【短編集型】英梨々がイチャイチャ過ごしたい冬休み   作:きりぼー

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あけましておめでとうございます


【10日目】恵と倫也で夫婦漫才2022

1月1日。お正月。

 

朝7時。恵はパチリと目が覚めて起き上がった。

少し冷えるかと思ったが家の中はそこまで寒くなかった。

 

隣を見ると倫也が眠っている。相変わらず寝相がいい。

その隣に英梨々が眠っている。こちらは寝相が悪く斜めになっていて布団から手足がはみでている。

ベッドの上では詩羽が布団にくるまって眠っていた。出海がその隣で寝袋にはいって体をくの字曲げて眠っている。

もう一度、倫也を見る。半分だけ布団をかぶっている。

「・・・ふむ」

とりあえず恵は納得して、二階へと上がっていった。

 

二階にはこたつの横の布団で伊織と美智留が並んで寝ていた。

あえてここは見ないふりをして、洗面所に入る。

そこで身支度を軽く整えた。

 

キッチンに行き、昨晩から昆布を浸していた鍋に弱火をかけ、冷蔵庫から小松菜を取り出して切り分けていく。できるだけ音を立てないように気をつける。

それから、水洗いしてザルで水を切る。

 

冷蔵庫から牛乳を取り出してマグカップにいれ、電子レンジで軽く温める。そこにインスタンコーヒーの粉と砂糖を少し多めにいれてカフェオレを作った。

鍋が沸くまで時間がかかる。

 

恵はダイニングテーブルに座って、窓のカーテンを開けた。

「うわぁ」感嘆する声が漏れる。

一面が綺麗な銀世界だった。庭の木にも雪が少し積もっている。

見下ろせる街並みの屋根も雪で真っ白だった。

家の前の道路には足あと1つ着いていない。

窓を触るとひんやりとしているが、凍てつくような冷たさはなかった。よくよく見ると二重窓になっている。

しばし、ぼんやりと外を眺めながらカフェオレを飲む。

 

カチャリと音がしたので振り返ると、寝ぐせのひどい倫也がいた。コーヒーメーカーをいじっている。

「あっ、倫也くん。そのコーヒーメーカー豆を挽くやつだから音がうるさいと思う」

倫也が缶を持って、「ここに挽いた豆もあるぞ?」

「そうなんだ・・・」

「恵は何を飲んでいるの?」

2人は静かな声でしゃべる。

「カフェオレ」

「いいな」

「作ろうか?」

「頼む」

「うん。顔ぐらい洗ってきたら?」

「そうだな。でも、その前に・・・おはよう」

「うん。おはよ。倫也くん」

「そして、あけおめだな」

「そうだねぇ・・・早いね一年。あけおめ。本年もよろしくお願いします」

恵が優しく微笑む。

倫也は立ち上がって洗面所に向かう。恵はその間にカフェオレを作る。

 

「はい」

恵が座っている倫也の前にカフェオレの入ったマグカップを置く。

「ありがと」と言って、倫也が一口飲む。「旨いな」

「この安っぽい甘さがいいんだよね」

「そうだな」

倫也が恵を見る。白いパジャマにピンクのカーディガンを羽織っていた。

「雪が降ってたんだね」

「静かすぎて何もわからんかったな。あとで雪だるまやかまくらでも作るか」

「うーん。やめとく」

「そう?楽しそうだけど」

「ほら・・・体冷えるし」

「・・・ふむ」

恵が立ち上がって、鍋の火を消しに行く。箸で昆布を取り出して、鰹節を投入する。

「何作ってるの?」

「お雑煮の出汁。あとでお餅焼くけど」

「おっ、いいな。餅つきとかすればよかったか?」

「ほら、あれは準備がけっこう大変だから」

「そうなんだ」

「うん」

鍋の出汁をざるで漉して、鰹節を取り除いていく。

そこに調味料をいれて、お玉で味をみる。それから少し整えて蓋を閉めた。

 

「オセチあるけど、食べる?」

「みんなが起きてからでいいよ」

「・・・うん」

恵の口元が微笑んでいる。

「オセチかぁ・・・一年たったんだな・・・」

「うん。夫婦漫才やってみる?」

「あのボツ原稿の・・・?」

「うん。また未練になるし・・・」

「けっこう悩んだものなぁ・・・」

 

お正月用夫婦漫才。作成を断念して一年が過ぎた。

まさか、こんな同人を一年も書き続けるなんて、あの時は思ってもみなかった。

 

「オセチの中身・・・言ってみてくれる?」

「えっと・・・くりきんとん」

「それ、最後で」

「最後?」

「くりきんとんって、どうやって作るか知ってる?」

「えっと、芋を煮て、甘くして、栗をいれるんだろ?あの栗って売ってるよな」

「まぁ、だいたいそう。でもお芋がね、だんだん黒ずんでみどりっぽくなるんだよ」

「あーなんか聞いたことあるな。何かいれるんだよな」

「うん。クチナシをいれると、黄色のままになる」

「へぇ・・・」

 

「他は?」

「くろまめ?」

「まめに働くとかだっけ?」

「そんなんあったよなー。昆布巻きで喜ぶとか?」

「うん。他は?」

「まだある?」

「まだまだあるよ。でもね奇数なんだって」

「そうなの?」

「奇数が縁起いいらしいよ」

「そういうの日本人好きだよな。えっとね・・・かまぼこ」

「うん」

「かずのこ」

「うん」

「あと・・・タケノコ?」

「煮物かな?」

「あるよね?」

「うん」

「今いくつ?」

「6つかな」

「あの煮干しみたいなやつ」

「田造りね」

「それそれ。あるよな、ピーナッツみたいのはいってるよな」

「そういうのもあるね」

「これで7つだし、いいんじゃね?」

「あと二つぐらい欲しいかな」

「なんで?」

「だって、お重の中身を7等分できないでしょ。だいたい9等分に区切られてるんじゃないかな」

「そうだな・・・海老?」

「海老ははいってるけど、却下」

「却下!?」

「まだあるよ」

「ん~。だてまき?」

「あるね。これが一番やっかいだよ」

「そうだな・・・」

「だてまきだてまきだてまき・・・思い浮かばなくて・・・まき・・・槇原?」

「槇原って、なんだよ・・・」

「知らない?巨人の抑えをやって、ぽかすか打たれた人」

「その槇原なら名投手だぞ・・・というか、俺らの年齢だと知らないはずだろ」

「だって、他に思い浮かぶ槇原って、どんな時も~って歌ってた人でしょ?逮捕されてたよね」

「・・・そうだっけ?で、オセチとなんの関係があるんだ?」

「あっ、脱線した。あと1つ」

「もう出ないよ・・・」

「じゃあ、酢レンコンで」

「レンコンかぁ。見通しがきくとかだっけ?」

「そそ。あとねぇ、連なるようにできるから、子孫繁栄とかの意味もあるみたい」

「ほう」

「こんなもんかな」

「できそうか・・・?」

「わかんないけど・・・」

恵が不安そうにつぶやく。

 

 

※※※

 

 

やがて、みんなが起きてくる。

「あけおめー」と挨拶を交わしている。

恵が餅をトースターで焼きながら、お雑煮の出汁に小松菜をいれて火をかける。

 

「お重・・・二つつくったけど、テーブルとこたつで別れる?」

「せっかくだし、こたつで並べましょ」

英梨々が取り皿と割りばしをもって運ぶ。

「恵先輩、お酒っていいんですかね?」

出海が一升瓶を抱えている。

「あのね、わたし達は高校生だよ?出海ちゃんなんて中学生だよね?」

「でも、去年飲んでませんでした?」

「夢でもみてたんじゃないかなー」

「出海。諦めなさい。自分だけ飲めないのはけっこう悔しいものなのよ」

「はーい」

「お茶で」恵がお茶を湯呑にいれている。

 

「美智留先輩は昨晩眠れました?」

「うん。ぐっすり。あたしはどこでも眠れるから。出海ちゃんは眠れなかったの?」

「いえいえ、わたしもぐっすりでしたよー、なんか遅くまで倫也先輩と澤村先輩がこそこそと話をしているのが気になったぐらいで、もうぐっすりですー」

「出海ちゃん、なにチクってるの!?」

倫也がチラッと恵を見る。

「ああ、お気になさらずー。隣にいたわたしも全然気にせずにサブヒロインに徹して、けっして邪魔しないように狸寝入りしてたから」

「相変わらずネチっこいわね」と英梨々がぼそり。

2人の目線がバチバチと合う。

 

「えっと、詩羽先輩は?」倫也が話題を変える。

「まだ眠ってますよ」

「伊織は?」

「上です」出海が上を示す。ロフトから伊織が顔をのぞかせている。

「あけおめ。倫也君。ちょっと仕事を片付けてしまうから、準備は手伝えないけど」

「悪いな」

「いやー、社長以下女性従業員の誰も仕事せずに僕だけ仕事しているとか、ほんとブラック企業ここに極まれりって感じで僕は好きだよ?」

「詩羽先輩も手伝ってるだろ・・・」

「あれは自分のラノベの仕事だろう・・・まぁいいさ」

伊織が顔をひっこめ、またノートPCに向かう。

 

「トモ、これ・・・ラベルを水に変えたらどうかな?」

美智留が諦めきれずに一升瓶を抱えている。

「高校生だからね?」

「もう。社員旅行編とかでいんじゃないのー」

名残惜しそうに言う。

「できたから運んでー」

恵がお雑煮を盛り付けていく。出海と美智留がそれを運ぶ。

英梨々はオセチの蓋を開けている。

 

「おおっ」と倫也が感動した。

伊織が梯子から降りてくる。

 

「倫也ぁ。やっぱり開けましょうか」

今度は英梨々が一升瓶を抱えている。

「あのなぁ・・・もう、恵に聞いてくれよ」

「どうしてそうやって人を悪役にするかなぁ・・・もう飲みたいなら飲んだらいんじゃないかな。わたしは飲まないけど」

「なんでよ。恵も飲んだらいいじゃない?」

「高校2年生なんで」

「別に高校2年生でも飲めるわよ?」

「ほっといてくれないかなぁ」

英梨々がお酒の蓋を開けると、出海と美智留がキッチンからグラスを急いでもってきた。

「うち、アル中が多くねぇか・・・」倫也がつぶやく。

「正月ぐらいはしょうがないさ」伊織は寛容だ。

「倫也はどうする?」

「俺はお茶でいいよ」

「またそうやって恵に合わせるのね」

「高校生として倫理を守ってるだけだよ」

「そっ」

 

「あけおめ~」と、ふらふらしながら詩羽が起きてきた。

「霞ヶ丘詩羽!酒の匂いで起きてくるなんて、あんたも相当よね」

「あら、なんのことかしら?」詩羽は洗面所に消える。

 

詩羽出て来るまで、みんなが待っている。

美智留と出海は酒の入ったコップを両手で握りしめて飲むのを我慢している。

手元がプルプルと震えていた。

「おい、そこまでアル中を表現しなくていいぞ・・・」

「はーい」出海がグラスを置く。

「はーい」といいながら美智留は一口だけ酒を飲む。

ペシッと、頭を倫也が優しくはたいた。

「伊織・・・こいつ大丈夫かよ」

「さぁ?でも、アル中のアイドルとか最高じゃないか?」

「お前のセンスがわかんねぇーよ」

「おまたせ」といって、詩羽がでてきて、こたつの空いている席に座った。

「席順はバラバラなのね」

「特に描写しなければ問題ないらしいですよ」

「でも、さっきの氷堂さんが倫理君に叩かれたみたいに、各自の行動をちゃんと分析すると、みんなの場所が特定できる方がいいんじゃないかしら?」

「だれもそんなこと気にしてないんじゃないかな」

恵がつまらなそうにお茶を見ている。

 

「よし、じゃあみんなグラスもって・・・乾杯!」

「あけましておめでとー」

「今年もよろしくお願いします」

美智留が無言で酒を飲み干す。

 

※※※

 

「旨いな、この雑煮」

「ありがと」

恵が微笑む。

「お節もおいしいですよー。恵先輩」

「ほら、それはみんなで作ったものだから」

「何気に食材費もけっこうかかっているわよね」英梨々が栗を箸でもっている。

「ほら、それぐらいは・・・ね?」

 

美智留が無言で一升瓶を抱えてグラスに注ぐ。

 

「ほんとに大丈夫だよな・・・?」倫也が心配そうにしている。

「はははっ」と伊織は声だけ笑っていた。

 

場がにぎわってくる。恵は迷っていた。

 

「倫也くん・・・どうする?」

「ん・・・」

「する?」

「オリジナル化でやってみるというのは・・・」

「それほどのネタでもないし・・・」

「でももう・・・4千文字超えているし、なんかいい感じで宴会はじまってるし・・・」

「そうだよねぇ」

「やめとくか」

「また一年間、悶々とするんじゃないかなー」

「恵・・・」

「とりあえず・・・いったん終わろうか」

「そうだな」

 

(了)

(再開)

 

「霞ヶ丘先輩。これ・・・どうでしょうか?」

恵が漫才のメモ帳を見せる。

詩羽はさっと目を通す。

「これだけ見てもわからないわね・・・やろうとすることはわかるのだけど、未完成でしょ?」

「・・・はい」

「そうね。出海さんと倫理君で試してみましょうか」

詩羽が軽く校正して、出海に台本を渡す。

「わたしですか?」

「そうね。とにかく元気よくやってもらえるかしら?流れがみたいから」

「・・・はぁ」人のネタをやるのは気乗りしない。

 

倫也と出海が並んで立っている。みんなが注目してみる。

「では、はじめますね」

パチパチパチまばらな拍手。

 

「倫也先輩。あけまいておめでとうございます!」

「あけおめ、出海ちゃん」

「ところで倫也先輩。お節料理って何を思い浮かべます?」

「酢れんこん」

「・・・結婚?」

「田造り」

「子作り?」

「かずのこ」

「上の子」

「かまぼこ」

「下の子」

「あとは・・・煮物にタケノコもはいってるよな」

「お腹の子」

「黒豆」

「苦労してまめに働く」

「こぶまき」

「よろこんぶ」

「だてまき」

「槇原。って槇原ってなんですか?」

「槇原は巨人の三本柱の1人で、桑田と斎藤と並ぶ名投手だよ」

「はぁ・・・」

「くりきんとん」

「クチナシですよね」

「どうもーありがとうございましたー」倫也が頭を下げる。

出海もわけらからんという感じで頭を下げた。

 

みんなが首をかしげている。

「澤村ちゃん。ワインもある?」

「氷堂美智留!ちょっと飲みすぎじゃないかしら?」

「固いこといわないでよー。ヒックッ」しゃっくりをする。

「一応、地下室にワインセラーがあるけど・・・」

 

出海が何事もなかったかのように座る。

「なんなんですかね・・・これ?どこが面白いんです?」

「そうよね。出海さんがやっても無理なのはわかっていたけど、失笑すらないとは思わなかったわ」

詩羽はつまらなそうに返却された台本を横に置く。

 

恵は台本を見て考え込んでいる。

「なっ?恵、無理しなくても・・・」

「倫也くん・・・やってみなきゃわからないよ」

「いや、今やったろ?」

恵が立ち上がって、いったん扉の外に出る。

 

「倫理君。何事もトライ&エラーをして、成長していくのよ。漫才だって最初からウケるわけじゃないわ」

「いや、漫才師になる予定はないんだけど!?」

「ほら、倫也。やる時はやりなさいよ」

「ねぇねぇ、ワインセラーいってきていい?」

「美智留はもうその辺でやめとけ」

「えっー」

美智留が空の一升瓶をのぞき込んでいる。

「しかしまぁ、ネタバレしてからやるとか、加藤さんもハードルあげたものよね」

「どうしてもおかしなのがまじって、そこだけ解決できなかったんだろうな・・・」

倫也が不安そうにつぶやく。

 

倫也は大きく息を吐き出して、恵の待機する洗面所に入って、扉を閉めた。

 

さぁはじめてみようか。『恵と倫也の夫婦漫才2022』

 

 

※※※

 

 

扉を開けて、2人が陽気に出てくる。

倫也は青で恵は赤いジャージを着ている。

「どうもー。あけましておめでとうございます」

2人で声をそろえる。

「メグでーす」

「トモでーす」

「2人合わせて、メグ&トモです」息はぴったりだ。

 

「なんかすべってません?」

出海が詩羽に呟く。詩羽は無視をする。

「あのさー、出海ちゃん。人が真剣にやっている時に水を差さないでくれるかなぁ・・・?」

「恵。目が怖い」倫也が小声でフォローする。

「あっ、すみません」出海が謝る。

美智留も酒を飲むのやめて正座していた。

そうそう、何事もメリハリとかけじめが大事だ。

 

「えっ、恵。この格好ってことは・・・なんでだろうするの?」

「ううん。しないよ。そりゃーね倫也くん。わたしだって、なんでサブヒロインなんだろう?って思う時はあるよ?でも、陽気に歌いなが自問自答できるような内容じゃないよね?」

「・・・」

「あのさ、倫也くん。漫才なんだから、黙ったらダメだよね?それってわたしがサブヒロインだって認めていることになるんじゃないかなぁ・・・そういうもんなのかなぁ・・・」恵が恨めしくいう。

「いや、えっと、そういう話なの?」

「それ。わたしが聞きたいんだけど?ねぇ、そういう話なのかな?」

「えっと・・・俺・・・どうすればいいんだ」

恵がずいっと一歩だけ倫也に近づいて、下から覗き込むようにして倫也の目をじっと見つめる。

「・・・恵」

「さぁ・・・?どーすればいんだろうねぇ?」

そういって目を閉じた。

倫也の顔が真っ赤になる。

 

「はぁ?恵あんたなにやってんのよ?」

英梨々が辛抱できずに声をかける。これは英梨々の物語で英梨々ルートの物語のはずだ。

 

恵は目を大きく見開く。瞳に輝きはなく深い漆黒の底が広がっている。

「英梨々・・・」静かで重厚な声。何事も受け付けない確固たる声。

「あたし、さっき出海ちゃんに言ったよね?真剣だから漫才中に邪魔しないでくれるかな?」

「なっ・・・」英梨々が気圧されて声がでない。

伊織が英梨々の肩をポンと叩き、首を横に振っている。

「詩羽・・・」英梨々が詩羽に助けを求めるが、これを無視して注意深く倫也と恵の方を見ていた。

 

恵が大きく深呼吸をする。

「続けようか・・・倫也くん」

「あの・・・恵。目が・・・怖い」

「それは、倫也くんがあたしのことをサブヒロイン扱いするからじゃないかなぁ」

「そんなつもりは・・・」

「したよね?物語の最初の話で」

「・・・しました」

「ねぇ、倫也くん。確かにこの物語は英梨々の物語かもしれない。英梨々ルートでわたしはサブヒロインなのかもしれない。でもさー。これ、夫婦漫才だよね?」

「そうだな」

「めおとって、ふうふってことだよね?」

「そうだな」

「わたしが正妻ってことだよね?」

「そうなるな」

「で、なんでサブヒロインなのかなぁ?まずはそこをはっきりしないと、夫婦漫才にならないんじゃないかなって思うんだけど」

「・・・そうだな」

「それにね、物語の中でサブヒロインでも、英梨々ルートを作る作者の中でサブヒロインでも、せめて倫也くんのメインヒロインではいさせてよ」

「あの・・・サブヒロイン承諾してなかったっけ・・・」

「そうだよ。サブヒロインだよ!サブヒロインだって人間だよ。あっ、なんか涙でてきた」

「ちょっと・・・恵」

恵がくるりと後ろを向いて目薬を差す。

「ちょ・・・恵」

「でね、倫也くん。聞かせてくれるかな?」

「何を・・・?」

「何・・・を?」

 

ゴゴゴゴゴゴゴッ

恵の後ろに石模様の効果音が浮かんでいる。

瞳が黒色に灰色がぐるぐると渦巻いていた。

 

「・・・恵」

「何?倫也くん」少し高い澄んだ声。クラスメートBの時の声。倫也と出会う前のモブキャラだった時を思いだす。少しはメインヒロインになれたんだろうか。

 

「俺の・・・メインヒロインになってくれ!」

倫也が声を振り絞る。とてもじゃないが英梨々の顔は見れない。

 

「うん♪」それよりも少し落ち着いたフラットな声は、どこか楽し気に弾んでいた。

背景の石が砕け散って、パァーとさまざまな花が咲いている。

そして、原作ではみせない飛び切りの笑顔。

 

「って、恵。目が・・・わらってねぇぞ?」

「さ、はじめようか。夫婦漫才」フラットな声と表情。いつもの恵。

「倫也くん・・・そこ座ってくれる?」恵が床を指さす。

「はい!?」

その後無言の圧力に負けて、倫也はその場でアグラをかいて座る。

「・・・倫也くん?」なんの感情もない声。

倫也が正座する。

 

恵は一度、自分の席に戻って座布団を拾い上げた。近くでみんなが固まっているが気にしない。軽く座布団の表面をはらい、それから倫也の前に置いて自分も正座して座った。

 

トンッと床に指をつける。

 

「倫也くん。お節料理。言ってみてくれるかな?」

「ここからはじまるのぉ!?」

「・・・」

「えっと・・・最初は酢レンコン・・・だっけ・・・」

恵はうなずく。

「そう・・・結婚だよ。倫也くん?結婚っていうのはね、自分の人生に預けるってことだよね。わたしの人生を倫也くんに預けて、倫也くんの人生をわたしに預けて、お互いに支え合って、失敗しても励まし合って、そうやって歩んでいこうって誓ったから結婚したんだよね?倫也くんの不幸はわたしの不幸で、倫也くんの幸せはわたしの幸せだよ・・・それなのに、ごめんね・・・グスン」

「恵ぃ・・・」

恵が涙声になる。もはや、嘘か本当かは倫也にはわからない。

「気づいてあげられなくて。倫也くんも大変だったと思う。仕事でノルマに追われて、納得できない作品を納品することもあったし、こっちが悪くないのにクライアントに何度も何度も頭を下げて、資金繰りだって大変だし、気が付いてあげられなかった。毎日温かいご飯を食べてもらって、がんばれって心の中で励まして、夜は倫也くんのリクエストに応えて恥ずかしいこともベッドの中でがんばったけど・・・」

「まて・・・」

「でも、倫也くんが浮気するなんて・・・そりゃあ、子供の時に好きだった幼馴染?とかいう害虫以下の人に心を奪われるなんてないと思ってたよ。でも・・・まさか、年をまたいで不倫して、さらに新しい物語早々それを認めろなんて言われるとは思わなかったよ!」

「ちょっと・・・恵落ち着いて」

恵が肩で息をしている。

「・・・次」恵が小声でいう。

「た・・・田造り」

恵がコクンと頷く。

「夏に、あんなに毎日毎日子作りしてさぁ・・・」

「オセロしてただけだよね!?」

「倫也くん。どこに裸のままベッドの上でオセロする人がいるの?」

「そういう話だから・・・」

「そう?認めないんだ」

「ほら、健全な高校生の物語だろ?今だって高2だからね!?」

「・・・じゃあ、キャラメルって何?」

「キャ・・・キャラメルはキャラメルだろ」

「どこに、0,02ミリって書いてあるキャラメルがあるのかなぁ?」

「ここに・・・」

倫也がジャージのポケットからキャラメルの箱を出して、恵に渡す。

でかでかと0.02ミリと書いてある。

「あのさ・・・こういう小細工つくって楽しい?」

「・・・それ、恵が作ってたろ・・・」

恵がガッと倫也の顔にアイアンクローを決める。

「あ・・・あの・・・恵・・・加藤さん・・・ちょっと・・・いた・・・痛い」

「認めたら?」

「・・・はい」

「次」

恵が手を離す。倫也の顔が赤くなっている。

 

「かずのこ」

「そこ、3つ同時にいってみてくれる?」

「三つ?」

「ほら、テンポ的にさぁ」

「かずのこ、かまぼこ、たけのこ?」

「上の子が小学生に上がって、下の子はまだ幼稚園で、お腹の中の子だっているのにさぁ・・・」

恵がお腹をなでる。

「えっ・・・恵・・・?」

恵が小さくうなずく。

「できたの?」

「次」

「えっ・・・えっ?恵?」

「倫也くん。次」

「くろまめ?」

「そう。子供たちや、ゲームを買ってくれたユーザーや、こんな同人でも読んでくれる読者のためにさ、苦労して、まめに働いているんだよねぇ?」

「こぶまき」

「喜ぶ顔がみたくてがんばってるんだよね。そうだよね。倫也くん」

「そうだな」

 

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・だてまき」

「槇原」

「そこはやっぱり槇原なんだな」

「槇原しかいないから、槇原だったんだよ!高津や佐々木がいないから槇原だったんだよ!」

「そう・・・だな」

「・・・」

恵が下を向いて顔を真っ赤にしている。ここだけが上手く作れなかった。

 

「今、いくつだ?」

「えっと。8つだよ」

「じゃあ、次で最後だな。くりきんとん!」

「だからね、倫也くん。これだけ頑張っているのに、それでも英梨々ルートに進む倫也くんは殺されても文句が言えないよね」

「なに言い出すの・・・恵」

恵が右手を硬質な刃物に変形させる。

「懐かしいなそれ・・・」

「物語の為にわたしにサブヒロインを強要するんだもん。夫婦漫才のために倫也くんだって死ねるよね?」

「なんで、死ななきゃならないんだよ!」

「くりきんとんと、死人には口無し(クチナシ)だよ」

 

恵の目が笑っていない。

場が固まる。

 

(了)

(再開)

 

 

「あの・・・恵。正月漫才だからね?」

「だから・・・何?」

「明るいオチで終わらせないと・・・」

「そんなの知らないよ」

恵が頬を赤らめてもじもじしている。

チラッと倫也を横目で見る。

 

「め・・・めぐみ。今日も可愛いな」

「そんなことないよぉー」でれでれ。

 

(なんかまた始まったぁ~!)と出海が心の中で叫ぶ。

美智留は足を崩して、ワインセラーにいつ行くかを考えていた。

詩羽はアクビを1つする。

英梨々はポケッー魂を抜かれている。

 

「雑煮上手かったよ!」

「普通のお雑煮だよ・・・」

「ほら、恵が作るからお餅もふっくとして・・・」

「ただの越後製菓だってば」

「それに、オセチ料理のひとつひとつがおいしいし・・・」

「規制品も多いよ?」

「なんといっても、盛り付けが綺麗じゃん!料亭みたいだし」

「ほめすぎじゃないかな」

「そんなことないって、恵がこうやって作ってくれたからお正月を迎えられたわけで」

「もう、さっきからそんな見え透いたお世辞ばかり・・・」

 

「オセチだけになっ!」

 

ドヤッ!オチたとばかりにドヤ顔で倫也が言った。

 

恵の目からハイライトが消える。

 

「あのさ・・・倫也くん?ちょっと裏いって反省会しようか?」

 

「・・・もうええわ」倫也が恵につっこみをいれ、「どうもーありがとございましたー」と声をぴったりそろえていった。

 

出海と詩羽がまばらに拍手をしている。

美智留と英梨々は立ち上がってワインセラーに向かう。

伊織が梯子を上って仕事に戻った。

 

・・・それぞれの優しさだ。

 

(了)

 




本年もよろしくお願いします。
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