【短編集型】英梨々がイチャイチャ過ごしたい冬休み 作:きりぼー
3日
「いたたたっ・・・」
倫也がソファーの上に上半身裸でうつ伏せに寝ている。
英梨々が背中にサロンパスを貼っていく。
「はしゃぎすぎよ」
昨日の壮絶な雪合戦で、はしゃぎすぎた倫也は全身筋肉痛になった。
「お前には言われたくねぇーな」
英梨々は右目の周りに青いアザと、少々のひっかき傷まである。
雪合戦でひっかき傷ができる理由は謎だが、戦いは同レベルでしか起こらないらしいから、何があったかは読者の想像にお任せする。
「倫也先輩、日ごろ運動不足だから筋肉痛になるんですよ」
出海は溌剌としていて、朝からスノーボードウェアに着替えて待機していた。
「でも、トモも無事に今日を迎えられて良かったじゃん」
同じく美智留もスノーボードの準備が完了していた。
「じゃ、そういうことで満身創痍のインドア派は置いて、僕らはでかけるけどいいかい?」
赤いウェアで統一し、サングラスをかけた伊織が言う。
「ああ、いってら~」倫也が寝そべりながら手を振る。
かくして、元気な三人は車でスキー場へと向かった。
「困ったわね・・・」
詩羽はこたつに入ったままノートPCとにらめっこをしている。
「どうしたのよ詩羽?」最後のサロンパスを貼り終えて、英梨々がバシッと倫也の背中を叩く。
「筋肉痛で右手がタイピングできないわ」
「あんたもどんだけはしゃいだのよ・・・」英梨々があきれる。
「詩羽先輩、音声入力を使ってみたら?」倫也が起き上がって服を着る。
「そうね・・・ちょっと設定してくれるかしら?」
倫也が詩羽の隣に座ってノートPCをいじる。
「これで、とりあえずやってみてください」
詩羽がマウスでスイッチをいれながら、しゃべりはじめる。
「その時、倫理君のいけない右手が私の首元からすべりこんできた」
「あの・・・詩羽先輩」
「驚いて声がでなかったが淡い期待を抱いていたせいか、私はゴクリッとツバを飲み込んだ」
「詩羽。何よ、その3流小説は?」
「あらやだ、R18小説の練習じゃないの。忘れたのかしら?」
「・・・あっ」英梨々の顔が赤くなる。
「へぇ・・・そう・・・?」低いトーンの恵の声が部屋の片すみから聴こえる。
体育座りをしながらスマホをいじっていた。
頭にたんこぶを作り、やはり小さいひっかき傷がみえる。どうしてそんなことになったかわからないが、戦いは同レベルでしか(ry
「恵。まだいじけているの?」英梨々が一瞥して冷めた声で言う。
「別にー」
「まっ、いいけど。あたし達はこれからパン屋に行くけど、恵も行くかしら?」
「・・・いい」
「そう。なら、何か欲しいパンは?お昼ご飯にするけど」
「じゃあ、あんぱんでお願い」
「わかった。他は?」
「適当に」
「詩羽は?」
「私も適当でいいわよ」
「じゃ、行ってくるわね」
「いってら~」と倫也が手を振る。
「あんたも行くのよ!」
「車ないぞ・・・?」さっき伊織が乗って行ってしまった。
「徒歩でいけるわよ。一時間以上かかるけど」
「遠いな・・・」
「帰りはタクシー拾えるといいわね。じゃあね」
英梨々が鞄をもって部屋からでる。
倫也は恵の方を見ると、小さく手を振っている。目線はあわせない。
怒っているよりも、こういう態度の方が倫也の胸を締め付けるが、しかたがない。
2人が玄関から出ていく音がした。
「一緒に行かなくてよかったのかしら?」詩羽が恵に気遣う。
「まぁ、物語のためだし・・・」
「そういうプロ根性は尊敬するわよ。それで何かアイデアがあるのかしら?」
「ぜんぜんないんだけど、だからといってみんなでスノボーもちょっとしんどいし」
「そう。それで?」
「伏線って、伏線として作る場合と、あとから何かを探してそれとなく回収する場合があるって聞いたことがあるんだけど」
「そうね。特に連載を引き延ばす時なんかには使う技法ね」
「それで、今回はそれをやってみようと」
恵がバックからガチャガチャのカプセルを1つ取り出して、こたつの上に置いた。
「あら、ずいぶんと物持ちがいいのね」
「なんか捨てるに捨てられなくって」
「でも、読者はそんなの覚えてないんじゃないかしら?」
「そうかもしれないけど・・・」
このカプセルは『夏いちゃ』のアキバデートの時に、恵が思わず回した謎の深海生物ガチャででたものである。
「開けてないのね」
「開けると、中身が確定しちゃうから」量子論みたいなことをいう。
「今回はそれを開けてみようってことね?」
「はい」
恵がガチャのカプセルをひねって開ける。
「・・・何かな」
「あんこうじゃないかしら?」詩羽はカプセルに入っていた説明書を読む。「どうやら、ちょうちんアンコウのようね」
「・・・なんで、こんなガチャがあるのかな」
「さぁ、でも実際、加藤さんが購入しているわけだし、わけのわからない方向で需要があるのね」
恵がアンコウを手にとって、調べている。お腹のボタンのところにセロファンがあり、引き抜いてからボタンを押すと、ちょうちんが微かに光った。
「日本人って・・・変なもの作るよねぇ。なんか塗装もリアルだし」
「こういう文化なのね。でもそのおかげで外国人のお土産にガチャは大人気なのよ、あなどれないわ」
恵がちょうちんアンコウをこたつの上において眺めている。
「まっ、これでいいかな」
「あら、こんなのでできたのかしら?」
「あとは・・・英梨々待ちということで・・・」
恵がこたつでゴロンと横になった。やる気はあんまりしない。
※※※
「倫也~。長靴はリュックにいれてね」「OK」
2人はミニスキーを履いている。これは通常のスキー板なんかと違いずっと短く小回りがきく。
英梨々の別荘は山あいなので、家の前から大きな道路までは坂になっている。車の通りもほぼないのでスキー場と同じように滑ることができる。問題なのは滑ることでなく登ることだ。もちろんリフトがないので徒歩になる。
スキー板でも登ることができるが、不慣れな倫也は長靴で一歩ずつ登ることになる。
「じゃ、いくわよ」
英梨々が家の前から、すぅーと滑っていく。ストックはない。
「おい・・・俺は滑れないぞ」
「やってごらんなさいよ。足をハの字にしてね、ボーゲンだっけ?ゆっくり降りればいいわ」
「きやすくいうなよ」
とはいえ、いざ滑ってみると簡単だった。
倫也はスピードがでないようにゆっくりと降りていく。
英梨々はすぅーと降りて、止まっては振り返って倫也を待っている。
麓の駐車場まで無事に降りてくると、英梨々は倫也にリュックの中の靴を置いておくように言った。
ここから帰りの登りは靴の方が無難だが、荷物なるので持ち歩く必要がない。
ここに置いといても盗まれることもないだろう。
それから英梨々は倫也に平地での歩き方を教える。ハの字にザクザクと進む。
これでスキーを履いたまま移動が可能だ。コンクリートの上だと傷がつくが安物のプラスチックなので別に大きな問題はない。
「道路渡るから、気を付けて」
英梨々が両側をみる。車はほとんど通っていない。さすがに大きな道路に雪はなかった。
タイミングをみて、道路を通過し、倫也も後に続いた。
「あとは、観光地だから大丈夫よ。人も歩いているし、車もノロノロ走ってるだけだわ」
英梨々が平らの道路や多少のアップダウンもショートスキーで進んでいく、けっこうな運動になる。
「こりゃあ、明日は足が筋肉痛だな」倫也は白い息を切らしながら言った。
「そうね。足が小鹿みたいにガクガクになるわよ」
英梨々がおかしそうに笑う。
人気のパン屋はそこから30分ほど進んだところにあった。
こんな雪の中でも混んでいる。お店の外にもパンの焼ける匂いが漂っていた。
「いくつぐらい買おうかしら?」
「明日の帰りの車の中でも食べられるだろうし、20個ぐらい買っておけば?」
「そうね」
英梨々も倫也もトレイをもって、適当にパンをのせていった。
ついでにレジ横のラスクとパウンドケーキも買う。
英梨々がエコバック型のリュックを広げ中にしまって背負った。
「少し休んでかないか?」
「えっ・・・ここラブホテルないわよ?」
「ちげーよ・・・」
倫也は併設されているカフェテリアを指さした。
「いいけど」
オープンカフェで温かい飲物を頼み、体を中から温める。
とはいえ、外は寒いがけっこうな運動量なので体は暖かかった。
英梨々はおしゃれなカップでカプチーノを飲んでご機嫌だ。
別荘に来てから、倫也と2人で過ごすのは初めての時間だった。
「いいとこでしょ」
「そうだな」
「あっちには牧場もあるし、他にもいろいろ遊べるところがあるわよ」
「牧場なら子供連れが喜びそうだな」
「・・・そうね。ほら、ミルクもおいしいからソフトクリームとか、チーズとかも売っているのよ」
英梨々が倫也に説明するが、子供のころに倫也も一緒に来ていた。
「懐かしいな」
喧嘩をしてからは来ていなかった。仲が良いままなら別荘にきていたのだろうか。
それとも男女だし、どこかでやっぱりこなくなったのだろうか。たぶん後者だろう。
※※※
「遅いわね。倫理君たち」
時計の針が12時を回っている。
恵は返事をしない。こたつで寝そべりながらノートPCを広げてついつい仕事をしてしまう。スマホで遊んだり、編み物をしたりするよりも、なんだかその方を落ち着くのは性分だろうか。
(そこは冬休みの宿題をすべきじゃないかしら?)と詩羽は思うが口には出さない。いまさらだろう。
詩羽のLINEには英梨々からカフェでくつろいでいる画像が送られてきていた。恵には知らせない。
となりで退屈そうに仕事している恵を見ると、詩羽もやっぱりため息の1つもつきたくなる。
恵と英梨々が仲の良いまま進む『英梨々ルート』とはつまり、こういう世界線なのだろう。まず、無理だ。
別荘なんてくるわけがないし、大学受験に専念する方が自然だろう。
とはいえ、全部の物語を通せば、こうして過ごしていることは不自然ではないように思う。
1時を過ぎた。予定よりも大幅に遅れている。
詩羽のLINEにまもなく着くことと、お風呂を沸かしておいて欲しいことが伝えられていた。
「もうすぐ帰ってくるそうよ」詩羽は立ち上がって、お風呂にお湯をはる。時間がかかる。
恵も起き上がって、キッチンで作っておいた野菜スープに弱火をかける。
※※※
外で英梨々の声が聴こえた。
詩羽が窓から見下ろすと、英梨々が倫也に声をかけている。
倫也の足取りは重く、雪に足をとられながら一歩一歩登っていた。
坂の上にある別荘の玄関で英梨々は立って待っている。
陽光に照らされて金色の髪が輝きながら揺れていた。
その無邪気な笑顔が愛らしい。
詩羽はキッチンに向かい、恵のよそったスープをこたつに運ぶ。
恵のそのフラットな表情が逆に見ていて辛い。
そのいつもの加藤恵らしい表情の奥には、感情が渦巻いている。
「ただいまー」
玄関から声がする。息が弾んでいるのがわかる。
がさごそと音がしてから、階段を2人が上がってくる。
「おまたせー!・・・って、暑いわね、この部屋」
「あら、おかえりなさい。暖房いらなかったかしら?」
「いいわよ。あたし達には暑いだけだろうから」英梨々は上着を脱いで、さらにセーターも脱いだ。
「・・・ただいま」倫也が疲れ切った表情で部屋にはいってくる。
こちらは無言でコートとセーターを脱いだ。
英梨々は洗面所で手を洗ってから、こたつに入らずに座る。買ってきたパンを並べていく。
すでにお皿とまな板とナイフが置いてあった。パンを切り分けて食べる準備だ。
「おかえり、英梨々、倫也くん。おつかれさま」
「ただいま」と倫也が改めていった。
「あのさ・・・もうオチでいいかな?」
恵が気だるそうに言った。
「別に構わないけど・・・オチなんて急がなくてもいいのに」
「・・・英梨々。頼んだパン買ってきてくれた?」
「ええ、買ってきたわよ」
英梨々があんパンを恵に渡す。
「コホンッ」恵が咳払いを1つ。
「えっ~、あんぱんとかけまして、ガチャからでた謎の深海生物とときます」
「その心は・・・」詩羽が合いの手をいれる。これは厳しい。
「・・・どちらも、アンコ(アンコウ)でしょう・・・」
恵は鉄仮面を崩さない。
「恵!?大丈夫?」
英梨々が心配する。まさか、こんなオチのために苦労してパンを買ってきただなんて・・・
「さぁて、どのパン食べようかな」
何事もなかったかのように恵がパンを選び始める。
「・・・まて、恵」
「・・・何?浮気者・・・じゃない、倫也くん」
「・・・俺、信じているから。恵ならちゃんとオチができるって!」
「ああ、そう?わたしも信じてたよ、倫也くんのこと。夏いちゃの頃は」
「いや、今はそういう話でなくってだな・・・この物語のオチをだな・・・」
恵が立ち上がった。
手にはガチャのちょうちんアンコウを手にもっている。
「え~、あんぱんとかけましてぇ~、ちょうちんアンコウと解きます」
「その心は!」倫也が期待を込めていう。
「どちらも発酵(発光)するでしょう!」
恵がボタンを押して、ちょうちんアンコウを光らせた。
場が固まる。
恵は何事もなかったかのように・・・座ってから両手で顔を覆って下を向く。
そこら辺の仕草はあざとカワイイ。さすが恵。
(了)
(再開)
「あの・・・倫也。これならあたしのオチでもいいんじゃないの?」
「ん?試しにいってみろよ」
英梨々が耳まで真っ赤にして、照れながら・・・
「好きな人とスキー」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
だから、言ったろ?
戦いは同レベルでしか起こらない。
(了)