった。

何故なら一睡もできていなかったから……

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

わたしは今日は一日仕事だった。

それが終わって、家に帰ってくると、昨日と何一つ変わらず、みんなが待ってくれていた。それでも、みんなの様子がちょっとだけ変だった。

 

わたしは、何も言わずに自分の部屋へ向かう。

 

「あれ……?」

 

わたしのベッドで誰かが寝ているのに気がつく。

わたしは気になって、誰がいるのか見てみた。

 

「……!」

 

え……嘘……

 

「マネージャー……さん……?」

 

何があったのか分からなくなった。

何をしようとしていたのか忘れてしまった。

そのくらい、今が衝撃的だった。

 

ちょっとだけ焦げているけど、青色のスーツケース、ゆっくりとしたこの感覚、そして、いつもつけてるメガネ……

間違いなくマネージャーさんだった。

 

莉子たちが部屋に入ってくる。

わたしがいない間に起きたことを説明してくれた。

 

「実はマネージャー、両親が亡くなって、今までここに逃げてきたみたいでさ〜。詳しいことはまだ何も分からないけど、意識はしっかりしてるから、大丈夫だよ」

 

最後の「大丈夫だよ」この言葉にわたしは救われた気がした。

莉子……ありがとう……

わたしは泣きながら莉子に抱きついた

 

「うわあああああああああああああん」

 

莉子を戸惑わせてしまう。

それでも、莉子はわたしの気持ちをわかってくれていた。

 

「マネージャー、昨日一睡もしてないから、今はそっとしてあげて……」

 

マネージャーさんがいる。その事実だけが、今は何よりも嬉しかった。

しばらくして、わたしの涙が止まった。

ゆっくりと莉子から離れる。

 

「じゃあ、あたしはご飯の準備してくるから、マネージャーのこと、よろしくね!」

 

「うん……ぐすっ……」

 

莉子は部屋を出て行った。

マネージャーさんと2人きりの時間が過ぎていく……

 

ーー1時間後ーー

 

「ん……んん……」

 

ゆっくりと目を開ける。

あれ?何があったの?

頭がぼーっとしているし、目もまだ半開き状態だった。

疲労で倒れてしまい、僕は今どこにいるかすらも分かっていない。

二度寝したいくらい眠気が押し寄せてくる。

 

「マネージャーさん……」

 

そんな眠気を取っ払うかのような、優しい声がする。

でも、その声は少しだけ掠れているようにも聞こえる。

 

「マネージャー……さん……」

 

その声を聞いて、僕は重い瞼を開けた。

その時、目の前にいたのは、美晴さんだった。

 

「美晴……さん……?」

 

眼鏡をかけてないので、何も見えていない僕は半信半疑で名前を言うと、彼女は僕に抱きついて、泣いていた。

まるで、転んで怪我をした、妹のように……

 

「マネージャーさあああああああああああん」

 

僕はゆっくりと彼女の背中をさする。

自然と、僕の目からも涙がこぼれ落ちた。

 

「心配させてごめんね……」

 

「ごめんね」ただ、その一言しか出なかった。美晴さんはしばらく泣き止みそうになかった。

今日仕事だったことは知っていたから、きっとその仕事も不安なままやっていたのだろうな……

そんなことが頭をよぎってしまう……

 

「よしよし……」

 

ゆっくりと背中をさする。

時に頭をポンポンと撫でながら、彼女が泣き止むのをひたすらに待ち続けた。

 

「落ち着いた……?」

 

「はい……」

 

美晴さんは泣きすぎたせいで、まだ息が整ってなかったけど、僕の体からゆっくりと離れる。

 

「美晴さん……ただいま……」

 

「おかえりなさい……マネージャー……さん……」

 

ゆっくりと、時間が止まっていく。

2人とも、この時間を噛み締めていた。

久しぶりに会えたことの嬉しさ、両親を亡くした悲しさ、この世界からいなくなってしまったのではないかと思ってしまった不安……

 

全ての思いが入れ混ざる。

美晴さんがゆっくりと僕に近づく。

 

「ん……」

 

僕はそれを受け止めて、2人で唇を合わせる。

ゆっくりと動いていた時間が止まる。

ずっと不安で、ずっと会いたかったのは、美晴さんの方に決まってる。

今は、美晴さんの思うがままに、動いている。

それでも、僕は何も言うことなく、ただただ身を任せていた。

 

ーーーーーーー

 

 

「マネージャー……さん……」

 

気付けばわたしは泣いてた。

何で、泣いてるのか……わたしには分からなかった。

 

「わたし……マネージャーさんの家が燃やされて、家族が亡くなったってニュースを見て……すごく心配してたの……マネージャーさんも……もしかしたらって思って……」

 

「……」

 

「でも、わたしは……マネージャーさんと今こうして一緒にいることが……本当に嬉しくて……ぐすっ……」

 

そっとマネージャーさんはわたしの背中に手を差し伸べる。

背中をゆっくりとさすりながら、わたしの大粒の雫を、そっと受け止めてくれる。

 

「心配させてごめん……でも……今……こうして一緒にいて、美晴さんと話してることが……僕も嬉しい……」

 

こうして一緒にいることの喜びと幸せをゆっくりと噛み締める。

時間は流れてるのに、止まっているように感じる。

それでも、胸の奥がポッと暖かくなるのを感じた。

 

「はい……」

 

力なく、わたしは答えた……嬉しさと、不安と、全ての複雑な思いが混ざり合って、何と答えたらいいかわからなくなっていた。

気付けば、2人とも泣いてた。2人の雫は、ゆっくりと布団に落ちていく。お互い、違う思いを抱いていた。

その思いが、少しだけ、調和したのが今なのかな……

わたしは少しずつ、落ち着いてきた。

でも、マネージャーさんの痛みの方が大きいに違いない。

だから私は、ゆっくりとマネージャーさんの背中をさすった。

 

「美晴さん……」

 

「なぁに……?」

 

「こんなことしてくれるの……美晴さんだけだから……嬉しい……」

 

「わたしも……嬉しい……」

 

マネージャーさん……もう安心して……わたしはその一心だった。その気持ちは、ちゃんとマネージャーさんにも届いていたのが、すごく嬉しかった……

 

「美晴さんのこと……また1つ好きになれた……」

 

「うふふ……わたしも……」

 

マネージャーさんが泣き止んだみたいで、少しだけホッとした。ちょっとだけ笑顔を見せてくれた。

でも、その笑顔は、わたしにとっての、かけがえのないものだった。

 

「マネージャーさん……マネージャーさん……」

 

わたしは、マネージャーさんの笑顔を見た途端、とてつもない安堵感に包まれる。その安堵が、大粒の涙へと変わっていく。

 

「うわあああああああああああああん」

 

わたしは泣いてた。好きな人の前で、ただただ泣いてた……

虚しく、わたしの泣く声が、無常にも響く。

その音は、外の雨の音でかき消される。

 

「ごめんね……心配させて……」

 

マネージャーさんが、ゆっくりと背中をさすってくれる。

背中が少しだけ暖かくなる。

わたしはもう、何も考えられなくなっていた。

 

「マネージャー……さん……」

 

「いっぱい泣いていいんだよ……?ここには、僕だけしかいないから……ね……?」

 

「マネージャーさん……お兄ちゃんみたい……」

 

「嬉しい……?」

 

「はい……/////」

 

マネージャーさんが優しく聞いてくれる。この優しさが……わたしの心を癒してくれる。

 

「甘えて……いい……?」

 

ホントはマネージャーさんの方が甘えたいに決まってる。それでも、わたしはちょっとだけわがままになってマネージャーさんに聞いてみる。

 

「だーめ」

 

初めて、断られた……マネージャーさん……わたしのこと……嫌いなのかな……

そんな風に思いながら少しだけ口を尖らせていたけど……

 

「冗談だよ……おいで……」

 

「はい……」

 

わたしは、体をマネージャーさんに全部預けて、甘えていた。

体は暖かく、包み込んでくれるような感じがする。

 

「よしよし……」

 

ポンポンとわたしの頭を撫でてくれる。

蕩け落ちるくらいの暖かさに、わたしはただただ落ちていく。

 

「マネージャーさん……暖かい……」

 

「美晴さんだって……暖かいよ……」

 

何でだろう。マネージャーさんに甘えてると「わたしだけ」って言う感情が消えていく。

やっぱり、マネージャーさんといるこの時間が、一番幸せ……

 

「マネージャーさん……何でさっきはダメって言ったの……?」

 

わたしは気になってマネージャーさんに聞いてみた。

マネージャーさんはこう答えてくれた。

 

「美晴さんには、ずっと笑っててほしいから……ほんのちょっとだけ……」

 

素直な気持ちを伝えてくれる。

マネージャーさんが……わたしのために……

 

「わたしは……マネージャーさんにずっと笑っててほしいな……」

 

素直な思いをボソッと呟く。

その思いは、マネージャーさんにも届いていた。

 

「僕は今こうして美晴さんと一緒にいることが幸せだし、ちょっとわがままな美晴さんも僕は好きだよ?」

 

マネージャーさんははにかみながらも笑顔を見せる。マネージャーさんはあまり笑顔を見せないので、なんだかちょっとだけ嬉しかった……

 

カクン

 

あれ?今わたし、ちょっとだけ頭がぐらっとして……

 

わたしはマネージャーさんと会えた安心感と仕事の疲れからか、力無くマネージャーさんの方にコテッと倒れてしまった。

 

「美晴さん……?」

 

「わたし……疲れちゃったみたい……」

 

「じゃあ、一緒に寝よっか?」

 

「はい……/////」

 

マネージャーさんは何も言わずにゆっくりとわたしの体をふかふかの布団に下ろしてくれた。

部屋の電気を消し、わたしはゆっくりと目を閉じる。

 

「美晴さん……これから2人で、いっぱい幸せになろうね……」

 

ちょっと恥ずかしくて、マネージャーさんの袖をぎゅっと握りながら、わたしは頷いた。

 

「ふふっ、かわいい……」

 

わたしはさらに恥ずかしくなって、何も言えなくなっていた。ずっとドキドキして、さらに袖を強く握る。

 

「おやすみ……」

 

恥ずかしさも相まって、おやすみの一言が出ない。

それでも、マネージャーさんに守られてるみたいで、すごく嬉しかったし、頼もしかった。

マネージャーさんの暖かさを、久しぶりに肌で感じる。

わたしはゆっくりと意識が消えていった。

 

ーーーーーーーーー

 

「美晴〜ご飯できたよ〜」

 

あたしはご飯ができたことを美晴に伝えた。

しかし、美晴は返事すらない。

おまけに、部屋の電気も消えていた。

あたしは部屋に入る。

 

「みは……る……?」

 

「……すぅ……すぅ……」

 

美晴とマネージャーが2人で気持ちよさそうに寝ていた。

起こすのもなんだかあれだし、このまま2人きりにしようかな……

そう思ったあたしはゆっくりと部屋を出た。

 

「まほろ、絢。美晴とマネージャー、寝ちゃったからご飯食べよっか?」

 

「うん。そうしよっか。ちょっとあんな感じだし、変に起こすのもあれだしね」

 

「美晴にとっても、マネージャーにとっても、今はちょっとだけそっとしておくのが一番いいのかも」

 

「今はあたしたちより、マネージャーに美晴のこと任せよっか」

 

全員意見が一致したところで、あたしたちは3人でご飯を食べる。

なんだか美晴と一緒じゃないご飯って久しぶりだけど……きっとマネージャーが美晴のことを元気にしてくれるはず。

 

信じてるからね、マネージャー。

 

あたしは星空が綺麗な夜空に美晴さんが早く元気になりますようにと、願い事をした。

 

ーーーーーーーー

 

わたしは、ゆっくりと部屋で寝ていた。

だから、莉子が部屋に入ってわたしたちを呼んでくれたことも知らない。

今は……マネージャーさんと一緒がいいことは……みんな分かってくれている……よね……?

 

最後にわたしは、夜空に1つだけ願い事をした。

 

 

 

 

もしも、1つだけ願いが叶うなら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このままずっと、マネージャーさん……いや、おみくんの隣で、笑顔の絶えない、幸せな日々がずっと続いていきますように……




皆さんこんにちは。おみです。
この度は「僕を愛する、君のために。Op.9」を読んでいただきありがとうございます。
マネージャーは美晴さんに会いたい一心で東京へ。
不安と、嬉しさと、寂しさが混ざり合った甘さが程よくなっています。
でも、2人はこうして甘やかし甘やかされる時間がすごく好きらしいので、チームのみんなも、いよいよ手を出せないみたいです。
それでは次話もお楽しみに。
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