【短編集型】英梨々がイチャイチャ過ごしたい冬休み 作:きりぼー
男子がいて、女子がいて、みんなでわいわい過ごしてさ。
夜は男女別で悶々と過ごすんだ。
31日大晦日。夜。
東京と違って夜はちゃんと夜になる。
外は外灯もなく真っ暗闇でとても静寂だった。
23時を回っている。このまま年を明けるのを待つか迷ったがみんな疲れているので眠ることしたのだ。
「で・・・なんで英梨々が隣にいるんだ?」
ダブルベッドの上に倫也が寝ている。右側に英梨々が横になって倫也の腕にしがみついている。
「だって、どう部屋分けするかは大事でしょ?」
「それで」
「恋人同士のあたし達が同じベッドなのは当然じゃないかしら?」
「うん。当然じゃないな」倫也は即答する。
「やっぱり倫也は恵を選ぶのね・・・」
「それもおかしいよな」
「優柔不断よね」
「そういう問題じゃないよね?」
「あっ、美智留なら問題ないのか・・・」
「ないけど、あるよ!」
「細かいわね。あたしじゃ不服なのかしら?」
「そういう問題じゃないだろ・・・で、上には誰が寝てるんだ?」
「伊織と美智留。布団も一組もって言ったわよ。こたつもあるし、床暖もあるし平気よ」
「もう、そこは隔離されているんだな」
「人数多いといろいろ面倒じゃない」
ふむ。技量の問題だな。会話の使い分けとかな。
「ほら、今年も最後だし、なんなら少しぐらいならいちゃいちゃしてもいいわよ」
英梨々の顔が近い。吐息が倫也にあたる。
「できるかっ!」
「隣に恵たちがいるから静かにしないとね・・・」
英梨々がにやりと笑う。
「なぁ・・・英梨々」倫也はため息まじりに言う。
「なによ?」
「隣っていうか、ベッドの横に立っているんですけど!?」
恵がフラットな表情のまま見下ろしている。もちろん目にハイライトはない。
「あら恵いたの?」英梨々は平然という。
「あのね、英梨々・・・」
「冗談よ冗談」そう言いながらリモコンで電気のスイッチをつける。
隣の部屋のとの仕切りが折りたたまれて、今では大きな一部屋になっている。
倫也が起き上がって、「出海ちゃんごめん。変わってくれる?」と声をかけた。
出海は大きくのけぞってから、ぴょんと器用に立ち上がった。
ピンクの寝袋から顔だけ出している。
何か楽しいらしく、体をくねくねさせて「た~らこ、た~らこ~♪」とハミングしている。
「ほら、出海とっとと倫也と代わりなさいよ」
「えっ~いやですよ~。寝袋楽しいじゃないですか。初めてなんですぅ」
「だってさ、倫也。じゃあ、あんたは床で寝なさい」
「そうだな」
倫也はベッドから降りて、布団の敷いてある部屋の足元のスペースに横になった。
床暖が弱くついているので、固いことを除けば意外と心地がいい。
「代わりますよ・・・倫也先輩。だれかジッパー外してください」
恵が近寄ってジッパーを下げると、出海が寝袋からでてきた。
「なんか、年末やるようなイベントじゃないんじゃないかなぁ・・・」あくびを交えて恵がぼやく。
倫也も疲れているらしく、寝袋に黙々と入ってジッパーを閉めた。
「おやすみ」といって、目を閉じる。
「倫也先輩がさっきまでわたしの入ってた寝袋に入るとか、なんかエッチィですねぇ!」
「はいはい出海ちゃん、もうそういうのはいいから、おとなしく寝よ?」
「あの、さっきから恵先輩、目が怖いですよ。ハイライト描きましょうか?」
恵が顔をペチペチと叩く。フラットフラット。サブヒロインサブヒロイン。と念仏のように唱えている。
「ほら出海。早くこっち来なさいよ」
「はーい。わたし澤村先輩と同じベッドで寝るんですか?」
「そうよ。あたしが百合のなんたるかを教えてあげるわ」
「わたしノンケなんでけっこうです!」
「はいはい。早くしなさい」
英梨々がベッドの片すみによる。
出海がとりあえず、もそもそと同じ布団にもぐりこんだ。
「えっと、お邪魔します」
「おやすみ」
英梨々がつまらなそうに背中を向けてつぶやく。
「霞ヶ丘先輩。そろそろ寝るんで電気消していいですか?」
「あら構わないよ」
詩羽は布団の中で本を読んでいた。枕元のランプが光っている。
部屋の電気が消える。
恵はやっと自分の布団に戻って横になった。
詩羽も枕元のランプを消した。
しばらく時間が経つと、詩羽の寝息が聞こえる。
恵はまだ眠れない。倫也も床が固くていまいち寝心地が悪かった。
「ちょ・・・ちょっとやめてください澤村先輩」
暗闇の中から小さな声が聴こえる。
「何よ、素直に離しなさいよ」
「離すわけないじゃないですか?」
「往生際が悪いのよ」
「ちょっと・・・もう」
「・・・倫也くん。起きてる?」
「ああ」
「百合展開?」
「いや・・・違うだろうな」
「澤村先輩。布団全部取らないでください!」
出海が起き上がる。が、部屋は真っ暗だ。
恵が枕元をさぐってランプをつける。
「出海ちゃん・・・もう寝る時間だからね?」
「わたしは悪くないですよ。澤村先輩が布団を全部をとってたんです」
恵が起き上がると、英梨々が掛布団に包まっている。
「あのね、英梨々?もう寝る時間だから」
「恵~。枕投げしよ~」
「うん、そうだね・・・」
恵がしゃがんで枕をつかむと、倫也に向けた思い切り放り投げた。
「ゴフゥ!?」顔面に直撃する。「って、俺!?」
「もう、霞ヶ丘先輩も寝ているし、英梨々もそんな子供みたいなことしてないで寝よ?」
「だって恵ぃ。隣が出海とか、ぜんぜん面白くないじゃない」
「寝るのに面白いとか面白くないとか、ないんじゃないかな?わたしがそっちいこうか?」
「だが、断る」英梨々は即答して、恵よりは出海がましだと納得する。
英梨々が布団を元に戻して出海を中にいれた。
生活リズム的にはそろそろ目が冴えるころで、英梨々は元気だった。というよりは、少し悶々としている。
再び電気を消す。
しばらく時間が経過する。今度は英梨々も出海も静かになった。
※※※
「恵・・・起きてる?」
「何?」
かすれるような声で話を始める。
「床・・・固いんだけど」
「そう?針になってないだけいいんじゃないの?」
「あの・・・恵さん・・・」
「後先考えずに、こういうイベントするからそういうことになるんだよ」
「俺のせい?」
「知らないよ」
ひそひそと2人で話を始めると恵の機嫌は少しずつ良くなっていく。
「その布団くっつけたら、横の方スペースができないか?」
「川の字になって寝るの?」
「無理か」
「わたしはいいけど・・・ゆっくり移動してね。もうみんな寝てるから」
倫也が起き上がったが、暗すぎて見えない。目が慣れても暗い。
カーテンの隙間から見える光なんてなかった。
「恵、暗すぎて見えねぇわ」
部屋全体の光がパッと灯る。
「ちょっと、倫也くん電気つけないでよ」
「俺じゃねーよ」
「なーに、2人でこそこそやっているのかしらね?」
英梨々がリモコン片手に立っている。出海はベッドでおとなしく眠っている。
「英梨々、起きてたの」
「ええ、お陰さまで。別にさっきの仕返しをするつもりはなかったのだけど」
「そんなつもりはないんだけどなぁ・・・ねっ?倫也くん」
「床が固いんだよ。英梨々。布団並べれば3人ぐらい寝れるかなって・・・」
「そう?へー?そう?」
すでに詩羽がはだけて眠っている。寝相が悪い。
パジャマの胸元のボタンがはずれているので、豊かな谷間が見えている。
「倫也。詩羽が眠ってるわね」
「疲れてんだろ・・・」
「もう、こうなったら倫也くん、しょうがないから霞ヶ丘先輩を向うに移動しよう」
「恵!?」
「だって、それしか落ち着いて眠れる方法ないんじゃないかな?」
「・・・俺、1人で車で寝てこようか・・・?」
「倫也?」
「倫也くん?」
2人の目線が怖い。
「えっ・・・予定調和?詩羽先輩はどうするの?」
「運んであげて」と、恵がいう。
「俺が?」
「・・・うん」
意外な発言に英梨々が恵をみる。運ぶ?
倫也が寝袋からでてきて、詩羽を抱える。
いわゆる、お姫様抱っこの形だ。
「これ、絶対狸寝入りよね?」と英梨々が怪訝そうに詩羽を見ている。
恵はフラットのままだ。
倫也が詩羽をベッドに運んで、詩羽を下ろすと詩羽が腕を倫也の首に回して離さない。
「あの・・・詩羽先輩」
「むにゃ。むにゃ」棒読みにはっきり答える。
「ちょっと詩羽!どういうことよ」
「むにゃ。むにゃ」
恵はフラットのままだ。
「ちょっと恵、あんたまさか・・・詩羽と何か取引したわね?」
「し・・・しらないよ・・・」恵は目線をそらす。
英梨々が立ち上がって、詩羽の腕をほどいて倫也から引き離した。
「油断も隙もないわね・・・サブヒロインやめたんじゃなかったのかしら」
「むにゃ。むにゃ」
英梨々がため息をつく。
「電気消すわよ」
英梨々がリモコンのスイッチで電気を消した。
「暗っ!」
恵が枕元のランプをつける。
「ありがと、恵」
「ううん。英梨々、足元気を付けて」
「わかってるわよ」
「ぐえっ!」
「あら、倫也いたの?」
「わざとだろ?」
「当たり前でしょ」
英梨々が倫也をまたいで右側で横になった。
恵は倫也の左側で横になっている。
「布団の間って、なんか気持ち悪いな・・・溝が」
「倫也くん。わがままなんじゃないかな?」
「というか倫也、あんたバカなの?なんで寝袋に入っているのよ」
「いや、それはそうだろ?」
「あのさー倫也くん、こういう露骨なシーソーをせっかく演じているんだから、もう少し空気読も?」
英梨々が倫也のジッパーをおろす。
「な・・・なんか緊張するわね・・・男女逆じゃないかしら?」
「なら、やめろよ」
倫也がもそもそと寝袋からでてきた。
2人の間で横になる。
「余計に溝が気持ち悪いんだが・・・」
「自業自得じゃないかな?」
「倫也ぁー」
英梨々は甘えた声を出す。左手で倫也の右手を握る。
「わたしはぜんぜん納得いかないオチなんだけど・・・」
「サブヒロインなんだから妥協しなさいよ」
「英梨々がそれを言うかなぁ・・・」
恵が倫也の左手を右手でつねる。
「痛い・・・」
それから指を絡めて手をつないだ。
「3人仲良し。めでたしめでたしってことか・・・」
「悪くないでしょ」
「掛布団欲しいんだけど・・・」
「ないわよ。服を着ているだけでも感謝しなさいよ」
「どういう意味だよ・・・」
「意味深な意味で」
英梨々が自分で言ってクスクス笑っている。
「なんなら倫也くん。公平に真ん中から縦に切断してあげようか?」
「このままでけっこうです・・・」
その後、ばさぁーと布団が右からと左からかかってきた。
「おやすみ」三人が声をそろえる。
とても静かな時間が流れる。
やがて、掛け時計が0時を告げ、ボーンと鳴った。
「ハッピーニューイヤー」と、倫也の耳元で英梨々が囁く。
手は握ったままだ。
その隣で恵が寝息を立てている。とてもわざとらしい寝息。
手はつねったままだ。
(了)
本年もありがとうございました。
お正月は夫婦漫才をお送りします。