【短編集型】英梨々がイチャイチャ過ごしたい冬休み 作:きりぼー
ご迷惑おかけしました。
2日。晴れ。
「こんなもんかしらね?」
英梨々が自分の背丈ぐらいの雪山を見ている。倫也と伊織がスコップを持ちながら息を切らしていた。
「澤村先輩。滑り台はこんな感じですかね?」
出海は倫也達の作った雪山からの滑り台を制作していた。
「斜めになっていれば大丈夫だけど・・・止まる側が大事なのよ」
「止まる側ですか?」
「そうよ。ソリなんて坂になっていれば勝手に滑るわよ。でも、このままだとそこの植栽に突っ込むでしょ」
「足で止まれません?」
「やってみたらわかるけど、けっこう勢いあるのよ。だからそこでカーブさせてから上り坂を作って」
英梨々が庭で指示をしている。
「まだ雪いるー?」
美智留が猫車で道路から雪を集めてもってきた。息を弾ませている。
「あと二回ぐらいかしら?」
美智留がまた道路に戻っていく。
「英梨々、カマクラ用に穴掘った雪がでるんじゃないか?」
倫也と伊織がスコップでカマクラを掘り始めている。
「そうね。それでだいたい足りるかしら」
英梨々が足で雪を踏み固めながら、滑り台を調整している。
一階の掃き出し窓から、恵が外の様子を眺めている。バルコニーの向こう側に倫也たちが遊んでいる。
恵はロッキングチェアに揺られながら、編み物をしていた。
賑やかなみんなの声が家の中まで聴こえてくる。
「加藤さん、それだとちょっとお婆さん臭くないかしら?」
「そうなんだけど・・・座って見たら意外と快適で」
編み物までするつもりはなかったが、手持無沙汰だったので始めてしまった。
詩羽はその隣で小さなテーブルの上で、ノートPCに向かっている。
「一緒に外で遊んでらっしゃいよ」
「あまり体を冷やしたくないし・・・ソリもしたことないし・・・」
「そう?スキーとかの方が良かったかしら?」
「それも・・・ちょっと無理かな。霞ヶ丘先輩は外にでないんですか?」
「仕事が一段落したらね」
詩羽が外を見ると、ソリを抱えて出海が雪山に登っていくのが見えた。
「行きますよー」
出海がソリに座って、滑り落ちると想像以上にスピードがでた。
「きゃー」と甲高い声で叫ぶ。
カーブをぜんぜん曲がり切れず、雪のガードを超えて植栽に突っ込んでいった。
英梨々がおかしそうに笑っている。
「ぜんぜんダメじゃねーか」
「大人の体からやっぱり勢いが違うのね」
倫也が心配そうに出海に駆け寄っていく。
「ぷはっー」
雪まみれなった出海が戻ってくる。
「大丈夫か?」「楽しい!」
怪我もなくニコニコしている。
「補強するか・・・」
倫也がスコップであたりの雪を集めようとすると、
「トモ、どいてどいて」と雪山の上にいる美智留がスタンバイしていた。
「ちょっと待ってろよ」
「平気だってばー」
倫也が適当に補強して、元の場所に戻っていく。
美智留は滑りながらも体を傾けてカーブを曲がっていく途中で吹っ飛んでいった。
ボスッと音を立てて雪の中に突っ込む。
「あはははははっ」
と上機嫌で笑っている。
伊織がスコップで余った雪をかき集めて、ガードの方へ放り投げる。
倫也がそれで補強していく。滑りながらコースを作りかえるのも楽しみの一つだ。
「倫也、いくよ~」
今度は英梨々が雪山に立っている。
「いいぞー」
英梨々が勢いよく滑り降りてくる。カーブも無事に曲がって上り坂のところで止まった。
倫也がほっとする。
「いい感じね」英梨々も満足そうだった。
出海も美智留も雪山の上にいて、けらけらと笑っていた。
家の中では、恵がちょっと寂しそうにその様子をみていた。
「子供じゃないんだから・・・」
「そうかしら?むしろ、私には加藤さんの方が子供っぽいというか、『けっ、こんなくだらない事やってられなねぇぜ』ってイベントに参加しない中二病っぽくみえるけど」
「・・・もう」
確かにそんな気がする。いっそ二階で仕事でもしていた方がよかったかなと思う。
「詩羽ぁ!恵ぃ!カマクラできたし、外でてきなさいよ」
英梨々がバルコニーから窓をガラッと開けて、中の2人に声をかけた。
冷たい空気が部屋の中にはいってくる。
「英梨々・・・鼻の頭が真っ赤だよ」
「雪で遊んでれば鼻ぐらい赤くなるわよ。早く来なさいよ」
詩羽はノートPCを閉じて立ち上がった。
「わたしはいいから・・・気にしないで遊んでて」
「そんな風に拗ねてももつまらないでしょ?」
「別に拗ねてるわけじゃないから・・・ほっといてくれないかなぁ」
「ふーん。じゃあ、暇なら何か温かい飲物でもいただけるかしら?」
英梨々が子供っぽいトーンから少し落として、挑発的に恵に言った。
「うん。ココアか、ホットはちみつレモンか、どっちがいいかな?」
英梨々は返事をせずに、みんなのところに駆けてもどっていく。窓は開けっぱなしだ。
詩羽黙って窓を閉める。
「そうね、拗ねてるっていうのは、けっこう的確かもしれないわね。加藤さん」
「だから・・・ほっといてくれないかなぁ」
恵も立ち上がって、二階へと上がっていった。
玄関には雪用の長靴が用意してある。
詩羽がそれをはいて外にでる。玄関のドアを閉める前に恵のことが気になったが、どうしようもなかった。
「おまた・・・せっ・・・わっ!?」
ズボッという音とともに、詩羽の体が半分雪に沈んだ。
英梨々と出海がおかしそうに笑っている。
「何?何これ?」
詩羽が這い上がろうとしても雪にすっかりはまっているので、なかなか出られない。
倫也と美智留でなんとか引き上げる。
「ちょっとしたお約束の落とし穴よ」
「・・・」
詩羽が何喰わぬ表情で体に着いた雪をはらう。
「子供じみているわね」
「ほら、さっさと落とし穴をふさぎなさいよ」
英梨々がスコップを詩羽に渡した。
「・・・そういうこと」
詩羽が穴を掘り返して、ダンボールで蓋をして雪で隠した。
「英梨々・・・」倫也が心配そうに声をかける。
「さってと、出海!出番よ」
「なんですか?」
出海が駆け寄ってくる。あっちで美智留と雪玉をたくさんつくって、雪合戦の準備を進めていた。
英梨々が雪玉を1つつくって出海に渡す。
「さぁ、いってらっしゃい」
「あの・・・澤村先輩・・・まさか?」
「その通りよ、あの家に引きこもっている恵を挑発してらっしゃい」
「嫌ですよ!殺されちゃいますよ」
「これは業務命令だから」
「・・・別に澤村先輩は上司じゃないじゃないですか・・・」
「ほらほら、はやく」
英梨々がドアを開けて、出海を家の中に押し込んだ。
「大丈夫かよ・・・」
「平気よ。拗ねてるだけでしょ」
「どうだかな・・・」
出海は長靴を脱いで階段を上がっていく。
二階ではチョコレートのいい香りが漂っていた。
「恵先輩。外で遊びませんか?」
「ごめん、無理だから」
「そうですか・・・」出海は後ろ手に雪玉を隠している。
「これ、ホットチョコレートできたから、みんなに持って行ってくれる?」
「えっと、恵先輩・・・ごめんなさい!」
出海が雪玉を恵に投げつけた。
ボスッと鈍い音とともに雪玉が顔に命中する。
それから、ぼとりと下に落ちた。
「あのね・・・出海ちゃん」恵の表情はフラットだったが、おでこはひくひくと動いている。
「業務命令で・・・その・・・ごめんさーい!」と言って、階段を駆け下りて逃げていく。
「・・・あのクソアマ」およそ恵らしくない独り言をつぶやく。
二階の窓をガラッ、ガシャン!と勢い良く開けた。
下では美智留と伊織と詩羽は雪玉を作っているが、倫也と英梨々は上を見上げていた。
恵はおぼんに乗せてある6人分のホットチョコレートを窓からぶん投げ、窓をピシャリとしめた。
ガッシャーン!と派手な音がして、バルコニーに割れた食器が散乱する。
「・・・おい、英梨々。マジ切れしてんじゃねーか」
「・・・やりすぎたかしらね」
音に気が付いて、伊織がかけよってきた。
「どうしたんだい?」
「なんでもないわよ」英梨々が平然と言う。
「あれ・・・英梨々?」倫也が英梨々の顔を見ると、目が座って怒っている。
「なんで、お前も怒ってるんだよ・・・」
「それがわからないから倫也は倫也なのよ!」
「いや・・・わかんねぇーよ」
「はははっ、倫也くんらしいや」
「伊織はわかるのかよ?」
「ん~。どうかな」といって、美智留のところへ戻っていった。
「倫也先輩・・・」と半べそかきながら、出海がもどってきた。
落とし穴を踏まないように、壁際を通る。
「お疲れ・・・」
「恵先輩がめっちゃキレてますけど、平気ですか?」
「さぁ・・・」倫也がチラリと英梨々を見る。
「出海、ご苦労だったわね」英梨々が出海に言う。語気が強い。
出海は知らないふりをして、美智留たちと合流した。
「さて、倫也。恵はどっちの分岐を選ぶかしらね?」
「ほどほどにな・・・」
やがて、玄関のドアが開けられて恵がでてきた。手には黒いキャリーバックを引いている。
「・・・」
無言のまま雪の状態を確認し、さっき詩羽の落ちた落とし穴を見抜き、ピョンと軽く飛び越える。
ズボッ
鈍い効果音とともに、恵の半身が地面に埋もれた。
「ふふっ、古典的な罠にひっかかるものよね」
英梨々が埋もれている恵の前に仁王立ちになって見下ろしている。
「・・・英梨々」
「落とし穴が二つあるなんて基本でしょ」
「・・・あのさぁ・・・」
「そう、恵。分岐よ。このまま挑発に乗って雪合戦を全力でするか、それとも恵の伏線を回収するために救急病院へ運ばれるか。好きな方を選びなさいよ」
「・・・」
「ちなみに今日はお正月で、読者が楽しく過ごしているわよ?どんな物語がいいか、恵が決めなさいよ」
恵はキャリーバックを放り投げて、自力で雪穴から這い上がってくる。
キッ と倫也を睨む。
倫也はそろ~とあとずさりして逃げ出す。
「そうだよね。英梨々の言う通りだよ。じゃ、はじめようか雪合戦」
ゴゴゴゴゴゴッと効果音がつく。
英梨々が雪玉を1つ恵に渡すと、恵は大きくふりかぶって雪玉を投げた。
逃げている倫也の後頭部に直撃する。
その様子を遠目に眺めていた美智留と出海は、大量に作っていた雪玉が無駄にならなくてよかったとほっと胸をなでおろした。
伊織は無言でバルコニーを掃除していた。
(了)